クラウド&データセンター完全ガイド:特集

「ハイパーコンバージド」か「コンバージド」か――ITインフラ選びの着眼点(後編)

デジタル変革期のITインフラ[戦略と選択](Part 2)

弊社刊「クラウド&データセンター完全ガイド 2018年冬号」から記事を抜粋してお届けします。「クラウド&データセンター完全ガイド」は、国内唯一のクラウド/データセンター専門誌です。クラウドサービスやデータセンターの選定・利用に携わる読者に向けて、有用な情報をタイムリーに発信しています。
発売:2017年12月21日
定価:本体2000円+税

ITインフラ市場でハイパーコンバージドインフラ製品が登場してから数年が経過した。ユーザー企業の間では登場当初の警戒感が薄れ、注目度はちょうどピーク期にさしかかっている状況だ。ここでは、ハイパーコンバージドインフラとコンバージドインフラを中心に、ITインフラ選定に際して着眼すべきポイントを確認していく。 text:渡邉利和

ソフトウェア化したストレージの課題

 前編では、コンバージドインフラ(CI)とハイパーコンバージドインフラ(HCI)の違い、HCIの基本構成などについて述べた。後編では、それらを踏まえて、CI/HCIを選定・運用する際のポイントを見ていく。

 ストレージが単なるHDDの集積であるなら、トラブルの原因はほぼHDDの物理的な故障ということになる。RAID(Redundant Arrays of Inexpensive Disks)などの工夫によってホットスワップが可能な構成にしておけばほぼ問題なく対処可能で、運用中のシステム更新の必要性もあまり高くはないだろう。

 しかし、HCIで核となるSDSの進展ぶりからわかるとおり、現在のストレージはソフトウェアベースのシステムが主流になりつつある。ソフトウェアが大規模化して高度な機能を豊富に実装できるようになった反面、ソフトウェアのバグや不具合の可能性も高まっている。最近ではソフトウェアの脆弱性を突いたサイバー攻撃による被害リスクも無視できない。

 このため、ストレージの運用中、何度かソフトウェアのアップデートを行うことは避けられない。運用管理インタフェースからハードウェア制御のためのドライバ、ファームウェアなどさまざまなソフトウェアが使われており、それぞれを適切にアップデートしないとベンダーからの保証も受けられないこともある。

 とはいえ、運用中の大規模ストレージシステムのファームウェアをアップデートすることの難易度は高いはずだ。アップデートによって互換性問題が生じ、システムが稼働不能に陥るリスクもゼロではない。さらには、アップデート作業でミスがあるとシステムに致命的な影響が生じる可能性もある(特にファームウェア)。

 ソフトウェアであること、あるいはコンバージドであることのリスクはそこにある。個別バラバラのコンポーネントを組み合わせてシステムを構成した場合、どれかのコンポーネントをアップデートした際に問題が生じないか、システムの安定性や処理性能が維持できるか、保証を得ることは難しい。「実際にやってみないと何とも言えない」という結論にしかならないだろう。同様のシステム構成を多数手がけているSIerであれば、事前に検証を行うことができるかもしれないが、常にこうした対応ができるとはかぎらない。

CI/HCIをどのようにアップデートするか

 CIの先駆的な取り組みとして、ヴイエムウェア(VMware)、シスコシステムズ(Cisco Systems)、EMCの3社が2008年に合弁会社VCEを設立し、3社それぞれの強みを持ち寄った製品/ソリューション「Vblock System」をリリースしている。現在でもVCEは存続するが、製品の開発・販売を主導するのはEMCを買収したデル(Dell EMC) である。現在、Dell EMCはCI製品として「Dell EMC VxBlock」の提供に加えて、HCI製品「Dell EMC VxRail」および「Dell EMC XCシリーズ」(写真2)を投入し、広範なラインアップを展開している。

 Dell EMCが特に注力しているのが、継続的なサポートと定期的なアップデートの提供だ。VCE時代から提供している「RCA(Release Certifi cation Matrix)」アップデートサービスプログラムにより、VxBlockのユーザーは、VMware VSphere仮想化プラットフォームのバージョンアップと一体化した緊密なサポートを受けることができる(図4)。

写真2:Dell EMCのHCI製品「Dell EMC VxRail」(左側)と「Dell EMC XC シリーズ」(出典:デル)
図4:Dell EMC VxBlockのRCMアップデートサービスの適用例(出典:デル)

