クラウド&データセンター完全ガイド:イベントレポート

コンバージドかハイパーコンバージドか、それともクラウドか――ITインフラの適材適所を探る

FlexPod Day 2018 Osaka レポート

 コンバージドインフラ(CI)製品「FlexPod」のエンドユーザー企業向けイベント「FlexPod Day 2018 Osaka」が、2018年2月1日、大阪市のブリーゼプラザで開催された。

 FlexPodは、米シスコシステムズ(Cisco Systems)と米ネットアップ(NetApp)が共同開発・提供するCIで、2010年のファーストリリース以降、進化を重ねている。今回のイベントでは「コンバージドかハイパーコンバージドか!? ITインフラの適材適所を探る」をテーマに、選択肢が増えたことで複雑化した企業ITシステムにおいて、CIの草分けとしてのFlexPodの優位性や、ハイパーコンバージドインフラ(HCI)、パブリッククラウドとのポジショニングなどが紹介された。

ビジネス価値を創造するITインフラとは

 オープニングセッションには、シスコシステムズ合同会社(以下、シスコ) データセンター/バーチャライゼーション事業担当 部長 石田浩之氏、ネットアップ株式会社 ソリューション技術本部 SE第4部 部長 中川拓也氏の両名が登壇。昨今のデジタルトランスフォーメーションの潮流がもたらした、企業ITに求められるものの劇的な変化と、この要求に応えられるITインフラのあり方を述べた。

 石田氏は「IoTやFinTechなど新しい技術をビジネスに活用したいという動きが活発化し、ビジネス部門から"ITをこんな風に活用したい"とリアルにIT部門に要求するようになっている。いま企業のITに求められているのは、いかにビジネスに活用できるかだ」と述べ、この要求に応えるには柔軟性と敏しょう性を持ったITインフラが重要であると説明した。

シスコの石田浩之氏

 大きな課題となっているのは、企業のITインフラの選択肢が非常に増え、同時に複雑性を増していることだ。この複雑性を排除しつつも、強力なITインフラを実現するため、CIやHCIなどの統合インフラが注目されるようになった。

 中川氏は、こうした背景を受け、国内のコンバージドシステム製品におけるHCIの比率が、2017年以降急成長しており、2021年には大幅に拡大するという市場予測を紹介した。「ただし、HCIの比率が拡大したとしてもCIの売上が減るというわけではなく、HCIとCIの2つのインフラは順調に推移していく」(中川氏)。

ネットアップの中川拓也氏

 CI製品としてのFlexPodの優位性について両氏は、シスコのサーバー「Cisco UCS」とスイッチ「Cisco Nexus」、ネットアップのストレージ「FAS/AFF」「E/EF」「SolidFire」などで構成された、ハードウェア面でのパフォーマンスの高さと、両社による事前検証済みのアーキテクチャがもたらす導入の迅速性を挙げた。

 特に導入の迅速性について、石田氏は「事前に時間をかけて検証したリファレンスアーキテクチャが160以上用意されている。リファレンス通りに導入するだけで、すぐに利用できるようになる」とアピールした。また、中川氏は、ほかのシステムと連携するためのAPIも用意されているため、自動化など運用管理面でもコスト削減を期待できることを説明した。

 これらの長所から、「FlexPodは、ワールドワイドでCIのリーダーのポジションにある。ユーザーは8700社を超え、ストレージは4000PB以上が出荷されている」(石田氏)と、実績を積み重ねながらユーザーベースの拡大を続けていることを強調した。

 「昨今はメディアを中心にHCIが注目されているが、すべてがHCIである必要はない。FlexPodの方が得意なところはいろいろある」と石田氏は述べ、FlexPod Dayを通じてFlexPodをもっと知ってほしいとアピールした。

進化を続けるFlexPodの優位性とは

 「FlexPodセッション」には、シスコ データセンター・仮想化アーキテクチャSE本部 コンサルティングシステムズエンジニア 畝髙孝雄氏と、ネットアップ ソリューションアーキテクト部 ソリューションアーキテクト 長内ゆかり氏が登壇。それぞれの立場からFlexPodの特徴や機能を解説した。

