トピック
コンテナなど最新技術の積極活用でECパッケージ事業拡大の足元を固める
─少数精鋭企業グランドデザインのチャレンジ─
- 提供:
- 日本アイ・ビー・エム株式会社
2022年6月22日 09:00
2018年にオリジナルのECパッケージ「ec-design」の提供を開始し、存在感を強めているグランドデザイン。この事業を着実に発展させてきた背景にあるのが、クラウドおよびコンテナ技術の積極的な活用である。グランドデザインの代表取締役である原民輝氏とec-design開発のリーダーを務める谷村直也氏、そして同社のチャレンジをスタート時点から支援してきた日本IBMの藤井航氏と佐藤光太氏が語り合い、これまでの取り組みを振り返ると共に今後のec-designの進化を展望した。
コロナ禍を契機にECパッケージ事業が急拡大
名古屋市に本社を構え、設立(2005年)から17年目を迎えたグランドデザイン。グループ合計で従業員数50名ほどと決して大きくはないソフトウェア開発会社ながら、岐阜県大垣市に支店、さらに中国上海市に子会社を展開し、基幹系システムの受託開発、Web制作、CG制作などの事業を精力的に手掛けながら地歩を築いてきた。
そんな同社にとって大きな転機となったのが、2018年に開発した初のオリジナルECパッケージ「ec-design」のリリースである。商品選びから商品注文、決済といった買い物に必要な一連の流れに加え、顧客管理やプッシュ通知管理など、EC展開に必要となるであろう機能群をスマホ向けのネイティブアプリとクラウド(IBM Cloud)の各種サービスとの組み合わせで実装している。ポイントやクーポン、プロモーション、オンライントーク、サブスク、AIチャットボットなどのオプションも豊富なのが大きな特徴だ。
2020年以降のコロナ禍においては、人流を伴う経済活動が大きく制約を受けることとなり、EC事業に乗り出す企業が急拡大。そうした中でec-designは大きく注目されることとなった。グランドデザイン 代表取締役社長の原 民輝氏は、「食品メーカーやハウスメーカー、着物販売、薬局、スーパーマーケットなど幅広い業種のお客様に導入をいただいており、ユーザー数は30社を超えました。またec-designアプリについても、累計65万ダウンロード突破(2022年5月現在)しました」と語る。
単なるWeb上でのECではなく「アプリ」で展開できる点が、ec-designが脚光を浴びた理由の一つだという。ECアプリは一般的に、頻繁にショッピングを楽しむロイヤルカスタマーが愛用する傾向にある。EC市場が過熱しコンペティターも増える中で、優良顧客とより強くて深い関係性を構築・維持できることを期待して、アプリへの注目が高まったわけだ。もっとも、業種ごとにECに対するニーズは多種多様であるし、カスタマーエクスペリエンスを少しでも高めるには知恵や工夫を速やかに形にするスピード感が欠かせない。一筋縄ではいかない領域で、グランドデザインはいかにしてこの事業を軌道に乗せてきたのだろうか──。
藤井: ec-designの事業化を目指した当初から、クラウドを活用することは大前提だったのでしょうか。
原: はい。ECに参入するにしても、現実問題としてオンプレミスで数千万円といった大規模な投資を行える企業は限られますので、クラウドサービスに目を向ける傾向が強まっています。また開発を手掛ける私どもの事情というものもあります。目下のお客様は年商10億円から3000億円と幅広く、このように事業規模が300倍以上も異なるお客様に対して、基本的に同じサービスを提供できるのはクラウドならではの特性ですね。
藤井: ただ、世の中には多くのクラウドサービスがあります。そうした中でIBM Cloudを選んでいただいたのは、どんな理由からですか。
原: どのクラウドサービスを利用すべきか、正直迷っていたのも事実ですが、IBM Cloudの決め手となったのはIBM Cloud Internet Services(以下、CIS)です。お客様のECサービスでは大量の個人情報を扱うケースもあり、厳重なセキュリティが求められますが、他社クラウドではサーバー単位でセキュリティ対策を施さなければならならず、大変な手間とコストを費やしてしまいます。
