クラウド&データセンター完全ガイド:特集

省エネルギー化による使用電力の最適化と、電力全体の再生可能エネルギー化の両輪で、グリーン化を推進するNTT Comの取り組み

データセンター事業者に求められる再エネ・省エネ施策

弊社開催イベントの参加者向けに配布しました、「クラウド&データセンター完全ガイド データセンター・イノベーション・フォーラム 2022特別編集号」より、特集「データセンター事業者に求められる再エネ・省エネ施策」から記事を抜粋してお届けします。

社会におけるサステナブルに対する関心が高まる一方で、エネルギー価格の高騰や、電力需給のバランスは、経済活動や社会生活においても重要な課題となっている。そうしたなか、NTTコミュニケーションズ株式会社(以下、NTT Com)が取り組むデータセンターの省エネ化やカーボンニュートラルの実現に向けた取り組みが注目を集めている。デジタル社会の進展とともに、データセンターが果たす役割はますます重要になっているが、同時に環境対策は避けては通れない要素になっている。グリーン戦略の観点から、NTT Comのデータセンター事業への取り組みを追った。 text:大河原 克行

2030年までのカーボンニュートラル化を目指すNTT Com

 NTTグループでは、2021年9月に、「NTT Green Innovation toward 2040」を策定。2030年度に温室効果ガス排出量を、2013年度比で80%削減するとともに、2040年度にはカーボンニュートラルを実現する計画を打ち出している。

 NTT Comでは、この計画に則った取り組みを推進する一方、最も消費電力が大きいデータセンター事業においては、2030年までにカーボンニュートラル化を目指しており、電力消費の効率化による省エネや、再生可能エネルギー(再エネ)利用の促進に取り組んでいるところだ。

NTT Comのカーボンニュートラル実現に向けた動き(出典:NTT Com)

 また、NTT Comでは、自らのグリーン化を目指す「Green of ICT」と、社会やお客様のグリーン化を目指す「Green by ICT」の2つの方針を打ち出している点も見逃せない。

 「Green of ICT」では、通信ビル設備やデータセンターへの省電力設備の導入、同社本社が入る大手町プレイスの電力ゼロエミッション化などにより、約60%の省エネ化を実現する一方で、NTTアノードエナジー(NTT AE)からの再エネ調達などにより、2016年度比で約3倍のグリーン調達を目指している。また、約8割の実施率となっているリモートワーク主体の業務運営により、1日あたり約7.6トンのCO2を削減したり、IOWN構想に基づく光電融合技術の採用などにより、ネットワークにおける電力消費を削減することを目指している。

NTTコミュニケーションズ プラットフォームサービス本部クラウド&ネットワークサービス部 担当部長兼データセンタープロダクトオーナーの松林修氏

 NTTコミュニケーションズ プラットフォームサービス本部クラウド&ネットワークサービス部 担当部長兼データセンタープロダクトオーナーの松林修氏は、「国内の650カ所のデータセンターだけで、日本の総電力量の3%に達し、NTTグループだけで1%を使用している。また、通信ビル施設とデータセンターだけで、NTTグループの電力量全体の97%を占めている。データセンターを省エネおよび再エネとすることが重要であり、直接的にグリーンに貢献できる分野である。非化石証書の購入を含めて、グリーン化を進めていくことになる」と語る。

 NTT Comでは、データセンターで使用する電力を、省エネルギー化によって最適化することと、電力全体の再生可能エネルギー化を進めることの両輪でグリーン化を推進。データセンターをグリーン化することが、社会全体のグリーン化、脱炭素化社会の実現に直接的に貢献できると見ている。

 たとえば、2025年度下期のサービス開始を目標に、現在、京都府に建設中の環境配慮型最新データセンター「京阪奈データセンター(仮称)」では、省エネ型の設備の充実を図るほか、再生可能エネルギーを使って、CO2排出量を実質ゼロにできる体制を準備。APN(オールフォトニクスネットワーク)を実現するIOWNの活用も想定している。また、NTT Comのクラウドサービス「Smart Data Platform(SDPF)クラウド/サーバー」の提供拠点での再エネ活用を拡大しており、2022年6月までに5割の拠点でカーボンニュートラルを実現。さらに、IOWNについては、APNを活用することで、分散したデータセンターの連携や、再エネの調達が行いやすい地方でのデータセンターの展開などについてもメリットが生まれるとしており、その実現に向けた議論をしているところだという。

