大河原克行のキーマンウォッチ

「築いてきた信頼と伴に、AI時代の翼になる」コンカー橋本社長に聞く、2025年の到達点と2026年の次の一手
2026年1月14日 06:00
コンカーの橋本祥生社長は、「2025年は、コンカーが目指してきた『経費精算をなくす』という目標が、機能の面で達成できた1年だった」と振り返る。2025年3月に発表したAIによる自動不正検知サービスである「Verify」によって、同社が掲げてきた「入力レス」、「キャッシュレス」、「ペーパーレス」、「承認レス」、「運用レス」の「5つのレス」が機能面で実現したからだ。
これをベースに、2026年は、AIを活用した新たなサービスや機能の追加により、経費精算をなくす企業の拡大に取り組む一方、「その先」と位置づける「自律運用」、「データの民主化」に向けた動きを加速させる。
橋本社長が掲げる2026年のコンカーのキャッチフレーズは「築いてきた信頼と伴に、AI時代の翼になる」――。2024年1月1日に社長に就任してから、3年目に入った橋本社長に、コンカーの次の一手について聞いた。
「経費精算をなくす」目標を「機能」という観点で達成した2025年
――2025年は、コンカーにとってどんな1年でしたか。
コンカーは、この数年、AIに力を注ぐという姿勢を明確にしてきましたが、2025年は、それを実行できた1年だったといえます。なかでも、AIによる自動不正検知サービスである「Verify」を2025年3月にローンチしたことで、コンカーが掲げてきた「経費精算をなくす」という目標を、「機能」という観点で達成することができました。私たちが長年目指してきた山の頂上に到達したといえます。
しかし、個々のお客さまの利用シーンを見ると、それぞれに異なるステージにいるのが現状です。山の頂上に皆さんを引っ張り上げるという役割がますます重要になるでしょう。コンカーは、SaaSベンダーですから、安定的にビジネスを行うには、コンカーのサービスを継続的に利用していただくことが肝要です。導入したら終わりではなく、経費精算をなくすところまでしっかりとサポートする必要があります。
コンカーでは、経費精算をなくすためのノウハウを「成熟度マップ」に集約し、個々のお客さまの現状をとらえ、それをもとにコンサルティングを行ったり、課題解決をサポートしたりといった取り組みを行っています。すべてのユーザーのデータをもとに、いま、お客さまがどの位置にいるのかといったことを定量的に示し、ステージが上がらない原因を提示し、改善するための手だてやケーススタディも提示し、課題の解決までをサポートします。
成熟度マップは日本法人が独自に作成したツールで、コンカージャパンにとっての羅針盤であり、バリューを提供し、お客さまの満足度を高める役割を果たします。そして、日々アップデートをしながらお客さまをサポートします。実は、日本のお客さまの継続率はグローバルでトップレベルにあります。そこには、お客さまに寄り添ってサポートすることができるツールとして、成熟度マップが大きく貢献していると自負しています。
――「成熟度マップ」は、成熟度を3つのステージに分けていますね。
ステージ3が、「入力レス」、「キャッシュレス」、「ペーパーレス」、「承認レス」、「運用レス」の「5つのレス」を実現し、経費精算をなくすことができる水準です。コンカーのお客さまのうち10%弱がこの水準に達しています。これらのお客さまに共通しているのは、DXによる成功体験を持ち、企業変革にも継続的に取り組む姿勢が明確であるという点です。
コンカージャパンでは毎年、コンカーを活用し、間接費改革や業務プロセスの改善を行い、革新的でパーパスドリブンなビジネスを実現したお客さまを、「SAP Concur Customer Excellence Awards Japan」として表彰しているのですが、2025年に最優秀賞に選ばれた旭化成、優秀賞を受賞した野村不動産ホールディングスに共通しているのは、課長や主任といった方々が、コンカーの最新機能を活用した業務改革を自ら起案し、それを実践しているという点です。
人事、経理、IT部門の方々が新しい仕組みを導入すると、従業員は、それを覚えるのが面倒という思いがありますから、どうしても不満の声が出やすいという傾向があります。しかし、コンカーを導入したら、現場の従業員から「これはいいね」と、初めて褒められたという声も上がっていましたよ(笑)。
