中国HuaweiとZTEのスパイ疑惑 米下院の報告書とその背景


 中国の通信機器大手、Huawei Technologies(ファーウェイ テクノロジーズ;華為技術)とZTE(中興通訊)の製品を、米国企業や政府に利用しないよう米下院の委員会が勧告した。10月8日に公表された下院情報特別委員会(HPSCI)の報告書によると、米国内の通信システムの安全保障上の脅威になるというのが、その理由だ。HuaweiやZTE、さらに中国政府まで強く抗議しており、両国の関係にも影を落としている。これを1980年代の“ジャパンバッシング”になぞらえる専門家もいる。

米国参入では失敗続き

 HuaweiとZTEは、ともに端末からインフラ機器まで幅広く展開する通信機器メーカーだ。問題とされているのは、ネットワーク、スイッチ、ルーターなどの通信インフラ機器群。報告書は、両社が中国当局の影響を強く受けており、通信インフラに採用するのは、スパイ行為を可能にする国家的リスクを招くとしている。

 通信インフラはもともと、西欧州、米国、日本などの成長国がリードしてきた分野だ。だが2000年のバブル崩壊以降、通信事業者も一般企業も、通信機器への投資を抑えるようになり、低価格で基本的機能を提供するHuaweiやZTEが選ばれるようになった。

 現在、この分野の世界最大手はEricssonだが、HuaweiはNokia Siemens NetworksとAlcatel-Lucentを抜いて2位。ZTEは5位となっている。2番手に上ってきたHuaweiは、アジア、アフリカ、そして西欧州と少しずつ市場を拡大してきたが、米国市場では障壁にぶつかっている。Clearwire、Leap Wirelessなど小規模なキャリアでの導入実績はあるが、Verizon Wirelessなど全米展開する大手には入り込めていない。

 Reutersによると、Huaweiは昨年米国市場で13億ドルを売り上げたが、これは同社が世界での売り上げ324億ドルの4%にすぎないという。ZTEの場合、米国での通信インフラ機器の売り上げ全体は3000億ドル。2位と3位(Nokia SiemensとAlcatel-Lucent)は合計140億ドルにのぼる。

 Huaweiと米国との不協和音は、新しい話ではない。顕著なものが、2年前のHuaweiの米企業買収の断念だ。2010年5月にHuaweiは米国のサーバー企業3Leafの買収計画を発表したが、最終的に対米外国投資委員会(CFIUS)の勧告を受けて買収申請を撤回している。

 その際、問題となったのが、Huawei創業者のRen Zhengfei氏の経歴だ。同氏は人民解放軍に所属したことがあるため、現在でも中国政府とつながっているのではないかと考えられている。Huaweiはこれを「根拠がない」と否定し、疑いベースではなく「正式な調査により明白な結論を」と主張してきた。


国も巻き込んだ中国側の反論

 今回の報告書は、そのようなHuaweiの申し出に端を発している。調査にあたったHPSCIは2011年11月に正式に調査に着手し、11カ月を費やした。結果はHuaweiにとっては悪夢のような内容となった。

 報告書では5つの勧告を行っているが、とりわけ機密情報を扱うものなど政府システムについては「HuaweiとZTEの機器や部品を排除すべき」と厳しい。通信事業者に対しては「HuaweiとZTE以外のベンダーの利用を強く奨励する」などの言葉が並んでいる。報告書では中国政府との関係、米国子会社の独立性などの懸念について「払拭できるだけの情報を開示しなかった」としている。

 Huawei、ZTEはこれを受け、ともに声明文を出した。Huaweiは「HPSCIの報告書は、われわれが提出した事実を無視している」「いわれのない罪を実証するためのうわさや憶測ばかりを並べ立てている」などと反論する。ZTEは「われわれの機器は米国の通信インフラにとって安全だ」と主張。「今回調査の対象となった理由はわれわれが中国の通信機器メーカーのトップ2だからというが、事実上、現在米国および全世界で販売されている通信インフラ機器はすべて、中国で製造されているか、中国で製造された部品を含む」と指摘している。

