中堅・中小企業攻略でパートナービジネスを加速するマイクロソフト



 マイクロソフトが中堅・中小企業向けビジネスを重点戦略のひとつにおいている。

 そして、その中堅企業、中小企業に対して本格的な導入促進を図るには、パートナービジネスの協業が必要として、ここ数年、パートナービジネスに関しては積極的な体制強化を進めている。

 マイクロソフトによると、同社2005年度(2004年7月から2005年6月)における中堅・中小企業向けの事業規模は370億円。そのうち、OfficeおよびOSは、前年比29%増という大幅な伸び率を達成。そして、サーバー製品に関しては46%増という高い伸びを達成しているという。国内におけるパソコン本体の出荷台数の対前年成長率が10%台中盤、パソコン用パッケージソフトの伸張率が4%であったことと比較すると、その圧倒的ともいえる伸び率の高さがわかるだろう。

 これが2006年度には、480億円の売り上げ規模に拡大。成長率はまったく鈍化せずに大幅な伸びを維持することになると見ている。そして、2009年度には、600億円から700億円の事業規模に達すると予測しており、今後も継続的に市場が拡大すると見ているのだ。

 マイクロソフトの眞柄泰利執行役常務は、「中小企業市場における社員100人あたりのパソコンの平均所有台数は、英国が100台、米国が81台であるのに対して、日本は34台。サーバーに関しては、英国が8.4台、米国が3.9台であるのに対して、日本は0.3台。G5のなかでも遅れていることがわかる」と指摘する。同様に中堅企業のデータで比較しても、日本の遅れが目につく。

 つまり、裏を返せば、日本の中堅・中小企業のIT市場には、大きな成長の余地があるといってもいいわけだ。


 マイクロソフトは、ここ数年、中堅・中小企業市場の開拓に向けて入念な準備をしてきた。

 「中堅・中小企業の市場は、どこのITベンダーもシステムインテグレータも実態を把握できていなかった。そのため、日本の中堅・中小企業におけるIT導入の実態はどうなのか、市場を知るための調査を一から開始した」(眞柄執行役常務)というように、ここ数年にわたって、マイクロソフトはかなりの資金を投資し、全国を行脚し、中堅・中小企業に関する情報を収集してまわった。

 現在、マイクロソフトには、8万社にのぼる中堅企業のプロファイルがある。そして、同様に2000以上の地方自治体に関する情報もある。このなかには、ITの導入状況、投資予算などの情報が克明に記されている。この情報をもとに、中堅企業向けの攻略を、パートナービジネスによって推進していこうというわけだ。

 「刈り取りの準備が整った」と眞柄執行役常務がいうように、中堅・中小企業へのIT導入を加速させる体制が整ったといえるのだ。


マイクロソフトの中堅企業向け施策

 実は、すでにこの成果は、2005年度のなかでも実績としてあがっている。

 マイクロソフトでは、パートナーとの協業マーケティング戦略を、GTM(Go-To-Market)という言葉で表現し、その具体的な施策などについては、「GTM戦略」といった言い方をする。

 2005年度に行われたGTMキャンペーンでは、マイクロソフトから直接、50万通のダイレクトメールが全国の中堅企業に送られたが、それに対して、10%のレスポンスがあったという。この10%ものレスポンスに対して、各地域のビジネスパートナーと連携し、導入提案を行うという取り組みが行われた。

 同様に、60人体制で展開しているテレセールス部隊では、年間14万コールを行い、市場規模として、323億円分のパイプラインを作ることに成功したという。

 こうした取り組みの結果、パートナービジネス全体として、3000億円規模の商談が発生したとマイクロソフトでは試算している。

 一方、中小企業向けには、全国IT推進計画を打ち出し、IT導入に関する啓発、相談、導入、活用といった提案をあらゆる角度から実施してきた。

 累計6万人が参加しているIT実践塾では、中小企業におけるITの活用に関する経営者向けセミナーを全国で実施。また、経済産業省との連携によって実施している「IT経営応援隊」では経営へのIT活用促進の提案を行っているほか、中小企業IT化支援センターでは、IT化に関する相談対応などを実施する体制を構築している。