 これは、ストレージを含むITインフラにおけるソフトウェアの重要性にいち早く対応し、CIを導入するユーザーがベンダーに何を期待するかという点に適切に向き合った結果だとも言えるだろう。

 CIやHCIのアップデートに際しての理想はやはり、システム構成全体をベンダー側でサポートできる点にある。個々のコンポーネントのアップデートのタイミングもある程度揃えることができるし、互換性検証も十分に行える。コンポーネント単位ではなく、全体で単体の製品のようなサポートをユーザーは期待するので、コンポーネント間での互換性問題の発生はあってはならないし、実際にそうした事態を招かないように事前に十分な検証を行ったうえでサポートを提供するのは当然のことと言える。

 システムの中核要素がハードウェアからソフトウェアに移行しつつある現在、安定稼働を支えるための運用管理やサポートに対する考え方も変わっていかざるをえない。システムの寿命を5年程度に設定し、その間塩漬けで一切変更せずに乗り切れれば問題ないという考え方が今後も通用する保証はない。それどころか、現状、こうした考え方で運用されるシステムが存在するとしたら、それは深刻なセキュリティリスクだと認識すべき段階にきていると言える。そして、定期的なアップデートを必須作業として受け入れるのであれば、アップデートに関しても検証が確実に行われていることのメリットは非常に大きくなる。

ベストオブブリードかオールインワンか

 「ベストオブブリードかオールインワンか」といった議論はIT業界では繰り返し提起されてきたテーマである。メインフレーム時代にはシステムを丸ごとメインフレーマーが提供する形だったが、オープンシステム時代になってユーザーが任意の組み合わせでシステムを構築できるようになり、競争市場に移行したことで劇的なコストダウンと急速な機能強化が促された。

 こうした経緯からすると、CIやHCIは再びベンダー丸抱えのシステムに戻るような印象もあり、心理的に抵抗感を感じる担当者もいると思われる。実際、CIの場合、初期コストとしては決して安価とは言えず、TCO(総所有コスト)で比較して、運用管理コストの削減効果でトータルではコスト削減になるという計算だ。

 こうした見積もりをどう評価するかは、ユーザーによって判断が分かれるところだ。ITシステムが従来以上に現場のビジネスに直接的な影響を与えるようになってきており、かつITインフラの構成自体は差別化要因とはなりにくく、上位のアプリケーションレイヤで競合と戦っていかなくてはならない現状から、運用管理に手間のかかるITインフラを構築してしまっては競争上大きなハンディを背負うことになると考えるべきかもしれない。

 一方、クラウドサービス事業者やデータセンター事業者は、ITインフラ自体がビジネス上の競争優位となる可能性があるため、この場合は独自のインフラを設計/構築して運用管理の手間を払う価値はあると言える。しかし、多くの場合はIT部門の意識を変え、ITインフラのみならず、上位レイヤもカバーできる体制にシフトする必要性はやはりあるだろう。

仮想化が前提となるHCIのワークロードへの適応

 ストレージを含むITインフラの進化は、今後どの方向に向かっていくのだろうか。HCIを軸に考えてみる。

 HCIの本質的な特徴は、ソフトウェアを中核としたシステムになっている点だ。SDSということでストレージがソフトウェアで実現されているのは前述のとおりだが、コンピューティングの部分も仮想化技術の活用を前提としている(図5)。ワークロードが仮想化されていれば、ライブマイグレーションを使って稼働中のワークロードを別のノードに移動することが可能だ。逆に、それができなければノードを追加するだけでシステム拡張が可能というメリットを十分に生かせない。サーバー仮想化の活用はほぼ常識となった状況で、仮想化できないワークロードというはかなり少なくなってきているが、特定のハードウェアに依存するシステムなど、仮想化しにくいワークロードもまだ残っている。こうしたワークロードはHCI上で実行するには向かず、CIをオンプレミスで運用することになる。

図5:VMware Hyper-Converged Software(HCS)の核となるVirtual SANの概念図(出典:米ヴイエムウェア)

 また、ベンダーによって対応の幅に差があるものの、HCIは本質的にはコンピューティングとストレージのそれぞれのリソース量がある程度の範囲内でバランスがとれている場合に有効なシステムと言える。各社のコンポーネントをユーザーが自社の目的・ワークロードに応じて組み合わせてシステムを構築する場合、どんなバランスでも自由に設定できる。一方、HCIは自由度と引き替えに運用管理の省力化/シンプル化を実現していることもあって、バランスが想定範囲に収まる場合は問題ないが、そうでない場合はコスト効率が悪くなる可能性がある。

