Infostand海外ITトピックス

Qualcomm買収劇が突然の大統領令で終幕 メディアが支持する理由

措置自体は正しいが

 メディアはどう評価したか? この決定について、New York Timesは「Trumpは正しい」と社説で支持した。中国への懸念が大きな理由であることの「詳細な根拠を提供していない」としながらも、半導体業界のプレーヤーが少なくなって力が集中することを避けるためには、買収阻止は正しい判断だったとする。

 取引が成立していればBroadcomは世界3位の半導体メーカーとなる。Intel、Samsung、Broadcomの3社で36%以上のシェアを占め、「通信向けで寡占状態がさらに進む」ことが懸念されるという。力の集中が、価格、イノベーションなどに与える影響を考えれば、たとえBroadcomが米国企業だったとしても、阻止すべきだったとした。

 Wired.comは「中国への恐怖が、同国の関与していない取引まで遮断した」と述べる。その上で、狙いの中核は、Qualcommが外国企業にコントロールされることよりも、Broadcomの下でQualcommのイノベーションが損なわれることを防ぐことだったのだろうと分析した。Broadcomのビジネスモデルは、企業買収で効率よく技術を取得し、不要なものは切り売りして収益を上げるというものだ。

 アナリストのBen Thompson氏はブログで、Tan氏の狙いをQualcommで最も収益性の高いビジネスである特許ライセンスであるとし、買収後は研究予算をそぎ落として特許ライセンス事業にフォーカスするだろうと予想する。実際、Broadcomの研究開発投資はTan氏の下で削減され、19%になっているとWired.comは指摘する。これに対するQualcommの研究開発投資の割合は25%だ。

 PC Magも、買収阻止の最大の原因はBroadcomのビジネスモデルだろうとする。「BroadcomとQualcommの取引は成立すべきではなかった」としながら、「“中国が怖い”というだけでなく、もう少し広い視野の保護主義の視点を持てたのではないか」と理由に疑問を投げかける。

 5GではQualcommとHuaweiのほかに、Ericsson(スウェーデン)、Nokia(フィンランド)、Samsung(韓国)、それに米国のIntelも大きな役割を果たしているのに、「わが国の政府は中国だけが怖いようだ」と冷やかす。そして、こうした動きは「米国の消費者の選択肢を減らす」とも付け加えた。

 今後の見通しは、どうだろう?

 Fortuneは、「Broadcomは今後も業界再編のメリットを享受できるだろう」とのアナリストの予想を紹介。今後も規模が小さな企業の買収を続けるとみる。同社は米国への本社移転は予定通り進める計画で、実現すれば、今後の買収にCFIUSの関与する余地はなくなる。

 Qualcommには引き続き、過去の買収で独禁法当局から命じられた罰金の支払いや、Appleとの訴訟合戦などの問題が重くのしかかっている。そんな中で先週末、創業者の息子で前会長のPaul Jacobs氏が、同社の買収を検討していると報じられた。企業文化を守るため非公開企業に移行することを考えているという。だが、そのための巨額な資金をどう調達するかは、明確にされていない。