 さらに、7万社の会員を獲得している経革広場では、中小企業の取引拡大、経営相談、資金調達といった企業経営に役立つ65種類のサービスをWebサイトで提供。まさに、中小企業の駆け込み寺としての活用を可能しており、ITを活用した中小企業の経営を側面から支援している。

 そのほか、スマートビジネスキャンペーン、スマートビジネスセミナー、スマートビジネス業種編といった実際の製品と連動させた展開も行っており、ここでもIT推進全国会というパートナーと連携する仕組みを用意して、市場開拓に取り組んでいる。

 このように、数々の中堅・中小企業向けの支援策をマイクロソフトは用意しているのだ。


 中堅・中小企業向けの事業拡大をもくろむマイクロソフトは、2006年度においてもパートナービジネスをさらに加速させるのは明らかだ。

 そのパートナービジネスの核となるのが「GTMシナリオ」という表現でマイクロソフトが用意した、6つにわけたソリューション提案だ。

 これは、インフラ最適化、基幹システムの移行/統合/活用、理想のコラボレーション、オフィス業務改革、プロジェクトマネジメント、はじめようスマートビジネスという6つに切り分けたもので、製品単体の提案ではなく、ソリューションカットでの提案を推進していく姿勢を前面に打ち出したものだ。

 さらに、ここにパートナーの得意分野を組み合わせ協業体制を敷くことで、より効率的で、しかも戦略的な提案が可能になるというわけだ。

 ネットワークに強いパートナー、特定業種に強いパートナー、地方自治体に強いパートナー、データベースソリューションに強いパートナーなど、全国にはさまざまなビジネスパートナーがいるが、これらのパートナーの得意分野を利用し、シナリオとあわせることで、中堅・中小企業のニーズにあわせた提案を可能としているのだ。

 マイクロソフトでは、パートナーの得意分野のことを「コンピテンシー」という言葉で表す。

 「今年は、パートナーのコンピテンシー登録を拡充し、コンピテンシーを徹底的に支援していく」と、ビジネスパートナー営業本部本部長の宗像淳業務執行役員は語る。

 とくに、2006年度の場合、技術面でのビジネスパートナー支援が強化されるのが特徴ともいえ、認定ゴールドパートナーを対象に実施するテクニカルサービスコーディネータ(TSC)によるマイクロソフト製品に関する技術相談支援窓口の設置や、5月から開始している「パートナースタンダード」と呼ばれるパートナー向けのテクニカルサポート基本パッケージの提供、さらに導入前検証プロセスの効率化などを実現するプリセールステクニカルサポート(PTS)といったプログラムの強化など、支援体制整備にも余念がない。

 パートナー登録制度も11月からリニューアルしたことで、更新手続きの煩雑さを軽減したほか、コンピテンシーをベースとした支援が行いやすい環境も整えた。


パートナーのコンピテンシーに合わせた商談機会の増加策ビジネス規模に応じたパートナー支援施策提案から導入にいたるまでの支援策

 マイクロソフトでは、毎年、全世界のビジネスパートナーのなかから優秀な実績をあげたパートナー企業を対象に、Worldwide Partner Program AWARDを表彰している。

 2005年度は、日本からは大塚商会、富士通が受賞。さらに、静岡情報処理センターがRegional Winnerを受賞。ファイナリストとしては、このほかに日本のビジネスパートナーが7社も残った。

 これだけ日本のビジネスパートナーが、Worldwide Partner Program AWARDで表彰されたのは過去に例がない。それだけ日本におけるビジネスパートナー戦略が加速していることの表れともいえる。

 マイクロソフトにとって、ビジネスパートナー戦略は、7月から始まった2006年度において、まさに重点課題のひとつとなっており、その成功こそが、マイクロソフトが狙っている中堅・中小企業開拓の切り札となるのだ。

関連情報
(大河原 克行)
2005/12/20 09:00