バーチャルアプライアンスも本格化-サーバー仮想化で変わるIT環境


 VMware vSphere 4が5月に、XenServer 5.5が6月にリリースされた。そして、Hyper-V 2.0も7月にはRTMされ、ボリュームライセンス利用ユーザーへの提供が開始される予定だ。仮想化道場では、これらハイパーバイザーの特長などを紹介してきたが、今回は、サーバー仮想化により、企業のIT環境がどのように変化するかにフォーカスしてみる。


仮想化の最大のメリット-サーバー展開の柔軟性

 仮想化といえば、古いサーバーを仮想化して1台の物理サーバーに統合することが一般的だ。しかし、仮想化のメリットは、サーバー統合だけではない。サーバーを仮想化した企業の多くが実感しているのが、サーバー環境の展開の容易さだ。

 サーバー仮想化では、OSや企業内で利用している標準的なアプリケーションなどをテンプレート化する機能が用意されている。これを利用することで、サーバーを数分で構築できる。物理サーバーを利用している場合であれば、物理サーバーを購入し、サーバールームに設置し、OSやアプリケーションをインストールし...、と非常に手間がかかる。特に物理サーバーを購入しなければいけないので、どんなに急いでも数週間はかかってしまう。

 こういった手間をみると、仮想化することでサーバー環境を容易に展開できるのは大きなメリットだ。

 仮想化ソフトをリリースしている各社も、仮想サーバーをテンプレート化し、展開する機能の強化に取り組んでいる。

vCenter Stage Manager。仮想マシンの誕生から廃棄までを一元管理できる

 VMwareでは、テスト環境を配置するvCenter Lab Manager、本番環境への配置をテストするvCenter Stage Manager、仮想サーバーをWebインターフェイスを使ってユーザーのリクエストに応じて配置し、必要がなくなればリソースを解放するといった仮想マシンのライフサイクルをサポートするvCenter Lifecycle Managerなどのツールが用意されている。他社と比べても、VMwareはこの分野の機能を強化している。

 Citrixの場合、Essentials for XenServer Platinum版では、テスト環境の配置を行うAutomated Lab Manager、運用をサポートするStage Managerなどを用意している。

 マイクロソフトは、この分野では出遅れている。Hyper-Vなどの仮想マシンの管理を行うSystem Center Virtual Machine Manager(SCVMM)は、仮想サーバーのテンプレート化やプロビジョニングなどの機能を提供している。しかし、仮想サーバーのテスト・配置・運用から、廃棄までのライフサイクルをサポートするようなツールはまだリリースされていない。2010年にリリースが予定されている開発ツールのVisual Studio 2010には、テスト環境の配置、運用を行うVisual Studio 2010 Lab Managerが提供される予定だ。


仮想化が一般化することで、バーチャルアプライアンスが普及する?

 バーチャルアプライアンス(仮想アプライアンス)は、特定用途向けのシステムを仮想マシン上で稼働させるものだ。

 ファイアウォールなどのアプライアンスは、PCのハードウェアをベースに、OSにLinux OSを搭載し、その上に自社開発のファイアウォールソフトを搭載している(メーカーによって、一部独自開発のネットワークカードやOSを使用している場合もある)。このアプライアンスを詳しく見れば、標準的なPCハードウェア、Linux OSなどを使用していることがわかる。つまり、アプライアンスとして必要なパフォーマンスが十分見込める仮想マシンがあれば、利用可能ということだ。

 バーチャルアプライアンスであれば、ハードウェアコストがかからなくなり、低価格でアプライアンスの機能をユーザーに提供できる。また、アプライアンスを製造しているメーカーにとっては、ハードウェアに対するメンテナンスが必要なくなるというメリットもある。メーカーにとっては、メンテナンス部門を持つ必要がなくなるため、その分自社のコアコンピタンスとなるソフトウェアの開発に集中できる。

