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国産ベンダーからAMD製CPU搭載サーバーが“復活” 富士通とAMDが語る第2世代EPYCの価値とは

 「AMDはサーバー市場に帰ってきた」――。

 これは米国サンフランシスコ市で2019年8月7日(現地時間)に行われたAMDの記者会見で、同社 社長兼CEOのリサ・スー氏が、詰めかけた報道関係者、業界関係者を前に語った言葉の1つだ。

 その言葉の通り、AMD製のCPUをサーバーに採用するベンダーが順調に増えてきたが、2019年11月には、富士通株式会社が、最新のサーバー向けCPU「第2世代EPYC(AMD EPYC 7002シリーズ)」を搭載したデータセンター向けのサーバーを販売開始した。

 今回は、第2世代EPYCと、それを搭載した「FUJITSU Server PRIMERGY LX1430 M1」(以下、LX1430 M1)の特長に関して、富士通株式会社 システムプラットフォーム事業本部 本部長代理 牧雄治郎氏、日本AMD株式会社 代表取締役 林田裕氏にお話を伺ってきた。

最新のCPUアーキテクチャでサーバー市場に再度挑戦

 AMDのサーバー事業は、2000年代の半ばに、競合他社に先駆けて64ビット命令セット(AMD64ないしはx64と呼ばれる)を導入したことでテクノロジーリーダーとなり、一時はサーバー市場で3割近くを占めるほどの成功を収めた。しかし、2010年代の半ばには、製品がロードマップ通りに出ないなどの苦しい時期を迎え、シェアを減少させる形となってしまっていた。

 そうしたなかでAMDは2017年、新世代のサーバー向けCPU「EPYC(エピック)」の第1弾、「Naples(ネイプルス、開発コード名)」を発表し、反撃の第一歩を記している。この初代EPYCは、「Zen(ゼン)」という開発コード名で知られる新世代のCPUアーキテクチャを採用しており、性能で競合他社に追いついたと話題を呼んでいた。

 そして2019年8月7日の発表会で発表されたのが、開発コード名「Rome(ローマ)」で知られる第2世代のEPYCで、AMDは公約通り、競合他社を上回る最先端のプロセスルール「7nm」に基づいた新製品を発表し、大きな注目を集めた。

 そうした第2世代EPYCは、国内のサーバー市場でも大きな注目を集めており、11月には日本の大手サーバーベンダーである富士通が、第2世代EPYCを搭載した「FUJITSU Server PRIMERGY LX1430 M1」を発売。TCO削減に役立つサーバー製品として、注目を集める製品となっている。

FUJITSU Server PRIMERGY LX1430 M1

第2世代EPYCの特長と優位点

 第2世代EPYCは、2017年に発表された初代EPYCの後継となる製品だ。

 初代EPYCは、大きく2つの特徴を持っていた。1つは前述の通り、Zenと呼ばれる新設計のCPUマイクロアーキテクチャを採用したことだ。Zenでは、それまでのAMDのCPUマイクロアーキテクチャの特徴だった、“省電力ではあるものの性能で競合に負けている”という点を払拭。省電力かつ競合に負けない性能を実現している。

 これを証明するように、Zenマイクロアーキテクチャを採用したデスクトップPC向けの製品「Ryzen(ライゼン)」は、性能にこだわる自作PCユーザーやPCゲーマーからの人気を集めており、競合他社のシェアを奪い続けるほどの好調さを維持している。

 2つめは、革新的な「チップレット・アーキテクチャ」と呼ばれるダイスタッキングの技術を採用していたことだ。詳細は省くが、初代EPYCではこれを利用し、4つのダイを1つのサブストレート上に搭載可能にしていた。1つのダイでは8つのCPUコアを実現しているため、CPUパッケージとしては最大32コアのCPUを実装できた。

 同時期にIntelが販売開始した初代Xeon Scalable Processors(開発コード名:Skylake-SP)は、最大28コア製品までの提供となっており、初代EPYCの方がより多くのCPUコアを実装できたため、性能競争で優位に立てたのだ。

 第2世代EPYCはさらに、この2つの優位点が強化されている。CPUのマイクロアーキテクチャは、Zenをさらに進化させた「Zen 2」へと強化され、従来のZenの弱点と言われ続けてきた、シングルスレッド時の性能が引き上げられている。

 そしてチップレット・アーキテクチャも第2世代となり、従来は4つまで搭載できていたCPUダイが、倍の8つまで搭載できるようになった。1つのダイあたり8つのCPUコアを搭載できることは変わっていないので、CPUパッケージ全体では8ダイ×8個=64コアのCPUコアを実現可能になっている。

 現状、競合となるIntelの第2世代Xeon Scalable Processors(開発コード名:Cascade Lake-SP 以下、第2世代Xeon SP)では、1ソケットあたりの最大コア数は28コアとなっているため、AMDはその倍以上のコアを1ソケットで実現していることになる(※1)。

