クラウド特捜部

Windows Azureを大きな柱にするMicrosoft

国内データセンター開設やIaaSの正式サービス開始などの意味は?

 先日、Microsoft米国本社のスティーブ・バルマーCEOが来日し、クラウドサービスのWindows Azureのデータセンターを、日本国内に開設すると発表した。また、4月には、昨年からプレビューサービスとして提供していたWindows AzureのIaaSサービス(Windows Azure 仮想マシン)を正式にスタートさせている。

 そこで今回は、日本国内でWindows Azureを担当している日本マクロソフト サーバープラットフォームビジネス本部 クラウド&アプリケーションプラットフォーム製品部、エグゼクティブプロダクトマネージャーの鈴木祐巳氏にお話を伺った。

日本のデータセンター開設のスケジュールは?

――先日、スティーブ・バルマーCEOがWindows Azureのデータセンターを日本国内に設置すると発表されましたが、スケジュールや詳細などは決まったでしょうか?

 現状では、詳細を外部にアナウンスすることはありません。先日のアナウンスで公表した、Windows Azureのデータセンターを首都圏と関西圏に設置することになったという以外には、現状でコメントできる具体的なことはありません。

 ただ、今回日本国内に設置するWindows Azureデータセンターは、現在全世界で展開しているWindows Azureの日本国内におけるデータセンターとなるため、Windows Azureで展開しているサービスをすべて提供します。

 そのため、Windows Azureで新しいサービスが提供された場合は、順次、日本のデータセンターでも提供されるようになるでしょう。

――先日の発表では、首都圏と関西圏の2カ所にデータセンターを設置するとされましたが、日本国内に2カ所のデータセンターを設置するというのは、何か意味があるのでしょうか?

 Windows Azureは、各リージョンにおいて、データセンターを地理的に離れた2カ所に開設することで、ディザスタリカバリ(DR)の機能を持たせています。先日発表した豪州のデータセンター、すでに提供されている北米のデータセンターなどでも、同じようなクラウドのデザインを行っています。そのため、日本国内でも2カ所のデータセンター開設となりました。

 確かに、データのDRだけを考えれば、東京と香港、シンガポールといったバックアップの組み方もあるでしょうが、Windows Azureでは同一リージョン内でバップアップできるように、ということを基本に考えています。

 また、今までWindows Azureを採用されていなかったお客さまには、データを日本国内に置くことが重要と考えている方々も多いため、バックアップということでも、日本国内にあることが重要なんだと思います。

――価格に関してはいかがでしょうか?

 現状では、価格に関しては一切お話はできません。ただ、Windows Azureは、ワールドワイドでComputeやStorageに関しては、料金は同じです(注:トラフィック料金はリージョンによって異なる)。ここから考えれば、おのずと分かっていただけると思います。

日本国内のデータセンター設置以外に、豪州、中国でのデータセンター設置が発表されている
Windows Azureは、さまざまなサービス、世界規模のデータセンターが用意されたワールドワイドのクラウドプラットフォームといえる

日本国内にデータがあることを重要視する企業が関心

――国内にデータセンターを設置すると発表して、どういった業種や企業からお問い合わせが来ていますか?

 やはり、データを日本国内にとどめることが重要と考えられている、金融業界や地方自治体などの公共分野からのお問い合わせが多くありますね。こういったことからも、多くのお客さまが国内のデータセンターを待ち望んでおられたんだと感じています。

――日本では、富士通がAzureアプライアンスでサービスを展開していますが、Microsoftが日本国内でデータセンターを設置した場合、どうなっていきますか?

 これも、先日の記者発表と同じく、詳細はまだ発表できる段階ではありません。ただ、富士通のサービスを現在使用されているお客さまには、より詳細なロードマップなどに関して、秘密保持契約ベース(NDA)で富士通から説明しています。

 われわれとしては、富士通とお客さまの関係などを考えて、すべての関係者がWin-Winの関係になれるようにしていきたいと考えています。そして、富士通は依然として当社の有力なパートナーです。

IaaSの提供によりWindows Azureは変わった

――先日、Windows AzureのIaaSが正式にスタートしましたが、ユーザーの反応としてはいかがですか?

