実現力で企業をサポートするNECのクラウド


 日本電気株式会社(NEC)では、単なるIaaSレイヤの提供だけでなく、NEC独自のパッケージソフトをSaaSとして提供したり、顧客企業のプライベートクラウドの構築を支援したりするなど、クラウドの各レイヤに対してサービス、ソリューションを提供している。今回はその中から、IT基盤領域のサービスである「RIACUBE」「RIACUBE-V」を紹介し、さらにNECのクラウドサービスの特徴についても触れてみる。

信頼性の高いプライベートクラウドサービス「RIACUBE」を提供

共通IT基盤サービス「RIACUBE」
RIACUBE-Vのサービスメニュー

 NECでは、IaaSレイヤとして、プライベートクラウドのサービスによる実現を主にしたものと、パブリッククラウド専用のサービスの2つの種類を提供している。前者は「RIACUBE」の名称でNECが提供し、後者は「BIGLOBEクラウドホスティング」としてNECビッグローブ(BIGLOBE)が提供している。今回は前者に焦点を当てて紹介する。

 RIACUBEは企業向けホスティングサービスをベースに顧客企業のリクエストに応じたシステム設計を行い、ハードウェアの保守・運用に関しては、NECのデータセンターで行うというものだ。基幹業務システムが主な用途で、大手から中堅企業が利用の中心となるクラウドサービスといえる。

 ハードウェアとしては、NECのx86サーバー「Express 5800シリーズ」を主にNECのデータセンターに設置し、環境を構築している。基幹業務をサポートするために、システム構成は非常にフレキシブルにできている。

 サポートされるOSとしては、Windows、Linux(Red Hat Enterprise Linux)、HP-UX、Solarisなどがある。もちろん、物理マシンで動かすのか、仮想サーバーで動かすのかなども選択できる。このため、一般的なIaaSのクラウドサービスだけなく、仮想化環境で動作しない顧客企業のシステムを、RIACUBE上に移行することも可能だ。

 クラウドサービスとしてのサービスレベルの保持は、顧客企業のITシステムを預かるNECとしては非常に重要なポイントだ。RIACUBEでは、顧客が求めるサービスレベルに応じて、3段階の冗長度と2段階の運用保守レベルを用意している。

 例えば、ベーシック構成(バックアップサーバーはシングル)では99%、スタンダード構成(バックアップサーバーは共用予備機)では99.9%、アドバンスド構成(バックアップサーバーは二重化構成)では99.95%の稼働率を目標とするメニューが用意されている。

 運用保守レベルとしては、レベル1はハードウェアの運用保守のみだが、レベル2ではハーウェア、OS、ミドルウェアなどの運用保守もカバーしている。

 このようにサービスレベルを見るだけで、NECのクラウドサービスは、Amazon Web Servicesなどの一般的なクラウドサービスよりも、より企業のデータセンター業務のアウトソーシングに近いサービスといえる。その分、クラウドサービスといえっても、利用企業は、非常に高いレベルでのサポートを受けることが可能だ。

 また、仮想環境でハードウェア構成等の選択肢を絞り、よりシンプルなメニューで早期の導入、短期間での契約等を実現する「RIACUBE-V」というメニューもある。

 これは、顧客のさまざまなニーズや導入実績、さらには、最新の技術動向を踏まえ用意された仮想サーバーのリソース6種類に、OS、ストレージ、ファイアウォールを組み合わせたサービスで、「RIACUBE」と同様にリソースの増減や、ネットワーク、バックアップ、運用等のオプションを選択することが可能で、NEC側でシステム構築をサポートすることを前提とした基盤として位置づけている。

 Amazonなどに近い一般的なクラウドサービスは、NECの関連企業となるISPサービスを行っているBIGLOBEがカバーしている。以前に紹介した、富士通とニフティとの関係に近い印象を持った。


NECのクラウドは、顧客企業の多様なニーズを満足するために、SaaS、共同センター、個別対応といった3つのサービスモデルを用意しているNECのクラウドが提供しているサービスメニュー

 