 さらに、仮想化されたITインフラ環境のパフォーマンスは近年目覚ましく向上しているものの、ある程度のオーバーヘッドが生じる可能性は依然として残る点にも注意を要する。現時点での最高レベルのハードウェアを持ってしてもギリギリというレベルの高性能を必要とするシステムや、リアルタイム処理のように一定時間内に処理が確実に完了することが求められるシステムの場合は対応できるかどうかを慎重に検証する必要がある。

 HCIの本来的なターゲットは、クラウド環境とほぼ同様だと考えてよい。システムリソースの必要量がダイナミックに増減し、将来のシステム規模の予測が難しい場合によく適合する。一方で、システム規模拡大のペースが一定で、将来のシステム規模が正確に予測できるような場合は、あえてHCIを導入する意味が薄い場合もありえる。

 デジタルトランスフォーメーションが話題に上る現在、ITの活用領域は急速に拡大しており、従来はITが関与しなかったさまざまな情報をデータ化し、解析することができるようになってきている。この数年で、モバイル、クラウド、ビッグデータ、AI/機械学習、IoTといった具合に注目のキーワードが次々と出現しているが、俯瞰で見ればこれらはみな同じ変化を違う切り口で観察した結果生まれた言葉だと言っても過言ではない。

 これまではITが関与するのが難しいとされてきた現実世界のさまざまな事象をいつでもどこでもデータ化できる基盤が整いつつあり、この基盤を前提にすれば、これまで将来の夢であった、高度な分析に基づく“人類活動の最適化”が実現に向かうと考えられる。その気になれば、現実世界のさまざまな動きをデータ化し、ビジネスに生かせるチャンスが生まれてきている。そのため、「データがない」のではなく、「どうやってデータを手に入れ、活用するか」を考えるべき状況になってきていると言えるだろう。

 何でもデータ化できると言っても、闇雲に取り組んでも成果にはつながらないのは言うまでもない。どのようなデータがあればよいのか、どうしたら欲しいデータを入手できるのか、そこから検討しなくてはならず、簡単とは言えないが、デジタルトランスフォーメーション時代を迎えつつある現在、広範な業種/業態でこうした取り組みを進めることが必要になってきている。

 ITインフラを考える上では、こうした大きな変化も踏まえておく必要があるだろう。単純に言えば、従来の企業情報システムをそのまま維持し続けるという発想ではなく、業務に必要な新しいデータを取得し、分析して活用するためのプラットフォーム構築という視点で新しい取り組みを始める必要があるということだ。

 ここで意識せざるをえないもう一つのポイントが、IT予算の割り振りだ。日本国内では特に、既存システムの維持管理にIT予算の大半が費やされており、競争力を高めるための新規プロジェクトに割ける予算がほとんど残らない、という問題が長年指摘され続けてきている。この問題に対する簡単な解決策はないわけだが、インフラのシンプル化/運用管理の省力化を実現できるHCIのような新世代のインフラを導入し、古いインフラを順次置き換えていくことが解決に向けた第一歩となるのではないだろうか。

実績の積み重ねで進むITインフラの世代交代

 HCIは、ハードウェアアプライアンス形態で長年提供されてきたストレージをSDSに置き換えることで成立した新しいITインフラだと言える。SDS自体がまだ普及の初期段階で、まだ様子見のユーザーも多いが、HCIの稼働実績が徐々に増えていることで、コアであるSDSも信頼を得て抵抗感が薄れていくという循環も起こり始めている。

 一方で、システム構築の現場では、仮想化環境での稼働に向かないワークロードやクラウドへの以降に適さないワークロードが少なからず存在する。オンプレミス、プライベートクラウド、パブリッククラウドといったITインフラの場所・形態をワークロードごとに適材適所で選ぶことで、コスト面や運用面、パフォーマンス面での最適化が可能になる。

 長期的には、技術の成熟に伴ってHCIの適用範囲が拡大し、よほど特殊な要件でもないかぎりオールラウンドに対応していく方向に向かっているのは間違いない。将来的にHCIが標準ITインフラとしての地位を確立し、一部の特別なワークロードにおいてのみ別の構成が残るという状況は十分にありえるだろう。

