クラウド&データセンター完全ガイド:特集

デジタルの潮流で変わりゆくITインフラ構築・運用の着眼点

デジタル変革期のITインフラ[戦略と選択](Part 1)

弊社刊「クラウド&データセンター完全ガイド 2018年冬号」から記事を抜粋してお届けします。「クラウド&データセンター完全ガイド」は、国内唯一のクラウド/データセンター専門誌です。クラウドサービスやデータセンターの選定・利用に携わる読者に向けて、有用な情報をタイムリーに発信しています。
発売:2017年12月21日
定価:本体2000円+税

デジタルトランスフォーメーションの機運が、一部の先進企業のみならず、業種や規模を問わないかたちで高まりを見せている。そうした中、データの収集・格納・管理を司るITインフラはどうあるべきなのか。企業にとってのデジタルトランスフォーメーションの実質的な部分を確認した後、それに対応しうるITインフラを選ぶ際の着眼点を挙げてみる。 text:渡邉利和

あらゆる企業にとって課題となるデジタル変革

 デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation。DXと略される)という言葉がバスワード化している。DXはデジタル技術が社会のありようや人々の生活を根本的に変えていくといった意味で使われるが、以前から「IT革命」「インターネット革命」といった言葉があり、言葉の言い換えのようにも思える。以前との違いがあるとすれば、「直接影響を受けることはないと断言できる業種・業態がほとんど思いつかなくなってきている」というほどまで対象が拡大していることだ。

 例えば、IoTの普及を考えるとわかりやすいが、未来予測ではなく、現実の事象として「あらゆるものにプロセッサーが組み込まれ、インテリジェントな処理を行う」ことが可能になっている。だが、処理の仕組み自体は現実化していても、それをどう実際のビジネスや社会に生かしていくのかは、一般的なレベルではようやく取り組みが始まったところである。だからこそ、今日、市場を根本から変革するようなアイデアの競争が世界中で活発化しているわけだ。

 インターネット革命のトッププレーヤーとして、アマゾン・ドットコム(Amazon.com)やグーグル(Google)はあまりにも有名かつ巨大だが、同様にDXでもすでに有力プレーヤーが台頭して各市場を塗り替えている。例えば、タクシー業界の常識をひっくり返したウーバー(Uber)の名前は何度も聞いたことだろう。

 自然科学や工学の世界では「データに基づいた判断/意思決定」は前提だが、ビジネスの世界では必ずしもそうではなかった。データを集めること自体が簡単ではなかったという事情もあって、経験を積んだ担当者の勘や直感が意思決定の根拠となることが少なくなかった。

 しかし、例えばコンシューマー向けビジネスでは、インターネットを用いたECが一般化したことで、顧客がどこからECサイトにたどりついて、どのページをどんな順番で閲覧し、最後に購買に至ったか、それとも離脱したのかをデータ化できるようになっている。IoTの活用の中には、こうした顧客の行動履歴のデータ化をリアルな店舗でも行うことを可能にする取り組みがある。

 一例を挙げれば、店舗内に設置したビデオカメラの映像を解析することで、動線を視覚化したり、顧客がどの棚の前で立ち止まり、どの商品を手に取るかといった行動をデータ化したりすることで、売上げを大きく伸ばす手がかりがつかめるようになってきている。

拡大したITインフラの選択肢の適材適所を考える

 では、デジタル変革の時代にITインフラはどんな役目を果たすのか。

 ご存じのように、クラウドサービスがSaaS(Software as a Service)だけでなく、この数年で、IaaS(Infrastructure as a Service)やPaaS(Platform as a Service)のレイヤでも急速に発展した。かつて、企業のIT部門はオンプレミス(自社運用)のITインフラ、サーバーやストレージ、ネットワーク機器の設定やメンテナンスに多大な労力・時間を割いていた。それが今では、技術が成熟して使い勝手も向上したIaaSの採用によって、これまでITインフラの運用管理に要していた労力・時間を別の業務に振り向けることが可能になっている。

 今、IT部門が高い優先度をもって取り組むべきは、上述した店舗でのIoT活用例のような、従来は手段がなくてできなかった子細な顧客購買行動のデータ化および解析のような業務だろう。

 ただし、ここで留意すべきなのは、ビジネス向上のアイデアに沿ってデータ解析などのアプリケーションレイヤに着手するにも、肝心のデータそのものが質・量とも不十分な状態では、結局期待したビジネス成果は得られないということだ。

 また、データの種類や容量、データを取り扱うアプリケーションのワークロード、そのアプリケーションを稼働するための周辺環境なども重要な観点となる。それらを検討した結果、このシステムのITインフラはクラウドよりも、オンプレミスに置くほうが適しているというケースは間々あるし、コンプライアンスの観点から、オンプレミスあるいは日本国内のデータセンターに限定というケースもあるだろう(図1)。

 企業が扱うデータの種類、アプリケーションワークロードの数の多さから、ITインフラのゴールは、オンプレミス、プライベートクラウド、パブリッククラウドのハイブリッドITインフラとなることは本誌でも再三述べてきた。IaaSやPaaS、オンプレミスのITインフラを構成するソフトウェア/ハードウェアの親展、ハイブリッドITインフラの完成を見据えた統合運用管理の仕組みなど、着目すべき点は多々あり、日頃の情報収集が重要となるだろう。

 こうした変化に対応して、クラウドサービス/データセンター事業者の側も、従来型のインフラリソース提供特化型から、より上位層/付加価値型のサービス提供へとシフトしつつある。ユーザーにとって、オンプレミスの置き場所は、何も自社データセンター/サーバールームに限らないわけで、ホステッドプライベートクラウドやサイバーセキュリティ施策込みのマネージドサービスへの注目が高まっている。

図1:オンプレミスとクラウドの比較(出典:IDCフロンティア)