ビジネス向きのクラウドサービスを展開するBIGLOBE


 NECビッグローブ(BIGLOBE)といえば、日本有数のインターネット・プロバイダーだが、2011年1月から、クラウドサービスを本格的に展開している。今回は、BIGLOBEクラウドホスティングを中心に、BIGLOBEがクラウドサービスに取り組んでいる現状などを取材した。

 

ビジネス向けでも実績を持つBIGLOBE

BIGLOBEのクラウドサービスの特徴としては、国内有数のISP事業者としてのインフラとセキュリティの高さだ
BIGLOBEのクラウドサービスは、IaaSのクラウドホスティングとPaaSのWebホスティングに分かれている

 コンシューマ向けのサービスで有名なBIGLOBEが、ビジネス向けのクラウドサービス「BIGLOBEクラウドホスティング」を展開しているということに、少し違和感を抱く読者もいるだろう。

 実はBIGLOBEでは、コンシューマのサービスだけでなく、企業向けのインターネット接続サービスだけでなく、数多くのビジネス向けサービスを展開している。例えば、インターネットVPN、中小企業向けのホームページサービス、ハウジングサービス、BIGLOBEのインフラを活用したメールアウトソージングサービス、ストリーミングサービス、モバイルサイトの構築システムのモバ造などだ。

 また2005年からは、今でいうPaaSのサービスにあたるWebホスティングサービス「BIGLOBE Webホスティング」を提供。それと同じような位置付けで、IaaSにあたる「BIGLOBE クラウドホスティング」をこの1月から提供開始した。

 BIGLOBE Webホスティングでは、ハードウェアからOS、ミドルウェアにいたるレイヤまでをBIGLOBEで保守運用しているため、ユーザー企業は、ミドルウェア上に構築するアプリケーションやコンテンツ作成に集中できる。さらに、サーバーの運用支援サービスにより24時間/365日体制で、サーバーの監視運用、作業代行など、ユーザー企業にとっては細かな作業をすべてBIGLOBE側で行ってくれる。

 プランとしては、Web/アプリケーションサーバーとデータベースサーバーの2つのカテゴリーのサーバーが用意されている(仮想サーバーで提供)。

 Web/アプリケーションサーバーは、CentOSもしくはRed Hat Enterprise Linux上にApacheやSendmail、NECが開発したクラウドベースのミドルウェアのいWebOTXなどが登載されている。一方、データベースサーバーは、MySQLとOracleが用意されている。このようなサーバー環境が用意されているため、IT関連企業だけでなく、一般の企業からもクラウドベースのサーバーシステムとして利用されている。

 

ベースモデルを利用したわかりやすい設定のIaaS「BIGLOBE クラウドホスティング」

BIGLOBEのクラウドホスティングは、サーバー選択・構築、オプション機能の選択で構成されている
サーバーOSとしては、CentOS、Red Hat Enterprise Linux、Windows Server 2008 R2が用意されている。サーバーは、ベースモデルが1つ。必要に応じて、仮想CPUやメモリなどをオプションで追加する

 一方、IaaSのBIGLOBE クラウドホスティングでは、仮想ハードウェアとOSまでをカバーし、ミドルウェアに関しては、ユーザー側が構築することになる。その分、コスト面で有利になるほか、Webホスティングサービスではカバーしきれない機能を、構築することができる。

 BIGLOBE クラウドホスティングで特徴的なのは、他社のクラウドサービスのように、複数のモデル(仮想CPUの数、性能、仮想メモリや仮想ディスクの容量)が用意されていないことだろう。

 ベースモデルとして、仮想CPU(2GHz相当)×1、1GBの仮想メモリ(Linuxの場合。Windowsでは2GB)、40GBの仮想ディスク、といった環境が用意され、もし、この仕様で性能や容量が足りなければ、オプションで追加していく方式を採用している。

 これなら、最初にどのモデルを選択するかで、悩む必要もない。開発や運用を始めて、性能不足が分かれば、ダイナミックにリソースを追加していけばいい。仮想CPUに関しては、最大4仮想CPU、仮想メモリは最大24GB、仮想ディスクに関しては最大7TBまで用意されている。

