特別企画

CiscoとNetAppの技術者に聞く、統合インフラソリューション「FlexPod」の技術動向とその優位性【前編】

 企業のIT環境が、初歩的なサーバー仮想化のフェーズからプライベートクラウドへと歩みを進めている中で、その土台としてベンダーによる動作検証済みの「統合インフラ」が注目を浴びている。近年では、多くのベンダーがさまざまな統合インフラを手がけているが、こうした数ある統合インフラの中でも草分け的な存在が、CiscoとNetAppによるソリューション「FlexPod」である。今回は、FlexPodに携わる両社の担当SEに、FlexPodの技術動向と統合インフラとしての優位性を伺った。

本稿を執筆するにあたって取材に協力してくださった、シスコシステムズ合同会社 ソリューションズシステムズエンジニアリング データセンターソリューション システムズエンジニアの畝髙孝雄氏(写真左)と、ネットアップ株式会社 システム技術本部 コンサルティングSE部 コンサルティングシステムズエンジニアの大野靖夫氏(写真右)

統合インフラの導入によってオンプレミス環境の俊敏性を飛躍的に高める

 企業は、現状のビジネスだけでなく、これから現れる新しいビジネスチャンスに対しても迅速に対応できるITインフラを必要としている。そして、ITインフラの運用コストをできる限り削減し、イノベーションのための投資へと振り向けていきたいと考えている。

 近年では、ビジネスの俊敏性を高めるために外部のクラウドサービスを活用する企業が増えているが、運用コストやセキュリティポリシーの兼ね合いから、自社のオンプレミス環境(プライベートクラウド)と外部のクラウドサービス(パブリッククラウド)を適材適所で使い分けているケースがほとんどだ。

 ただし、オンプレミス環境は、自社が必要としている機能や構成を柔軟に組み上げられるというメリットが得られる反面、土台となるハードウェアや基盤ソフトウェアの導入が必要なために、外部のクラウドサービスと比べるとどうしても俊敏性に欠ける。そこで注目されているのが、ベンダーによる検証済みのシステム構成がとられた「統合インフラソリューション」だ。

 自社のオンプレミス環境に統合インフラソリューションを取り入れることにより、インフラの構築期間を大幅に短縮でき、自社のニーズに最適化されたプライベートクラウド基盤を外部のクラウドサービスに近いスピード感でサービスを立ち上げられるようになる。

 ネットアップ株式会社 システム技術本部 コンサルティングSE部 コンサルティングシステムズエンジニアの大野靖夫氏は、統合インフラソリューションが注目されている背景を「単なる仮想化の時代からクラウドの時代へと移行していく中で、プール化された潤沢なリソースから必要な量のリソースを確保し、その上でシステムを迅速に立ち上げるというクラウドならではの利用形態にユーザー自身がかなり慣れてきています。当然、オンプレミス環境に対してもパブリッククラウドのような俊敏性や使い勝手を求めるようになり、その結果として統合インフラソリューションが注目され始めたのです」と説明する。

FlexPodの原型は2009年に提唱され始めた「Imagine Virtually Anything」

 現在では、世の中のニーズを受け、多くのベンダーから多種多様な統合インフラソリューションが提供されている。こうした数ある統合インフラソリューションの中でも草分け的な存在となるのが、CiscoとNetAppの協業によって生まれた「FlexPod」だ。

 FlexPodという名称でソリューションを展開し始めたのは2011年からだが、その原型は2009年に提唱されたビジョン「Imagine Virtually Anything」にまでさかのぼる。Imagine Virtually Anythingでは、コンピューティング、ネットワーク、ストレージのレイヤにまで仮想化の範囲を広げた仮想ダイナミックデータセンター(VDDC)の重要性を説き、Cisco、NetApp、VMwareの3社からVDDCを実現するソリューションが提供された。

 当時、3社が共同で手がけていたのは、サーバー、ネットワーク、ストレージのレイヤがテナントごとにきちんと分離されたセキュア・マルチテナント・ソリューションである。また、各社の製品を単純に組み合わせただけでなく、テストや検証も共同で実施することにより、Cisco Validated Designにも認定されていた。こうした3社によるセキュア・マルチテナント・ソリューションは、まさしく統合インフラソリューションの先駆けといえよう。

 その後、3社の技術サポートを統合していく動きとなり、VMwareをベースとする検証済みのデータセンターソリューション「FlexPod for VMware」が誕生した。また、FlexPodはVMwareとの組み合わせにとどまらず、さまざまな用途に対応するインフラとして展開していけるという判断から、現在ではCiscoとNetAppの2社によるソリューションとなっている。