この成功体験が次の挑戦につながり、若手社員や中堅社員を中心に活気が生まれるという好循環につながるとの声もありました。コンカーは、経理業務の効率化というメリットだけでなく、社内の活性化という効果も生んでいます。
「経費精算をなくす」という目標に対しては頂上に登ったといえますが、一方で、私たちの挑戦は、これで終わりではありません。「経費精算のない世界、その先へ」というのが、2025年からコンカーが打ち出してきたメッセージです。富士山の頂上には到達したが、次はエベレストの頂上を目指すといった状況ですね(笑)。
そのためには、AIをより積極的に活用していく必要があります。そのためにも、コンカーでは2026年春以降、日本において新たなAIサービスを続々と発表します。ここでは、SAPのAIコパイロット「Joule」との対話により、自動で予約や申請などの作業が簡単に行えるようになります。また、規定違反を事前に回避し、承認者の負荷を軽減するといった機能も追加します。各社の監査ルールの設定も、Jouleとの対話によって容易に行ったり、アドバイスを受けたりといったことが可能になります。
Joule with SAP Concur solutionsを順次投入
――AIの投入に関して、現時点で明らかにできる具体的なサービスはありますか。
Jouleによる新たなAIサービスは、「Joule with SAP Concur solutions」と呼び、「一人ひとりにエグゼクティブアシスタントがつき、手厚いサービスが受けられるようになること」をコンセプトに掲げています。
ラインアップは順次追加する予定ですが、まずは第1弾として、2026年春に「Joule Base with SAP Concur solutions」の名称で、Jouleとの対話によって経費申請を作成する「Expense Transactions」、Jouleとの対話で必要情報を取得できる対話型ヘルプ検索「Conversational Help Search」を投入します。
また2026年中には、Concur Travelを開くことなく、航空券の予約までをJouleによって完了させることができる出張手配エージェント「Booking Agent」をリリースする予定です。これらは、Concur Expense & Travelを契約していれば無償で利用することができます。
また、「Joule Premium with Travel & Expense」の名称で提供する新サービスとして、2026年春には、画面操作で行っていた経費精算レポートの抜け漏れチェックをJouleとの対話で完結する経費申請内容検証エージェント「Expense Report Validation Agent」をリリースします。
2026年中には、拠点が異なるメンバーの最適な出張計画策定などを行う会議場所提案エージェント「Meeting Location Planner Agent」、人手で行っていた監査ルールなどの設定の分析や改善をJouleとの対話で行える管理者向け設定サポート「Administrator Consultation with Joule」をリリースすることになります。これらの「Joule Premium with Travel & Expense」については、有償オプションあるいは個別見積もり対応となります。
また、これらの機能の追加だけにとどまらず、さまざまな機能をアップデートしていくことになります。
「経費精算のない世界」のその先へ
――AIによって、コンカーが目指す「経費精算のない世界」は、ますます身近なものになりそうですね。
経費精算のない世界をより浸透させていくことは当然ですが、その一方で、コンカージャパンでは「Vision 2028」を打ち出し、「経費精算のない世界」の「その先」の姿として、「自律運用」や「データの民主化」といった世界を実現することを目指しています。ここでも、AIが重要な役割を果たすことになります。
「経費精算のない世界」においては、先に触れたVerifyによるAI不正検知のほかに、AIチャットによるタッチレス精算や、プロアクティブな法令順守サポートを実現し、効率化とガバナンスを高度に両立させることになります。