 「8年前は、システムの仮想化やプライベートクラウドへのニーズが高まってきた時期。そうしたニーズにこたえるべく、NetApp FASと2009年リリースのCisco UCSを組み合わせたFlexPodが登場した」と、長内氏は当時を振り返った。

ネットアップの長内ゆかり氏

 FlexPodのコンピューティングを担うCisco UCSについては、畝高氏が「リリース当初からサーバーではなく、システムとして位置づけている。今はサーバーを1台で使う時代ではない。複数サーバーに仮想マシンなどを組み合わせ、システムとして利用する基盤が求められているからだ」と説明した。

シスコの畝髙孝雄氏

 そうしたコンセプトを持ったCisco UCSでは、サーバーが何台あっても、ファブリックインターコネクトのスイッチに接続すると、ネットワークにつながるだけではなく統合管理も可能となる。

 統合管理について畝高氏は、「ユーザーのニーズに合わせて管理ツールも進化してきた」と述べ、管理対象が何台になっても同じ管理性を維持する「UCS Manager」、複数の拠点にあるサーバーも管理可能にする「UCS Central」、物理/仮想リソースが混在したインフラを統合管理する「UCS Director」、UCS/Nexus、NetApp FAS/AFF、各種アプリケーションサーバー、ハイパーバイザー、クラウド上のサービスを横断的に管理してリソースの最適化を図る「Cisco Workload Optimization Manager」など、シスコがITインフラの管理・監視・リソース最適化で取り組んできた過程と共に説明した。そして、取り組みの最新形となるのが、統合管理をクラウドサービスとして利用可能な「Cisco Intersight」で、こちらはデモを交えて機能を紹介した。

 シスコと言えば、やはりネットワークである。畝髙氏は、ネットワークの急速な進化・変化について、「10GbEのネットワークが登場した際、"そんな帯域を誰が使うのか"と言われたが、もはやサーバーが10GbEのインターフェイスを持つ時代になった。これからは25GbE、40GbE、100GbEへの拡大が予想され、3年後の2021年には25GbEが主流になる」と説明した。

 FlexPodのネットワークを司るCisco Nexusシリーズについて、畝高氏は「"Ciscoの製品は高いでしょう?"と思われるかもしれないが、Cisco Nexusは、コストパフォーマンスに優れた製品ラインアップになっており、性能でも価格でも他社には負けていない」とアピールした。

 また、同シリーズの特徴として、従来のコマンドラインでの管理に加えて、別のツールでの管理のサポートや、それによるさまざまなレベルでの自動化の実現が紹介された。「NX-OSはLinuxがベースになっているため、ユーザー自身が開発したツールや、Ansible、Puppet、Chefといった人気のツールで管理することもできる」(畝高氏)。

 さらに「Cisco Data Center Network Manager(DCNM)」や「Cisco ACI(Application Centric Infrastructure)」といったネットワークの自動化や統合管理の仕組みについてもデモで紹介した。

 一方、ネットアップが進化させてきたのがほかならぬストレージだ。2017年には、次世代データセンター向けをうたう「FlexPod SF」が製品ラインアップに加わった。オールフラッシュストレージの「SolidFire」を採用し、Cisco UCS C220 M4 chassisの中に、960GBのSSDが8本搭載されている。そのためプロダクト名は「SF9608」(960GB×8本)となっている。

 FlexPod SFのミニマムのノード数は4ノードで、最大40ノードまで1ノード単位で柔軟に拡張可能となっている。Cisco Nexus 9000シリーズのスイッチをサポートし、サーバーノードとしてCisco UCS Bシリーズを採用している。

 ネットアップの長内氏は、SolidFireシリーズに搭載されるElement OSの特徴として「スケールアウト、パフォーマンス保証、RAIDレス」の3点を挙げた。

 長内氏はFlexPod SFのストレージ管理画面のデモを行った。「管理は通常のSolidFireやHCIと同じ画面になるが、管理者の多くはVMware vSphereから管理しているため、この画面を見ることは少ないかもしれない」と長内氏。また、Element OS上で動作するスクリプトやアプリケーションのプログラミングで、管理者自身が使いやすいかたちにカスタマイズが可能だ。「そうなると、vSphereの画面すら見ないかもしれない」と長内氏は述べ、Element OSの柔軟かつ拡張可能な管理インターフェイスをアピールした。

