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「日本企業のコンテナ活用を加速する」。技術者とユーザー、そしてIBMによるコミュニティー、この1年の成果と2年目のテーマとは
- 提供:
- 日本アイ・ビー・エム株式会社
2022年3月28日 09:00
DX推進を背景に、急速に広がる企業のクラウドネイティブ技術の活用。そのトレンドを支える技術の中核となるのが、コンテナによる仮想化だ。市場の変化のスピードに負けないITが求められる中で、特定のプラットフォームに依存せずにソリューションの開発からアップデート、需要に応じたスケールまでを迅速かつ柔軟に実現できるとあって、業種・業態を超えた多くの企業から注目が集まっている。そうした動きに応えて、日本IBMが2021年4月にスタートさせたのが「コンテナ共創センター」だ。コンテナ化の推進に取り組むISVやSIerのコミュニティーとして活動を続け、この4月で開設1年を迎える同センターのコンセプトや実績、今後の展望などを日本IBMの佐々木敦守氏に伺った。
コンテナを核に「共創」のためのエコシステム確立を目指す
コンテナ共創センターは、日本IBMが国内のISVやSIerを対象に、コンテナを始めとしたクラウドネイティブ技術の推進や、各社ソリューションのコンテナ化への支援を提供。さらに、共創の成果である製品のマーケティングや技術人材の育成、参加パートナー同士の交流やビジネスマッチングまでを支援している。単なる技術サポートや販促支援を超えた、コンテナに関心を持つ人々の「コミュニティー」として展開されている点が大きな特色だ。
コンテナ共創センター設立の背景には、IBMの掲げる「ハイブリッドクラウド & AI戦略」があり、そのテクノロジー面での中核となるのが、「ハイブリッドクラウド・プラットフォーム」と呼ばれるコンテナベースの技術基盤だ。ここにはRed Hatのコンテナオーケストレーターである「Red Hat OpenShift」を使った「Red Hat Hybrid Cloud Platform」が用いられている。ただし、コンテナ共創センターはIBMソリューションの利用を前提としたものではない。
コンテナ化されたソリューションは、IBM Cloudはもちろんのこと、AWS やMicrosoft Azureなどの他社のクラウド基盤、さらにはオンプレミスやエッジ環境のサーバー上でも稼働する。まさにIBM の目指す、ハイブリッドでオープンなクラウドネイティブソリューションだ。
市場や顧客のニーズが目まぐるしく変わり、次々に新しいビジネスモデルが生まれてくる現代では、「どこでも動く」「どんな環境でも動く」ことが、アプリケーションやサービスにも強く求められてくる。その点で、開発スピードが速く、ビジネス要件に応じて迅速に改修やアップデートが可能。スケールも容易でオープンなコンテナソリューションが、今後の主流になっていくのは間違いないと、日本IBM テクノロジー事業本部 クラウドプラットフォーム・テクニカルセールス部長の佐々木 敦守氏は語る。
「ソリューションを提供する側のISVやSIerはもちろん、ユーザー企業からもコンテナへの注目が急速に高まっています。一方で、なかなか技術の普及が追いつかず、まだまだハイパーバイザーを使ったVM(仮想マシン)でソリューション開発をしているISVやSIerは少なくありません。こうした方々に、自社ソリューションのコンテナ化の支援を通じて、クラウドネイティブ技術の活用に向けたコミュニティーを立ち上げようと考えたのです」
従来の販促を目的とした技術開発支援などとはまったく異なった、コンテナやクラウドネイティブを志すパートナーやユーザー企業のための、技術サポートや人材育成、そして交流の場をIBMが提供。そのコミュニティー支援を通じて、IBMもパートナーも、そしてユーザーも対等な立場で参加できる、「共創」のためのエコシステムを確立していきたいと佐々木氏は語る。
参加パートナー各社のスキル習得や人材育成をサポート
佐々木氏によれば、エンタープライズ領域におけるコンテナの導入事例は急速に増え続けており、現在、世界で2000以上の組織が、Red Hat OpenShiftを利用した画期的なアプリケーション製品を開発。市場での差別化推進と、ビジネス課題の解決を実現しているという。