 もう1つの「Green by ICT」では、CO2排出量可視化や再エネを活用したエネルギー最適化、CO2を意識した消費者の行動変容の促進、再生資源の循環を促すサーキュラーエコノミーの促進に取り組んでいる。たとえば、SDPFクラウド/サーバーでは、顧客が必要とするリソース容量などからCO2排出量を予測するシミュレーション機能を2022年7月から提供。さらに、CO2排出量を可視化するダッシュボード機能を2022年9月から提供。これにより、既存のオンプレミス環境から、SDPFクラウド/サーバーへと移行する際のCO2排出量削減効果のシミュレーションが可能になり、排出されたCO2排出量をポータル上で確認することが可能になる。

CO2の排出量を予測するシミュレーション機能画面イメージ(出典:NTT Com)

 「Green by ICT」の取り組みのひとつとして注目されるのは、2022年4月から、NTT AEと共同で開始した、データセンターにおける再エネ利用を促進する新たなサービスの提供だ。

 NTT Comのデータセンターを利用する際、(実質再生可能エネルギーを含む)再生可能エネルギーを選択できる電力メニューを用意。これを利用することで、非化石証明書などを通じて、地球温暖化の原因となるCO2排出がないことを示し、同社データセンターを利用する顧客に対して、環境価値を提供することになる。

NTT Comのデータセンターを利用する際、再生可能エネルギーを選択できる電力メニュー(出典:NTT Com)

 「カーボンニュートラルへの取り組みは、NTT Comの主要課題であり、それに向けたサービスをいち早く市場投入することが大切である。このサービスの提供にあたってはムーンショット的なアプローチを採用。真サービスは、2022年4月のサービス開始という時期をあらかじめ設定し、そこに向けてサービスメニューを構築していった。2022年夏以降、プロジェクトをスタートし、プレマーケティングを通じて、お客様はどんなサービスが必要なのか、どんな電力を求めているのかといったことを捉えながら、プレミアム、スタンダード、ライト、オフサイトPPA(Power Purchase Agreement=電力購入契約)でメニューを構成。サービス開始以降は、これまで接点がなかったお客様からの問い合わせも生まれている」という。

 データセンターの環境に対する関心は海外で先行しており、NTTリミテッドとの連携により、海外の先進動向を捉えているNTT Comにとって、日本でも率先して環境対応を図ることは当然の判断だったともいえる。

 同サービスでは、実質再エネを実現するために、発電所の場所や電源種別が示されるトラッキング付き非化石証書の情報をセットにした再生可能エネルギーを提供するほか、同メニューに加えて、利用者が太陽光や地熱、バイオマスといった電源種別の指定を可能にしたメニュー、さらに利用者による非FIT指定が可能なメニューも用意。大手クラウドプロバイダーなどが対象となる最上位メニューとして、新規発電所からの再エネの提供により、オフサイトPPAを提供し、利用者の個別の要望に合わせて、追加性がある発電所をNTT AEが提供するメニューも用意する。

NTTリミテッド・ジャパン サービス部データセンターサービス部門 国内DC構築・オペレーションマネジメント主査の狭間俊朗氏

 NTTリミテッド・ジャパン サービス部データセンターサービス部門 国内DC構築・オペレーションマネジメント主査の狭間俊朗氏は、「ハイパースケーラーは、日本のデータセンターのグリーン化に高い関心を示しており、現時点では、オフサイトPPAに対する引き合いが最も多い。オフサイトPPAによる追加性のある再エネの利用により、脱炭素化に向けたESG経営が促進できる」とする。

 ここにきて、電力会社各社の燃料費調整単価が上昇しており、オフサイトPPAによる調達の方が、メリットがあるといったことも追い風となっている。

 また、「サービス開始当初は、カーボンニュートラルの取り組みに関心が高いお客様が、価格におけるプレミアムを理解してもらえるのかどうかがポイントだと考えたが、RE100やESG経営を行うお客様からは関心は想定以上に高い。データセンター間連携を行う事業者や、製造、金融などの大手企業からの問い合わせのほか、SIer系データセンターを活用していた大手企業が、グリーン化を理由にデータセンターの移行を検討するといったような動きもある」(NTTコミュニケーションズ プラットフォームサービス本部クラウド&ネットワークサービス部 担当部長兼データセンタープロダクトオーナーの松林修氏)という。

