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勃興する中国のメタバース 技術覇権と国家安全保障

「新たなデジタル世界秩序」のリーダー目指す

 他国の専門家は中国の状況をどうみているのだろう。

 イタリア外務省で大臣官房参事官を務めるFabio Vanorio氏は、民間シンクタンクのイタリア戦略研究所から発行した「メタバースと国家安全保障」というレポートで、中国をこう評している。

 「中国政府が国家安全保障を守ることを目的に、新たな技術的覇権争いでの成功を加速させ、優先させていることは、今後数年間の『新たなデジタル世界秩序』を構築する上で、自らがリーダーになろうとする意思を示すものだ」

 Vanorio氏はレポートの中で、国家機関がメタバースを現実の世界の諜報活動に利用する例も紹介している。そうした試みは、既に長期間にわたって行われてきたという。

 有名なのは、2013年にThe Guardian紙などが報じた米NSA(国家安全保障局)と英GCHQ(政府通信本部)のオンラインゲーム空間での情報収集活動だ。「World of Warcraft」や「Second Life」などを、テロリストの監視や特定に利用する試みで、Edward Snowden氏が公表した極秘文書で明らかになった。

 だが、中国CICIRのレポートでは、このような側面には触れていない。「中国は、メタバースがもたらしうる国家安全保障上のリスクを取り上げる際に、テロリズムや敵対的なヒューミント(人間を通じた諜報活動)やシギント(通信などの傍受を利用した諜報活動)の運用については言及していない」(Vanorio氏)

 中国政府当局者がメタバースを利用した諜報活動に脅威を感じてないのか、言うまでもないことと考えているのかは分からない。