【※1】

第2世代Xeon APでは、BGAパッケージあたり56コアを実現した製品が1つ用意されているが、マザーボードに直付けの状態でしか提供されないので、ソケット形状になっている56コア製品はない。

 また第2世代のチップレット・アーキテクチャでは、IOD(I/O Die)と呼ばれるI/O専用のダイを1つ搭載可能になっている。これにより、各部分の機能も強化された。

 CPU間、そしてCPUとIODを接続するインターコネクト「Infinity Fabric」の通信速度は、第1世代EPYCの10.7GT/秒から18GT/秒に引き上げられており、パッケージ内でダイの数が増えたことに対応している。

 またPCI Expressの世代も、従来世代のPCI Express Gen 3から、PCI Express Gen 4へと1世代進化している。Gen3では片方向で8GT/秒だったのが、Gen4では倍の片方向で16GT/秒と倍になっている。このため、同じレーン数であれば帯域幅が倍になる。第2世代EPYCではシングルソケット時に128レーン、2ソケット時には最大162レーンを実装できる。

お客さまのTCO削減に貢献する

 AMDがこうした強力な第2世代EPYCをリリースしたことで、サーバー市場は大きな変革期を迎えている。

 従来はIntelベースの製品だけを提供してきたサーバーベンダーも、AMDベースの製品をラインアップに加えているのだ。これまでのAMDの発表会では、HPE、Dell EMC、Lenovoといったグローバルなサーバーベンダーや、Amazon、Microsoft、Googleといったパブリッククラウド事業者などが採用を明らかにしており、AMDのプロセッサを採用する動きが再び急になっていた。

 そして、国内のサーバーベンダーも、そうした動きを急速に見せ始めている。その1番手となったのは、日本を代表するサーバーベンダーの1つである富士通だ。

 富士通は2019年11月、LX1430 M1という1Uラック型サーバーを発表し、提供を開始している。第2世代EPYCを1基搭載できるほか、16のメモリソケットが用意されており、16~512GB(将来1TBまで拡張予定)のメモリを搭載可能。SATAインターフェイスのドライブベイを8つ、PCI Expressインターフェイスのドライブベイを2つ備えているので、SATAのHDD/SSDを8つ、NVM ExpressのSSDを2つ搭載することができる。

 富士通の牧氏は、「日本のお客さまのニーズの多くは、より最適化された仮想化環境です。われわれは常に、最適なサーバープラットフォームというのは何なのかを、ベンチマークを繰り返しながら検討してきました」と話す。

 その上で、「もちろん、マジョリティのIntelプラットフォームは押さえながら、新しい選択肢として第2世代EPYCはどうかということを検討してきましたが、採用の決め手となったのは、1ソケットでも、既存の2ソケットサーバーと遜色(そんしょく)ない性能が出ているということです」と説明。第2世代EPYCを採用した決め手が、第2世代チップレット・アーキテクチャにより、1ソケットサーバーでも、Intel製CPUを搭載した2ソケットサーバーより多いCPUコアを搭載できていることだと指摘する。

富士通株式会社 システムプラットフォーム事業本部
本部長代理 牧雄治郎氏

 というのも、サーバーの導入を検討する企業が何よりも重視していることは「TCO(Total Cost of Ownership)」だからだ。

 TCOというのは、IT機器を導入するときに企業が導入している指標の1つで、そのIT機器を利用する上でかかるコストの総計となる。サーバーのハードウェアの購入にかかる初期導入費用はもちろんのこと、ソフトウェアのライセンス料、メンテナンスコスト、そしてサーバーを設置しておくデータセンターでかかる電気代や地代など、すべてのコストの合計がTCOとなる。

 同じ性能であれば、TCOが安ければ安いほど効率よくデータセンターを運営できるので、どの企業でもTCOの観点からサーバープラットフォームを評価している。

 牧氏は、「例えばソフトウェアのコストという観点で考えると、VMwareのような仮想化ソフトウェアのライセンス料はソケット単位でかかってきます。第2世代EPYCは最大64コアを1ソケットで実現でき、高い性能を提供できるので、ライセンスのコストを抑えられるのです。また64コアのCPUでも、従来の32コアのCPUと同じ消費電力で利用できますから、設置スペースと電気代を抑えることも可能です」と述べ、同社の顧客が第2世代EPYCとLX1430 M1を評価している点は、まさにそうしたTCOの削減にあると説明した。

 そして牧氏は、それと同時に、7nmという競合他社を上回る最先端のプロセスルールを採用していること、さらには第2世代チップレット・アーキテクチャの採用により、PCI Express Gen 4に対応していて、I/O周りが充実していることも、第2世代EPYCを採用するメリットとして挙げた。

