経営方針説明会で見せた富士通・黒川社長の本音



 まるで、3年連続赤字となった会社の社長会見のようだった。

 富士通の黒川博昭社長が、6月8日に行った経営方針説明会では、過去3年間の経営を振り返り、自らの社長としての実績を評価するとともに、今後3年間の方向性を示して見せた。

 言葉をついて出たのは、富士通が抱える数々の課題だ。

 「サーバー事業は、サンとの協業によるAPL(Advanced Product Line)の投入遅延のほか、PRIMEQUESTが思ったほど売れなかった」、「LSIは大手顧客の所要変動への対応が不十分。市場変化に柔軟に対応できる体質強化が課題」、「PC、携帯電話などのユビキタスプロダクトは営業利益率が低い。ともかく必死に戦い、生き残ることを目指す」などと語る。

 3年間の総括は、「企業体質はかなり改善できたが、構造的な課題へのさらなる踏み込みが必要だ」という言葉で示した。

 朴訥(ぼくとつ)な語り口から、厳しい言葉の方が際だつ印象もあるだろう。

 また、会見2日前に明らかになった子会社における架空循環取引による事件が、繰り返し行動規範の社内への徹底を訴え続けてきた黒川社長にとって、大きなショックであるとともに、改めて手綱を締めるべきとの意識を強く持ったことも作用しているだろう。

 いずれにしろ、課題をこれほどまでに表面に晒した社長会見は、異例であった。


課題山積とは裏腹に業績は右肩上がり

財務体質は大幅に改善

 しかし、実際の業績は、右肩上がりだ。

 2003年度から3年連続で4兆7000億円台でとどまっていた売上高は、2006年度は5兆1001億円へと上昇。黒川社長が経営の指標として重視している営業利益で見ても、2003年度には1503億円だったものが、1820億円に拡大。営業利益率は、3.2%から3.6%へと拡大している。純利益も1024億円と、2004年度実績の約3倍だ。

 とくに、サービス事業の成長は特筆できる。2006年度の同事業における営業利益は1561億円と、2004年度に比べて695億円も増加。「富士通の成長は、どれだけサービス事業を伸ばすかにかかっている」と語る。

 利益成長を支えているのは、サービス事業の好調ぶりだけではない。徹底したコストダウンへの取り組み、物量の増加も下支えしている。そして、さらなる踏み込みが必要とした、構造改革についても、実は、大きな成果をあげている。

 3カ年の構造改革では、PDPやLCD、フラッシュ、化合物などの事業再編を実施。過去40年以上続けてきた営業とSEの分離体制を見直し一本化したほか、上場子会社だったFsasを100%子会社化したのをはじめ、主要SE会社の100%子会社化にも踏み出した。

 「子会社が上場した目的はなんだったのか、ということを考えると、100%子会社化に対する疑問があるのは当然。しかし、戦う相手が巨大になり、リソース、人を含めて事業体制を整備しなおす必要がある。マジョリティをとって経営するという手法もあるが、親会社、子会社ともに生き残り、成長するためにはフォーメーションの再整備が必要だと考えた」と黒川社長は説明する。

 さらに、世界戦略を明確に打ち出したことも、黒川体制になってからの構造改革の成果だ。

 海外4総代表制を取り、ハードウェアによる海外戦略だけでなく、ミドルウェアによる展開や、SAPやマイクロソフトとのグローバルアライアンスの拡大にも積極的に乗り出した。

 海外戦略で先行している英国でのソリューション事業の実績は、同社の収益拡大に大きく貢献。加えて、世界規模でのマイクロソフトとのミッションクリティカル分野における戦略的提携効果や、SAPを軸としたグローバルアカウントへの対応といった成果もあがりつつある。

 「3年間での全社の営業利益の増加は317億円。たかが317億円、されど317億円。基礎体力がついてきた」と黒川社長が語るのも、こうした数々の構造改革の成果の背景があるからだろう。


本格的な構造改革に打って出る

 だが、「全社的な構造改革は、むしろこれからだ」と、黒川社長は語る。

 「私が社長に就任した2003年は、社員は意気消沈していた。マスコミの取材テーマも、成果主義と、悪化する数字に関するものばかり。『富士通がんばれ』と応援してくれるお客様も多くいたが、富士通に対するお客様からの信頼を取り戻すことは最重点課題だった。信頼回復とともに、これまでの3年間は、社員の闘うマインドを取り戻すことに必死であり、同時に悪いところを良くするという取り組みを優先した。『リストラ的な構造改革はしない、だからがんばってくれ』ということを社内に言ってきた。これは一定の成果を収めたといえる。だが、この手法は、経営者というよりも、私がかつて務めていたプロジェクトリーダーの性格丸だしのやり方に過ぎない。全社的な構造改革ができたのかというと反省はある。今日、配布した資料には入っていないが、社内向けの資料では構造改革に反省があることを示している」として、その反省をもとに、今後3年間で、踏み込んだ構造改革を実行していく姿勢を示す。