 中国商務省も自国企業の擁護に乗り出し、報告書を「事実無根」と非難している。商務省広報担当のShen Danyang氏はWall Street Journalに対し、「主観的な推定と虚偽の根拠に基づく」とし、「米国が正当で公正な市場環境を作るための具体的努力をすることを望む」と述べた。人民日報や新華社などの中国メディアもこの件を取り上げ、「有罪と仮定した上で」行動している、「冷戦のメンタリティだ」などと米国を非難している。


チャイナバッシング?

 専門家はどう見ているのだろう。ReutersにコメントしたRecon Analyticsのアナリストは、既に無言の制限を受けてきた上に、今回の報告書で、米政府が「製品を購入しないように」と公言したされたことは「Huaweiにとっては壊滅的」としている。

 中国の経済上の報復を懸念する向きもあり、Charter Equity Researchのアナリストは、中国市場で事業展開する米国企業への影響を予言。Google、Apple、Qualcomm、Ciscoなどハイテク企業だけでなく、広く拡大する可能性もあるとReutersに語っている。

 だが、中国の通信コンサルタントはReutersに対し、「中国の顧客は最先端の製品を欲しがっており、これらは時として米国、欧州、日本からしかやってこない」と述べ、これらを遮断するには至らないだろうとの予想を示した。中国でもエンタープライズでは、CiscoやHewlett-Packard(HP)は技術リーダーとして定評があり、中国企業がすぐにCiscoからHuaweiに乗り換えるようなことは起こらないという。

 結論として、報告書が契機となって中国政府が米国企業への関税を上げるなどは考えにくく、「中国政府は最終的に、政治的な応答と事業的メリットのバランスをとるだろう」と予想する。

 一方、そんな中で、米国のライバル企業の動きが明らかになって波紋を呼んでいる。過去にHuaweiを相手取って著作権と特許侵害訴訟を起こしたこともあるCiscoが、HPSCIの報告書の前に「Huaweiへの恐怖が世界中に広まっている」とするマーケティング資料「Huaweiと国家保安」を作成し、配布していたというものだ。

 この資料を入手したWashington Postは、Ciscoの営業戦略に近いという匿名の情報筋からの話として、資料は顧客をHuaweiから遠ざけることを目的に使われていたと伝えている。併せて、複数の米国企業がCiscoの資料と同じような文句でHuaweiを精査するようロビー活動を行っていたという話を米議院のスタッフ3人から聞き出した。

 Huaweiらを遮断しようとする米国に対し、隣国カナダはHuaweiと比較的良好な関係を築いているようだ。Wall Street Journalによると、Huaweiはカナダの2番手と3番手のキャリアに採用実績を持ち、成功例的な存在だという。先にはカナダ軍に音声・データ通信サービスを提供するTelusがHuaweiと契約を結んでいる。

 HPSCIの報告書を作成した著者の1人、Charles Albert "Dutch" Ruppersberger議員は同紙に対し、「われわれの調査に基づくと、カナダも同様にリスクにある」とコメント。カナダに同様の対応を望んでいることを示唆した。Washington Postは、米国が今後、カナダをはじめ西側諸国のHuaweiらの採用に口を挟む可能性があるとのアナリストの見解も紹介している。

 Washington Postは、Huaweiへの懸念が増していることは、中国経済の成長への恐怖と一致するとの見解を紹介する。ジョージワシントン大学でSchool of Business学部長を務めるDoug Guthrie氏は、このような風潮を80年代のジャパンバッシングに重ね合わせる。

 Guthrie氏は「米国は世界でナンバー1の経済大国であり、中国は単に安い労働力を供給するだけ、と長い間考えられてきた」とした上で、だが、それだけでなくイノベーションや投資の点でも力があるということがわかり、「恐れがうずまいているのだ」としている。


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(岡田陽子=Infostand)
2012/10/15 09:50