クラウド&データセンター完全ガイド:特集

データセンター/クラウドサービスの選び方2021(Part 2)

データセンター/クラウドの「基礎知識」と「重要な観点」(前編:データセンター編)

弊社刊「クラウド&データセンター完全ガイド 2021年春号」から記事を抜粋してお届けします。「クラウド&データセンター完全ガイド」は、国内唯一のクラウド/データセンター専門誌です。クラウドサービスやデータセンターの選定・利用に携わる読者に向けて、有用な情報をタイムリーに発信しています。
発売:2021年3月31日
定価:本体2000円+税

新型コロナウィルスの影響を受け、多くの企業ではテレワークを中心とした「新しい働き方」への対応を進めている。生産性を維持しながら「新しい働き方」を実現することは容易でなく、シンクライアントやWeb会議など、テレワークを支える仕組みの活用が不可欠と言えるだろう。そして、それらの仕組みが稼働する背景にはデータセンターやクラウドが存在しているのだ。本パートでは、データセンターやクラウドの基礎知識を押さえつつ、それらを比較/検討する際の重要な観点について解説する。 text:寺岡宏・杉田一・藤井英俊・藤田和也

 情報システムは、水道、交通などと並ぶ重要なライフラインの一つといえる。この春、東日本大震災から10年を迎えるが、大規模災害から情報システムを守り、24時間365日、安定して動かし続けるのは容易なことではないのだ。サーバーやストレージなどの機器は電力で動いているので急な停電は致命傷になりかねない。そして熱や湿気、ホコリも苦手と、思いのほかデリケートなのだ。トラブルを避けるためには、安定した電源供給や空調管理の仕組みが必要だ。さらには地震や火災といった自然災害や、悪意のある犯罪の手からも守らなくてはならない。「動いて当然」と思われがちな情報システムを動かし続けることは、まさに至難の業なのだ。

 そんなデリケートな機器たちをオフィスの一角で動かすことも不可能ではないだろうが、多大な労力とコストを費やすことになるだろう。企業としては、求めているのはあくまで情報システムが提供する機能そのものであって、機器の維持管理に払うコストは最小限に抑えたいはずだ。

 そこで重要な役割を果たすのが、データセンターである。

写真1:データセンター外観イメージ(出典:エクイニクス)

データセンターの基礎知識

 データセンターとは「企業・ユーザーからサーバーやストレージなどのIT機器を預かり、安定して稼働させるための専用施設」だ。セキュリティの都合上、それと分かる看板を掲げることはまれで、窓のない巨大な倉庫、あるいは音楽ホールのような外観であることが多い。都市部ではオフィス街や住宅街にあることも珍しくない。

 データセンターは、地震や火災などの災害に耐える堅牢な建物、不審者の侵入を防ぐ物理(対人)セキュリティ設備、安定した電源・温度管理のための設備などを備えている。データセンターを利用する企業は、これらの設備投資を抑えながら本業に集中できるのだ。

 それでは、まずはデータセンターの利用方法を理解したうえで、データセンターを比較・選定する際に注意すべきポイントを具体的に見ていくことにしよう。

データセンターの利用方法

 データセンターそのものを自社で保有して運用する「自社専用データセンター」もあるが、ここでは複数のユーザー企業で共用する「商用データセンター」を前提として説明する。

 その利用方法は大きく分けて2つ。データセンターのスペースを借りる方法と、データセンター事業者側が用意したIT機器をレンタルする方法だ。一般に、前者をハウジング、後者をホスティングと呼ぶ。

A.ハウジング(コロケーション/ケージング)

 データセンターが提供するスペースに、ユーザーがサーバーやストレージなどの機器を設置し、データセンターが備えるファシリティ(空調、電源などの設備)や通信回線、その他のオプションサービスを利用する。ある程度の制約はあるが、基本的には企業側が使いたいと希望する機器をそのまま持ち込むことができる。機器を設置するラックはデータセンターが用意するものを利用するのが一般的だが、サーバールームを1室まるごと、またはケージで囲われたスペースをレンタルして自前のラックを設置することも可能だ。この場合は大型の汎用機などラックに搭載できない機器を設置することも可能だ。

B.ホスティング(レンタルサーバー)

 データセンター事業者があらかじめ用意した機器を共有または専有で利用する。機器のスペックや利用時間などに応じて課金される。サーバーにはあらかじめWebサーバーなどの機能やアプリケーション開発環境が構築されている場合もある。ハウジングと比べて、ユーザー側では機器の調達が不要であり、調達にかかるリードタイム短縮や固定費の削減が可能というメリットがある。一方で、機器や搭載されるソフトウェアはサービス提供側が指定したものの中から選ぶことになるため、自由度はハウジングのほうが高い。