サーバーを3分の1に縮小へ

 全社的な構造改革への意欲は、言葉の端々からも感じられた。

 「製販一体の経営を基本からやり直す」、「これまでは既存の組織を壊さずにやってきた。お客様を起点として、商品を軸に組織、プロセスを作るためには、この考え方を見直したい」、「これまで天からお金が降ってくるという感覚で事業をしている部門もあった。その意識を一掃する」-などだ。

 そして、こんなエピソードにも触れた。

 「新入社員に対して、こう話した。みなさんが、これから45~50年、社会で働くうちに、富士通は何回変わると思うか。5年単位ぐらいで変わっていくよと。富士通はこれからも変わり続ける。だから、勉強をしていってくれ、自分を変え続けてくれと。市場の変化に対応するためには、富士通はグループ経営をやらくてはならない。そのためには、人事をグループでとらえ、ダイナミックなリソースシフトをしていくことを示した」

 新入社員向けだけではない、これは同様に社内に向けても語っている。

 これらの一連の発言は、これまでとは異なる大規模な組織改革を打ち出す宣言とも受け取れよう。

 「悪いことを抱えながらも、1800億円の営業利益を達成できるようになった。少し軋むことはあるかもしれないが、思い切ったことをやっても、潰れることがない体制ができた。だから変えていきたい」とする言葉からも、その意欲が感じられる。

 収益性では懸念材料となっているサーバー事業に関しては、すでにメスを入れはじめている。

 「サーバーの強い商品をどう作るのか。私は、社内には商品を3分の1にしろ、と言っている。既存路線はあるが、営業、SE、マーケティング、開発が一体になって、もう一度議論をし直せといっている。PRIMEQUESTは、DBサーバーとして、あるいは統合サーバーとしての需要が見込まれ、1万台出荷するといったが、実際にはそこまでは達していない。この事実も謙虚に学ぶべきである。昨年夏からサーバーをどうするかという議論を続けてきたが、最終的には報告する会になってしまい、会議そのものを見直す必要に迫られた。その際に、それまでの組織で行く方法と、別の組織から人を入れて、別の見方でやり直す手法がある。サーバー事業では、後者を選んで取り組んでいる」

 こうした取り組みからも、これから思い切った構造改革に着手する雰囲気が感じられずにはいられなかったのは事実だ。


黒川社長は、なぜ「商品」というのか

 一方、会見中、黒川社長が発した言葉のなかで、気になったのが、「強い商品」という言葉であった。

 なぜ、製品ではなく、なぜ商品なのか。

 家電メーカーの社長のなかには、「商品」という言葉を使う例がある。その最たる例が松下電器だ。だが、筆者の取材経験のなかで、大手ITメーカーの社長が、「商品」という言葉を使った例はほとんどないと記憶している。

 それぞれの言葉には具体的な定義はあるが、私は、「製品」には作り手側に寄った印象、「商品」には、使い手側に寄った印象を持っている。

 レガシーシステムが市場のほとんどを担っていた当時から、コンピュータの世界は、ITベンダー側が主導権を握って提案が行われ続けてきた。だから、「製品」という言葉の方が適切だという認識が根底にある。一方で、一般消費者の意見を反映させて開発が行われている白物家電では、「商品」という言葉が似合っていると思う。

 黒川社長の言葉は、筆者自身が持つそうした印象を覆す言葉でもあった。実は、黒川社長は、就任以来、製品ではなく、商品という言葉を使っている。勝手に推測すれば、顧客起点のモノづくりを徹底しようという視点から出てきた言葉ではないかと思う。また、SEという顧客に近い立場に仕事をしてきた立場から、商品という言葉が適切だと判断したのかもしれない。

 だが、富士通の社内から「商品」という言葉が出てくることは、黒川社長を除くと、やはりまれである。3年を経過しても、「商品」という言葉は定着していない。プレスリリースでも「製品」の方が使われているケースが多いように感じる。

 もし、社員やトップから、「商品」という言葉が頻繁に出てくるようになれば、それは、顧客視点の発想に基づいた経営が浸透し始めたことの証とはいえないだろうか。

 黒川社長が打ち出す構造改革を評価する、筆者自身の隠れた指標にしておきたいと思う。


関連情報
(大河原 克行)
2007/6/12 00:00