FlexPod SFの特徴

 ストレージに詳しいユーザーなら、ネットアップが長年提供するストレージOS、ONTAPの進化も気になるところだろう。長内氏は、従来からラインアップするONTAPアーキテクチャベースのストレージを搭載したFlexPodについて、「ONTAPは機能拡張を重ね続けており、パフォーマンスは最大40%向上している」とアピール。そして、ONTAPから派生したクラウドとオンプレミスでデータを階層化して管理する「Fabric Pool」、SDS(Software Defined Storage)を実現する「ONTAP Select」などを紹介した。

 ONTAPと起点とするネットアップの取り組みは現在、同社が“Data Fabric”と呼ぶテクノロジービジョンに進化している。長内氏は「Data Fabricのコンセプトで、ユーザーが多種多様なデータからビジネス価値を生み出すための管理基盤の提供にフォーカスしている。Fabricという言葉通り、シスコをはじめ多くのベンダーが提供する製品やサービスをシームレスにつないでいく」と述べた。

ONTAPも進化し続けている

 シスコとネットアップは、CIのFlexPodに加えて、HCI製品である「Cisco HyperFlex」と「NetApp HCI」をそれぞれリリースしている。畝髙氏と長内氏は、「HCIも提供し、両方のメリットを熟知しているからこそ、ユーザーに幅広い選択肢とビジネス価値を提供することができる」とのメッセージを送って、セッションを締めくくった。

ITインフラの適材適所とは

 FlexPod Dayの終幕セッションでは、ユーザー企業、システムインテグレータ(SIer)、ITベンダーのそれぞれの立場を代表したパネリストによるパネルディスカッションが行われた。

 ユーザーを代表してステージに上がったのは、TERRANET代表/IIBA日本支部 代表理事 寺嶋一郎氏だ。積水化学工業のIT部門を長年統括した同氏は現在、さまざまなユーザー企業のIT戦略を支援している。

 SIerの代表は、ユニアデックス 関西エクセレントサービス第一統括部 システム四部 第三課長 井上隆弘氏で、ITベンダーの代表は、この日のホスト役であるシスコとネットアップ。シスコの畝高氏と、ネットアップ システム技術本部 ソリューションアーキテクト部 部長の神原豊彦氏が登壇した。ディスカッションの進行は、インプレス クラウド&データセンター完全ガイド編集長/IT Leaders 編集委員の河原潤が担当した。以下、要所を採録形式で紹介する。

――デジタルトランスフォーメーションへの取り組みにあたって、ユーザー企業ではITインフラの整備が急務になっています。ユーザーはITインフラにどのような課題を抱えているのでしょうか。

寺嶋氏:
 デジタルビジネスの大半はクラウドネイティブな仕組みで動いています。そのため、多くの企業が「クラウドファースト」の考え方で動くようになっています。

 しかし、基幹系システムや製造系のシステムは、セキュリティやライセンスなどの都合でなかなかクラウドに移行できていないのが現状です。既存システムをそのまま使い続けたいが、OSが変わってしまうと動かなくなくなるといった問題もあり、今後のITインフラをどうするべきか悩んでいるユーザー企業は多いです。

 すべてをクラウドに移行すればすべてコストが安くなるわけでもないので、現状、SoR(System of Record)はオンプレミス、SoE(System of Engagement)はクラウドといった大まかな方向になっていると思います。

TERRANET代表の寺嶋一郎氏

井上氏:
 社内でITのガバナンスが効いていないという声をよく耳にします。担当者レベルでは解決したい課題を抱えていることが多く、なかなかクラウドに移行できないでいる。では集約型のシステムにするのかというと、隣の組織のサーバーとは一緒にできないというケースが多くて、結局オンプレミスからオンプレミスへの移行になってしまうことが多いです。

ユニアデックスの井上隆弘氏

畝高氏:
 お客さまの担当者が、ネットワーク、サーバー、仮想化、アプリケーションごとに分かれていて、「私たちの領分はここまでなので…」と担当者が手を引いてしまうことがよくあります。これは技術的な問題というより組織的な問題ですね。実際に組織改革で大きく改善したお客さまを何社も見ています。