 実質再エネを実現する非化石証書による環境価値を提供するサービスでは、すでに数多くの企業と商談を開始しているという。

 新サービスは、東京第5データセンター、東京第8データセンター、東京第11データセンター、横浜第1データセンター、埼玉第1データセンターを対象に、ケージまたはルーム単位で利用者に向けて提供している。これらのデータセンターを活用している既存ユーザーが同サービスを利用することで、グリーン対応が図れるといった提案も、これからは増えていきそうだ。

 「今後は、データセンターの付加価値として新サービスを提供していく。可視化サービスやバリューチェーン全体のカーボンニュートラルの提案など、GX戦略を推進する部門との連動によって、NTT Comのデータセンタービジネスを拡大していく」という。さらに、スマートシティの実現や、GX(Green Transformation)の取り組みにおいて、グリーンなデータセンターの活用を提案するといった動きも増えそうだ。

グリーン化を新たなビジネスイノベーションの創出へ

 NTT Comでは、環境への関心の高まりを、ビジネスチャンスに捉えている。

 グリーン化を、経済成長の制約やコストと捉えるのではなく、環境の観点から、構造転換と大胆な投資を行うことで、新たなビジネスのイノベーションの創出につなげることができると見ているからだ。

 その一方で、テクノロジーの進化によるハードウェアの小型化とともに、1ラックあたりの収容台数が増加し、ラックあたりの消費電力や発熱量が大幅に増加する。より熱い物を冷却できる新技術の導入が必要になり、同時にさらなる省電力化の実現も求められる。

 日本においては、東京第11データセンターにおいて、季節に応じて最も効率的な熱交換方式に切り替えが可能な間接蒸発冷却方式を導入したことにより、従来の空調システムに比べて約60%の消費電力削減を実現している。同データセンターのPUEは1.35となり、政府が求めている新規施設のPUE目標値の1.4をクリアしている。今後、同社の新たなデータセンターでは、1.0に近づけるための取り組みを推進していくことになるという。

間接蒸発冷却式空調(出典:NTT Com)

 さらに、壁面吹き出し空調方式の採用や、ラックに取り付けたセンサーの情報をAIが分析し、電力の無駄を最小化できるSmart DASHにより、空調効率を向上。また、水素エネルギーを活用したデータセンター構想や、ラック扉に冷却水を循環させて冷却するリアドア方式、サーバーを冷却液に浸して冷却する「液浸方式」といった次世代水冷式冷却環境の実証実験も開始している。

AI温度マネジメント「Smart DASH」(出典:NTT Com)
水素エネルギーを活用したデータセンター構想(出典:NTT Com)
次世代の水冷式冷却環境の実証検証への取り組み(出典:NTT Com)

 一方、グローバルのデータセンターにおけるグリーン化は、日本よりも進んでいる。NTTグループでは、グローバルにおけるデータセンターの建設計画が相次いでおり、これらにおいても、グリーン化に積極的に取り組んでいる。

 たとえば、米国では洋上風力による再エネを利用。ドイツでは地熱を活用し、インドでは太陽光発電を活用して、データセンターを運用しているケースがあるという。こうしたデータセンターの運用で蓄積したグリーン化のノウハウを、新たなデータセンターの建設にも活用していくことになる。

NTTリミテッド・ジャパン サービス部データセンターサービス部門プロダクトマネジメント担当課長の田村尚子氏

 NTTリミテッド・ジャパン サービス部データセンターサービス部門プロダクトマネジメント担当課長の田村尚子氏は、「それぞれの地域の気候にあわせて、最適なグリーン化を進めている。再生可能エネルギーの利用率は、全世界平均では33%程度となっているが、すでに英国や米国のデータセンターでは、調達する電力が100%再生可能エネルギーというケースも多い」とし、「海外でのグリーン化への取り組みを知っているハイパースケーラーから見ると、日本のデータセンターにも同様のグリーン化を期待する声もある。いまは、日本のエネルギー事情や地域特性を背景に理解を求めているが、日本のデータセンターにおけるグリーン化への取り組みは今後も継続的に推進していくことになる」と述べた。

 NTT Comのデータセンターは、性能や品質、信頼といった面での進化だけでなく、グリーン化の観点からも進化を続けることになる。