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設置スペースを圧迫するAI時代の電源システム、その最適解は単一ベンダーによるトータル設計にあり

AI(人工知能)のような計算負荷が高いワークロードが普及したことで、これら高性能なサーバーに電力を供給する電源システムへの要求が急速に高まっている。限られたスペースで、より多くのサーバーを動作させるため、電源システムには、省スペース、電力効率、短納期、メンテナンス性などが求められている。こうした要求に、シングルベンダーによるトータルシステムというアプローチで応えているのが、ファーウェイ・ジャパンの電源システム「PowerPOD」である。同社は電源システムの需要の高まりを受け、2024年2月22日にはPowerPODなどを紹介するセミナーも開催した。

 現在、AIをはじめとする計算負荷が高いアプリケーションのニーズが急増している。そのニーズに対応するために高性能なサーバーが使われるようになり、サーバーの設置面積あたりの消費電力も増えている。こうした中、限られたスペースを有効に使うため、これら計算資源に電力を供給する電力設備に対しても、省スペース化、効率化が求められている。

 ファーウェイ・ジャパンは、UPS(無停電電源装置)を中心に、データセンターのサーバーラックに電源を供給するために必要な電源設備一式を提供している。同社が現在、特に販売に力を入れている製品は2つある。1つは、データセンターに必要な電源設備一式をトータルでパッケージ化した電源システム製品「PowerPOD」(写真1)。もう1つは、屋内のフロアに設置することで簡易データセンターとして使えるモジュール型データセンター「FusionModule」である。

写真1:データセンターに必要な電源設備一式をトータルでパッケージ化した電源システム製品「PowerPOD」

 今回紹介するトータル電源システムのPowerPODは、データセンターのサーバーラックへの電源供給に必要な要素である、変圧器、低圧配電盤、UPSのバッテリー、UPSの入出力盤、引込線といった設備を組み合わせて提供するシステム製品である。

電源システムにマルチベンダーの弊害

 PowerPODの特徴を一言で表現すると、電源の供給に必要なほとんどの要素を、マルチベンダーではなくファーウェイ1社で提供すること。これにより、データセンターが電源設備に求める要求(省スペース、電力効率、メンテナンス性)に応えている。

 多くの電源システムは、各ベンダーが提供する製品の範囲が限られているため、複数のベンダーの機器を組み合わせて構成する必要がある。そのため発生する、いくつかの弊害があるとファーウェイは指摘する。「複数のベンダーが関わるため、製品の調達に時間がかかるほか、機器同士の接続など現地での設置作業にも時間がかかっていました。問い合わせ先も多岐にわたっていました」(デジタルパワー事業本部データセンターファシリティー&クリティカルパワー事業部ソリューション部部長の龍沢宏氏)。

 こうした電源システムは設計が個別最適化されているため、設備トータルでは設置面積がかさむという結果になることが多い。「電源設備にスペースをとられてしまうと、設置できるサーバーラックの台数が減ってしまいます」(龍沢氏)。

 例えば、サーバーラック1台の消費電力が4kW(キロワット)で済むのであれば、電源設備の設置面積とラックの設置面積の比率は1:4で済む。一方、サーバーの高性能化で1ラック8kWになると設置面積比は1:2に、AI用途など高負荷用途の16kWだと1:1になってしまう(図1)。

図1:IT機器の電力消費急増により、電力システムのスペースが大きくなり、 IT機器の収容場所はどんどん窮屈に

 他のベンダーの機器をつなぐと、与えた電力を無駄なく使うための電力効率が低くなることもある。経由する機器が増えると、電力の損失(ロス)が増える。さらに、ベンダーごとにスペックが異なるので、例えば変圧器と入力盤のスペックが違うと、スペックが低い機器に合わせないとならなくなるので、システム全体の足を引っ張ってしまう。

 マルチベンダーの場合、メンテナンスの負荷も大きい。例えば、障害の原因の特定に時間がかかる。個々のベンダーに特有の運用方法などがあり、覚えなければならないことも増えるので、ヒューマンエラーも起こりやすいといった課題も見られる。

トータル設計で課題を解消、設置面積は40%減

 ファーウェイのPowerPODは、そういった従来の電源システムが抱えていた課題を、シングルベンターによるトータル設計というアプローチで解決している。設置面積は、部品の一体化によって40%削減、電力のロスも60%削減している。納期も、プレハブ(事前組み立て)により、従来の2カ月から2週間へと短縮。センサーによるIoT監視によって、予測型の保守メンテナンスも実現した。

 中でも、省スペースであることは、電源設備に求められる第1の要求である。「電源設備の容量密度が高ければ、より多くのサーバーラックを設置できるようになります」(龍沢氏)。具体的には、2.5MW(メガワット)の電源システムを設置する場合、従来システムでは2列(奥行き2.6m)で22ラックのスペースを必要とするのに対し、PowerPODは1列(奥行き1.5m)で11ラックのスペースで済む(図2)。

図2:PowerPODと従来型電源システムにおける設置スペースの比較

 PowerPODが省スペース化を達成できている一因として、UPSが高さ3Uで100kW、1ラックあたり1MWという高密度であることが挙げられる。このほか、サーキットブレーカーや配電ラック、集中監視装置などの周辺設備についても、それぞれの工夫によって省スペース化を図っている。1500ラック(1ラックあたり8kW)の場合、従来の電源システムをPowerPODに置き換えることで、170ラックを追加で設置可能になるという。