そして、「その先」となる「自律運用」では、人手に頼っていた導入や設定、運用作業の負担を最小化するために、AIチャットによる即時の問い合わせ対応や設定改善支援、分析支援などを提供することになります。最終的に目指しているのは「データの民主化」であり、戦略的なインサイトを提供する世界がやってきます。ここでは、出張旅費分析、経費精算プロセスのボトルネック分析、サステナビリティスコアリングなどを提供していくことになります。
大切なのは、本社で開発し日本法人に提供される製品を単にリリースしているだけではないということです。2024年3月に、本社開発部門の責任者に対して日本が求める「要求仕様書」を提示し、「データの民主化」を実現するための機能を開発してもらうことにしました。2027年までに、これらの機能の多くをリリースすることができます。
AI時代に入り、スピード感が変わってきていますから、日本の市場が必要とする機能についても、迅速にリリースしてもらうように要望しています。日本は、米国に次ぐ売上規模を持ち、重視されているからこそ、日本からの「要求仕様書」がサービス開発に反映されています。
――日本からの「要求仕様書」では、どんな点がポイントになっているのですか。
「データの民主化」に向けた機能は当然ですが、日本は労働人口の減少や生産性の低さといったことが指摘されており、従来型の業務に労力をかけ続けるのではなく、未来予測や計画立案、創造性のある業務にシフトしていく必要があります。そこに、AIやビッグデータが貢献できると考えています。
DXが叫ばれて久しいですが、コンカーは日本のDXの「先頭バッター」になりうる存在だと思っています。経費精算は、すべての従業員が関わる作業です。コンカーからDXに着手することで、多くの従業員が、短期間にDXによる成功体験を得ることができ、次のDXに踏み出すことができます。コンカーを起爆剤として、DXを推進している日本の企業も少なくありません。
実は、AIでも同様のことが起こると考えています。最初に、コンカーによってAIに触れてもらい、経費精算の業務を簡素化したり、なくしたりといった体験を通じて、AIのメリットを体感し、次のAI導入のハードルを引き下げることができます。AIにおいても、コンカーは「先頭バッター」の役割を果たしたいですね。
公共向け事業への注力を強化
――コンカーの導入実績はどうなっていますか。
2025年11月時点で、国内の時価総額トップ100社のうち68%の企業にコンカーが採用されています。同じくトップ300社で見ると、55%がコンカーを導入しています。また、2025年3月に発表した「Verify」の採用も好調に増えており、検討中というお客さまも100件以上に達しています。AIによる自動不正検知に対するニーズは高く、「Verify」をきっかけにしてコンカーに着目するといったお客さまもあります。
一方、私が社長に就任して以降、公共市場に注力する方針を打ち出しており、その成果が出始めています。福井県では、旅費システムに、経費精算クラウドサービス「Concur Expense」を採用し、申請者と承認者の大幅な業務効率化を実現しています。2024年に日本にデータセンターを開設したことも、自治体などの公共分野での導入促進に、プラスの影響を及ぼしています。
また2025年には、2つの国立大学にコンカーが導入されました。大学ではIR強化が課題となっており、なかでも研究費管理の可視化が重要な課題となっています。しかし、研究費には複数の資金元があり、管理が煩雑であるにもかかわらず、ほぼ手作業で行われており、研究費ごとに設けられた規定の確認や管理、資金元への報告などの作業に、工数や人件費がかさみ、ミスが発生しやすい状況も生まれています。
ここにコンカーを導入することで、規定を自動でチェックしたり、研究費ごとにレポートを抽出したりといったことが可能になり、すでに50%以上の効率化が実現している例もあります。もともとは経費精算の効率化という切り口から提案を始めたのですが、大学IRの強化にコンカーが貢献できると考えています。今後、ソリューションパートナーとともに、大学IRをカバーできるような統合ソリューションを提案できないかと考えています。
公共分野全体では、2026年も予算化されている案件がすでに数十件あります。公共向け事業には、ますます力を入れていこうと考えています。
「働きがい」のある企業風土の実現に向けた取り組み
――コンカーでは、「働きがい」のある企業風土の実現に積極的に取り組む企業としても知られています。いま社内では、どんなことに取り組んでいますか。