 このバーチャルアプライアンスで先行しているのがVMwareだ。VMwareでは、2006年から仮想環境上でのアプライアンスの普及を進めている。vSphere 4で新たに提供されたファイアウォール「vShield Zone」は、仮想環境向けの機能がバーチャルアプライアンスで提供されている。

 ただし、アプライアンスとして求めるパフォーマンスが十分でなかったため、バーチャルアプライアンスはそれほど普及していたわけではない。実際、VMware自体もデモ環境以外の実運用するバーチャルアプライアンスはリリースしていなかった。現在、CPUに仮想化支援機能が搭載されるなど、パフォーマンスが向上したことから、あらためて注目が集まっている。

トレンドマイクロのInterScan Web Security Virtual Appliance。バーチャルアプライアンスにすることで、可用性も向上できると説明している(同社製品カタログより)

 アンチウイルスやファイアウォールなどで有名なトレンドマイクロも、自社のアプライアンスをバーチャルアプライアンス化して提供している。また、テープライブラリの機能を仮想アプライアンスとして提供しているFalconStorや、電子メールやインスタントメッセージングのスパム対策、ウイルス対策を行うBrightmail Gatewayのバーチャルアプライアンスなどを提供するシマンテックなども対応している。最近では、日本IBMから、VMware ESX上で動作するWebアプリケーションサーバーのバーチャルアプライアンス「WebSphere Application Server Hypervisor Edition(WAS HV)」が発表されている。

 Citrixでは、XenServer上で動作するNetScaler VPXというバーチャルアプライアンスを発表している。NetScalerは、Webアプリケーションのデリバリーを高速化するためのアプライアンスだ。NetScaler VPXは、NetScalerのほとんどの機能をバーチャルアプライアンス化して提供している。

 マイクロソフトでは、バーチャルアプライアンスというコンセプトは公にはされていない。しかし、多くの試用版やベータ版などが、Hyper-V上で動作するVHDファイルとして、OSとアプリケーションなどが入った仮想イメージとして提供されている。


 バーチャルアプライアンスの問題は、各社のハイパーバイザーで仮想イメージのフォーマットが異なるため、相互互換性がないことだ。このため、ソフトベンダーは、ESX用、Hyper-V用、XenServer用といったハイパーバイザー別にバーチャルアプライアンスを開発しなければならない。開発自体は、それほど面倒とは思えないが、ハイパーバイザー別になることはサポートの対象が広がり、保守コストがかかることになる。

 そこで、VMware、マイクロソフト、Citrix、Novell、HP、Dell、IBMなどが、DMTF(Distributed Management Task Force)でOVFというイメージフォーマットを策定した(2009年3月にV1.0最終版リリース)。OVFでは、仮想マシンの属性情報(リソース情報)を記述したファイルと仮想イメージファイルを内蔵している。これにより、仮想マシンのリソース情報と仮想イメージをHyper-VやVMware ESX、XenServerなどの異なるハイパーバイザー間で利用することができる。

 OVFが普及してくれば、さまざまなハイパーバイザー上で1つのバーチャルアプライアンスを動かすことが可能になる。それも、仮想マシンのリソース情報がついているため、ユーザーがいちいち仮想マシンのリソースを手入力しなくてもよくなる。

 また、バーチャルアプライアンスではないが、仮想マシンベースでシステム開発を行うという方法も一般化するかもしれない。ITシステムの受託開発を行っているシステムインテグレータの場合、仮想化をベースにすることで、ハードウェアを抽象化し、自社のサーバーファームの中に、客先のサーバー環境を作り、システム開発を進められる。さらに、開発・テストした仮想マシンをそのままコピーして、客先のシステムに持っていけば、サーバーのデプロイメントという部分でも手間が少ない。さらに、手作業による単純なトラブルも起こりにくい。すべて、仮想環境でトラブルシューティングが行えるとは思わないが、ある程度まで自社のサーバーファームでテストできれば、原因もトラブルへの対処法も見つけやすくなるだろう。

 仮想化が一般化することで、サーバーの展開も、アプライアンスの利用も、大きく変わってくるだろう。



(山本 雅史)
2009/6/22 00:00