 PowerPODであれば、電気も無駄なく使えるようになると指摘する。「従来の電源システムの電力効率は、最大で93~94%程度に止まります。つまり、5%以上の損失が生じるわけです。一方、PowerPODの電力効率は、ノーマルモードで最大95.6%と、1.6%増えます。さらに、エコモードでは最大97.8%にも達します」(龍沢氏)。

 12MWのデータセンター(1500ラック、1ラック8kW)のモデルケースでは、電源設備を1+1の冗長構成で使った場合、電力効率を94%から95.6%に1.6%上げるだけで、電源設備のライフサイクル期間全体で640万元(1億3000万円強)を削減できる(1kWhの電気料金を0.75元、約16円と仮定した場合)(図3)。

図3:PowerPODの電力効率。従来型電源システムよりも1.6%向上することで、12MWのデータセンターのモデルケースでは、電源設備のライフサイクル期間全体で1億3000万円強を削減できる

事前組み立てで現地設置作業を2週間に短縮

 PowerPODでは、製品の納期も短くて済む。まず、発注から製造までの期間が短くなる。日本のベンダーの場合、注文から出荷まで1年以上を要することが多いのに対し、PowerPODは注文から4カ月で出荷可能になる。

 さらに、現地での組み立て作業に要する時間も短い。従来の電源システムでは2カ月以上を要するが、PowerPODは一部を工場で組み立て済みの状態でオンサイトに持ち込むので、現場に持って行ってから約2週間で組み立てと設置が完了するという(図4)。

図4:プレハブ(事前組み立て)構造を採用することによって、現地での組み立て・設置時間を2週間に抑えることが可能になる

 組み立てにおいては、配線も時間がかかる作業の1つだ。従来の典型的な電源システムは、大量の配線ケーブルを現地で接続する必要がある、ケーブル1本の配線に20~25分かかる。ケーブルを手作業で加工して取り付けることから、精度にばらつきが生まれることもある。

 一方、PowerPODは、機器同士の接続に銅バーを使いつつ、機器内部の接続にも、事前設置済みの銅バーを使う。銅バー同士を接触させてボルトで固定するだけで接続できる。銅バーの接続に要する時間は1カ所3分以内である。配線ケーブルを廃した設計によって、オンサイトの構築は2週間で完了する。

 加えて、メンテナンスも容易である。モジュラー設計を採っており、中核部品はシステムを停止させることなくホットスワップ型で交換できるほか、システム全体を単一のGUI画面に可視化して集中的に管理できる。

 銅バーの各ポイントに温度センサーを取り付けてあり、24時間体制で常時温度を計測する。センサーデータで全回路の温度を検出することで、部品の寿命を予測して交換時期を提示する予兆検知型の保守も可能になる。「今後、予測のためのAI機能を導入する予定です。ファンやコンデンサの寿命が近付いて交換時期が来ていることなどを教えてくれるようになります」(龍沢氏)。

保守のスタイルも現代的に変換

 PowerPODは現在までに、グローバルで約2000セットの販売実績がある。ファーウェイ自身もユーザーであり、同社のパブリッククラウドサービスを含む7000以上のラックに電源を供給している。

 ファーウェイは、データセンターに必要な電源設備の規模の目安を示している。2.5MW(600kWのUPS 4台)のPowerPOD×1セットで、1500ラック(1ラック8kW)をカバーできる。「日本の従来のデータセンターは5MWや10MWが多いので、N+1で冗長化する場合、5MWなら3セット、10MWなら5セットで足ります」(龍沢氏)。

 PowerPODは、従来型の電源システムが抱えていた課題を解消するが、同時に、保守のスタイルも現代的に変える。「日本では、保守にあたって目視でメーターを確認しているユーザーが多いのが現状ですが、PowerPODはタブレットのGUI画面を介して各種のデータを見るスタイルです。このため、保守のスタイルががらりと変わる可能性があります」(龍沢氏)。

 ファーウェイ・ジャパンは2024年2月22日、データセンター事業者や建設会社などを対象に、ファーウェイ製品を紹介するセミナーを開催した(写真2)。セミナーでは、今回取り上げたPowerPODと、屋内向けモジュール型データセンターのFusionModuleの2製品について、その特徴と優位性を訴求した。

写真2: 2024年2月22日に開催したセミナーの様子。セミナーでは、トータル電源システムのPowerPODと、屋内向けモジュール型データセンターのFusionModuleの2製品を紹介した

 AIなど高負荷なコンピューティング需要が拡大している背景から、電源設備への関心は高まっており、セミナーは盛況を収めた。今後、生成AIのアシスタント機能が各種アプリケーションに組み込まれ、ビジネスパーソンが日常的にAIを使うようになると、さらに電源設備への要求が高まる。こうした要求に、同社はトータルシステムの強みを活かして応えていく。

<お問合せ先>
ファーウェイ・ジャパン
URL:https://digitalpower.huawei.com/jp/data-center-facility/
メール:energyjapan@huawei.com
製品ページ:https://digitalpower.huawei.com/jp/data-center-facility/product_solution/dce_intelligent_power_supply/