総務省が推進するレガシー改革の波紋



総務省

 10月4日、全国地域情報化推進協議会が設立された。

 同協議会には、全国47都道府県、および14の政令指定都市がすべて参加したほか、70の地方公共団体や、全国市長会、全国町村会などの団体が参加。一方、日立、富士通、NECといった大手コンピュータベンダー、NTTデータなどの大手SIerをはじめとする107社の一般会員、地域ディーラーなどを中心に、72社の賛助会員が参加した。有識者の参加を含めて、まさに、産官学が一体となった協議会が設立されたことになる。

 同協議会の目的は、地方公共団体などを対象に、地域情報化を促進するための各種活動を行うことにある。

 地方公共団体の情報システムの抜本的な改革や、公共団体内外の地域における多数の情報システムをオープンに連携させるための基盤となる地域情報プラットフォームの構築促進。さらに、各地方公共団体で共通利用が可能な公共アプリケーションの整備などが対象になる。

 電子自治体を推進する総務省にとって、それを強力に後押しする体制が整ったといえる。

 そして、これは言い方を変えれば、地方自治体における「レガシー改革」ともいえる動きを加速させる地盤が整ったともいえる。


 総務省は、今年7月、「次世代地域情報プラットフォームと自治体情報システムの抜本的改革」を発表した。

 これは、業界の一部では、レガシー改革という言葉でとらえられ、メインフレームからの脱却を促進するものになるだろうとの見方が出ている。

 実際、総務省では、レガシー改革という言葉を使っているわけではなく、また、メインフレームを排除するという姿勢を明確に示しているわけではないが、「抜本的改革」の対象として掲げられているシステムや環境の定義として、「パッケージ化によるコスト削減ができない」、「受注ベンダーなどによる独占的保守と自治体のベンダー依存」、「オーバーコスト、オーバースペック」、「システム連携や電子自治体の要請に応えられない」といった項目をみれば、まずは、メインフレームがその対象となることは明白といっていいだろう。

 また、「システム管理の分散」、「データ部分や共通機能部分の重複投資や動機のための経費が増加」、「システム連携の要請に応えきれない」といった問題点も指摘しており、部局ごとの導入によって一気に広がったクライアント/サーバーシステムの改革にもメスを入れようとしているのかわかる。


 メーカー側では、こうしたレガシー改革の動きをとらえ、メインフレームを導入している自治体に対して、レガシーという言葉の意味について、改めて説明を開始している。

 言い換えれば、「レガシー=メインフレーム」という構図を崩そうとしているのだ。

 では、メーカー側が提示するレガシーとは何か。

 それは、他のシステムとの連携が難しいもの、システムが複雑化し、スパゲッティ状態となっているもの、そして、仕様書などのドキュメントがなくなり、柔軟な仕様変更やシステムの追加が難しいものなどを指すという。総務省側でも、新たな住民サービスの向上を実現する上で、弊害となるITシステムのことをレガシーと位置づけているようだ。

 こうした要件に合致するシステムは、メインフレームであろうと、UNIXであろうと、IAサーバーであろうと、「レガシー」といえるというが、ハードメーカー側に共通した見解だ。

 だが、7月に発表された「次世代地域情報プラットフォームと自治体情報システムの抜本的改革」に続き、10月に発足した全国地域情報化推進協議会によって、レガシー改革が推進されることになるのは間違いない。


 全国地域情報化推進協議会が、それを推進する具体的な役割を担い、同時に、今後のシステム連携などの方向性のなかでは、オープンシステムが得意とするWebサービスへの対応などが盛り込まれることになるからだ。

 7月に打ち出された方針では、2005年度から3カ年での実行計画が発表されており、2005年度は次世代地域情報プラットフォーム構築に向けた技術開発に着手し、その基盤となる体制整備に乗り出すほか、2006年度には自治体の公共サービスを題材とした実証実験を実施。クローズドネットワークでのサービス連携技術の開発などを行う。そして、2007年度には官民連携サービスを題材とした実証実験を開始。引っ越しポータルなど、官民が連携した高付加価値サービスの提供に力を注ぐことになる。

 ここでいう引っ越しポータルはあくまでも一例にすぎないが、例えば、住民が引っ越しを行う際に、市区町村役場への各種届け出、手続きを一本化するだけでなく、引っ越し配送業者の手配、ガス、電気、水道などの手続きまでを、ワンストップで行えるようなポータルの構築を指す。これによって、住民が必要な手続きを簡便に行える環境の実現を目指すというわけだ。まさに、官民の連携がなくては実現しえないものだといえよう。

 総務省と、任意団体である全国地域情報化推進協議会とは、まったく別の組織であるが、双方が連携することは明らか。官民が連携した高付加価値サービスを実現するための基盤づくりを担うのが全国地域情報化推進協議会ということになる。

 同協議会では、具体的な事業計画として、1)公共ネットワークの活用、2)地域情報化の普及促進、3)公共ネットワークの構築を掲げ、そのなかで、各都道府県を結ぶ全国公共ネットワークの構築および相互接続性の推進のほか、全国共通アプリケーションの整備や、レガシーシステムからの移行モデルの確定、地域情報プラットフォームの構築、地域CIOの育成、ナレッジライブラリの構築/運用/管理などが推進されることになる。

 委員会活動を通じて、地域情報プラットフォームの仕様の策定、管理なども行われ、まさに、現在の地方自治体で稼働している情報システムの抜本的改革が進められることになるのだ。

 総務省では、こうしたレガシー改革による次世代システムの構築、そして、公共プラットフォーム、共通アプリケーション環境の構築によって、「重複投資や同期のための経費削減」、「システム管理の統合、セキュリティ向上、シングルサインオン」、「法改正などによるロジック変更がシステムに及ぼす影響の最小化」、「自治体を超えたシステム連携」、「システム全体の効果の高いスケーラビリティの確保」、「個別業務の部分的な省力化ではなく、全体最適の視点からのサービスの高付加価値化が可能になる」といったメリットが出るとしている。

 いずれにしろ、政府主導での自治体システムの改革に大きな一歩が踏み出されたことは確かだ。そのなかで、メインフレーマーである国産ベンダー各社は、どんな次世代情報システムの提案を、自治体に対して行うのだろうか。大きな転換期を迎えていることは明らかである。

関連情報
(大河原 克行)
2005/11/9 09:00