具体的には、3つの取り組みがあります。ひとつめは、「巡りあい」活動です。リモートワークによる働き方が主流となるなかで、人同士が直接会うことがあらためて重視されようとしています。私は、社員同士が会うことで、社内にイノベーションが起きると思っていて、それを実現したいと考えました。コンカーでは、週3日の出社をルール化していますが、社員が出社する日を部門ごとに決め、それをシャッフルしながら、部門の枠を超えて、社員同士が対話する機会を増やすことにしました。固定席はありませんので、部門ごとにストラップの色を変え、どの部門の社員だということをお互いに分かるようにし、積極的なコミュニケーションを図ってもらっています。
2つめは、「リーダーズコネクト」の取り組みです。これは、マネージャーの育成を目的としたもので、2025年からスタートした新たな仕組みです。四半期に一度、約40人のマネージャー全員が集まり、自分の部門だけに閉じず、参加者全員が視座を高め、大局的にとらえ、全社戦略施策を考えてもらうといったことを行っています。実際、リーダーズコネクトでの議論を通じて出てきた提案には非常に良いものもありましたから、それはすぐに取り入れようと思っています。
そして、3つめが「xAI(カケアイ)」です。現場の社員の自発的な取り組みによってスタートしたもので、単にAIを導入するだけでなく、業務改革や提供価値の向上にどんな貢献ができるのかといったことを、勉強会や合宿を通じて、部門を越えた学びと実践につなげ、AIを使える力として根づかせています。
そして、このノウハウを外部にも提供していく取り組みも開始しています。いま、コンカーでは、「働きがい第二章」として、コンカーが持つ企業文化を、いかに社会の価値提供に変えることができるかといった取り組みをスタートしており、xAIはそれを具現化する活動のひとつだといえます。なかには、サポート部門の社員が、お客さまからいただいた声を起点に、売り上げにどう貢献するかといったことを考えるなどの動きが出ています。想定以上の成果が上がっています。
企業の経費精算業務における実務課題を共有し改善を図る「経費MIRAI協議会」
――一方で、コンカーが中心となって、2025年6月に、「経費MIRAI協議会」が発足しました。この狙いはなんですか。
経費MIRAI協議会は、企業の経費精算業務における実務課題を共有し、業務効率化、制度対応の両面から改善を図ることを目的としています。インボイス制度をはじめとする法制度の改正などへの対応が、利便性や生産性の一時的な低下につながり、制度と現場実務のギャップが生まれているのが実情です。関係省庁や業界団体との対話を通じて、制度と実務の橋渡しを行い、日本企業全体の業務DXを通じた競争力向上や人手不足の解消に資する提言および情報発信を進めていくことになります。
発足時から参画しているビズリーチ、マネーフォワード、ラクスに加えて、2025年12月には、LayerXおよびワークスアプリケーションズが参加したことで、経費精算に関するクラウドサービスを提供する企業という点から見ると、シェア100%に近い企業が参画する団体となりました。2025年9月には、新経済連盟と日本商工会議所の「税制改正提言」の中に、経費MIRAI協議会の要望である「会社決済型コーポレートカードによる旅費支払いを、出張旅費等特例の対象に含めるべき」という内容が反映されました。
まだスタートしたばかりで、「知る人ぞ知る」という状態ですから(笑)、2026年は、認知度を高める活動にも力を入れていきます。2026年3月までに、経費MIRAI協議会の公式サイトを開設する予定で、これも認知度向上につながる取り組みのひとつになります。
――2026年は、コンカーにとって、どんな1年になりますか。
AIに関しては、Jouleを活用したサービスのリリースが始まり、データの民主化に向けた動きが加速することになります。2026年のコンカーは、「築いてきた信頼と伴に、AI時代の翼になる」ことを目指します。また、公共分野における取り組みも、実績が蓄積されていますし、2026年には、大きく花を咲かせたい。DXやAIをやるならば、まずはコンカーからやってみるという流れも、定着させていきたいですね。
お客さまやパートナーからは、「コンカーの社員は、いつも楽しそうに仕事をしている」とよく言われるんです。これは、私にとって、とてもうれしい言葉です。コンカーの社員が働きがいを持って、お客さまやパートナーと一緒に仕事ができる環境を継続していきます。