 シスコシステムズ合同会社 ソリューションズシステムズエンジニアリング データセンターソリューション システムズエンジニアの畝髙孝雄氏は、FlexPodの歩みを「FlexPodが登場した当初は、迅速に導入・拡張できる点やセキュアなマルチテナント構成をとれる点など、共有ITインフラをきちんと作り上げることに重きが置かれていました。しかし近年では、単なるハードウェアの相互運用性にとどまらず、ソフトウェアとの高度な連携も重視されるようになりました。また、CiscoのACI(Application Centric Infrastructure)やUCS Director、NetAppのOnCommand管理ソフトウェアなど、インフラを提供する立場から考え出された管理ソフトウェアも拡充していくことにより、統合インフラをサービス化するという視点で、さらなるブラッシュアップが図られています」と語っている。

FlexPodの歩み(出典:CiscoとNetApp から提供を受けた資料より)。FlexPodという名称でソリューションを展開し始めたのは2011年からだが、その原型は2009年に提唱されたビジョン「Imagine Virtually Anything」にまでさかのぼる。2011年以降は、さまざまな仮想化ソリューションおよびアプリケーションを組み合わせたFlexPodソリューションを拡充しつつあるほか、両社の新しいテクノロジを積極的に取り込むことで、FlexPod自体の完成度も着実に高めてきている。

パートナーとのアライアンス締結によってサポート窓口を一本化

 FlexPodは、Cisco Unified Computing System(UCS)サーバー、Cisco Nexusスイッチ、NetAppのストレージ製品(NetApp FASシステムもしくはNetApp E/EFシリーズ)から構成されている。また、業界をリードするアライアンスパートナーとも強固な関係を築くことで、仮想化ソリューションやアプリケーションといったソフトウェアを含めた形でインフラをトータルに展開していくことが可能だ。

 数ある統合インフラソリューションを分類するなら、FlexPodは複数のベンダーがそれぞれの製品を持ち寄って生まれたマルチベンダー系のソリューションにあたる。マルチベンダー系は、FlexPodのほかに、CiscoとEMCの連合によるVblock(統合インフラ)やVSPEX(リファレンスアーキテクチャ)が挙げられる。

 こうしたマルチベンダー系に対するのが、1社のみの製品で構成されたシングルベンダー系の統合インフラだ。シングルベンダー系は、IBM、HP、Dell、富士通、日立、NEC/Lenovoなど、サーバー、ストレージシステム、ネットワーク機器のすべてを手がけている総合ITベンダーならではのソリューションである。

 シングルベンダー系はサポートの一元化、マルチベンダー系はbest of breed(各社のベストな製品を組み合わせること)をそれぞれの強みとしている。

 まず、サポートに関してだが、マルチベンダー系の場合、構成されるコンポーネントごとに別々のベンダーからサポートを受けなければならないことが指摘される。しかし、CiscoとNetAppによれば、FlexPodはこれに当てはまらないという。

 大野氏は、FlexPodのサポート体制に関して「FlexPodのエコシステムは、Cisco、NetAppに加え、数多くのアライアンスパートナーによって構成されています。最近では、CitrixとMicrosoftが新たなパートナーとして加わり、Cisco、NetApp、VMware、Red Hat、Citrix、Microsoftによる共同サポートラボを立ち上げています。同時に、企業間のエスカレーションを必要とするケースでも窓口をひとつに統一し、迅速に解決策を提示できる体制を整えています。マルチベンダー系だからサポート窓口がバラバラになるという指摘は、FlexPodには当てはまらないのです」と力説する。

FlexPodのエコシステムは、Cisco、NetAppに加え、数多くのアライアンスパートナーから構成される。また、サポートの窓口も統一し、シングルベンダー系に匹敵する一元的なサポート体制を築いている点も大きな特徴だ(出典:CiscoとNetApp から提供を受けたFlexPod Day 2015のプレゼンテーションマテリアル、以下同様)。

システム構成の自由度が高いリファレンスアーキテクチャを採用

 次にbest of breedに関してだが、シングルベンダー構成とマルチベンダー構成(これが世間一般でいうところのbest of breedな構成)のどちらが優れているかについては、統合インフラだけでなく、ITシステム全般で問われている永遠の課題だ。

 正直なところ、単一のベンダーがサーバーもストレージシステムもネットワーク機器もすべて最良のものを発売してくれているなら、これらを組み合わせた統合インフラが理想なのはいうまでもない。しかし、顧客のニーズは思いのほかに多種多様であり、シングルベンダー構成では必ずしもすべてのニーズを満たしきれないのが実情だ。

 FlexPodは、CiscoとNetAppが提供する豊富な製品ラインアップからコンポーネントを自在に組み合わせられるようにすることで、シングルベンダー系では満たしきれないニーズにも積極的に対応していこうとしている。