写真2:サーバールームに設けられたケージ(出典:エクイニクス)
写真3:二重床構造のサーバールームとラック(出典:セコムトラストシステムズ)

データセンターを読み解く「10の観点」

 基本的な利用方法を理解したところで、データセンターの設備や性能を読み解くための「10の観点」を説明する。データセンターの比較・選定でも役立つはずだ。

①耐災害性

 地震大国とも言われる日本においては、データセンターの地震対策への期待が非常に大きい。データセンターを選ぶ際には、地理・地形的に地震や津波といった災害が起きにくい地域であるかどうか、万が一の際に建物や機器へのダメージを軽減する仕組みがあるかどうかを確認しておくことが重要だ。

 浸水や土砂災害、地震などの危険性については、国土交通省の「ハザードマップポータルサイト」(https://disaportal.gsi.go.jp/) や、防災科学技術研究所の「地震ハザードステーション(J-SHIS)」(http://www.j-shis.bosai.go.jp/)などで確認することができる。

図1:防災科学技術研究所の「地震ハザードステーション(J-SHIS)」で提供されている「全国地震予測地図」(出典:防災科学技術研究所)

 次にデータセンターの建物に着目しよう。地震対策の仕組みは基本的には下記の3種類がある。

  • 耐震:建物を頑丈な構造にして、文字通り揺れに耐える
  • 制震:制震ダンパーで建物の揺れを抑える
  • 免震:積層ゴムや“すべり支承”などの装置で揺れを受け流す

 建物が頑丈なことは重要だが、建物が地震に耐えられたとしても、揺れによって機器が故障したのでは意味がない。ラック内に設置されている機器への影響を考慮すると、揺れを最も軽減できる免震構造、少なくとも制震構造であることが望ましい。耐震構造は、建物自体は地震に耐えられるが、ラックに搭載された機器自体へのダメージは他の構造に比べて大きいと言われている。

図2:耐震・制振・免震の違い(出典:http://www.nobiso.jp/service/quake-2/を元に作図/インプレス クラウド&データセンター完全ガイド)
写真4:積層ゴム支承(ししょう)(黒)と弾性すべり支承(銀色)の2種類を組み合わせた免震装置。72本の支承でセンターを支え、支承1本で800トンを支えることが可能だ(出典:富士通/インプレス クラウド&データセンター完全ガイド)

②交通・アクセス

 システム構築が完了して本番運用が開始されればデータセンターに行く用事はないと思うかもしれないが、現地でなければできない作業というのは意外と多い。機器の増設や撤去、ケーブル結線の変更、保守作業の立ち合いなどだ。特にシステムの更改時期やトラブル発生時は現地へ頻繁に赴くことになるため、あまりにアクセスの悪い地域を選んでしまうと後悔することになる。オフィスからの所要時間や交通手段なども確認しておきたい。有事の際、通常の交通手段が遮断された場合のアクセスについても併せて確認しておくべきだろう。

column メインセンターとバックアップセンターの位置関係

 災害対策の一環でバックアップセンター(バックアップデータの保管や、大規模災害時に備えて待機系システムを設置するために使われるデータセンター)を選定する場合は、メインセンターとの位置関係に留意したい。メインとバックアップが「リスクを共有しないこと」が重要で、例えば一度の大地震で同時に影響を受けないことがポイントとなる。

 内閣府の大規模地震防災・減災対策大綱(中央防災会議:平成26年3月)には以下の記述がある。『企業活動が高度に集中している大都市圏が被災することにより、経済中枢機能が低下し、生産・サービス活動が大きく影響を受けることから、企業は、他の地方ブロックへの権限委譲、企業間連携、重要なデータやシステムの電力供給の系統の異なる場所などにおける分散管理を行うなど、経済中枢機能やデータなどのバックアップ体制の強化を図る。』

 電力供給の系統という言葉の解釈にもよるが、例えば電力会社の管轄が異なる地域にバックアップセンターを設けるというのも1つの策といえる。

③物理セキュリティ

 重要な情報を扱うシステムを設置する場合に最も重視したい項目の1つがこの物理セキュリティだ。部外者がデータセンターに侵入し、ラックをこじ開けて機器やデータを盗難、破壊されるといった事態があってはならない。また部外者が関係者を装って侵入するケースも考えられるため予防措置が必要だ。

