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Qualcomm買収劇が突然の大統領令で終幕 メディアが支持する理由

 4カ月以上にわたって半導体業界・通信業界を騒がせてきた大型買収劇が幕を閉じた。BroadcomによるQualcommの買収オファー額は1170億ドル。実現すればビジネス史上最大規模になったはずだったが、大統領令という異例の横やりでピリオドを打った。理由は国家安全保障上の懸念だ。米メディアは買収の不成立を歓迎しながらも、スッキリしない部分を感じているようだ。

買収は国家安全保障へのリスク

 シンガポールに本社を置く通信向け半導体大手のBroadcomは2017年秋から、同業のQualcommの敵対的買収に動いた。狙いは、Qualcommが保有する携帯電話向け技術の取得だ。中でも2019年にも前倒しで商用サービスが始まる5Gの関連技術が欲しかったのだとみられている。

 5Gは、携帯電話・スマートフォンだけでなく、IoTでも重要な役割が期待されている。国防向けの通信技術開発でスタートしたQualcommは3G、4Gでも特許を多く保有しており、特許ライセンス料が売り上げに占める割合は大きい。またBroadcomは同時に、Qualcommが買収計画を進めている車載半導体企業NXP Semiconductorsも手中に収めることができるはずだった。

 しかし、3月12日、Trump氏が大統領令によって買収禁止を命じた。Trump氏の大統領令は、「メキシコ国境の壁建設」「オバマケア撤廃」「TPP離脱」など乱発されているが、ついにハイテク業界も直撃した形だ。

 買収をめぐっては、外国企業による米企業や事業への投資の影響を評価する対米外国投資委員会(CFIUS)が「買収は米国の安全保障上のリスクになると信じられる」との報告をしている。大統領令の一週間のことで、これを受けた決定だった。

 報告書は、Qualcommの技術、通信技術標準でのリーダーシップなどを挙げながら、同社が「米国の通信インフラ事業者に、安全保障の点で大きな信頼を与えている」と評価。買収によって、その技術優位性が損なわれ、通信技術標準における影響力が失われれば、「5G標準設定プロセスにおいて中国が影響力を拡大する可能性が高くなる」と指摘した。

 Bloombergはこの直前、BroadcomがQualcommの11人取締役のうち6席を確保できるという見通しを報じていた。買収は秒読み段階だったわけだ。