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NTT Com、データ利活用マーケティングの支援事業を本格展開 広島県で観光マーケティングの実証実験を開始

 NTTコミュニケーションズ株式会社(以下、NTT Com)は4日、株式会社NTTドコモ(以下、ドコモ)が保有するデータや自社の知見を生かし、マーケティング5.0時代におけるデータ利活用マーケティングを支援する事業を、本格展開することを発表した。

 同日に行われた説明会では、マーケティング5.0の世界を実現する新たなマーケティングソリューションについて説明するとともに、同事業の実際の事例として広島県での観光マーケティング支援の取り組みについて紹介した。

 近年、スマートフォンを中心としたデジタルツールの利用が当たり前となり、ユーザーごとの購買や移動に関する履歴など、大量のデータを収集できる環境が整ってきている。一方で、多様化・細分化する顧客嗜好(しこう)に対応するため、データやAIを活用したマーケティングへのニーズが高まる中で、データ利活用のノウハウを持った人材不足などが課題となっている。今回、NTT Comでは、データの収集・分析、施策立案・実行、改善まで一気通貫で提供することで、顧客のデータ利活用ノウハウの有無にかかわらず、より効果的なマーケティング活動の実現を支援していく。

 NTT Com ビジネスソリューション本部 事業推進部 マーケティングインテグレーション推進室 室長の徳田泰幸氏は、本格展開するデータ利活用マーケティング支援事業について、「B2BおよびB2Cセールス・マーケティング領域でのCXの向上など、同領域でのドコモグループの実績と最新テクノロジーを活用することで、顧客の業態や課題に合わせて幅広いマーケティング活動を支援する。これに向けて、マーケティングインテグレーション推進室では、『マーケティング戦略策定支援』『顧客データ基盤構築』『顧客/市場の分析』『顧客接点の高度化』の4つのソリューションを提供し、データとテクノロジー、人間の経験が共存する、マーケティング5.0時代における顧客体験の最大化を図っていく」と説明した。

NTTコミュニケーションズ ビジネスソリューション本部 事業推進部 マーケティングインテグレーション推進室 室長の徳田泰幸氏

 具体的には、「顧客データ基盤構築」(データ蓄積)では、顧客が保有するデータの収集・蓄積とドコモが保有する約1億規模の会員データとの連携を行う。「顧客/市場の分析」(データ分析)では、顧客が保有するデータとドコモの会員データを掛け合わせ、AIを活用した分析を実施する。

 「顧客接点の高度化」(データ利活用)では、顧客へのレコメンドなどの広告・プロモーション、コンタクトセンターでの応対の高度化、データに基づく営業戦略の策定や人材育成など、顧客のニーズに合わせて支援する。そして、「マーケティング戦略の策定支援」では、データに基づくマーケティングを実施するための目的設定から定着化までを支援する。

データ利活用マーケティング支援事業のイメージ

 徳田氏は、マーケティング5.0時代に向けた顧客へのソリューション提供イメージも紹介。「『マーケティング戦略の策定支援』としては、ユーザー価値最大化の視点からUXデザインを提供し、施策プランニング(KGI/KPI設定等)につなげていく。『マーケティング基盤の構築~実行支援』としては、実際に日本ラグビー協会の導入事例で、各サービスサイトのIDを統合することで、蓄積されたデータをもとに分析/可視化するデータ基盤を整備。新規会員や現状のファンの動向を分析し、キャンペーンをそれぞれのファン層にフィットさせて実行した。『データ分析』としては、自社の持つ顧客データとサードパーティデータを掛け合わせ、さらなる顧客理解の深化を支援する。『顧客接点の高度化』については、顧客属性をとらえ、群衆と個人に最適な広告出し分けをリアルタイムに行う手法を実現する。また、ファーストパーティデータとサードパーティデータ、リアルタイムデータの活用により、顧客を理解した自動応対を行うことで、顧客接点における価値提供を増幅させることが可能になる」とした。

NTTコミュニケーションズが目指すマーケティング5.0の世界

 また同日、今回のデータ利活用マーケティング支援事業に関わる実際の事例として、NTT Comと一般社団法人広島県観光連盟(以下、HIT)、学校法人早稲田大学、株式会社インテージ、株式会社電通総研が、データを活用した観光マーケティングの実証実験を今年3月から広島県で実施し、先行してインバウンド観光客の動態把握を行ったことを発表した。この取り組みについて、NTT Comの徳田氏、早稲田大学 商学学術院教授 博士(商学)の恩藏直人氏、HITチーフプロデューサーの山邊昌太郎氏によるパネルディスカッションが行われた。

写真左から:NTTコミュニケーションズ ビジネスソリューション本部 事業推進部 マーケティングインテグレーション推進室 室長の徳田泰幸氏、広島県観光連盟 チーフプロデューサーの山邊昌太郎氏、早稲田大学 商学学術院教授 博士(商学)の恩藏直人氏

 HITの山邊氏は、広島県で観光マーケティングの実証実験を実施した背景について、「広島県は世界的にも知られる観光地だが、宿泊者数については全国で14~15位にとどまっている。HITでは、この状況を打破するため、これまでオープンデータなどを活用し、観光客の増加に向けた誘客施策を検討してきた。しかし、データの量や質が十分ではないことから、国内・インバウンドを含めた観光客の属性、流入経路、周遊ルートなどの実態把握が難しく、効果的な施策の実現および効果検証ができていなかった」と語る。

広島県観光連盟 チーフプロデューサーの山邊昌太郎氏

 早稲田大学の恩藏氏は、国内のデータドリブンマーケティングの状況について、「世界に比べてかなり遅れていると感じている。例えば、『世界デジタル競争力ランキング』を見ても、日本の順位は30位前後であり、データ利活用の分野で後れをとっているのは間違いない」と指摘する。「日本は今まで、マーケティングにデータを活用しなくても、うまくやってこられたという背景がある。一方で、世界ではデータドリブンマーケティングが急速に進展し、日本と大きなギャップが生まれてしまったと感じている」との考えを述べた。

早稲田大学 商学学術院教授 博士(商学)の恩藏直人氏

 今回の広島県での実証実験では、観光客の動態の把握・分析を行い、実際の誘客施策を実施しながら効果検証を行うことで、広島県の観光課題解決の実現に取り組む。具体的には、既存のオープンデータに加え、NTT Comが提供するモバイル空間統計やドコモが保有する1億規模の会員基盤データ(ドコモデータ)、および電通総研が提供するソーシャルアナリティクスツール「QUID」を活用したSNS分析のデータ組み合わせ、観光客の動態やSNS上での評価などを可視化。これをもとに立案した施策を実行するとともに、施策実施後のデータ分析を行うことでより効果的・効率的な施策の展開につなげていく。

 3月から先行して実施したインバウンド観光客の動態把握では、データの収集と可視化によって、これまでのオープンデータだけでは把握できなかった来訪者の宿泊・日帰り客数などのデータ、およびSNS分析による広島県の観光地の評価を可視化することで、国別・月別での詳細の動態が明らかとなった。その結果、誘客と消費促進に向けた施策立案への、データ利活用の有効性を確認できたため、6月からは国内観光客を対象とした取り組みに展開するという。

 インバウンド観光客向けと同様に動態の把握を行うことに加え、来訪者の属性に応じた情報発信など、実際の施策を実行する。施策実行後のデータを収集して効果検証を行い、施策の改善を継続することで、より精度の高い誘客と消費促進の実現を目指す。