 データセンターでは入館時に事前申請を求めることが一般的であり、申請のない入館は原則不可としている。とはいえ緊急で入館の必要が生じることはよくあるため、入館申請の方法や受付時間にも注意が必要だ。

 入館/入室ゲートにICカードリーダーや指紋・静脈認証などの生体認証システムを設置し、事前に登録された人物以外の出入りを防ぐという仕組みもある(写真5)。

写真5:有人受付(左)、手荷物検査(中)、手のひら静脈認証(右)(出典:富士通)

④回線・通信設備

 データセンターでは、インターネット接続、VPN、広域イーサネット、専用線などの接続サービスも提供している。事業者によってサービスラインアップや提供価格に差がつきやすく、特に通信に強みを持つ事業者はバリエーションに富んだサービスを提供している。

 回線・通信設備は、その帯域幅やキャリア選択の自由度だけに注目しがちだが、物理的な配置も無視できない。たとえ回線やキャリアが冗長化されていても、物理的な回線が同じ経路を通っていたのでは、メンテナンス工事のトラブルなどによって両方の回線が同時に障害に陥ることも考えられるからだ。

⑤空調・温度管理

 システムの安定稼働のためには、適切な温度の空気を機器の吸気口に送り続けることが重要だ(写真6)。各事業者ともさまざまな工夫を凝らしており、一般的なものとしてはサーバールームを二重床構造とし、2列のラックの吸込側を向かい合わせに配置し、床下から冷気を送り込む方法(図3、写真7)がある。

 さらに近年では、機器が発する熱気が吸入側(コールドアイル)に回り込むことを阻止するため、空気の流れを強制的に制御するキャッピング(封じ込め)という手法も採用されている。

写真6:データセンター屋上の冷却塔(出典:富士通)
図3:空調効率を高める空間設計(出典:セコムトラストシステムズ)
写真7:冷気が吹き上がるメッシュ状の床パネル(出典:セコムトラストシステムズ)

⑥電源

 サーバーやストレージといった機器は電力で動いており、電力供給が止まれば機器も止まる。いかに安定した電力を供給するかが安定稼働の要であり、データセンターを利用する大きなメリットの1つである。

 近年、ハードウェア性能の向上に伴い機器の高密度化が著しい。省スペース&高性能と言えば聞こえはいいが、データセンター側からすると悩ましい問題でもある。

 1ラックに必要とされる電力は1990年代と比べて数倍に達しており、最新のIT機器が必要とする電力を十分に供給できるかどうかが、データセンターの性能を測るうえでの大きな指標となっている。

 ここでは電源設備面で特に重要な観点をいくつか紹介する。

1ラックに供給可能な電源の上限はどれくらいか?

 前述のとおりコンピュータの高性能化、高密度化が進んでおり、1ラックで必要とされる電源は年々上昇しているのだが、多くの場合、データセンターでは1ラックに供給可能な電源に上限が設定されている。データセンター全体としての電源供給能力が関係しているのはもちろん、空調・冷却能力の限界という問題も絡んでくる。たとえ望みどおりの電源を供給できたとしても、その電源で動く機器を「冷やしきれない」可能性があるのだ。

停電時の備え――UPSの容量は十分か?

 停電などにより外部からの電源供給が停止した際に一定時間、電源を供給するのがUPS(Uninterruptible Power Supply:無停電電源装置)。停電が発生してから自家発電装置が稼働するまでの間に必要とされる電力をカバーする装置であり、十分な容量をもつUPSがあれば心配ないということになる。また、UPS自体の動作不良に備えて冗長構成となっていればさらに安心だ。

 企業の小規模なサーバールームやオフィスで見かける小型UPSは、停電時に安全に機器を停止するまでの時間稼ぎをするためのものだが、データセンターのそれとは目的・用途が(もちろん大きさも)異なることに注意してほしい。

自家発電装置による電源供給時間はどれくらいか?

 データセンターでは、万一の停電に備えて自家発電装置を備えているケースがほとんどだ。自家発電装置を動かすために必要な燃料も備蓄している。自家発電装置が稼働している間に停電が復旧してくれればよいが、燃料備蓄が十分でない、あるいは自家発電装置自体の連続稼働時間が短いと、停電が復旧する前に給電はストップしてしまう可能性がある。備蓄されている燃料で何時間まで給電することができるのか、事前に確認しておきたい。

複数の電源系統から給電が可能か?

