Twitter創業者たちの新サービス 「Medium」は共有プラットフォームになるか


 TwitterやBloggerの生みの親であるEvan Williams氏とBiz Stone氏が新サービス「Medium」を発表して話題となっている。ネットで情報を公開する“パブリッシュ”がますます簡単になる中、次に求められるのはパブリッシュされるコンテンツの品質であり、ここに新しいサービスの使命があるという。パブリッシュプラットフォームがひしめく中、MediumはTwitterのように広まるのだろうか――。

“パブリッシュ”を再構築

 Mediumは、Twitterを世に送り出し、昨年再始動したベンチャー企業Obviousが8月14日に発表したサービスだ。ユーザーは文章や写真などを投稿し、読者がこれを評価することで、質の高いコンテンツを実現するという。投稿した写真や文章はトピックごとの「Collection」に分類され、最も評価の高い投稿が各Collectionの上位に表示される。Twitterや他のソーシャルサービスとは違って、作成者のフォローには重きを置いてないことが分かる。

 Collectionはテーマやテンプレートに基づいて整理される。8月20日現在、旅行中の写真を集めた「Been There. Loved That」、文章力アップのコツを伝える「The Writer's Room」など4種類のCollectionが作成されている。

 Mediumはまだパブリックプレビュー段階だ。TwitterユーザーはTwitterアカウントを利用して閲覧や評価ができるが、投稿はObviousのスタッフなど一部に制限されている。Stone氏らは正式ローンチなど今後の予定については明らかにしていない。

 Williams氏はブログで、新しいパブリッシュプラットフォームを構築する狙いについて次のように説明している。「たくさんのサービスが登場し、情報の共有に対する障壁は格段に下がった。しかし、作成されるコンテンツの品質を上げるという点では、あまり進歩していない」。Williams氏によると、今日のメディアに「無意味で有害」なものも多いが、同時に「かつてないほどすばらしいものもたくさん出てきている。また、世界をつなげてくれるモバイル端末とネットワークに何ができるのか、まだまだ開拓されていない」という。

 作者、読者、そして世界のためには、メディアに改善の余地があり、「(1999年にBloggerを発表して以来)これまで13年間で経験したこと、そして今日の世界が必要としているものを基に、進化的な飛躍を遂げるためにパブリッシングを再構築する」と宣言している。


ブログ+写真共有+ソーシャル?

 だが、Mediumを一通りレビューしたメディアの多くは、斬新さや新しさがないと評価している。

 例えば、Gizmodoは「“PintumblReddit”のフランケンシュタインのよう」とし、興味があるものをピンする「Pinterst」、ブログとソーシャルブックマークとスクラップの「Tumblr」、ソーシャルブックマーク「Reddit」の組み合わせと例えた。CNNも「ミニマルなTumblrかWordPressテーマに似ている」とし、GigaOmは「高品質コンテンツをクラウドソースするというコンセプトは、(すでに)Pinterest、Digg、Redditの背景となっている」と新しさを否定する。

 GigaOmはまた、コンテンツ公開と共有を容易にするという点についてもTumblrは、かなり成功していると評価し、先にHuffington PostでCTOを務めたPaul Berry氏がローンチした「Rebel Mouse」も類似サービスとして挙げている。

 ただ、全体の論調としては期待の方が大きいようだ。背景には、BloggerそしてTwitterの成功というWilliams氏らの実績がある。写真やアイデアを共有するプラットフォームは多数あるが「血統が違う」とCIO Todayが持ち上げれば、GigaOmは、BloggerもTwitterも当初は、必要そうに見えない上、印象も薄く、セルフパブリッシュが、これほど普及するとは思えなかったと振り返る。「Twitterは現在の形になるのに相当の時間がかった」とした上で、Mediumも進化して、大化けするかもという期待感を残している。

 ユーザーはというと、もっと懐疑的だ。TechCrunchにコメントした著名なブロガーRobert Scoble氏(Rackspace勤務)は、「一見したところ、情報洪水の世界において印象は薄い。読者はこれ以上情報を必要としていない。必要なのはフィルタリングだ」と述べる。「ジャーナリストが自分のコンテンツを発表するにはすばらしいソースとなるが、効率やコミュニティの役割はどうなるのか? 一部のコアユーザーのみが利用するサービスで終わるのではないか」と悲観的な見方を示す。


量から質の時代へ

 インキュベーションを事業とするObviousは、「世界をよりよいものにするために人々が共同作業できるシステムの構築」を目標に掲げている。プロジェクトはMediumだけではなく、Mediumを発表した前日には「Branch」というサービスも発表している。

 BranchはTwitterユーザーがより深い議論や対話ができるサービスであり、「記事、ブログ、ツイートの間でインターネットはモノローグが占拠してる」とBranchのブログは説明している。BranchとMediumの両サービスをレビューしたGuardianは「いまや情報があふれており、2つのサービスはそんな中で生まれている特定のニーズを満たすために開発された」と分析する。

 Williams氏やEvans氏はブログ記事で、Mediumはプレビュー版であり、まだほんの一部しか実現していないとしている。例えばキーワードの1つである「モバイル」は現時点では特徴になっておらず、今後の進化を待たねばならない。また、多くのメディアが引き合いに出すTumblrなど他のサービスとの競合については、巨大なユーザーを抱えるTwitterアカウントとの連携することが1つのカギになりそうだ。

 モバイル、ソーシャル時代に向けてパブリッシュプラットフォームの再構築が必要とする両氏の主張は、もっともに見える。だが、そこでどんなサービスが勝ち残るのか、激しい競争が続くだろう。


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(岡田陽子=Infostand)
2012/8/20 09:18