助走から飛躍へと入る日立のBladeSymphony
株式会社日立製作所のサーバー/プラットフォーム戦略の柱となる統合プラットフォーム「BladeSymphony」が発表されてから約1年を経過した。
ブレードサーバーを中心としたサーバー事業を柱に据えるとともに、メインフレーマーである同社が培った、DNAともいえる数多くの技術、ノウハウを注入するのがBladeSymphonyの特徴だといえる。
日立は、BladeSymphonyによって、どんな事業戦略を描こうとしているのだろうか。
■社会インフラを意識した情報事業
「HITACHI uVALUEコンベンション2005」で基調講演を行う古川一夫執行役副社長 |
日立の情報・通信グループにおいては、「Harmonious Computing(ハーモニアスコンピューティング)」、そして、ユビキタス社会を想定した「uVALUE」というコンセプトがある。
これらに共通しているのは、社会基盤との連動を強く意識した考え方という点だ。
他のコンピュータベンダーが、企業情報システムとしての生産性向上などに焦点が当たりがちであるのに対して、日立の場合は、企業情報システムとしての位置づけだけにとどまらず、社会基盤を支える情報システムとしての観点から語ることが多い。
実際、同社幹部の発言も、社会情報インフラとしての観点から、IT戦略を語る場面が多い。
今年7月に、東京・有楽町の東京国際フォーラムで開催された「HITACHI uVALUEコンベンション2005」の基調講演でも、同社の情報・通信グループを統括する古川一夫執行役副社長が、「日立の強みは、ものづくりを中心とした幅広い実業と、信頼性の高いITの提供、蓄積された研究開発力にある。これらの実績をベースに、個人や企業のみならず、社会の継続的発展に貢献することができる。それは他のどの企業とも異なる点だ」と語ったが、ここからもわかるように、日立は、社会情報インフラ基盤を整備することまでを視野に入れたサーバー/プラットフォーム戦略を掲げているのである。
■メインフレーマーのDNAを生かす
BladeSymphony |
日立仮想化機構 |
2004年度下期に日立が発表したサーバー/プラットフォーム戦略「BladeSymphony」は、一般的に、ブレードサーバーによるオープンサーバー事業戦略だと誤ってとらえられることが多い。
だが、実際には、ブレードサーバーはひとつのツールでしかない。むしろ、ブレードサーバーを取り巻く技術や製品群にこそ差異化のポイントがある。
BladeSymphonyは、統合サービスプラットフォームと位置づけられるが、そこには、ブレードサーバーのみならず、ストレージ、ネットワークの統合とともに、仮想化技術、統合化技術をベースとしたプラットフォーム、それに関わるサービスやパートナリングまでもが含まれる。
そして、BladeSymphonyを本当の意味で下支えするのは、メインフレームや数々のサーバー統合の実績により培った仮想化技術、統合化技術だといえよう。
例えば、今年5月に日立が発表したBladeSymphonyの製品強化では、仮想化技術である「日立仮想化機構」の提供が目玉といえる。
日立仮想化機構は、インテルが提供するバーチャライゼーション・テクノロジと、日立がメインフレームで培ってきた仮想化組み込みソフトウェア技術を連動して実現したハイパーバイザー型仮想化技術。物理制約にとらわれることなく、負荷状況に応じたリソースの最適化配分を動的に実現し、これにより、サーバーリソースの柔軟な利用のほか、ROIの最大化が図れることになる。
Itanium 2をベースとしたオープン環境で、こうしたオートノミック技術が実現されるのは業界初である。
また、同時に発表されたシステム管理ソフトウェア「BladeSymphony Manage Suite」では、同社が高い実績を持つシステム管理ソフト「JP1」の機能を切り出し、システム構成管理機能を強化。ビジネスグリッド技術を適用したシステム構成の一元管理や、物理構成情報を自動収集し、ユーザー業務と対応づけて管理する機能を搭載し、ユーザー業務単位での物理構成の変更指示などを行うことが可能になる。
さらに、Windows、Linux、HP-UXの3つのOSを一括で管理することが可能で、多様なサーバーコンソリデーションにも対応できるという特徴も見逃せない。
このように、メインフレーム事業で培ってきた技術の採用が、BladeSymphonyを支えているのだ。
■統合オープンでの強みを発揮
現在、企業情報システムは、「統合オープン」の世界に入ってきた。
BladeSymphonyは、この「統合オープン」の世界に最適化したソリューションだと、日立では説明する。
90年代後半から、2000年代の前半までは、「分散オープン」の手法が中心といえた。オープン化を背景に、低価格化するサーバー、ストレージが各社から投入され、部門サーバーの導入が促進されるなど、部分最適化を前提とした柔軟なシステム構築が進められてきた。だが、ここ数年、全体最適化での問題が指摘されたり、林立するサーバー、ストレージのシステム管理に追い回され、TCOの増大やシステム障害によるビジネスリスクへの対応といった課題が表面化してきた。
こうした問題解決の手法として、「統合オープン」という世界が注目を集めているのだ。
「統合オープン」では、当然のことながら仮想化技術が大きなポイントとなる。
同社では、「統合オープン環境を実現するには、ネットワーク、サーバー、ストレージ、ソフトウェア、サービスを横断的に提供できること、そして、これらを統合するための仮想化技術が必要。こうした製品群、技術を提供できるコングロマリッドであることが求められており、それを実現できるのが日立ということになる」と語る。
■ブレードサーバー市場で25%のシェア目指す
だが、ブレードサーバーの市場は、まだ小さい。
サーバー市場全体に占めるブレードサーバーの市場規模は、わずか数%であり、日立には、ブレードサーバー市場そのものを拡大するという役割も課せられている。
市場拡大期ということもあり、いきなり大規模システムをブレードサーバーに置き換えるのではなく、まずは、サーバー統合ソリューションとしての提案などが中心となるのは明らかだ。
だが、同社では、メインフレームの中規模クラス、大規模UNIXサーバー、あるいはハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)の領域までをブレードサーバーでカバーする一方、下位方向では、PCサーバーの領域にも製品ラインアップを展開していく考えを示している。
これにより、同社サーバー事業の中核的位置づけをブレードサーバーで展開しようというわけだ。
現在、日立のブレードサーバー市場における国内市場シェアは、金額ベースで8%弱。これを2006年度までに25%へと引き上げる計画だ。さらに、2006年度までの2年間で4000台のブレードサーバーの販売を見込む。そして、BladeSymphony全体の売り上げ計画は、2006年度には1100億円とする方針を掲げている。
これは、サーバービジネス全体の約半分をBladeSymphonyで占めようという、意欲的な取り組みといえるものだ。
サーバー一台に、ネットワーク、ソフトウェア、サービスなどを付加させることで、事業の拡大も視野に入れる。そして、ユーティリティコンピューティングと呼ばれる統合型従量課金モデルへの取り組みについても、今後のBladeSymphony事業のなかでは、大きなポイントとなるのは間違いない。
2004年度下期にBladeSymphonyを発表以降、昨年度は、そのコンセプトを市場に認知されることが中心的な取り組みだった。そして、2005年度上期は、それを実現するための、技術、製品群を取り揃えてきた。
この下期からは、いよいよ具体的な提案、導入フェーズへと入ってくることになる。ユーティリティモデルに関しても、サービス開始の段階へと入ってきた。
日立のBladeSymphonyは、1年間の助走を終え、いよいよ飛躍の段階に突入することになる。