ニュース

Coltテクノロジーサービス、複雑化するエンタープライズネットワークへの対応を強化

 Coltテクノロジーサービス(以下、Colt)は9日、企業戦略説明会を開催した。Coltは英国に本社を置くグローバルなネットワークサービスプロバイダーで、外資系企業ではあるものの日本国内にすべてのファンクションがあり、意思決定ができるという。

グローバルの市場動向とColtの戦略

Coltテクノロジーサービス COOのバディ・ベイヤー氏

 説明会ではまず、COOのバディ・ベイヤー氏が、グローバルにおける通信市場について解説した。市場は常にダイナミックかつ高速に変化しているが、主要な市場として3つを例に挙げた。

①量子セキュリティ
 サーバーに対する攻撃が増加しており、セキュリティは常に大きな懸念事項だ。特に、量子セキュリティ市場は、2030年までに年平均成長率50%で成長すると見ている。

 また、ベイヤー氏は、強力な量子コンピュータの出現により現在のRSA公開鍵暗号システムが破られる日「Q-Day」について触れ、かつての「Y2K」問題と同様に大きな懸念だと認識されていることから、さまざまな事業者が確実なセキュリティのために大規模な投資を行っているとした。

②XaaS
 現在、さまざまなものがサービス化、クラウド化している。このため、ネットワーク側も柔軟に帯域幅を変えられるNaaS(Network as a Service)の要望が高まっており、2034年までに年平均成長率23.3%で成長すると見ている。Coltは既に、ポータルから簡単に帯域幅を変えられるNaaSを提供している。

③エッジコンピューティング
 世界で、非常に大規模なAI向けデータセンターが作られている。ただし、レイテンシーやセキュリティの問題があるため、エッジで処理したいものもある。このため、今後エッジコンピューティングが増加すると考えられ、これをネットワークでつなぐ必要がある。この分野が、2033年までに年平均成長率33.0%で成長すると見ている。

 これらの市場について、以下の3つの領域に注力するのがColtの戦略だ。

  • インフラ:ファイバーの敷設
  • ネットワーク:接続性の確保
  • サービス:セキュリティを含むマネージドサービスの提供

 日本においては、東京・大阪に加えて、西日本にもファイバーを拡大している。また、耐量子安全性については、既にさまざまなトライアルを実施している。そのうちのひとつが東芝との実証実験で、量子鍵配送のトライアルや光学エンジニアリングに関する協力を行っている。

国内における注力エリア

Coltテクノロジーサービス アジア太平洋地域社長の水谷安孝氏

 続いて、国内における事業戦略について、アジア太平洋地域社長の水谷安孝氏が説明した。

 Coltは、2024年から25年にかけて、

  • 東南アジア6か国へビジネスを拡張
  • 自社ネットワークをシドニー都市部に拡大
  • 日本国内にて福岡・北九州、広島、岡山へサービスエリアを拡張
  • 大西洋横断海底ケーブルで米国のインフラを拡張

 といった取り組みを行っている。海外企業が日本に進出する際に、本社側と同一のサポートが提供されるネットワークが欲しいという理由で採用されるケースが多いColtだが、「日本企業が海外に進出する際のお手伝いもできる」(水谷氏)というのが強みでもある。

 日本国内における注力エリアとしては、以下の3つを挙げた。

①ハイパースケーラー

  • データセンター間接続
  • 陸揚げ局向け接続(バックホール)
  • 長距離ネットワーク

②エンタープライズ

  • クラウド/AI向けネットワーク
  • 拠点間接続ネットワーク
  • 海外拠点向けネットワーク

③キャピタルマーケット

  • 金融取引向けソリューション
  • 低遅延ネットワーク
  • マーケットデータフィード

 ハイパースケーラー向けは当然右肩上がりだが、エンタープライズ分野は複雑性が増しているのが課題だという。

エンタープライズネットワークの複雑化

複雑化するエンタープライズ・ネットワークと帯域増加

 企業のネットワーク構成はかなり複雑化している。従来は、上図の左側のように、データセンターとオフィスや、データセンター間をつなぐというニーズがメインだった。インターネット接続については、クラウドサービスとの接続と、社内から外へつなぐ通常のインターネット接続を、それぞれ契約するケースが多かった。

