「OpenStack」ベースのクラウドサービス Rackspaceのパブリッククラウド


 Rackspaceは8月1日、OpenStackを利用したクラウドサービスの提供を開始した。オープンソースのIaaS構築ソフトウェアとして注目を集めるOpenStackによる初の大規模なパブリッククラウドの本稼働であり、Amazon Web Services(AWS)などに対抗してゆく。サーバーの世界ではオープンソースのLinuxが広く利用されているが、クラウドの世界でOpenStackは支持を集められるのだろうか――。

オープンソースでベンダーロックイン回避

 OpenStackは、2010年にホスティングサービスを主事業とするRackspaceがNASA(米航空宇宙局)と立ち上げ、その後、独立したオープンソースプロジェクトに移行させた。IBM、Dell、Red Hat、Hewlett-Packard(HP)、「Ubuntu」のCanonicalなど80社以上が支持しており、最新版は4月に公開された「Essex」だ。

 Rackspaceはこれまで、「Mosso」「SliceHost」などのクラウド技術を利用してきたが、今回、OpenStack Essexベースのサービスとして「Cloud Database」「Cloud Servers」を発表した。Cloud DatabaseはMySQL 5.1データベースサービス、Cloud Serversはサーバー仮想化サービスである。

 また、これらを管理するための管理ポータル「Cloud Panel」も提供。さらに、コンテンツ配信ネットワーク(CDN)機能を持つオブジェクトストレージの「Cloud Files」、.NETとPHP向けのPaaS「Cloud Sites」、負荷分散の「Cloud Load Balancers」などもクラウドポートフォリオにそろえる。

 IaaSはAWSの「Elastic Compute Cloud(EC2)」を筆頭に、Microsoft「Azure」、Googleの「Compute Platform」などが提供されている。これに対するRackspaceのクラウドの最大の特徴は、オープンソースであるゆえの互換性や移植性の高さだ。ファイルフォーマットやAPIが標準化されていることから、OpenStackベースのクラウド間でのマイグレーションが可能で、ベンダーロックインも回避できる。プライベート、パブリック、ハイブリッド、マルチベンダーのクラウドアプリケーションが実現し、Rackspaceのデータセンターでも、自社データセンターでも実装できるという。

 このほか、OpenStack以外の特徴として、APIのパフォーマンスの25倍改善や拡張性強化があり、Cloud Databaseの場合、競合するAmazonのクラウドと比較して200%高速という。


注目度は高いが実装少ないOpenStack

 Rackspaceの動きに対してReadWriteWebは「クラウドユーザーに移植性をもたらす重要な動きだ」と期待を寄せる。Rackspaceが企業のプライベートクラウド構築も促進している点も評価し、OpenStackとRackspaceをサーバー分野におけるLinuxとLinuxベンダーになぞらえる。

 しかし、Rackspaceの狙い通りにクラウド業界が発展するかとなると、疑問の声もある。ZDNetは「Rackspaceクラウドの成功は、業界が(OpenStackを)受け入れるかにかかっている」と述べ、「現在、OpenStackをベースとするクラウドはHPのPublic Cloudしかない」と指摘する。また、OpenStackのネットワーク制御コンポーネント「Quantum」の開発を率いていたNiciraが先ごろVMwareに買収されるなど、OpenStackの将来について懸念が浮上していることも付記する。「野心的なローンチだが、技術は実証されていない」というのがZDNetの結論だ。

 SearchCloudComputingも厳しい現状を報告している。この中で451 Researchのアナリストは、Citrix Systemsがプッシュする「CloudStack」の方が「明らかに完全で、成熟度が高く、洗練されている」と述べている。CitrixはCloudStackをApache Software Foundationに寄贈しており、オープンソースのIaaSとライバル関係にあると位置づけられている。SearchCloudComputingは、CloudStackの実装数が60~70に達しているのに対し、OpenStackは20程度にとどまっており、「OpenStackは大きな注目を集めているが、実際の市場をみるとシェアが低い」と結論づけている。

 Infoworldは、ユーザー企業としてRackspaceのCloud Filesの性能と未熟さを指摘するストレージサービスのNasuniの声を紹介している。「(ミッションクリティカル性の最も高い)ティア1ストレージサービスの提供に必要なレベルに達しているかとなると、疑問だ」とNasuniはコメント。AzureやAmazonに軍配を上げる。なお、Nasuniが行ったAmazon S3、Azureとの比較について、Rackspace側はハードウェア/ソフトウェアのアップグレード実装中に行われたもので伝送速度に一時的な制限を設けていたときにテストが行われた、と説明している。

 今後OpenStackベースのクラウドが増えるかどうかは、参加するRed Hat、Ubuntu、SUSE、IBMなどのベンダーにもかかっている。Rackspaceの幹部は、通信企業やオンラインソフトウェア企業などがGoogle、Amazon、MicrosoftなどのプロプライエタリなクラウドよりもOpenStackに関心を持っているとの予想をZDNetに語っている。


Amazonとはフォーカスが違う

 Rackspaceのビジネス戦略はどうなのだろう。ホスティングからクラウドに転身を図るRackspaceは、OpenStackベースのパブリッククラウドを提供することで、いよいよOpenStackに社運を懸けることなる。

 RackspaceのOpenStackベースのクラウドを詳細にレビューしたNetwork Computingは、複数のデータベースに対応していないこと、ブロックストレージやワークフローサービスを備えていない点など技術的な未熟さに加え、Amazon EC2と比較すると66%割高になると報告する。だが、OpenStackが広がることでベンダーの支持を集め、優位性につながるともみる。「(OpenStackベースのクラウド提供は)正しい動きだが、AWSに対抗するにはOpenStackとAPI互換を維持することが不可欠」と課題を指摘している。

 だが、Rackspaceは「Amazonと直接競合するつもりはない」という。GigaomのCEOのLanham Napier氏へのインタビューによると、Amazonは規模をビジネスとするのに対し、Rackspaceは技術(スピードと性能)とサポートサービスにフォーカスしているという。安心のために対価を払うのを厭わない顧客は大勢いる、とNapier氏はみている。

 今後、OpenStackとRackspaceがLinuxとLinuxベンダーの関係となって繁栄するには、いくつかの課題がある。OpenStackへの関心が高まり、参加企業が増えることで、1990年代のUNIXのように分裂して求心力を失うという懸念だ。これについては、参加企業は可能性を認識しており、分裂しないよう最大限の努力をしているとNapier氏はコメントしている。また、CloudProは標準ベースのアプローチでは差別化を図ることが難しくなる、と問題を提起する。

 RackspaceのOpenStackベース・クラウドが登場したことで、OpenStackは1歩前進となる。米国での提供に続き、8月中旬から欧州でも提供を開始する予定だ。


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(岡田陽子=Infostand)
2012/8/6 09:36