「もはやコンテナは『最新技術』ではなく、当たり前のように世の中で使われるようになってきています。エンタープライズでも、最近は金融や製造業などの、シビアな非機能要件が求められる領域で次々に導入されています。たとえば銀行のスマホアプリなどは、顧客接点系のサービスなので、ひんぱんな仕様変更がありますが、そうした要求にも柔軟に対応して、開発サイクル全体を高速化できるコンテナのメリットが高く評価されています」
IDCの2021年の調査*では、企業におけるコンテナの導入は日本国内でも本格的な普及期に突入したと見られ、本番環境で導入済み、もしくは導入に向けた検証段階と答えた企業は40.2%に達しているという。すでに全体の4割が何らかの形でコンテナを実用化している事実に対し、IDCでは今後の需要の伸びにエンジニアの供給が追いつかなくなる懸念があり、ベンダーやSIer、ユーザー企業が、こぞって技術者の獲得・育成に取り組む必要があると指摘している。
*出典:2021年 国内コンテナ/Kubernetesに関するユーザー導入調査結果を発表 - IDC Japan(15 Apr 2021)
こうした人材育成も含め、コンテナ共創センターでは、参加メンバーのISVやSIerが主体的に学ぶ場として、さまざまなサポートを提供していると佐々木氏は言う。
「いちばん大きな柱となっているのが、コンテナ共創センター参加企業のソリューションをコンテナ化して市場展開するための技術支援です。センターにはクラウドネイティブ関連の技術エキスパートが複数常駐していて、参加パートナーのエンジニアとチームを組みながら、さまざまな技術面での助言やスキルトランスファーなどのサポートを提供しています」
一方的な指導で答えを教えるのではなく、IBM技術者との対話を通じて参加メンバー自身が考え、手を動かしながら自分たちに必要なスキルを習得していく点も大きな特色だ。
「そのために、毎月の勉強会やワークショップなども開催しています。ワークショップといってもいわゆる座学ではなく、IBMのコンテナ基盤を無償で提供して、これを IBMの技術アドバイザーと一緒に使いながら学んでいただくというものです。こうした『体験・共創型』のコミュニティーというスタンスが、参加された皆様からも高いご評価をいただいています」(佐々木氏)
活用事例:センターを活用して自社ソリューションをコンテナ化
センター開設から約1年。この間すでに、およそ60社がコミュニティーに参加してきた。その中で早くも「共創」の成果を挙げているパートナー企業3社の事例を、佐々木氏に紹介していただこう。
①システムリサーチ:画像認識 AIソリューションをコンテナ化
株式会社システムリサーチでは、製造業の現場などで使われる画像認識ソフトウェアである、SaaS 型画像認識 AI 開発システム「MODEWO(モデヲ)」をコンテナ化した。機密情報が含まれる画像をクラウドに上げたくないという要望に対し、オンプレミスでも容易に導入できるようにするためだ。当初は社内のスタッフだけでDockerやKubernetesを使って実装を試みていたが、色々な要因でコンテナ化をあきらめるところだった。同じ時期にコンテナ共創センターが発足したのを聞いて、早速コンテナ共創センターに協力を依頼した。
「社内だけで解決できない部分を、IBMの技術アドバイザーがフォローする形で参加しました。ここでディスカッションを進めていった結果、明確な開発方針が決まって実際の設計までのロードマップを策定できたと、先方様から感謝の声をいただき、大変嬉しく思っています」(佐々木氏)
・システムリサーチのAIソリューション
https://www.sr-net.co.jp/solution/product/#service-tag-ai
②セイコーソリューションズ:決済サービス接続ソフトの基盤にOpenShiftを採用
セイコーソリューションズ株式会社では、VMベースで決済サービスソフトウェアである「CAPS」を提供してきたが、スケールアップの作業に工数がかかっていた。そこでスケールの容易なコンテナ基盤への移行を決意。金融業務に必要な信頼性や保守サポートの多様性も考慮して、Red Hat OpenShiftの採用に踏み切った。アプリケーション部分のコンテナ化に加え、クラウドデータベースやオブジェクトストレージなどのクラウドネイティブな技術を採用して、クラウドのメリットを大いに享受しているという。
「もともとは自社でコンテナ開発に取り組もうとされていましたが、OpenShiftへの対応、日本IBMが提供する金融向け「デジタルサービス・プラットフォーム(DSP)」での展開も視野に入れ、コンテナ共創センターの技術アドバイザーが加わり、アーキテクチャ設計に関わる考慮点などをアドバイスさせていただきました。」(佐々木氏)
