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勃興する中国のメタバース 技術覇権と国家安全保障

国家安全保障への影響

 中国がメタバースをどのように位置づけているかを知るのに興味深い資料がある。

 メタバース産業委員会の発足前後の昨年10月、北京のシンクタンクCICIR(中国現代国際関係研究院)が「メタバースと国家安全保障」というレポートを公表した。CICIRは国家安全部の傘下にある最古・最大のシンクタンクだ。

 レポートは、メタバース製品は現時点では従来と大きく異なるものではなく、革命的な製品やアプリケーションはまだ生まれていないと説明。「しかし、技術コストが下がり、ユーザーが増えれば、5~10年後には爆発的に普及する可能性がある」と予想している。

 実際、Xirangを発表したBaiduも「本格的な販売までに、あと6年かかる」(Ma Jie副社長)と述べており、すぐにその力を発揮できる状況ではないようだ。

 レポートの主題である国家安全保障については、メタバースが、「技術覇権」「技術の安全性」「技術革新」という3つの点で影響すると分析している。

 「技術覇権」は、メタバース関連技術開発で後れを取ると、メタユニバースへのアクセスに不利となり、高いコストや、他国への依存度の増大を招く危険性があるとする。

 「安全性」は、多くの情報技術が統合されるメタバースは多面的になりやすく、サイバー攻撃、セキュリティ欠陥、データ漏えい・窃盗などのセキュリティ問題が起こる可能性が高いとしている。

 「技術革新」は、まず政治面で、政治的思考や社会文化に浸透して影響することを挙げる(同様の懸念から中国ではSNSを強力に規制している)。経済面では産業構造の変化。社会面では雇用や社会構造の変化や、若者の成長への悪影響などの懸念があるとする。

 こうしてレポートでは、「政府が開発と安全性のバランスを取り、技術的なルールや道徳的・倫理的な基準を事前に準備する必要がある」と結論づけている。