 IT機器の電源冗長化は珍しい話ではないが、同系統の電源を2本つないだ場合、機器側の電源パーツの故障には対応できるが、変電所のトラブルや受電設備の故障には対応できない。複数系統の電源を給電することで、よりハイレベルな電源の冗長性を確保できる。ラックの中に引き込める電源の種別、系統数、冗長構成の有無などを確認しておきたい(図4、写真8・9)。

図4:給電ルートの二重化と電源設備の冗長化(出典:セコムトラストシステムズ)
写真8:電源設備の例。左から特別高圧受電設備室、UPS 設備室、変電設備室(出典:セコムトラストシステムズ)
写真9:受電トランス(出典:富士通)

⑦床耐荷重

 ラックに機器を設置するラックマウント作業の経験があるならお分かりかと思うが、サーバーやストレージは非常に重く、ラックを支えるデータセンターの「床」にも相応の頑丈さが求められる。一般的なオフィスビルの床荷重が300~500kg/㎡であるのに対し、最新のデータセンターでは1.5~2t/㎡というものもある。

 先ほどIT機器の高密度化について述べたが、単位面積当たりの機器重量も一昔前と比べて増加している。高密度なブレードサーバーや大容量ストレージの設置を考えるなら、床荷重がその重量に耐えられるか確認する必要がある。また、機器を搭載するラック自体にも最大積載量が設けられているはずなので、こちらも合わせて確認しておきたい。

⑧マネージドサービス(オペレーション)

 データセンターに常駐するスタッフが、システムの構築・運用業務(オペレーション)を代行するというサービスだ。オペレーターによる稼働監視やネットワーク機器の運用代行、また現地でなくてはできない作業、例えば電源オン/オフ、LEDランプ確認、テープ交換、保守ベンダーの作業立ち合いなどの業務を代行する(写真10)。

 特にデータセンターが遠隔地にある場合、担当者をオフィスから向かわせるのは負担が大きく、またトラブル対応時には初動対応の遅れの要因ともなる。データセンターを選ぶ際には、マネージドサービスの活用も検討に含めるべきだろう。

写真10:統合管制室(出典:富士通)

⑨付帯設備・オプションサービス

 サービスメニューには表記されないことが多いが、意外と重要なのがデータセンターの付帯設備やオプションサービスである(写真11)。例えば、プロジェクトルームや会議室のレンタル、荷物の一時保管や宅配便の受け取り/発送が可能か、キッティングで出たダンボールや不要パーツなどの廃棄物を処分してくれるかなど、細かいことではあるが無視できない違いがある。これら設備・サービスについては、データセンターに直接問い合わせるなどして確認するほかない。

写真11:付帯設備の例(左:プロジェクトルーム、右:会議室)(出典:富士通)

⑩利用料金

 データセンターを利用する際にはラック利用料のほか、電源や回線の使用料、マネージドサービス利用料などさまざまな費用が発生する。費用比較をする際には、ラック利用料だけで比較するのではなく、これらの費用全体で比較する。

 ここではハウジング(ラックレンタル)を想定し、一般的にかかる費用について説明する。

ラック利用料

 基本的に月ごとに課金される。多くの事業者は4分の1、2分の1、フルラックなど、ラックのサイズに応じた料金プランを用意している。ラック利用料金に標準の電源が含まれているケースもあるため、細かく確認しておく必要がある。

電源利用料

 ラック利用料金に電源が含まれていない場合や追加電源が必要な場合は、オプションとして追加することが可能だ。注意すべきは、多くの場合、従量課金ではなく設置した機器の定格電力(機器が使用しうる最大の消費電力)に応じた課金になるケースが多いということだ。たとえ自社のサーバールームでの電力使用量を把握していたとしても、その値をベースに費用を見積もってしまうと実際の請求金額との間に差が生じることになる。

インターネット回線使用料

 整備された広帯域バックボーンを利用した高速なインターネット接続サービスを契約することができる。共用ベストエフォートタイプと専有タイプがあり、もちろん専有タイプのほうが高額となる。

 費用の話とは離れるが、見落としがちなのが帯域変更の自由度や所要時間だ。例えば繁忙期など一時的に帯域を増加させたい場合に対応可能か、帯域変更に必要な日数がどの程度かなども確認しておくべきだろう。

マネージドサービス利用料

 データセンター事業者が提供するマネージドサービスやオペレーションサービスの料金で、サービスの内容に応じて変動する。LEDランプ確認や電源のオン/オフなどのようなごく基本的な運用は、基本メニューとしてラック利用料に含まれている場合もある。