・カード自動決済パッケージ CAPS(セイコーソリューションズ)
https://www.seiko-sol.co.jp/products/caps/
③グローバルワイズ:中小企業共通EDI需要の増加を見すえてシステムをコンテナ化
株式会社グローバルワイズでは、これまでも中小企業向け共通EDIシステム「EcoChange」をVMベースで提供してきた。近年、制度変更などを背景に、共通EDIシステムのユーザーが大幅に増加してきたため、負荷に応じて柔軟にスケールアップでき、なおかつ高可用性を担保できるインフラへの改修を決定。IBM Cloudのマネージドサービスを組み合わせて、システムをリニューアルした。
「社内にクラウドネイティブ技術者が、ほとんどいない状態でのスタートでした。このため個別相談会を通じてコンテナ/Kubernetes 関連のスキルアドバイスをさせていただきました。単にソリューションをコンテナ化するだけでなく、SaaS型で提供するために必要な技術を習得いただく上で、当センターのリソースをご活用いただきました」(佐々木氏)
・グローバルワイズ「EcoChange」
https://www.ecochange.jp/
2年目はユーザー参加を念頭に、多彩なプログラム提供を目指す
2022年4月から、開設2年目に入るコンテナ共創センター。佐々木氏は、新年度の活動コンセプトとして、以下の4つを柱にした重点施策を推進する。
①Windows コンテナの市場浸透
コンテナ共創センターの新しいプログラムとして、「Windows Container Porting Program」を、2022年4月から開設する。国内のSIerやISVのソリューションでは.NET Frameworkアプリケーションが主流で、海外と比べてもWindows アプリケーションの比率が高いと言われている。これらのコンテナ化を進めるサポートを望む声が、パートナーからも寄せられていた。
「これをコンテナ化できれば、軽量で可搬性も高いアプリケーションに生まれ変わります。また開発サイクルの高速化や運用の効率化も実現して、クラウドネイティブに対応できるようになります。その推進のために、この新しいプログラムを考えました」(佐々木氏)
②エンタープライズ向けコンテナの拡大
金融や製造業のような、シビアな要件に対応できるエンタープライズ向けコンテナソリューションを増やそうという試み。具体的には、パートナーとの共創で開発されたソリューションを、コンテナ共創センターのソリューションカタログに登録して、IBM としてプロモーションしていくというものだ。
「ここで成功したパートナーを、Red Hatのパートナープログラムにつなげていくというもう一つの活動も考えています。もともとIBMコンサルティングが推進するIndustry SaaSのポートフォリオなどに、当センターで開発されたパートナーのソリューションを組み込んでいくのを支援するのがねらいです」(佐々木氏)
③ユーザー系企業の参加拡大と新規ビジネス創造
センター開設からのこの1年は、参加企業の9割近くがISVやSIerだったが、2年目からはユーザー企業にも積極的な参加を呼びかけていく。
「現在さまざまなユーザー企業が、ITの内製化やクラウド人材育成、アジャイル開発などにチャレンジしています。それらのニーズに、センターに参加しているISVやSIerを引き合わせるビジネスマッチングの場を提供し、双方にメリットのある形で新規ビジネス創出に貢献したいと考えています」(佐々木氏)
④クラウドネイティブ教育プログラムの充実
コロナ禍の影響もあって、センター開設以来フルリモートで毎月開催している勉強会を、より体系的なクラウドネイティブプログラムとして提供していく。
「いままでの教育プログラムは、講師がレクチャーする一方通行型のコンテンツだけで、そこを個別コンサルティングで補っていたわけですが、今春からはユーザー参加を念頭に、ハンズオンや2ウェイの勉強会なども企画中です」
こうした勉強会以外にも、2年目はコミュニティー参加者により満足してもらえるような企画を数多く展開していきたいと意欲を語る佐々木氏。コンテナやクラウドネイティブ関連のスキルアップや人材育成を検討している企業は、コンテナ共創センターに、ぜひ注目してみてはいかがだろう。
<関連リンク>
・IBM Cloud Blog 『Windows Container Porting Program いよいよ始動します!』
・コンテナ共創センター