 そのうえで、現時点においてITインフラで重きを置いて考えるべきはやはり運用管理の負荷およびコストの軽減・削減だろう。IT部門の担当者の中には、豊富な技術知識と経験知から複雑なITインフラを自力で管理しきってみせることにやりがいを感じている人も少なからずいる。そうした“腕自慢”の担当者にとって、運用管理負担が軽い事前構成済みのシステムというのは割高に見えるかもしれない。

 しかし、今後はITインフラそのものがコモディティ化し、企業自体の競争力がアプリケーションやデータ活用のノウハウによって左右される状況が訪れるのは間違いない。やがて企業内のIT部門は大幅に体制を縮小し、IT人材の大半が事業部門でアプリケーション開発やデータ分析を担当するようになっている可能性も大いに考えられる。そうした変化を見越し、現時点で可能な準備に着手しておくことが重要ではないだろうか。

2020年、ハイパーコンバージド製品の構成比は36%に――IDC Japan調査

 国内のITインフラ市場全体で、ハイパーコンバージドインフラ製品はどのあたりに位置しているのか。IT市場調査会社IDC Japanが2016年12月6日に発表した国内コンバージドシステム市場予測の結果を確認してみよう。

 IDCはコンバージドシステム市場を、「インテグレーテッドプラットフォーム」「インテグレーテッドインフラストラクチャ」「ハイパーコンバージドシステム」という3つのサブマーケットに分類して調査を行っている。

 同社は、2015年の国内コンバージドシステム市場(支出額ベース)は422億3000万円で、翌2016年の同市場が479億9000万円になると予測。ここから、2016年の国内コンバージドシステム市場の前年比成長率は13.6%と見積もられている。サブマーケット別に見ると、インテグレーテッドプラットフォームが26.8%増、インテグレーテッドインフラストラクチャが18.1%減、ハイパーコンバージドシステムが128.1%増を見込んでいる。

 今後この市場は成長を続け、2020年の国内コンバージドシステム市場は804億6200万円になるとIDCは予測している。その場合、2015年~2020 年の年間平均成長率(CAGR:Compound Annual Growth Rate)は13.8%となる。

 また同社は、ハイパーコンバージドシステムが2020年の国内コンバージドシステム市場に占める割合は、2015年の9.4%から26.5ポイント上昇して35.9%になると見ている。

 「インテグレーテッドプラットフォームは、市場を牽引してきた製品の出荷が2015年は鈍化し前年比29.2%減だった。しかし、2016年上半期の出荷動向を見るとIDCが想定していたよりも大きな改善傾向を示した。今後も2016年上半期の改善傾向が継続すると見ている」(同社)

 逆に、インテグレーテッドインフラストラクチャについては、採用機会が減少している。トラディショナルIT(クラウド未導入)やエンタープライズプライベートクラウドの潜在需要を、パブリッククラウドサービスが代替するといった動きが、従来IDCで想定していたよりも加速しているという。これは、パブリッククラウドで採用されるシステムは、インテグレーテッドインフラストラクチャではなく、汎用的なx86サーバーをスケールアウトして構築されるケースが多い状況にあるためだ。

 IDCは、ハイパーコンバージドシステムはインテグレーテッドプラットフォームやインテグレーテッドインフラストラクチャが持つ導入メリットである「導入容易性」「導入工程の短縮」「システムの安定稼働」「ワンストップサービス」に加えて、「スモールスタート」「柔軟性/拡張性」といったメリットを併せ持っていると指摘。これらの特徴によって、相対的に導入規模の小さい企業や事業拠点、競争環境の変化が大きい業種/業態において採用が進むという。

 同レポートを担当した、IDC Japanエンタープライズインフラストラクチャマーケットアナリストの宝出幸久氏は次のようにコメントしている。

 「今後は、デジタルトランスフォーメーションによるアプリケーションの多様化や、ITリソースの拡張予測が立てにくくなることを背景に、ハイパーコンバージドシステムのメリットである迅速な導入、スモールスタート、拡張性といった点が評価され、国内での普及がさらに進むであろう」

 今回の調査内容について、IDCが発行したレポート「国内コンバージドシステム市場予測アップデート、2016年~2020年」(JPJ41771816)で詳細が報告されている。

図A:2015年~2020年の国内コンバージドシステム市場予測(出典:IDC Japan、2016年12月)