 特にPCI Express Gen 4に対応していることは、「データ伝送高速化によるアプリケーション処理能力向上で、過剰なサーバー設置の抑制につながることを意味しており、こちらもTCOの削減に役に立つと考えています」(牧氏)という。

最先端7nmプロセスルールで製造されることで、同じ消費電力の枠で2倍のCPUコアを実現

 こうした富士通側の評価に対して、日本AMDの林田氏は「牧氏がEPYCの良いところを説明してくれたが、AMDとしては厳しい時期があり、製品が本当に予定通り出るのか、と考えられていた時期がありました。しかし、初代EPYCを出し、今回の第2世代EPYCをロードマップ通りに出荷できたことで、お客さまからも再び注目をいただけるようになりました」とアピールする。

日本AMD株式会社 代表取締役 林田裕氏

 林田氏自身も認めるとおり、2000年代後半にOpteronが成功した後、2010年代の前半は製品が予定通り出せなかったこともあって、徐々に採用例が減少していく“冬の時代”だった。

 しかし初代EPYCの登場により、状況は大きく変わった。AMDのテクノロジーリーダーシップが再び注目される時代が来たのだ。しかも第2世代EPYCの製造に利用されている7nmのプロセスルールは、Intelが第2世代Xeon SPの製造に利用している14nmプロセスルールよりも進んだ製造技術になる。

 AMDがAthlon MPでサーバー向けプロセッサ事業に参入してから2017年の初代EPYCまで、AMDが先に、進んだ製造技術で製造される製品を市場へ投入した例は1つもなかった。それが今回の第2世代EPYCでは覆されたのだ。これはまさに、歴史的なターニングポイントといえる。

 林田氏は、「製造技術が格段に進化したことで、消費電力としては同じ枠の中で倍のCPUコアが入っています。このため、大きなTCOの削減につながると、お客さまに注目いただけました。そうしたなか、日本で大きなシェアを持ち、ブランド力も、長い歴史もある富士通に採用いただけたことは、AMDのサーバービジネスの発展に大きく寄与すると考えています」と述べ、富士通の製品に再びAMDのプロセッサが採用されるようになったことは、AMDのサーバービジネスにとって後押しになると述べた。

 社会環境やさまざまな要因から、日本のエンタープライズやサービスプロバイダーは、サーバーのリプレースには保守的にならざるを得ない状況にあると聞く。このため、これまでIntelベースの製品で問題がなかったものをAMDベースの製品に変えるにはそれなりの理由が必要になるし、そうした事情もあって、初代EPYCではなかなか導入が進まなかったと林田氏は説明する。

 しかしEPYCも第2世代となり、“それなりの理由”となる性能向上やTCO削減といった効果がわかりやすく示せるようになったことで、「お客さまの引き合いは多くなっています」(林田氏)とのこと。局面は大きく変わりつつあるのだ。

競争こそがイノベーションを生む

 また、富士通の牧氏は「選択肢が1社しかない状況ではなく、さまざまなプレイヤーが市場にいると、技術の革新も速くなるし、お客さまにとっては価格の調整もできるようになる。その点で、AMDが競争力のある製品を持って市場に帰ってきたことは歓迎したい」と述べ、サーバーベンダーだけでなく、顧客への価値という面も含めて歓迎していると説明した。

 IT業界の歴史を振り返ってみると、イノベーションを生むのは常に「競争」の結果なのだ。

 AMDがIntelに先駆けて、メモリコントローラをCPUに統合した製品を出した2000年代前半、また64ビット(AMD64/x64)のプロセッサを投入した2000年代後半などには、IntelもAMDに負けじと良い製品を投入してきた。しかし逆に、AMDがIntelに置いて行かれることが目立った2010年代前半は、Intel自身も停滞が否めない状況にあったといえる。

 その意味で、両社が今後、技術的なイノベーションを加速していけば、その果実を得るのは言うまでもなくエンドユーザーとなる。

 なお、今後のAMDに期待することについて、牧氏は、「当社では、HPC市場向けの製品を検討しています。AMDのプロセッサに対応するソフトウェアソリューションを揃えながら、PCクラスター製品などが強化できれば」と述べ、HPC向けの製品を開発していきたいとした。

 これを受けて日本AMDの林田氏も「CPUを利用したマシンラーニング(機械学習)の市場は伸びています。AMDはオープンソースでソフトウェアを提供しており、今後はそうしたソリューションをさらに充実させていきたいですね」と話す。

 将来的には、エッジサーバーなど、今後立ちあがる市場向けの製品を充実させていきながら、富士通のようなサーバーベンダーと協力して、より充実した製品展開を目指すと将来の展望を説明した。

富士通の牧雄治郎本部長代理(右)と、日本AMDの林田裕代表取締役(左)