 IaaSがスタートしたといっても、プレビューサービスとして昨年から提供していたので、何か大きく変わったというのはありません。ただ正式スタートになり、SLAがキチンと提供されることで、今後多くのお客さまが、実際のビジネスで利用していただけるようになると感じています。

 面白いのは、Windows AzureのIaaSに最初に飛びついたのは、Linuxを使われているユーザーなんです。現在、Windows AzureではUbuntu、CentOS、SUSEなどが正式にサポートされています。理由に関しては、コストの関係や、テストしてみたかったなどいろいろなことがあるのでしょう。

 またWindows AzureのIaaSを利用されるお客さまとしては、例えばWindows ServerとSharePoint Serverの組み合わせで使う、といった方もいます。Office 365でSharePointもサービスされていますが、カスタマイズ性ということでは万全ではありません。そこで、IaaS上でSharePointを動かすことで、独自のカスタマイズを施したり、自社開発のモジュールを追加して利用したりされています。

 他社のIaaSでも、もちろん同じようなことはできますが、当社の製品・サービス同士であれば、(固有のカスタマイズ部分を除けば)すべて当社が責任範囲になりますから、サポートに関しては、ほかのIaaSよりも有利になると考えていただいています。

Windows AzureのIaaSでは、仮想マシンと仮想ネットワークを提供している
IaaSでは、Windows Serverだけでなく各種のLinux OSもサポートされている。もちろん、Microsoftのサーバーアプリケーションもサポートされている
仮想マシンのOSイメージも簡単に選択可能。Windows以外に、CentOSなどのLinuxも選択できる
アプリとしてもCMSやeコマースなどさまざまなものが用意されている。WordPressも簡単にインストールできる

IaaS単体では大きな違いを出しにくい

 実際に、IaaSに関しては、Windows Azureもほかのクラウドサービスと大きく異なる部分はないと思っています。メディアの方々は、いろいろなクラウドサービスをリスト化して、機能の○×表を作られますが、IaaSにおいてはほとんどのクラウドサービスで機能が異なることはありません。

 個人的には、IaaSは、クラウドサービスにおける白物家電と考えています。必要とする機能は、すべてのクラウドサービスがサポートしていて、大きな違いはない状態です。

 違いがあるとすれば、価格や国内にデータセンターがあるかどうかといったことになります。COMPUTEのメモリの大きさ、CPUの性能などに細かな違いはあるでしょうが、ハイパーバイザー上に別のOSを動かすため、ユーザーにとってはWindows Azureでも、ほかのクラウドサービスでも、Windows Server 2012を動かすということでは違いはないと思います。だからこそ、IaaSという面ではほかのクラウドサービスと差別化がつけにくいのです。

 ただ、Windows AzureでIaaSを提供することは、PaaSやSaaS(Office 365、Windows Intune)などと有機的な連携ができるプラットフォームになると思います。Windows Azureで提供しているPaaSやSaaSは、Web APIを公開しているため、ほかのクラウドサービスと連携して利用することはできます。

 Windows AzureのIaaSだからOffice 365と特別な連携ができるわけではないですが、ユーザーにとっては、IaaSやPaaS、SaaSを含めて、Windows Azureというクラウドサービスを一括して利用できることで、コストメリットや管理面でのメリットなどを受けることができると思います。

 IaaSはあるクラウドサービス、PaaSは別のクラウドサービスとサービスごとに異なるクラウドサービスを利用していると、管理面やコスト面などからもクラウドのメリットは生かせないでしょう。

Windows AzureがIaaSをサポートすることにより、プライベートクラウドやオンプレミスサーバーをハイブリッド環境に進化させる
IaaSのサポートにより新しい利用シナリオが生まれてきている
AzureでIaaSがサポートされることで、PaaSとIaaSがハイブリッドされた利用シナリオが考えられる
使用しているアカウントの状況。グラフ化されているため、一目で状況が把握できる
Windows Azureの管理ポータル画面。使用しているVMの状況などが一覧で表示されている。もちろん、日本語以外の言語でも表示可能