これに対してIBM Cloudでは、ec-designのフロントにCISを立てるだけでDDoS攻撃やデータの盗難、ボット攻撃に対するアプリケーション保護を実現することが可能です。加えてグローバル・ロード・バランサーによってサービスの中断を減らすこともできるなど、CISのメリットは非常に大きいと考えました。
アプリケーションのリリースサイクルを迅速化
さらにグランドデザインの取り組みで注目すべきは、4年以上前にさかのぼるec-designの開発当初からIBM Cloud上でKubernetes Serviceを活用し、いち早くアプリケーションのコンテナ化を進めてきたことである。当時はまだコンテナは一般的な技術ではなく、相当な苦労を重ねてきたようだ。同社 システム事業部 リーダーの谷村 直也氏は、「社内にコンテナの知識を持っている技術者はおらず、しかもKubernetesに関する情報はほとんど英語で書かれたものばかりで、手探りの状態で調査を行ってきました」と振り返る。
佐藤: そうした苦労を乗り越えてもアプリケーションのコンテナ化を目指した背景には、谷村さんご自身のどんなモチベーションがあったのでしょうか。
谷村: コンテナ技術を調査する中で一番魅力に感じたのは、個々に分離されたアプリケーションの動作環境をイメージで管理できることです。要するに開発環境と本番環境の差を意識する必要がありません。実際にec-designの開発に入ってからも、ライブラリやミドルウェアのバージョンの違いを考慮しなくてよくなり、とても楽になりました。仮にKubernetes Serviceを使わずに仮想サーバー上でec-designを運用していたとしたら、新しいアプリケーションのリリースに合わせてライブラリやミドルウェアのバージョンアップが必要となり、本番環境を停止しなければならないなど、サービスに多大な影響を及ぼしていたかもしれません。
佐藤: Kubernetes Serviceを活用した効果として、たとえばアプリケーションのリリースサイクルはどれくらい速くなりましたか。
谷村: アプリケーションを本番リリースする際には、まず開発環境からテスト環境に展開し、そこで動作を確認した後に本番環境に持っていくという手順を踏むのですが、先に述べた通り、このすべての環境で同じコンテナイメージが動作するため、アプリケーションのリリースは非常にスピードアップしました。
新規アプリケーションについてはリリース前の審査があるため即日というわけにはいきませんが、実作業はその日のうちに完了します。また既存のアプリケーションの不具合対応やちょっとした機能改修については、運営側から連絡を受けて修正を行い、すぐに本番環境にデプロイするといった対応を1日の中で何度も行う場合もあります。
佐藤: アプリケーション開発者にとって、自分のコードを本番と同じ環境で素早く試せることはとても重要です。その意味でも、アプリケーションのテストやデプロイを待たずに行えるようになったのは画期的なことですね。
時代を先取りした新たな機能やサービスを積極的に具現化
コンテナ化によってアプリケーションのリリースサイクルのスピードアップという手応えを掴んだグランドデザインは、その成果をec-designを中心としたECパッケージ事業のさらなる強みに生かしていく考えだ。激しく変化していくECの世界でますます多様化していく顧客ニーズに素早く対応するとともに、グランドデザイン側からも時代を先取りした新たな機能やサービスを積極的に発信し、ec-designの進化を図っていこうとしている。
藤井: IBM CloudおよびKubernetes Serviceを活用することで得られた成果をもとに、今後に向けてどのようなビジネスへのチャレンジを考えていますか。
原: 従来の受託型システム開発では、システムのリリースは早くても半年から1年のスパンで行われてきました。しかしパッケージであるec-designでは、3~4カ月のサイクルで新しいアプリケーションをリリースしていきたいという思いがあります。
多くの機能を詰め込んで時間をかけてリリースするよりも、たとえ単機能であってもアジャイルに展開していくべきという考え方に基づくものです。結局のところどんなに熟慮を重ねて開発したアプリケーションであっても、お客様に使われないのでは意味がありません。できるだけ早いタイミングでお客様に提供して使っていただき、フィードバックを得て、素早いバージョンアップによって改善していったほうが、より良いアプリケーションになるというのが私の実感です。