顧客企業のITシステム全体をカバー

 NECのクラウドサービスの特徴は、単なる“仮想サーバー貸し”ではなく、顧客企業のITシステム全体をとらえていることだ。

 仮想サーバーを格安で貸し出すということではなく、アプリケーションレイヤを含め、顧客企業にITシステムを提供するという一貫したクラウドサービスを提供している。このため、NECが今まで開発して、販売してきたさまざまなアプリケーションが提供されている。

 例えば、公共・医療分野では、自治体基幹業務サービス(GPRIME for SaaS)、地域医療連携サービス「ID-LINK」、小規模病院向け電子カルテサービス「MegaOakSR for SaaS」 などがある。金融サービスとしては、業務集中・BPOサービス、信用保証業務基幹サービス、統合インターネットバンキングサービスなどがある。さらに大学図書館向けサービスの「Active Campus for SaaS」、住宅業向けクラウドサービス「JHOP」、ホテル総合クラウドサービス、ERPサービスの「EXPLANNER for SaaS」など、数多くのアプリケーションがクラウドサービスとして提供されている。

 また、NEC独自のものとしては、新領域サービスが存在する。例えば、RFID活用のための基盤サービス「BitGate」、デジタルサイネージサービスの「PanelDirector」、モバイル向けのセキュリティコード機能搭載のQRコード生成サービスの「Qkeys」など、ほかのクラウドベンダーとは異なるテクノロジーを提供している。これらのテクノロジーは、NECが今までさまざまな事業で開発してきたテクノロジーをクラウドに集約したものといえる。

 NECは、Amazonなどのクラウド専従の事業者とは異なり、クラウドさえも顧客企業が使用する部品と考え、顧客企業にとって低コストで、一歩先を行くサービスを提供しようとしている。

 

自社で使ってみることでクラウドのメリット・デメリットが分かった

 今回は、NECでクラウドサービスを担当されているサービスビジネス推進本部のエキスパートの髙野成彦氏(以下髙野氏)、サービスプラットフォームシステム開発本部のグループマネージャーの上野 勝之氏(以下上野氏)に話を伺った。

――NECのクラウドビジネスは、どういったことから始まったのでしょうか?

髙野氏:もともと当社では、さまざまな業種や企業において、ITシステムの設計や開発といった一貫したソリューションを提供してきました。このような流れで、データセンタービジネスも行っていたんです。

 クラウドは、データセンターのハウジングサービスのように、顧客システムをアウトソーシングする形態のようにも見えますが、根本的に大きな違いがあります。クラウドの最大の特徴としては、顧客企業がシステムを購入、構築するのではなく、あらかじめ標準化されたサービスを利用するということです。このため、NECのデータセンターでサーバーを提供するだけでは、顧客企業にとってメリットのあるクラウドとはいえません。

 やはり、ハードウェアをクラウド化するだけでなく、アプリケーション自体を提供していかないと、顧客企業の開発コストは増えるばかりです。だからこそ、NECが今まで提供してきたさまざまなアプリケーションをSaaSとして提供しているのです。


企業におけるクラウド利用のメリットクラウドを利用するメリットは、持たざるITシステムの利用が行えることだNECが考えるクラウドの種類。NECでは、PaaSやSaaSのバックボーンとしてIaaSを提供している

 もう一つ大きいのは、クラウドを顧客企業に提供する前に、NECの社内でクラウドを採用してみたんです。やはり、お客さまに提供していくためには、自分たち自身がクラウドのメリット、デメリットを十分に把握しておく必要があります。その上でこそ、お客さまにクラウドというサービスを、適切にコンサルティングでき、システムの設計もできるのです。
 NEC本社やグループ企業が個別に持っていたITシステムを統合・整理することで、運用にかかるコストを大幅に減らすことができました。さらに、各事業部やグループ企業が独自に開発していたシステムを標準化することで、NECグループ全体でシステムの統合が進みました。

 これにより、同じようなシステムが、個々の事業部やグループ企業で多数存在するという状況が大きく改善されました。また、このような標準化が行われることで、システム相互でのインターオペラビリティを高めることが可能になりました。


クラウド導入前は、個々の事業部やグループ企業が個々にシステムを開発して、利用していた。このため、無駄な部分が数多くあったクラウドを導入する時に、業務プロセスをグローバルに標準化して、整理統合することで、間接部門の費用を2割以上削減し、マネージメントサイクルの短期化を狙う。もちろん、ITシステムも標準化することで、TCOを2割以上削減NEC社内でのクラウドサービスは、利用部門にとって持たざるITを実現した

 

――NECのクラウドとしての特徴はどういった部分にありますか?