 一番大変な改革ではあるのですが、ぜひ取り組むべきだと思います。もちろん、ベンダーとして自分たちもお客さまの変化にも対応できる製品を出していきます。

シスコの畝髙孝雄氏

神原氏:
 ある製造業のお客さまは、国内6拠点の工場と4拠点のオフィスのシステムを4名ほどのスタッフで運用していました。

 それぞれの工場に個別にシステムがデータを持っている状況を「まるで井戸水をバケツで運んでいるようだ」と表現されていて、SoEなどに対応しなければならないのはわかっているが「いまのままではとても対応できない」と話しておられました。

 これから先、SoRに加えて、SoEもやっていくのであれば、バケツではなくすべてのシステムをつなぐ水道管のような基盤が必要になります。このようなお客さまの課題を改善できる仕組みを提供するのが、私たちのやるべきことだと考えています。

ネットアップの神原豊彦氏

――CIのFlexPodをCiscoとNetAppで共同提供する一方で、今では両社ともHCIも提供しています。ここにほかのベンダーのCI/HCIが加わり、ユーザー企業は自分たちのITインフラに何を選択したらいいのか迷う状況を生んでいます。ITインフラの適材適所につてご意見を聞かせてください。

畝高氏:
 まず、CIとHCIですが、求められる要件や構築・再構成の頻度が違ってきます。極端に言うと「今日はこんな環境だが、明日は違う」といったスピード感を求めるような仕組みには、HCIが向いていると思います。

神原氏:
 先日百貨店のお客さまとオンプレミスとクラウドの使い分けのお話をしました。最近はリアルタイムで売上げなどの情報を確認したいというニーズが高まっていて、週次や月次でレポートを出すような既存のシステムでは対応することができません。

 そこで、システムの刷新を決めて、例えばSAP HANAの導入を、それをクラウドのIaaSに置くかどうかも含めて検討するわけですが、SAP HANAで相応規模のシステムを組むとなると、莫大なメモリリソースが必要になります。こうなるとパブリッククラウドで提供されるIaaSでは手に負えない場合があります。この例では、オンプレミスでSoRを刷新する方向が適しているということになります。

 一方、売り場では、実際に試着することなく洋服を着たイメージを確認できるデジタルミラーなど先進的な試みが具体化していると聞きました。こうしたSoEの場合は、百貨店のIT部門がオンプレミスで一から構築するよりも、クラウドで提供されている仕組みを利用するほうが理にかなっています。

井上氏:
 お客さまにシステムを提案して要件を固めていく際、最終的にはHCIよりもCIに落ち着くケースが多いです。HCIを提案してほしいと言われるお客さまは全体の3割程度で、7割は"ディスク容量がもっと欲しい"など要望がはっきりしていて、適したCIを選ばれます。

 最近は仮想環境を要望されることが多いのですが、例えばデータベースだと、仮想環境で稼働するライセンスがとても高くついて物理環境と仮想環境の組み合わせになるようなケースがまだまだありますね。

寺嶋氏:
 ビジネスにデジタルを活用することで、年間何億も利益が出ることがあります。そのための根幹の取り組みがITインフラということになります。企業のITはサイロ化されて部分最適になっていることが多いですが、これらを全体最適の視点で共通ITインフラの上で動かすようにし、データの活用可能性を高め、併せて運用効率化を図らないといけません。ユーザー企業のIT部門としては、ITベンダーやSIerに発注する際、自社でやりたいことがどの環境に適しているのか、先端的なITをどう使うかを明確にしておく必要があるでしょう。

――クラウド活用の先に、ハイブリッドITインフラの構築が見えてきますが、企業のIT部門はこのゴールに向けて、今からどのようなアクションをとっていけばよいでしょうか。

寺嶋氏:
 ユーザーは、自分たちが目指すべきビジョンと、それに基づくデジタルトランスフォーメーションのロードマップを描く必要がありますね。そこでのITガバナンスは、IT部門にしかできないことです。ガバナンスの策定では、部分最適でコストだけかかるような仕組みから脱却し、全社をトップダウンで標準化していく方向性が求められるでしょう。決して簡単ではありませんが、ベンダーの知恵も借りつつ、新しいテクノロジーを学び、活用を試みるべきだと思います。

