webOSに未来はあるのか? 迷走の末のオープンソース化


 iOS、Androidに対抗しうる“第3のモバイルOS”と期待されたwebOSを、Hewlett-Packard(HP)がオープンソース化する。今年8月、PC事業の切り離しなど大幅な方針転換でいったん打ち切りの憂き目を見たwebOS事業だが、新CEO、Meg Whitman氏が再度、戦略を見直した。製造中止となったwebOSデバイスも復活させるという。だが、メディアは、この戦略の成功には懐疑的だ。

紆余曲折の末のオープンソース化

 12月9日の発表でWhitman氏は「webOSは、土台から最上部まで、モバイルで、クラウド接続に対応し、かつスケーラブルに設計された唯一のプラットフォーム」と述べ、オープンソース化して、webOSの開発とサポートを継続すると宣言した。HPで最初のwebOSデバイスとなったタブレット「TouchPad」の発売から半年、webOSをめぐる根本方針はくるくると変わってきた。

 webOSは、PDAで一世を風靡(ふうび)したPalmが開発したスマートフォン向けOSで、LinuxとWebKitをベースとしている。昨年、HPがPalmを12億ドルで買収して、資産と開発チームはHPの1部となった。複数のデバイスでアカウント情報などを一元管理できる「Palm Synergy」機能などが特徴だ。

 HPはwebOSを「クラウドソリューションの重要な要素」と位置づけ、スマートフォン、タブレットからPCまでに採用する計画を立てた。しかし、前CEOのLeo Apotheker氏が8月にPC部門の切り離しを決定した。伸び悩む業績から、エンタープライズ向けのソフトウェアとサービスにリソースを集中するという戦略転換だった。

 これを受け、HPはwebOSの売却を模索。相手として、Intel、Qualcomm、Amazonなどの名が挙がっていた。ところが、Apotheker氏の行った103億ドルでのAutonomy買収が、株主の反発を招いては同氏は更迭され、後を受けた元eBay CEOのMeg Whitman氏が“戦略見直しの見直し”を行い、オープンソース化を発表した。

 Vergeは、発表当日の記事で、Whitman氏と取締役会メンバーのMarc Andreessen氏に取材し、HPが引き続きwebOS開発チームを保持し、2013年にはwebOSのタブレットを復活させる考えであることを明らかにした。スマートフォンについては予定がないという。

 だが、HPの戦略に対して、メディアやブロガーは厳しい評価を与えている。


CNet「失敗する運命」

 CNetは「悪いけど、webOSは失敗する運命」と辛らつだ。「webOSに商業的価値がないことを示した」(アナリストのMaribel Lopez氏)とのコメントを紹介。売却でなくオープンソース化を選んだことは、プラットフォームに対するニーズがなかったと公言しているようなものであり、オープンソース化は、OSが勝手にテイクオフするというHPの賭けだと決めつけた。

 モバイル分野に詳しいブロガーでForbesに寄稿したEwan Spence氏は「実際のところ、HPはwebOSを殺してしまった」と評する。企業による強力なサポート、密接に協力するハードウェアパートナー、実績のあるアプリケーションストアなくして、webOSは生き残ることはできないというのだ。

 Spence氏はオープンソース化を、南極探検スコット隊隊員のローレンス・オーツ大尉になぞらえる。オーツ大尉は自己犠牲の象徴として知られる。凍傷にかかり、仲間の足手まといになるまいと吹雪の中に消えていった。「もう誰もその姿を見ることはないだろう」というわけだ。

 肝心のオープンソース業界はどうだろう。LinuxInsiderは、「webOSはパフォーマンスではAndroidより優れている。また、大きな知名度がある」(ブロガーのRobert Pogson氏)や、「HPは機会を作ってくれた」(SlashdotブロガーのChris Travers氏)などの好意的・楽観的な見方を紹介しながら、多くのブロガーたちが成功のチャンスは小さいと考えている、と伝えている。


成功の条件

 InfoWorldはその成功の条件を探った。Fatal Exceptionブログは、まずHPが発表の中で今後、webOS開発にどうコミットするのか、また、どのライセンスを採用するかを明らかにしていないことを指摘した上で、webOSを成功させるためには、「ブランドのフィックス」「ApacheやBSDなど制約の緩いライセンス採用」「スマートフォンやタブレットだけでなく広範囲のデバイスも考慮し続けること」を勧める。

 すなわち、開発者を集めるには、まず消費者にアピールしなければならないが、PDAのパイオニアである「Palm」の名にはまだその力がある。ApacheやBSDは商用化しやすいライセンスで、開発者の人気も高い。そして、webOSをコンシューマー・エレクトロニクスの“ユニバーサル・インターフェイス”とするのがよい戦略になるというのだ。

 問題はまだまだ多い。channelinsiderは「HPの戦略がうまくいかない10の理由」を列挙。ほかにも次のような問題を挙げている。
・同じオープンソースではるかに先を行くGoogleのAndroidにどうやって追いつくのか?
・多くのモバイルハードベンダーがHPの競合社である
・コンシューマーはもうwebOSを負け組とみている
・12億ドルで買収したものをタダで開放することに株主は喜ばない

 いずれにしても、この半年間のwebOSの迷走が、成功をさらに遠くしてしまったのは間違いない。New York TimesのテクノロジーコラムニストDavid Pogue氏は、2011年の業界で特筆すべきは、“愚かなトップたちの行動”であると総括。その筆頭として、Leo Apotheker前CEOを挙げている。

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(行宮翔太=Infostand)
2011/12/26 10:00