 OSは、CentOSとRed Hat Enterprise Linux(RHEL)、Windows Server 2008 R2が利用可能。価格面では、CentOSとRHELが月額9450円(RHELはサブスクリプション費用が別途必要)、WindowsはStandard Editionが月額1万2600円、Enterprise Editionが月額1万4700円で、このほか従量課金も用意されている。

 オプションとしては、ロードバランサー、ファイアウォール、WAF(Webアプリケーション層への攻撃を防ぐファイアウォール)、IDS(不正アクセスやDoS攻撃を検知)、運用監視(ポート、CPU監視など)が選択できる。

 ネットワークに関しては、1サーバーあたり100Mbpsを上限とするベストエフォートのネットワークが提供されている。さらに、海外のクラウドサービスがデータ転送量を課金しているが、BIGLOBEでは月間の転送量が100GBを超えない限りベーシックモデルの月額料金にデータ転送料は含まれている。また、100GB以上になったとしても、1GBあたりの超過料金を支払うことで利用可能だ。

 また有償サービスとして(申し込み後、調整・見積もりを経てサービスを提供)、ソフトウェア型のVPNサービス、IPsecによるVPNサービス、サーバー運用支援サービス、ファイアウォールを占有して利用するサービス、共用型のIDSを提供するサービスなどが用意されている。


ファイアウォール、IDS、WAFなど必要に応じたセキュリティ対策が用意されているサーバーイメージの作成、複製機能が用意されている。もちろん、作成したイメージの保存もできる
オプションでロードバランサー、ファイアウォール、IDS、WAFなどが追加できる。ただし、WAFはLinuxのみで、Windows版は計画中だ連携サービスとして、VPNサービス、サーバー運用支援サービスなどが用意されている

 

分かりやすいGUIを持つWebベースのコントロールパネルを用意、SLAも提供

 BIGLOBE クラウドホスティングでは、直感的なGUIを持つWebベースのコントロールパネルが用意されている。ユーザーは、このコントロールパネルで仮想CPUの追加/削除、ロードバランサーの作成/削除などのリソースに関するコントロール以外に、リソースのモニタリングや各種ポートやPingの監視などが行える。コントロールパネルの画面を見てみると、シンプルで分かりやすくなっている。


Webベースの使いやすいコントロールパネルが用意されている。コントロールパネルでは、稼働している仮想サーバーの一覧が一目で分かるようになっている
ダッシュボードでは、ユーザーが構成した仮想サーバーすべての状態をチェックすることができる。ここではロードバランサーの設定や監視設定などがチェックできる。リソースモニターでは、CPUの負荷などを時間軸のグラフで表示することが可能。

 BIGLOBEのクラウド サービスは、シンプルだが、ユーザー企業にとっては使いやすいサービスだ。可用性に関しても、VMwareのインフラを利用しているため、物理サーバーにトラブルがあっても、常にHA機能により冗長化されている。また、特定のサーバーの負荷が急激にアップしたときは、自動負荷分散機能(DRS)より、自動的に負荷の軽いサーバーに移動することも可能だ。

 サービス品質保証制度(SLA)を定めているため、月間のサーバー稼働率が99.99%以下になったときは、その月の利用料を10%減額するとしている。実際、BIGLOBE クラウドホスティング サービスを1月から始めて、トラブルによりシステムの中断が起こったことはないようだ。こういったことからも、インターネット プロバイダーとしてコンシューマー向けのサービスを運用しているBIGLOBEだが、NECグループの高いクオリティを持ったビジネス向けのクラウドサービスを提供しているといえる。


VMwareを使った高い可用性を持つクラウド環境を提供SLAとして、99.99%のサーバー稼働率が保証されている

ISP事業者としてのリソースと高いセキュリティ性を武器に

 今回は、NECビッグローブでクラウド サービスを担当されている、ビジネスサービス事業部の関根良知マネージャーにお話を伺った。

――BIGLOBEでクラウド サービスを始めるきっかけというのは、どういったことだったんでしょうか?