井上氏:
 欧米に比べると、日本のお客さまは新しいテクノロジーに慎重な傾向がありますね。ベンダーやパートナーと緊密な関係を築いて、PoC(概念実証)などを一緒にやっていくような状況になっていければと思います。

――今日はCIの草分け的存在であるFlexPodがさまざまな視点から語られました。ユーザーはこの製品をどのような使い方をするとよいでしょうか。

井上氏:
 FlexPodはシスコとネットアップの製品が統合されたCIですが、ベースの製品が優れているので、伝統的な3ティア構成でカスタマイズするような用途にも向く製品だと思っています。豊富なリファレンスアーキテクチャもそうですが、組み合わせの自由度がとても高いので、お客さまのニーズに柔軟に対応することができます。

 運用面から見ても、統合管理やバックアップソリューションが使いやすいです。FlexPodの成熟度を見ると、HCIはまだまだかなと思う面がありますね。

畝高氏:
 最近、お客さまのベンダーに対する姿勢も変わってきていると思います。バグがあったらベンダーに詰め寄るというのではなく、一緒に製品を作っていこうとしてくれているお客さまが増えています。

畝高氏:
 あまり公表されることはありませんが、シスコの製品やソリューションは多くの大手パブリッククラウドで採用されています。FlexPodにはそうした大規模顧客のITインフラで培ったノウハウがふんだんに注ぎ込まれています。私たちとしては、そうしたノウハウを惜しみなくお客さまに提供させていただきたいです。ときには、規定の使い方のご提供だけではなく、「こういった使い方もできます」「こういう使い方が最新のトレンドです」といった本音のお話がよりできたらと願っています。

寺嶋氏:
 ベンダー/SIerとユーザーの関係はそうありたいですね。デジタルトランスフォーメーションの時代には、企業のIT部門は"お客さま"として上になるのではなく、IT部門とベンダーが対等のパートナーになっていくことが重要だと思います。ユーザーは技術や製品について当然、すべてを把握することはできないので、ベンダーの知恵を遠慮なく得られるような良い関係を築いていけるとよいですね。

神原氏:
 寺嶋さんがおっしゃった「ロードマップを描いていく」部分で、ベンダーとして感じるのは、進化を支えられるテクノロジーを提供し続けられる存在でなければならない、ということです。

 先ほどSAP HANAの例を挙げましたが、そうした突出した要件のアプリケーションやシステムを、余裕を持って支えられるITインフラを構築可能なテクノロジーを提供する必要があります。FlexPodのようなCIやHCIは、そうした技術をより簡単にシンプルに利用できるにした製品です。

 CIなのかHCIなのか、あるいはパブリッククラウドなのかという議論は、お客さまの要件や考え方によって異なる結論となりますが、お客さまがロードマップを描いた際に、技術がボトルネックにならないようにしなくてはなりません。Data Fabric、つまりデータがどこにあってもシームレスに利用できるようにすることがネットアップの使命で、デジタルトランスフォーメーションに挑むお客さまと共にそれを作り上げていきます。

河原:
 ITインフラがしっかりしているからこそ、データを活用したデジタルトランスフォーメーションが実現する。ITインフラを起点にして、さまざまなイノベーションが起きることをメディアとしても信じています。

デジタル時代こそ、IT部門がビジネスの先導役たれ

 今回のFlexPod Dayでは、TERRANET代表の寺嶋一郎氏による、「デジタルで経営を変革するIT部門になるために」と題した基調講演が行われているので、こちらの内容も紹介しよう。

 寺嶋氏は積水化学工業の情報システム部門で長年活躍し、現在はビジネスアナリシスのための国際的な独立非営利団体(NPO)において、IIBA日本支部の代表理事を務めている。クラウド Watchの僚誌IT Leadersでも、自身の経験を生かした連載「私がやってきたこと、そこから学んだこと」を持つ、日本のIT部門のオピニオンリーダーの1人だ。