データセンター利用時の注意点

 以上、データセンターの利用方法と設備や性能を読み解くための「10の観点」について説明してきたが、実際にデータセンターを選ぶ際にはこれ以外の要素も関わってくる。自社システムの構築・運用を担当している事業者との関係性や、現行環境との親和性・移行性などだ。制約条件などから選択肢を絞り込み、費用見積もりや移行シミュレーションを行ったうえで最適なデータセンターを選定することになるだろう。

 自社にとって最適なデータセンターを選定したら、次はいよいよ機器の設置だ。新規システムの構築であればよいが、稼働中のシステム移設は過酷だ。顧客やユーザーへの影響などを考慮して緻密な移設計画を立て、制限時間内にシステムを停止、移設、再開しなくてはならない。現行システムの棚卸しも必要になる。結線図やラックマウント図が適切に更新・最新化されていないと知った時の絶望感は筆舌に尽くしがたい。

 移設先でシステムを再開できなかった場合のことも考えてみよう。万が一移設に失敗し、元の場所に引き返したとして、はたして元どおりになるだろうか。その保証はどこにもない。動いているシステムを停止して別の場所で復元するというのは、きわめて難しい作業なのだ。計画が完璧だったとしても、システム移設には予期せぬトラブルも発生する。一度電源を落としたサーバーが、必ずしも正常な状態で再起動できるとはかぎらない。事前に機器の電源をオフ/オンして検証するなどしてリスクを可能な限り取り除いておくべきだろう。データセンター移設は高度な技術力と計画性、そして経験を必要とする作業である。

column データセンターの評価基準

 意外なことに、データセンターを評価する「世界標準」は存在しない。商用電源の信頼性や地震の発生頻度など、各国の事情が違うので共通の基準を設けることは難しいだろう。

 しかし「事実上の標準」と言われるものは存在する。日本で言えば、日本データセンター協会(JDCC)が定めるデータセンター施設の信頼性をティア1~4の指標で示すJ-Tierファシリティスタンダードがそれだ。業界独自の基準を設け、ガイドラインとして示している場合もある。例えば金融情報システムセンター(FISC)は、FISC安全対策基準の中でコンピューターセンターの設置基準を定めている。これらのガイドラインも選定の参考とすべきだろう。

column データセンターと省エネ

 IT機器は、稼働するために非常に多くの電力を消費する。これは仕方のないことである。一方、IT機器は多くの熱を発するため、安定して継続稼働できる温度まで冷やしてあげる必要があり、ここでもまた電力を消費する。この「冷却に必要な電力」をいかに抑えるかがデータセンターとしては腕の見せ所となる。

 データセンターの電力使用効率を表す指標としてPUE(Power Usage Effectiveness)がある。計算式は下記のとおりであるが、ここでいう「付帯設備の消費電力」のうち冷却が占める割合が非常に大きいのだ。

 一般的に、PUEが2.0を下回ると効率的とされ、業界全体の平均はおよそ1.6と言われている。指標として非常に明確であるためデータセンター選定の観点に加えられることも多いのだが、PUEが万能ではない点も注意が必要だ。

 例えば環境保護の観点では、電力供給源に触れていないという点がある。理想的には再生可能エネルギー源から生成された電力であることが好ましいと言えるだろう。同じPUE値であってもその価値が異なってくるのである。

筆者プロフィール
寺岡 宏

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 シニアマネジャー

データセンター事業者、システムインテグレーター、ITコンサルティング会社を経て現職。ITインフラ基盤更改やデータセンターの移設・統合、クラウドマイグレーションなど、IT インフラ領域を中心としたコンサルティングに従事。

杉田 一

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 シニアマネジャー

日系通信キャリア、外資系ソフトウェア製造&クラウド事業者、外資系コンサルティングファームを経て現職。26年にわたりクラウド/インフラ/セキュリティ領域のSIおよびコンサルティングに従事。

藤井 英俊

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 シニアマネジャー

国内ITコンサルティング会社を経て現職。ITインフラ基盤刷新やポストM&AのIT統合、PaaSクラウド立上げ、クラウドアーキテクチャー標準の策定など、ITインフラ分野で多数の構想策定サービスに従事。

藤田 和也

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 マネジャー

外資系メーカー及び外資系コンサルティング会社を経て現職。公共機関を中心にITの構想策定から、システムの企画、実行支援まで幅広く対応。クラウドの導入にあたっては、アセスメントからクラウド利用ガイドライン作成、アーキテクチャー策定などのサービスを提供。