IaaS機能を安価に提供する

 なお、コストの話に戻りますが、Windows Azureは戦略的にコストを決めているので、ユーザーにとっては十分に安いと思います。米国では、Amazon Web Services(AWS)が価格を引き下げれば、Windows Azureも価格引き下げると表明していますしね。

 また日本の事情ですが、Windows Azureは、日本国内では日本円で請求を行っているため、現状の為替レートを考えると非常に安いと思います。当社ではまだ、1ドル82円ぐらいの換算レートになっているため、ドル建てで請求されるほかのクラウドサービスに比べると非常に安いと考えています。

 価格に関しては、為替の変動、新サービスの追加などいろいろな要素がありますが、明日から1ドル100円のレートで計算しますということにはならないはずです。

 今までも価格を変更する場合は、新しい機能を追加した時などでしたし、基本的に価格を引き下げる方向の改定が多く、為替の変動により単純に価格を変えたことはあまりありません。1ドルが200円や300円といった途方もないレートになった時は変わる可能性もあるでしょうが、そういった時でも、事前通告という制度を決めているので、実際に価格が変わるのは発表後の90日後になります(価格引き上げ時)。この間に月額プランで契約していただければ、旧料金での契約になるために非常にお得といえます。

 このほかにWindows Azureは、コミットメントプランがあり、これを利用していただければ、6カ月や12カ月間のクラウドのコストをフィックスさせることができます。確かに、サービスを利用しただけコスト支払うというのがクラウドの基本ですが、あまりにもコストが見通せないというのも、企業にとっては問題になるでしょう。Windows Azureは、企業が利用しやすいような支払い方法を採用しています。

 これ以外にも、エンタープライズ アグリーメント(EA)などでWindows OSやOfficeなどのマイクロソフト製品を利用されている企業においては、通常よりもコストメリットのある価格でWindows Azureが利用できるようになっています。

最新のトピックは?

――北米で開催されたTechED 2013で、いくつか新しい発表があったようですが?

 Windows Azure関連では、仮想マシン(インスタンス)をシャットダウンすれば課金をしないように変更されました。今までは、インスタンスの停止状態で課金されていましたが、今回の変更により、お客さまが利用していない夜間にインスタンスを停止して課金されないようにすることができます。

 もう一つは、Windows Azureの課金が、時間単位から分単位に変更されました。ビッグデータやHPCなどでWindows Azureの多数のインスタンスを利用する場合、分単位課金になったことで、利用しやすくなったと思います。

 これ以外には、Windows Azure BizTalkサービスのプレビュー提供、Windows Azure WebサイトでSSLが利用可能になったり、Windows Azure Active Directoryの同期、管理機能が改良されたりしています。

 このほか、Windows ServerやSystem Centerを利用したプライベートクラウドやデータセンターでWindows Azureと同じような操作環境を実現する、Windows Azure Packを無償で提供すると発表しています。

 今回のTechED2013は、Windows Server 2012 R2、System Center 2012 R2、SQL Server 2014の発表などエンタープライズ関連においてはたくさんの発表が行われました。

Windows Azureの過去10カ月の新機能

 なお、鈴木氏は、Windows Azureの日本国内のデータセンターを設置するスケジュールに関しては、明らかにしなかったが、2013年の11月に発売が予定されているゲーム機のXbox ONEではクラウドを積極的に利用する。

 Xbox ONEでは、ゲームソフトのオンライン認証にクラウドを利用するため、日本でXBOX ONEをリリースする時には、ネットワークレイテンシーを考えれば日本国内にデータセンターが必要になるだろうと筆者は考えている。そのため、日本でXbox ONEが発売されるタイミングには、Windows Azureのデータセンターは設置されるのではないか。一般のサービス提供は、もう少し後になるかもしれないが。

山本 雅史