上野氏:NECでは、多くのお客さまのシステムを開発してきた経緯があります。こういった経験をもとに、一般的にはクラウド化が難しいと思われている基幹業務や業種に特化した業務まで、クラウドサービスとして提供できるところが特徴です。

 お客さまのシステムを熟知しているからこそ、クラウドの時代にどのようなアプリケーションやシステムが必要になるのかきちんと把握できるのです。

 もちろん、クラウドになることで、コストの低減が期待できますが、基幹業務を安心して任せられるようなIT基盤や運用サービスを提供できることもポイントになります。

 またNECのアプリケーションをクラウドサービス化するだけでなく、お客さまとの協業を通じてそのアプリケーション資産をクラウド基盤に載せることにより、業界全体で活用できるような、いわゆる業界クラウドにも取り組んでいるのも特徴です。さらに複数の業界を横断するような新しい事業創出のクラウド(業際クラウド)にもチャレンジしています。

 もう一つ大きいのは、RFIDやセンサーなどの接点技術、スマートフォンなどの新しい端末技術などと融合させながら、リアルな世界とクラウドのバーチャルな世界を連携させた新しい領域のクラウドサービスを一括して提供できることです。

 NECでは、今までさまざまなシステムを開発してきた経験から、クラウドを単なるリソース貸しではなく、顧客企業がさまざまな業務や新しい領域で利用できるサービスにまで完成されたものを提供しています。こういった部分が、ほかのクラウドとは違う部分でしょう。


NECのクラウドを利用した眼鏡専門店チェーンの三城のシステムNEC独自のクラウドソリューションを利用したのが、劇団四季によるセキュリティ機能付きQRコードを使った、インターネットチケット予約システムRFIDなどの新しいテクノロジーをクラウドと統合。このような新しい使い方は、NECならではといえる

 

――NECでは、このようにクラウドの実践によって効果を出しているようですが、クラウドによって、ほかの企業でもITはハッピーになりますか?

上野氏:顧客企業にとっては、クラウドはITシステムのコスト低減、最適化の大きな切り札になると思います。従来バラバラな状態にあった業務システムをクラウドを活用して結果的に集約できれば、ハードウェアやソフトウェア投資、運用コストなど削減できますし、事業拡大していく際にも個別システムをいちいち構築せずに柔軟かつ早期に業務システム環境が手に入ります。

日本企業のIT投資の7割から8割が、既存システムの維持運用に使われているのは良く聞く話ですが、その部分を圧縮し、本来取り組むべき新規投資のためのコストを捻出(ねんしゅつ)し、IT部門としても、より戦略的なIT活用に専念できるようになることが魅力といえるでしょう。

また新規投資の部分についても、クラウドを利用すれば、初期投資に膨大なコストをかけずに、スモールスタートし、事業が大きくなれば、規模に合わせてシステム増強することが可能になります。

 先に述べましたようにNECではこの新規投資の部分にも貢献できる新領域のクラウドサービスや業界のクラウドにも積極的に取り組んでいきます。


NECでは、クラウドをOMCS(Open Mission Critical System)というSI技術での実績を生かしながら、クラウド指向サービスプラットフォームソリューションとして、コンサルティングからアプリケーションサービス、プラットフォームサービス、プラットフォーム製品、クラウド指向データセンターまでトータルサポートしているクラウドにおいては、海外展開も重要。NECでは、中国、北米、ヨーロッパなどに、合弁企業やパートナー企業と連携しながら高いクオリティのクラウド指向データセンター設置を進めている
中堅・中小企業向けのSaaSソリューション。ほとんどすべての業務に渡って、SaaSが用意されている
今後のクラウドサービスの発展
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