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AppDynamicsを37億ドルで買収 Ciscoがソフト&サービス戦略加速

売却かIPOか並行協議

 AppDynamicsのIPOは、2017年のハイテク企業のトップを飾る大型案件だった。

 Ciscoによる買収発表の前、Forbesは、Reutersの記事を引用しながら次のように伝えていた。「2016年にIPOした技術企業はわずか20社で、(リーマンショック直後の)2009年以降で最も少なかった。だが、ユニコーン企業(評価額10億ドル以上の非公開企業)は200社程度あると言われており、投資家は2017年が前年よりも強気の市場になると期待している」

 AppDynamicsの評価額は前回の投資ラウンドである2015年11月には19億ドルとされていたが、今回のIPO計画では、1株の予想株価は12~14ドル。13ドル程度だった場合の評価額は約16億ドルとなり、1年前から下がる格好となる。

 Ciscoによる買収は、そんな流れの中で発表されたもので、市場を驚かせた。TechCrunchによると、取引の条件が固まったのは発表わずか3日前の21日で、「48時間で書類上の作業を完成させた」という。

 San Francisco Chronicleは、AppDynamicsがIPOと売却の2つの道を同時に探る「並行協議」プロセスを進めてきたのだろうと推測する。「投資家が高値をつけるかもしれない公開売り出しの可能性があれば、売却先との話し合いを有利に進めることができる」。CiscoでM&Aとベンチャー投資を担当するRob Salvagno氏も「買収の意思決定をしなければならないという点で、(AppDynamicsの)IPOのタイミングは影響があった」と認めている。

 Bloombergのデータでは、2016年にIPOを撤回した米国企業の27%が、6カ月以内に部分的もしくは全社的に買収されたという。両方の道を追求していた企業の中には、買収話がうまくいかず、しかたなくIPOしたケースもあるという。

 例に挙げられるのがPayPalだ。PayPalはeBayとの買収話が決裂したあと2002年にIPOした。結局、同年eBayに買収されるが、その時の買収金額(15億ドル)は前の買収時の提示価格を上回ったという。

 Bloombergのサンフランシスコ担当記者は「AppDynamicsを巡る動きは激しく、IPOがホットになることを予感させていた。SaaSという魅力的な分野であり、アプリの動きがわかるという重要な機能を提供する」と解説する。またIPOではなく売却を選ぶAppDynamicsのメリットとして、「IPOすると投資家は長期的に売却するしかないが、売却ならば既存の投資家は確定したリターンを得られる」と分析している。

 なお、Forbesは買収発表の前に、AppDynamicsがIPOしても「すぐに買うべきではない」と投資家にアドバイスしていた。2014年に行った同社の創業者Jyoti Bansal氏(現会長)のインタビューを振り返りながら、「投資家はオペレーションや新しい製品が顧客を引きつけ、より高い金額で課金して収益を出すことができるか、時間をかけて見極めなければならない」というのがその理由だ。