「クラウドはNECのストライクゾーン」、NECが社長交代と中期経営計画を発表

遠藤常務が社長昇格、2012年に1000億円の純利益目指す

次期社長に就任する取締役 執行役員常務の遠藤信博氏(左)と、現社長の矢野薫氏(右)

 日本電気株式会社は2月25日、2012年度に売上高4兆円、当期純利益1000億円を目指す中期経営計画「V2012」を発表。同時に、取締役 執行役員常務の遠藤信博氏が代表取締役 執行役員社長に就任する人事を発表した。就任は4月1日付けで、現社長の矢野薫氏は、代表取締役会長に就任する。

 同日行われた経営説明会の冒頭で、矢野社長は「V2012」について、「C&Cクラウドを中核に置き、サービスとグローバル展開を図るとともに、自動車電池などの新規事業を立ち上げ、2012年には売上高4兆円、営業利益2000億円、ROE(株主資本利益率)10%の経営目標を達成するもの」と説明。その上で、「この中期計画では実行が肝要であり、それを確実にするために、現場と会社の経営陣の距離を短くし、一体となって全社一元で達成を目指す必要がある。そのため、経営陣の若返り、一新を図ることにした。遠藤氏は経営計画担当の常務であるし、無線通信装置のパソリンクを世界シェアナンバーワンに押し上げた実績があり、この計画の柱であるグローバル化、サービス化を推進するのに最適な人物だ」と、社長交代の目的を話した。

 「V2012」の「V」は、V字回復、Victoryを踏まえたとのことで、企業理念に基づいて、NECグループが10年後に実現したい社会像・企業像をまとめた「NECグループビジョン2017」を達成するための、重要なマイルストーンに位置付けられている。同ビジョンでは、2017年度のイメージとして、当期利益2000億円、ROE約15%、海外比率約50%といった目標を掲げているが、その前段階の「V2012」では2009年度600億円(予想)の営業利益を2000億円に、また同1.6%の営業利益率を5.0%に改善することも目指している。

「グループビジョン2017」と「V2012」「V2012」の概要セグメント別の目標値
顧客指向のさらなる推進によって差異化を目指すという
IT・ネットワーク統合事業の拡大を図る

 そして、これを実現するために必要な点としては、「当社のコアであるITおよびネットワークの融合を軸とした、顧客指向のソリューション」(遠藤次期社長)を挙げる。そのために、ITはIT、ネットワークはネットワークといった縦割りで展開してきたビジネス形態を大きく変更し、ビジネスユニットを超えた活動でビジネスの拡大にチャレンジするという。

 具体的には、エンタープライズ、テレコム、社会インフラやプラットフォームといった各分野における市場・地域の顧客特性を把握し、それに応じたアプローチでのソリューション展開を計画する。さらに、指紋認証や画像認識、端末(PC・携帯電話)などの関連技術を生かすほか、アウトソーシング、次世代ワイヤレスブロードバンドとも商談を連携させる考えで、こうした活動によって、顧客が求めるソリューションを構成。「ITとネットワークを持つNECならではの特徴が、他社との大きな差異化につながる。これらの複合製品をソリューションとして提供し、現在持っているビジネス領域を超えた市場を開拓し、中核となるC&Cクラウドの事業で4600億円の売り上げを目指す」(遠藤次期社長)とする。

 また、こうした動きを活発化させるため、NECでは、クラウドプラットフォーム基盤を開発してきた、ITプラットフォームビジネスユニット(BU)と企業ネットワーク事業本部を「プラットフォームBU」に統合。さらに、キャリアネットワークBUとの共同作業によって、より使いやすいプラットフォームの開発も行うという。

グローバル展開を強化

 一方、グローバル市場の開拓も積極的に手掛け、2009年度では19%(予想)の海外比率を、2012年には25%まで拡大する計画。NECでは、EMEA、中華圏、APAC、北米、中南米のそれぞれに統括会社を置き、それらをコンピテンスセンターとして動かすことにより、「各地域で開発されたソリューションを面的に展開し、市場を広げる」(遠藤次期社長)狙い。さらに日本のNECが、サービスとプロダクトの共通的なプラットフォームをこれら5極に提供して、トータルの開発効率化と、他地域への展開による市場拡大を行うとした。

 遠藤次期社長によれば、特にフォーカスする地域はアジアと新興国とのこと。また、これらの地域に対するソリューションの例として、1000億円規模の中期売上高目標を掲げているパブリックセーフティ事業を挙げ、「指紋認証をはじめとするバイオメトリクスでは、30カ国以上、200以上の導入がある。この技術をさらに強化し、市場を拡大したい。ボリビアの大統領選挙のためのシステム全般なども手掛けたが、さらにこのような要求は高まってくるだろう」と述べている。

リチウム電池を軸とした本格事業展開の計画
「V2012」を説明する遠藤信博次期社長

 このほか、グループの保有アセットを結集した新規事業への挑戦も行う。ここでは「エネルギー」「環境」「ユビキタス」といったキーワードを取り上げているが、エネルギー分野では、日産とのジョイントベンチャーを立ち上げているリチウム電池事業に期待。「今後はこの事業をベースに、生産能力の向上とともに品質を上げ、電池そのものの差異化を図る。スマートメーター、ホームマネジメント、電気自動車向けの急速充電器などにも広げるほか、最終的にはスマートグリッドのエリアにも入っていきたい」(遠藤次期社長)とした。同分野では、2012年度には1000億円、最終的にはスマートグリッドにも範囲を拡大して、2017年度には3000億円の売り上げを目標にする。

 また新規事業では、ユビキタスデバイス領域も期待されており、カシオ日立モバイルコミュニケーションズとの統合による携帯電話端末の展開、またサービス連携について、それぞれ1000億円の上積みを見込んでいるという。前者では、「海外のベライゾンというルートができるので、それをしっかり使って新しいビジネス展開をしたい」としたほか、後者については「Amazon.comの(電子ブックリーダー)Kindleのような業務別の端末が、加入者へのサービスの差異化として重要になってくる。当社のノウハウを入れ込んで業種特有のニーズに応えたい」と述べ、それぞれ方向性を示した。

 さらに、既存事業を含めた各事業を、クラウドを核として再整備する中で、各事業の位置付けを随時見直していく方針。必要なアセットはパートナリングやM&Aで取り込んでいく一方、必要度が低いものについては外部へ出していくことも辞さないとした。あわせて、人材面で、オフショア開発・SIなど海外リソースの有効活用、サービスリソースへの人材のシフトなども行い、収益力の強化も図るとしている。

 なお、矢野社長は過去の経営を振り返り、「当社はC&Cの会社ということでITとネットワークに注力してきたが、成長戦略として半導体や携帯電話に期待した部分は否めない。それについては期待通りにはいかなかったので、再編を進めているところだ」と総括。今後については、「投資が、ITとネットワークの融合という当社のストライクゾーンに全部集中するのが今回の大きな違いで、従来とは大きく戦略的に違っている。クラウド時代になって、C&Cが現実になってきた。当社にとってのストライクゾーンにボールを投げれば売り上げと収益が付いてくる」と述べ、見通しが明るいことを強調していた。


(石井 一志)

2010/2/26 00:00