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勃興する中国のメタバース 技術覇権と国家安全保障

 メタバースが昨年から新たなブームを迎えている。“もうひとつの世界”が、テクノロジー界、産業界、そして投資家たちの熱い視線を浴びているのは「新しいデジタル・エコロジー」を生むという期待からだ。一方、国家は、メタバースを異なる観点からみている。安全保障や自国の政治・社会に与える影響を重視してのことだ。ブームが過熱する中国では、発展促進と統制という課題を両立させるべく動いている。

メタバースの熱狂

 昨年10月、中国の通信関連企業を束ねる業界団体CMCA(中国移動通信連合会)傘下に、メタバース産業委員会が発足した。メタバースについての研究強化、技術革新と統合、メタバースによる他産業の発展促進、コンセプトの普及などに取り組むという。Global Times(環球時報)は「業界の健全で持続的な発展を目指す上での重要な一歩」と伝えている。

 Facebookが昨年、社名を「Meta」に変更し、1年間で100億ドル超を投資すると発表したことは、メタバースの隆盛を象徴する出来事だった。Bloombergによると、その市場規模は、2024年には8000億ドル、2030年には約2.5兆ドルに達するという。PwCも2030年に1.5兆ドル規模になると予想する。

 テクノロジー分野で米国を追い抜くことを目指す中国の企業も動きを活発化させている。検索最大手のBaiduは年末の27日、独自のメタバース・プラットフォーム「Xirang(希壌)」を披露した。

 Xirangは、「中国初のメタバース・プラットフォーム」として、オープンソースで提供され、現時点で同時に10万人が参加可能という。デモでは仮想空間を移動したり、他のユーザーと会話する様などを見せた。

 他にも大手、新興企業が入り乱れてメタバースのビジネス化を目指している。超大手“BAT”の他の2社、AlibabaとTencentは関係投資や「Metaverse」を含むブランド名の商標登録を申請するなど準備を進めている。

 また新興企業も、TikTokのByteDance、TikTok風動画共有アプリのKuaishou(快手)、電気自動車メーカーのLi Auto(理想汽車)などがそれぞれメタバースビジネスを狙っているという。

 関連技術を持つ企業の買収も活発で、関連株も高騰した。こうした熱狂は、昨年夏ごろに始まり、「元宇宙(メタバース)」は2021年のベスト流行語にランクインした。

 South China Morning Postによると、こうした状況を受けて11月、People's Daily(人民日報)は市場に「理性を保つ」よう警告。国営Economic Daily(経済日報)も、メタバースのような「未熟な」コンセプトに資金投入を急ぐべきではないと解説した。