「モバイルとクラウド、そしてビッグデータ」 GartnerのITトレンド予測


 企業のIT部門が先を見通しながら計画を立てるため、さまざまなコンサル会社が中長期のITのトレンドを予測している。その中でも有名なのが、Gartnerの戦略的ITトレンド予測だ。3年から5年先を見通す指針で、2012年版のキーワードは、やはり「モバイル」「クラウド」「ソーシャル」「ビッグデータ」――。概要を紹介する。

 

ITの10大トレンド 2012年版

 戦略的ITトレンドは、Gartnerが毎年この時期に出して、恒例となっている。今年は10月21日から5日間、米国で開催したCIOなどIT担当者対象のイベント「Gartner Symposium/ITxpo 2012」で発表した。その内容は次のようなものだ。

1)「モバイル端末ベンダーの戦い」
2015年にタブレットはノートPC市場の半分に達し、OSはAndroidとiOSがトップを争う。Windows 8は3位で、さまざまなIT環境のOSの一つにすぎなくなる。

2)「モバイルアプリケーションとHTML5」
モバイルアプリ開発が活発化して、ツールベンダーは100社超に。HTML5としてのWebアプリの機能は充実するが、ネイティブアプリも共存する。

3)「パーソナルクラウド」
個人が自分のコンテンツを格納する場所が、PCからパーソナルクラウドにシフトする。

4)「エンタープライズアプリストア」
アプリストアのモデルをエンタープライズも採用。2014年には、多数の企業がプライベートなアプリストア経由で従業員にモバイルアプリを配布するようになる。

5)「モノのインターネット」
センサー、画像認識技術、NFC決済などの機能を持つモバイル端末があと押しし、自動車や製薬などの業界でも利用が進む。

6)「ハイブリッドITとクラウドコンピューティング」
分散、異機種混在などの特徴を持つクラウドサービスのプロビジョニングや利用という新しい役割(内部CSB:cloud services brokerage)がITに求められる。

7)「ビッグデータ」
データの量、多様性、速度、複雑性などによって、これまでの単一のデータウェアハウスモデルから、コンテンツ管理システム、データウェアハウス、データマート、専用のファイルシステムなど複数のシステムを利用するモデルに移行する。

8)「次のアクションにつながる分析」
分析処理が高速・低コスト化し、ユーザーがコンテクストの中で利用するようになる。モバイル端末からクラウドベースの分析エンジンとビッグデータにアクセスして、いつでも・どこでも、ビジネスの最適化やシミュレーションが可能となる。

9)「インメモリコンピューティング」(IMC)
ディスクベースではなくRAMで処理を行うもので、今後2年でさまざまなベンダーがIMCソリューションを提供し、メインストリームになってゆく。

10)「統合されたエコシステム」
疎結合のヘテロジニアスアプローチから、統合されたシステムとエコシステムへ移行。ベンダーは自社ソリューションをこれまで以上にコントロールできるようになる。

 

注目される「ビッグデータ」の動向

 今年のリストの中に、特段、新しい技術はない。そして、10のトレンドは別々のものではなく、関連し合っているのが特徴を言えるだろう。そんな中でも、各メディアが特に言及しているのが「ビッグデータ」だ。

 InformationWeekは、Gartnerの予測について、「どんな種類のデータストリームを企業が必要としているのか、そのデータストリームをインフラに導入する方法、ビッグデータ環境の価値測定などのポイントが不足している」と指摘した。

 Gartnerは同時に発表したリサーチで、ビッグデータ市場が2013年には前年比21.4%増の340億ドルに成長すると予測している。さらに、2020年には、ERP、SCM、CRMのように当たり前のものとなり、それだけではビジネスの差別化はできないとみている。また、「ビッグデータを専門とする人材が求められ、440万人の新しい雇用創出につながる」とも予測している。

 The Registerは、Gartnerが指摘する通り、ビッグデータは別個のカテゴリではなく、「これまでの純粋なリレーショナルデータベースができない、大きくて高速なことを、モダンなツールをつかってやるだけ」とした上で、「分散コンピューティングにクラウドという名称が付いたのと同様」「新しい種類のコンピューティング」にすぎないとする。

 Computer Worldは、管理が難しいと言われる非構造化データの増加をビッグデータの課題として指摘する。さらに今後、インラインでのデータ重複排除、データの自動階層化、高性能を実現するSSDなどの技術が重要になると補足する。

 

ITは事業の全分野に浸透する

 このほか、Gartnerはイベントで、2016年にIT支出が40兆ドルに達するという予想も公表した。これについてZDNetは、産業のデジタル化によって「ITとは何か」の再考を迫られると述べている。

 つまり、あらゆる製品に情報技術が組み込まれるようになり、これまでのITの調達メソッドの外で技術への支出が起こるというのだ。これに対応するため、ビジネスのデジタル化を進める「Chief Digital Officer」(CDO、最高デジタル責任者)という役職が登場。Gartnerは2015年には企業・組織の25%がCDOを置くとみている。

 ITは独立したものではなく、全分野に浸透してゆくという姿だ。

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(岡田陽子=Infostand)
2012/10/29 12:38