2012年のクラウド 戦いはプラットフォームにシフトする


 クラウドはすっかり市民権を得た感があるが、2012年もモバイル、ソーシャルネットワークなどとともに、引き続き重要なトレンドに挙げられている。エンタープライズでは「ビッグデータ」の分析・活用も注目され、クラウドとの新しい動向と絡んでいく。メディアや調査会社が占う2012年の動向予測を概観してみよう。

キーワードはクラウド、ビッグデータ分析、フォーカスはPaaS

 ビッグデータは、SNSやセンサーから次々と生成される非構造化中心の大量データで、SNSの副産物ともいえる。調査会社のIDCは2012年の予測として、モバイルコンピューティング、クラウドサービス、ソーシャルネットワーク、ビッグデータ分析などを土台要素とする「第3のプラットフォーム」の台頭を挙げる。

 IDCによると、既に企業の多くが、これらの新技術への投資を開始しており、今年はシフトがさらに加速するという。具体的には、2020年までの間、IT支出の成長の80%をこれらの技術が占め、2012年に限ればIT支出は前年比6.9%増で、これら新技術が牽引すると予想する。

 クラウドでは、インフラ構築からプラットフォームの利用にフォーカスが移りそうだ。プラットフォーム上のアプリケーションの構築とエコシステムで、「PaaS」(Platform as a Service)と呼ばれるものである。PaaSについては、IDCのほか、Fortuneの「クラウドの5つのトレンド予測」でも挙がっている。インフラをサービスとして提供するIaaSよりも生産性と柔軟性が得られるため、開発者の利用が進むという。

 Gigaomも、2012年の注目ポイントのトップにPaaSの競合を挙げている。IDCも、Amazon Web Services(AWS)、Google、Herokuを買収したSalesforce.comなどが積極的にPaaSを推進しており、Microsoft、IBM、Oracleなどの既存ベンダーにはし烈な競争が待ち受けていると予想する。

 Gigaomは、これにRed Hatも加えて、AppFog、StandingCloud、EngineYard、DotCloudなどのクラウドベンチャー企業も含めた戦いを予想する。このほかForbesは、仮想化分野で、Microsoftの「Hyper-V」が成長し、現在独占しているVMwareのシェアを奪うとみている。

 Fortuneが取り上げたもう1つのトピックが、パブリッククラウドとプライベートクラウドの動向だ。プライベートクラウドは、パブリッククラウドと比べると、拡張性、管理軽減、コスト面などで劣るため、消えていくだろうとの見方もある。

 記事では、これを現実的でないと否定。企業は引き続きプライベートクラウドを利用し、パブリックとプライベートを組み合わせたハイブリッドを採用する傾向が続くだろうと予想する。


根強いセキュリティ懸念

 Gartnerは、SNSやモバイルなどコンシューマが牽引する「コンシューマリゼーション」と「クラウド」を2大トレンドとしてまとめた。クラウドについては、低価格なクラウドサービスが登場してアウトソース事業者の売り上げを最大15%侵食すると予言する。

 もう1つのトピックがセキュリティだ。Gartnerでは2016年にはGlobal 1000企業の半分が顧客データなどの重要なデータをパブリッククラウドで保存すると予想。同時にセキュリティ対策への評価も進むとみる。2011年はAnonymousなどのハッカーグループによる不正アクセスと顧客情報流出が何度も報じられた。企業がクラウドサービスを選択・利用する際に、さらにセキュリティを重視するようになるという。

 セキュリティについては、Forbesも同様の見方を示している。「セキュリティが原因でクラウドの成長はいまだ限定的」であると指摘した上で、クラウドサービス事業者もデータセンターと同様、規制遵守(コンプライアンス)を強化し、アクセス管理コントロールなどの懸念を払拭するためにモニタリングを改善し、ソリューション認定をしなければならないとする。Fortuneは言い方を変え、クラウドサービスの障害が発生して、サービス品質への関心が高まると予想した。

 また、ReadWriteWebのJoe Brockmeier氏はユニークな視点から2012年のクラウドを展望。2011年に脚光を浴びたOpenStackについての警鐘を鳴らしている。OpenStackは、米航空宇宙局(NASA)とRackspaceなどが立ち上げたオープンソースのクラウドインフラ構築技術イニシアティブで、急激にメンバーを増やし影響力を持ち始めている。

 Brockmeier氏は、OpenStackがAWSの「Elastic Compute Cloud(EC2)」APIのサポートをいずれ取りやめる方向を明かしたことについて懸念を表明。「業界になんのメリットも与えず、開発者にプラットフォームの選択を強いることになる。愚かな動きだ」と述べている。

 さていかがだろう。いずれもこれまでの流れから方向性として正しく見える。いずれにせよ、クラウドは今年もさらに浸透・進展してゆくことは間違いない。


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(岡田陽子=Infostand)
2012/1/10 10:15