ビジネスサービス事業部の関根良知マネージャー

関根氏:BIGLOBEといえば、インターネット プロバイダーということで、コンシューマ向けのサービスが中心と思われがちですが、昔からビジネス向けのサービスも提供しています。

 特にクラウド サービスに関しては、数年前からPaaSといえるBIGLOBE Webホスティングを提供しています。1月から始めたIaaSのBIGLOBE クラウドホスティングは、ビジネス向けのサービスを拡充するという意味で提供しています。

 現在、クラウドのインフラとしてはVMwareのインフラを採用しています。これは、BIGLOBEのコンシューマー向けのサーバーを仮想化して、リソースの効率化を図るという意図もありました。しかし、内部的な事情よりも、ビジネスユーザーからのクラウドに対するリクエストが強かったため、仮想化を進めて、プラットフォームを整えていったという事情です。最初から、ビジネス向けのクラウドサービスを提供するために開発していったのです。

 このため、他社のクラウドサービスに比べれば、ビジネスユーザーにとって気にかかるセキュリティ性の高さ、システムの冗長性、データセンターのリスク対策を施したものになっています。

 セキュリティ性としては、ISP事業者として長年、個人ユーザーなどの重要な情報をガードし続けた実績があります。このようなノウハウを用いて、ユーザー企業のクラウドを保護したり、アドバイスすることができます。

 クラウドサービスを運用する上で重要なデータセンターは、強い地震にも耐えられるように、免震装置を設置しています。停電対策にもCVCF(定電圧定周波数装置:交流向けのUPS)や非常用発電機を設置しています。さらに、バックボーンのネットワークに10G広域イーサネット回線を用意するなど、百数十万人のユーザーをISP事業者として十分なハードウェア、ネットワークリソースをクラウドサービスにも提供しています。

 またクラウドサービスの品質としても、SLAを提供していますし、1月に始めたクラウドホスティングサービスは、一度もトラブルを起こしていません。全く、ダウンタイムはありません。

 なお、当社のクラウドサービスは、すべての仮想環境がインターネットに公開されているわけではありません。ユーザー企業の意向によって、クラウドサービス内のプライベートIPでしか接続できない仮想サーバーも作ることができます。

 例えば、データベースサーバーをこのようなプライベートIPでしかアクセスできないエリアに設定します。フロントのWebサーバーをインターネットに公開しておけば、重要なデータが置かれるデータベースサーバーへのアクセスは、フロントのWebサーバーからしか接続できません。これなら、データベースサーバーにセキュリティの脆弱性があっても、インターネットから直接攻撃されることもありません。

 

――NECとBIGLOBEの両社でクラウド サービスを展開されていますが、どういった区別がされているのでしょうか?

 NECのRIACUBEは、システム構築を含むプライベートクラウドが中心です。一部パブリッククラウドもありますが、ソリューションを含めた形となっています。一方、われわれBIGLOBEでは、パブリッククラウドを中心に展開しています。こういった部分が、NECのRIACUBEとBIGLOBEのクラウドサービスの違いです。重なる部分も両社でありますが、基幹系のクラウドや金融系などはNECのRIACUBEがカバーし、BIGLOBEのクラウドサービスはWebサーバーなどのフロント系のシステムが多い、といったすみ分けになっています。

 また、BIGLOBEのデータセンターは、バックアップはありますが、基本的に国内に1カ所になります。海外展開や国内に複数拠点持ちたいといったことになると、NECのRIACUBEになると思います。

 

――BIGLOBE クラウドホスティングのロードマップはどうなっていますか?

BIGLOBEのクラウドサービスのロードマップ

 1月にサービスを始めて、5月にいくつかの機能強化を行いました。本年度中には、仮想サーバーが負荷に応じてオートスケールする機能、バックアップ機能、仮想ファイアウォール機能などを提供していきたいと考えています。

 もう1つ大きいのは、APIの公開です。APIを公開することで、いろいろなアプリケーションでプラグインを作ってもらって、社内システムとBIGLOBE クラウドホスティングを連携することができると思います。また、いろいろな作業を、APIを使って、マクロとして実行できるようになるなど、API公開はBIGLOBE クラウドホスティングに大きな広がりをもたらすと思っています。

 さらには、BIGLOBEが提供しているいろいろなサービスとクラウドホスティングが連携できるようになればと考えています。このあたりは、まだまだ未定ですが、BIGLOBE自体がさまざまなビジネス向けのSaaSを提供しているので、こういったサービスが手軽に利用できるように進化させていきたいと思っています。


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