 畝高氏は、両社がタッグを組んでいる強みを「Ciscoのネットワーク製品が世界の市場で古くからNo.1であることはよく知られていますが、Cisco UCSサーバーも、x86ブレードサーバーの市場シェアで北米No.1を獲得するまでに成長を遂げています。また、NetAppに関しては、Data ONTAPがストレージOSで世界シェアNo.1となっています。このように、個別の製品としても高い評価を受けている両社の製品を組み合わせて、さらに高い価値を生み出しているのがFlexPodなのです」と強調する。

 FlexPodにおいてもうひとつ重要な特徴は、システム構成が完全に固定されたシングルSKU(Stock Keeping Unit)ではなく、リファレンスアーキテクチャの形をとっていることだ。FlexPodは、一般的に統合インフラソリューションとしてとらえられているが、CiscoとNetAppは、統合インフラではなくリファレンスアーキテクチャを提供するソリューションだと主張している。

 畝高氏は、「ユーザーが真に求めているものはビジネスを推進するためのインフラであって、それが統合インフラであろうかなかろうがあまり関係のない話です。だったら、ユーザーのニーズを最大限に満たせるような、柔軟性に富んだソリューションを選ぶべきではないでしょうか。その答えこそが、私たちのFlexPodなのです。FlexPodは、完全にシステム構成が固定されたシングルSKUと異なり、CiscoとNetAppの製品を組み合わせるだけでFlexPodと呼べるほどの自由度があります。両社の製品を組み合わせたリファレンスアーキテクチャに基づきながらも、ユーザーのニーズにあった製品を個々に選べるので、小規模から大規模まで、さらにはさまざまな用途にあったインフラを構築できます」と語る。

リファレンスアーキテクチャの採用により、サーバー、ストレージシステム、ネットワークスイッチすべてにおいて、適切な構成がとられたモデルを柔軟に組み合わせられる

システムインテグレータの付加価値も取り入れやすいFlexPod

 最近では、1台の筐体にサーバー、ストレージ、ネットワークの機能が統合されたハイパーコンバージドと呼ばれるジャンルが登場している。ハイパーコンバージドは、ラックスペースに制約の多い欧州圏のニーズから生まれたもので、代表的なものとしてはHP ConvergedSystem for Hyper-Convergence、Nutanix Virtual Computing Platform、VMware EVO:RAILなどが挙げられる。

 CiscoとNetAppも、ハイパーコンバージドが対象となる領域に向けて、小規模のFlexPod Expressを展開している。FlexPod Expressは、中堅企業やブランチオフィス向けに最適化されたFlexPodで、ファブリックインターコネクトをサーバー側のシャーシに統合して省スペース化を図ったUCS Miniを組み合わせられる点も大きな特徴だ。

 また、ビッグデータ分析やHPC(High Performance Computing)といった特定のワークロードを対象とするFlexPod Selectも提供している。仮想化を中核とするエンタープライズIT向けの統合インフラソリューションが多い中で、こうした特殊な用途を対象としたソリューションも用意されている点はなかなか興味深い。

 そして、統合インフラに関してもうひとつ気になるのが、システムインテグレータの存在だ。海外の企業では、ベンダーSEさながらのスキルを持ったプロ集団を自社で抱えるケースが多いが、日本の企業は、そのような役割を外部のシステムインテグレータに依頼するのが一般的である。ユーザーがビジネス上のニーズをシステムインテグレータに伝え、システムインテグレータがユーザーのビジネスに必要とされる具体的なシステムを設計・構築する。もし、極めて専門性の高い要求があれば、ベンダーのプロフェッショナルサービスも一緒に行動して対応にあたる。

 このような日本ならではのスタイルに対し、すでに設計・検証済みの統合インフラが浸透していけば、システムインテグレータの役割はかなり変わってくるのではなかろうか。

 大野氏は、こうした筆者の疑問に対して「日本のシステムインテグレータは、むしろ自社のビジネスを加速させるための武器として統合インフラをとらえています。システムインテグレータには、お客さまの要望を聞いてから具体的なシステム提案に至るまでの期間をいかに短縮するかが求められているからです。特にFlexPodは、自由度の高いリファレンスアーキテクチャを採用していますので、システムインテグレータの付加価値を取り入れた提案もしやすくなっています。また最近では、導入期間の短縮にとどまらず、運用フェーズでのメリットも注目され始めています。そのために、システムインテグレータからは、運用ツールや自動化の提案なども積極的に行われています」と答えている。

FlexPodは、システムの規模や用途にあわせて3つのファミリが提供されている。主に仮想化を対象としたものは、小規模環境向けのFlexPod Expressと中・大規模環境向けのFlexPod Datacenterである。また、ビッグデータ分析やHPCといった特定のワークロードを対象とするFlexPod Selectも用意されている

 後編では、FlexPodを構成するCiscoとNetApp製品の最新動向、ハイブリッドクラウド時代に向けた取り組みを取り上げていく。