 それが最近は、右の図のように変化している。まず、データセンター間の回線は100ギガという単位が当たり前になってきた。また、複数のクラウドサービスを利用するマルチクラウドの環境になり、通常のインターネット接続も、リモートワークで社内にいる時と同様のセキュリティを確保したネットワークが必要になっている。さらに、WAN側も一括管理できるようにSD-WANを導入したり、柔軟な帯域制御が可能なNaaS、海外拠点との接続などの動きが出てきた。それぞれの帯域幅増加も著しい。

 特に海外拠点に関しては、これまでは各国個別のネットワークを契約していたが、今はネットワークセキュリティの観点から、本社で一括管理しなければならないという考え方に変わってきた。海外にはそれぞれ国内大手ネットワーク事業者があるが、各国でそのような事業者と契約すると、極端な場合は何十ものネットワーク事業者と契約することがある。それを統合管理するのは、かなり大変だ。

 Coltでは、例えば日本企業がグローバル展開する場合は、各国に現地の事情に詳しい専門スタッフを置いて、日本にいながら日本語でワンストップ対応できる点を差別化ポイントとしている。

 これを広げるために、NTT東日本、NTT西日本と協業し、両社が提供する「Interconnected WAN」を、Coltサービスのアクセス回線として活用することを10月1日に発表している。Coltは大都市圏でサービスを提供しているが、日本全土に提供エリアを広げ、東日本、西日本各地の拠点へのリーチが可能になる。

 これにより、NTT東西の回線をColtが再販する形で、海外企業がColtのネットワークを使って、地方の工場や販売拠点などへ直接ネットワークをつなげることができるようになる。もちろん、地方の企業が海外展開する時に、Coltのネットワークサービスを利用しやすくなるという面もある。

 2026年1月より日本全国へのサービス提供を開始するが、初年度で100件以上の利用が見込まれている。

最近の導入事例

 さらに水谷氏は、国内の採用事例として、株式会社テレビ朝日と株式会社ジェイ・スポーツ(J SPORTS)の事例を紹介した。どちらも、Coltが現在力を入れている映像関連企業の事例だ。

①テレビ朝日
 テレビ朝日は、Colt NaaS(On Demand)の導入により、遅延の少ない映像伝送と高いコストパフォーマンスを同時に実現した。

 離れた場所にいる出演者同士の掛け合いを収録する際、映像伝送の遅延により会話のテンポ感が欠けてしまうという課題があった。しかし、月に一回の収録のために常に広帯域を契約すると、コストパフォーマンスが悪い。そこで、収録がない期間は回線を切断してコスト削減できる、NaaSを採用した。

 今後は、日本国内だけでなく、海外でのスポーツイベントの中継などにも拡大の意向だという。

②J SPORTS
 スポーツ専門チャンネルのJ SPORTSはオンデマンドサービスにおいて、Colt Dedicated Cloud Accessを導入し、ネットワークのシンプル化と大幅なコスト削減を実現した。

 同社では、放送・配信事業用に複数の放送設備を所有しており、撮影データの伝送や編集のために使用するネットワーク構成が年々複雑化していた。これは、余剰コストが発生するだけでなく、トラブル時に障害箇所の特定に時間がかかるなどのリスクもある。そこで、放送設備の集約と直接AWSに接続する構成に変更することを検討していた。

Colt DCA for AWSを大容量の冗長構成で導入し、低遅延かつ安定して配信できるネットワーク環境を構築した。これにより、運用コストも約半減できたという。

 グローバルに展開するColtでは、こうしたサービスを各国で提供できる。またColtでは、株式売買などのマーケットデータをネットワークとセットにして提供するサービスにも力を入れている。通常のエンタープライズネットワークとは大きく異なる要件があり、他社にはないサービスだとしている。