藤井: コンテナ化に着目したのも、そうしたビジネスに対する社内的なフットワークを軽くしたいという思いがあったのですね。
原: おっしゃる通りです。率直なところ、すでに提供しているec-designでもお客様から個別に寄せられるたいていのカスタマイズ要件に対応することは可能です。ただそれをやりすぎてしまうとパッケージからどんどん逸脱していき、将来のバージョンアップも困難になっていきます。したがって可能な限りパッケージに寄せて使っていただくことを前提としなければなりませんし、そのためにもパッケージの機能をもっと充実させていくことが必要です。標準機能として組み込むか、オプションとして提供するかは別にして、豊富な機能の中から取捨選択することでお客様の業務にフィットするアプリケーションに育てていくことが今後の目標です。
藤井: たとえば今後どんなアプリケーションや新機能をリリースしていくお考えですか。
原: 経済産業省 中小企業庁によるIT導入補助金制度を受けて、これまでITの導入に後ろ向きだった中小規模の企業の間でもECパッケージ導入への機運が高まっています。そうしたお客様からの要望を受ける形で、2022年6月には新たにライブ配信機能をec-designに組み込んでリリースする予定です。
また、ある劇団のお客様からは座席予約やチケット販売の機能を提供してほしいというお話をいただいているほか、あるスポーツメーカーのお客様からは、サッカー選手がボールを蹴る際のフォーム分析を行うためのAI骨格解析モデルがほしいといった要望まで寄せられています。
藤井: 一見するとECパッケージとは関係のない機能も含んでいるように思えますが、それらもec-designのプラットフォームの中で検討していくのですか。
原: たしかに先に挙げた機能は、本来個別のカスタマイズや別製品として提供していくべきものかもしれません。実際に線引きも難しいのですが、私どもが自ら枠を決めてシャットアウトしてしまうのではなく、まずは全方位で多様な要望を受け止め、その機能がどんな形でECに役立つ可能性があるのか検討してみることが重要だと思っています。逆に言えば、そういった柔軟な姿勢でアプリケーションの展開を図っていかないと、ECパッケージのビジネスで生き残ることはできないという危機感を持っています。
受託開発に限界を感じ成長の新機軸を求める
デジタルテクノロジーの進化と普及の勢いは増すばかり。それらを上手くビジネスに取り入れて、自らの生産性や顧客にとっての利便性を根本から変えていくこと、すなわちデジタル変革(DX)を実現することは、多くの企業にとっての喫緊の課題だ。しかしそれは、新しいソリューションやサービスを活用するという表層的なアクションを意味するものではなく、原社長の言う「危機感」が象徴するように、自分たちはどのような方向を目指さなければならないかという確固たる想いが共存しなければ本質的価値には結実しないだろう。グランドデザインの「新しいことにチャレンジする精神」の根底にあるものは何なのだろうか──。
藤井: コンテナに代表されるような新しい技術を事業に貪欲に取り込んでいくことは、別の観点でとらえるとリスクをテイクしていくことになるかとも思います。そのあたりに迷いはなかったのでしょうか。
原: ソフトウェアの開発会社としてスタートした当社は、下請けや派遣などの事業からは一線を置いた「受託開発」で最初の礎を築いてきました。それでも労働集約型であることに違いはなく、このままではやがて限界が来ることは目に見えていました。生き残っていくためには「サービス」を提供できる企業にならなければなりません。
ただし今の世の中、3~5年先を読むのは簡単ではありません。これまで、OSS(オープンソースソフトウェア)をベースとしたCRM(顧客関係管理)パッケージを開発したり一般向けのゲームをリリースしたりと、色々と手掛けてきた中で痛いほど実感しています。それでも、挑戦し続けないと明るい未来にはたどり着けないのです。リスク承知で手を打ち続けたからこそ、やっとそのうちの一つのECパッケージが芽吹いたと言うことができます。
