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Red Hat Summit 2017レポート、OpenShiftに大きな注目が集まる

クラウド統合開発環境「OpenShift.io」など開発者向けサービスを発表

 米Red Hatは5月2日~4日(米国時間)に、自社イベント「Red Hat Summit 2017」を米国ボストンで開催した。

 会期に合わせ、Kubernetesをコアとしたコンテナプラットフォーム製品「Red Hat OpenShift Container Platform」を中心として、コンテナやクラウド、インフラ自動化に関する発表がなされた。なお、Red Hat Summit 2017全体でも、OpenShiftやクラウド、DevOpsなどが大きくフィーチャーされていた。

クラウド統合開発環境「OpenShift.io」など開発者向けサービスを発表

 最も注目されるのが、OpenShiftのためのコンテナアプリケーションの開発プラットフォームを、IDEからチーム開発支援、CI/CDパイプラインまで一式をクラウド上で提供する「OpenShift.io」だ。現在はデベロッパープレビューへの参加登録を受け付けている段階。同時に、コンテナ向けにWildFly SwarmやVirt.x、Noe.js、Sprint Bootのランタイムを提供する「Red Hat OpenShift Application Runtimes」を、OpenShift.ioのサイトを通じて年内にリリースすると発表した(現在テックプレビュー段階)。

 また、OpenShiftについてAWSとの提携を強化し、OpenShiftからAWSのサービスを容易に利用できるようにすることも発表した。2017年秋から利用可能になる予定。

 そのほか、OpenShiftで動かすコンテナの安全性の情報を提供する「Container Health Index」を、20社以上のISVとともに作成し、90日以内に提供することも発表した。

 5月2日にRed Hat Summit 2017会場で開かれた記者会見において、Red HatのPaul Comier氏(President of Products and Technologies)は「今回の発表は開発者を対象としたものだ。コンテナはLinuxのようなもので、コアの技術のまわりにISVのエコシステムができてこそ意味がある」と説明した。同氏はさらに「Red HatはLinuxをエンタープライズで使えるようにしてきた。同じようにコンテナの世界を進める」と語った。

記者会見より、5月2日の発表内容
クラウド統合開発環境の「OpenShift.io」
コンテナ向けにランタイムを提供する「Red Hat OpenShift Application Runtimes」
OpenShiftにAWSのサービスを提供する、AWSとの提携強化
ISVとともにコンテナの安全性の情報を提供する「Container Health Index」

OpenShift.ioによる開発やデプロイを実演

 Red Hat Summit 2017初日のゼネラルセッションに立ったPaul Cormier氏は、2017年にはRed Hatの顧客の70%がクラウドを最大の投資優先度に挙げているという数字を紹介した。そのうえで、「物理から仮想化、プライベートクラウド、パブリッククラウドまで一貫して使えるハイブリッドクラウド」をキーワードに、Red Hatの製品ラインアップを位置づけた。

Red HatのPaul Comier氏(President of Products and Technologies)
企業が求めるポイントの変化

 このセッションの中で、OpenShift.ioが紹介され、実際にデモもなされた。OpenShift.ioは、OpenShiftによってアプリケーションを動かすクラウドサービス「OpenShift Online」を中心に、Webから使うクラウド型IDEの「Eclipse Che」や、CI/CDツールの「Jenkins」や「fabric8」などを組み合わせている。つまり、プロジェクトの作成や管理、コーディング、テスト、そして実行までの一連の開発作業をすべてWebから実行できるプラットフォームだ。会場でも、Visual Studio Team Servicesと比較する声が聞かれた。

 Red HatのTodd Mancini氏(Lead product manager, Developer Tools)はOpenShift.ioメリットとして「開発者の環境を瞬時に作成」できることを挙げ、「次世代の OpenShift Online。開発者がビルドし、デプロイし、スケーラブルなコンテナプラットフォームにホストできる」と紹介した。

 デモでは、名前とテンプレートを指定してSpace(開発から実行、チーム作業まで含んだ環境)を作成し、ランタイム(Red Hat OpenShift Application Runtimesと思われる)を選んでひな型を作り、ビルドパイプラインを選んで、プロジェクトを作成した。

Red HatのTodd Mancini氏(Lead product manager, Developer Tools)
新しいSpaceの名前とテンプレートを指定
ランタイムを選ぶ
ビルドパイプラインを選ぶ

 また、株式取引アプリケーション開発を例に、そこに含まれるマイクロサービスについて、チームのプロジェクト管理を操作し、コードをWebブラウザに表示されるクラウドIDEで開いて、ユニットテストやGitのコミットなどを実行。そしてCI/CDパイプラインで、コードを自動テストし問題がなければそのままデプロイするところを見せた。さらに、依存パッケージの問題などを分析してレコメンドしてくれるところも紹介した。

株式取引アプリケーション開発の例
チームの管理
クラウドIDE。Gitでコミットするダイアログが表示されているところ
CI/CDパイプラインを実行
CI/CDパイプラインの履歴
依存パッケージの問題などを分析してレコメンド

OpenShift上のアプリにAWSサービスをリアルタイムに追加

 OpenShiftにおけるAWSとの提携強化については、2日目のゼネラルセッションの中で紹介とデモがなされた。この提携強化によって、AWSやオンプレミスで動くOpenShift上のアプリケーションから、RDS(データベース)をはじめとするAWSのすべてのサービスにネイティブにアクセスできるようになるという。

 ゼネラルセッションには、Red HatのChris Morgan氏(Technical Director, OpenShift Ecosystem)とAWSのMatt Yanchyshyn氏(Director and Lead Architect)が登壇し、「AWSの能力とともにOpenShiftが使えるのは、驚くべきパワーだ」と語った。

 デモでは、まずOpenShift上で地図を表示するWebアプリを作って動かしてみせた。その後で、AWSの管理画面からデータベースサービスの「RDS for PostgreSQL」を選んで追加し、さらに地図アプリとRDS for PostgreSQLとの間の結びつきを作成した。「OpenShiftはコンフィギュレーションの変更を検知して再デプロイする」という説明のもと、地図アプリにはデータベースから取得された地点を示す赤い点が表示された。

Red HatのChris Morgan氏(Technical Director, OpenShift Ecosystem)とAWSのMatt Yanchyshyn氏(Director and Lead Architect)
地図を表示するWebアプリを作成
地図だけ表示された
AWSでRDS for PostgreSQLを追加
地図アプリとRDS for PostgreSQLとの間の結びつきを作成
地図に赤い点が表示された

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 冒頭でも書いたように、Red Hat Summit 2017全体でも、OpenShiftを中心にクラウドやDevOpsなどの発表や解説、銀行などでの事例紹介が大きくフィーチャーされていた。それにより、Red Hatがインフラからアプリケーション寄りに力を入れるようになったような印象を受ける。

 ただし、同社の主力製品であるLinuxディストリビューションのRed Hat Enterprise Linux(RHEL)の最新版RHEL 7が2014年にリリースされて3年となるという要素もある。RHEL 7が枯れて使われるフェーズになってきた時期でもあり、またRHEL 7から採用されたDockerなどのコンテナ技術がようやく花開いてきた時期でもある。

 Red Hatの注力分野をシフトしようとしているのは確かだろうが、それだけではなく、コア製品の成熟フェーズというタイミングが重なって、今回はOpenShiftにフォーカスが当てられたものと思われる。