TERRANET代表/IIBA日本支部 代表理事 寺嶋一郎氏

 寺嶋氏は冒頭、デジタルトランスフォーメーションをいち早く実践した、UberやAirbnbといったといった米国の先進ユーザーを挙げ、次のように語った。「これらの事例を見てわかる通り、ソフトウェアがビジネスそのものになる時代となっている。すべての産業でソフトウェア化が進行している現状において、優秀なソフトウェア技術者をどう集めるかが勝負となっている」

 しかし一方で、日本のIT業界は大きな問題を抱えている、と寺嶋氏。システム導入プロジェクトは、予算や期限を越えてしまうような失敗が多く、導入したシステムも『バグが多い』『動かない』『使えない』など他部門から不満が出ることが多いという。寺嶋氏は次のように指摘した。「そのため、プロジェクトを先導したIT部門は、経営層やほかの部門から地位が低く見られがちで、IT部門のモチベーションを低下させ、他部門との人材ローテションが進まない原因ともなっている」

 また、IT部門が低く見られがちな別の要因としては、日本企業でよく見られる、ITベンダーへの丸投げ体質があるという。ユーザーの中には、企画までベンダーに提案させたり、技術者がベンダーからの常駐社員だったりという企業が少なくない。しかし、自己利益の最大化のために動き、顧客には良いことしか語らないITベンダーもある。寺嶋氏は、「ビジネスが本当に欲している競争優位のシステムを提供するには、発注者側のIT部門がしっかりするしかない」と警告した。

 では、企業はどう変わっていけばいいのか。ITベンダー丸投げの体質から脱却するために必要なこととして寺嶋氏は、「優秀なITアーキテクトやプログラマーを積極的に採用して、将来を見据えた人材育成を行い、ソフトウェアの内製化(インソース化)を行うべき。ITをよく知らなければイニシアティブは取れない」と説いた。

 さらに「元請け、下請け、孫請け」といった日本特有のソフトウェア開発の多重構造にも問題があると寺嶋氏は主張。このような多重構造では、高い単価を稼げる上流工程を大手のベンダーやSIerが担当する。下請けや孫請けのプログラマーを軽視する風潮もあり、安い単価で労働集約型の職場環境になりがちだ。寺嶋氏は「日本はプログラマーを大事にできない。まるで女工哀史のようだ」と嘆いた。

 そもそもITプロジェクトの失敗の多くは、ニーズと要件にギャップがあり、コンセプトが明確でないことに起因している。

 寺嶋氏は「事業戦略や事業計画、システム化の方向性、システム計画、要件定義といった"超上流"がきちんと行われていない」と指摘し、経営層が目指すビジネスをIT部門が理解し、ニーズに沿ったIT戦略を主導する必要があると説いた。「超上流の工程でビジネスアナリシス(BA)を定義し、要求を固めることは今後ますます重要になっていく」(寺嶋氏)。

 さらに「BAはビジネスとITをつなげること。ビジネス戦略からITへの要求をモデル化し、ITの価値を最大化しようとする活動だ」として、BAの知識とスキルのグローバル標準となっている「BABOK」を紹介した。

 「これからのデジタルトランスフォーメーションの時代、ビジネスとITはこれまで以上に一体化する必要がある。IT部門にローテションされた人材は、プログラミングよりもまずビジネスアナリシスを学ぶべきだ。北米にはビジネスアナリストやエンタープライズアーキテクトと呼ばれる人材が約13万人おり、ITの導入プロジェクトはビジネスアナリストとプロジェクトマネージャがタッグを組んで取り組んでいる。このままでは日本企業がデジタル変革に乗り遅れてしまう」(寺嶋氏)。

 また、デジタルトランスフォーメーションへの対応としてソフトウェアの内製化を推奨する寺嶋氏は、「アジャイルやDevOpsなど新たな開発スタイルを取り入れる」「競争力のコアとなるSoEは内製を主体とする」「ソフトウェアのライフサイクルをこれまでのPDCAではなく、OODA(Observe:観察、Orient:状況判断、Decide:意思決定、Act:行動)へとシフトする」「SoRとスムーズに連携できるよう、SoRについても内製化を含めAPI連携やモダナイゼーションなど再構築を検討する」などの施策を提言。そして、最後に「デジタル時代こそ、IT部門がビジネスの先導役たれ!」という力強いメッセージで基調講演を締めくくった。