そのECパッケージも挑戦の繰り返し。お客様の層も多種多様ですし、ニーズも次から次へと寄せられます。それらに合理的かつ俊敏に応えるにはどうしたらよいかと知恵を絞った結果、コンテナをはじめとするクラウドネイティブ領域の技術へとたどり着いたのです。事例がまだ少なかった時期から取り組む上では、現場を仕切った谷村くんは苦労も多かったはずだけれど、それでも一つひとつ想いが形になっていくのはモチベーションにもつながったはずです。
藤井: 挑戦って言葉では簡単ですけど、実際にやり遂げるのって並大抵ではないですよね。
原: やはり何らかのモチベーションにつながる実感が必要ですよね。例えばなんですが、ネイティブアプリの開発や、そのバックエンドでのコンテナの採用など、新しいことを取り入れてきたことが奏功したのか、採用時にとても優秀な学生が門戸を叩いてくれるようになったのです。当社のアプリを使ってみて、開発元に興味を持ったという志望動機を聞くと嬉しくなります。しかも面接で「この機能を修正した方がよい」とか、「こんなサービスを追加した方が魅力が増す」といった意見をもらうこともしばしばで刺激的ですね。受託事業だけを続けていたら、こうはなっていなかったと思います。
佐藤: 技術面でいえば、ITインフラ環境を牽引している谷村さんはこれからどんなチャレンジをしていくのでしょうか。
谷村: クラシックインフラストラクチャではなくVPCインフラストラクチャでKubernetesを活用するといった眼前のチャレンジもあれば、CI/CDやマイクロサービスアーキテクチャを標榜していくなどの中長期的な展望もあります。とにかく現場サイドにおいても、机上論であれこれ悩むより、実際に使ってみて意にそぐわなかったら止めるといったフットワークが大切だと思います。それができるのもクラウドの良いところですね。
エンジニアにしてみれば新しいテクノロジーやメソドロジーに触れることは刺激のあることですが、お客様にとってベストなのかという視点を忘れてはいけないとも思っています。CI/CDがトレンドだから、どんどん自動化してリリースサイクルを上げていきましょうと言ったところで、お客様にその土壌が整っていなければ無理強いしてはいけません。技術ありき考えてはいけないのがECパッケージの事業です。
チャレンジすることが共創の求心力になる
ユーザー企業から様々なニーズやアイデアを聞き入れ、その実現に向けてはIBMにも協力を仰ぎながら歩を進めるグランドデザイン。そこにはまさに共創のトライアングルが着々と築き上げられているようだ。
藤井: お二人のお話を伺ってきて感じたのは、新しいサービスを創るのにテクノロジーはもちろん必要だけれど、人の想いや、人と人のつながりが大事だということです。
原: おっしゃる通りです。冒頭で、IBM Cloudを選んだ決め手はCISがあったからと申しましたが、それとは別に佐藤さんという信頼のおけるエキスパートがいたことは大きいですよ。こちらが実現したいことを相談すると、「この構成で大丈夫です」と理由も添えてその場で明確な返答をもらえるのは有り難いですし、安心感もあります。他のベンダーだったら、サポートセンターでたらい回しになることが珍しくありません。
谷村: 私も同感です。クラウドの世界は動きが激しく、最新動向をキャッチアップし続けるは簡単ではありません。そこにおいて、目的を達するためのサービスや、その組み合わせを的確にアドバイスしてくれるので心強い限りです。
原: そうしてサービスを提供する側のフットワークがよくなると、当然ながらお客様とのやり取りがスムーズかつスピーディーになります。問い合わせ対応のみならず、アイデアを出し合って、それを形にするまでのキャッチボールが素早くなるんですよ。まさに共創ですね。新しいことにチャレンジすることが、人と人とを結び付ける求心力になると実感しています。
藤井: その文脈においてはIBMも独自の取り組みを始めています。例えば、Kubernetes Serviceに限らずデジタル変革の中核となる幅広いコンテナ技術の活用を支援すべく、SIerや独立系ソフトウェアベンダーの皆様を対象としたコミュニティーとして、「コンテナ共創センター」を開設しました。本センターを通じても、今後のチャレンジに貢献できれば幸いです。今日は貴重なお話をありがとうございました。
<関連リンク>
・「コンテナ共創センター」コンテナ化事例紹介
・参加企業以外の方もぜひどうぞ「コンテナ共創センター勉強会」