特別企画
“ミーティング”もクロスプラットフォームの時代に 他社のサービスもつながる画期的なクラウド遠隔会議サービス「Cisco CMR Cloud」
(2015/5/18 06:00)
Ciscoは、クラウド経由で遠隔会議サービスを実現する「Cisco CMR(Collaboration Meeting Rooms) Cloud」の提供を開始した。ブラウザなどを利用し、インターネット経由で手軽にWeb会議ができる同社の「Cisco WebEx」をベースに、クラウド上に用意されたゲートウェイを利用して、他社製品を含めたさまざまなサービスとの相互接続を可能にするサービスだ。閉じた世界が当たり前だった業界にオープンな発想を採り入れた、言わばミーティングのパラダイムシフトとも言えるサービスだ。
かつての転換期と同じ雰囲気が今ふたたび
パソコン通信がインターネットに、VoIPがIP電話に転換したときと同じような感覚――。
Ciscoが提供を開始した「Cisco CMR Cloud」は、まさにそんな時代の転換を感じさせるサービスである。
これまで、通信の世界は、クローズドな技術を誰もが使えるオープンな世界へと広げることで、飛躍的に普及してきた。
身をもって体験してきた人も少なくないかもしれないが、さまざまな事業者が個別のサービスとして提供してきたパソコン通信やVoIPは、当初は他社との差異化によってユーザーを囲い込む方向で発展してきた。しかし、時代の流れやユーザーニーズの変化と共に、独自路線が限界を迎えると、相互接続や、より広範囲な別のサービス(インターネットや電話網)などとの融合を推し進め、現在では、より発展したインフラとして、我々の生活に溶け込んでいる。
そもそも、通信はコミュニケーションそのものであり、どこにでもあり、だれもが使えないと意味がないことは明らかだが、そんなユニバーサルなサービスに成長するまでには、必ずと言っていいほどクローズドな時代と、そこからの転換を繰り返してきたことになる。
このようなパラダイムシフトの口火を、今、クラウド遠隔会議サービスの分野で、新たにCiscoが切った。
同社は、「Cisco WebEx」のブランドで、インターネット経由で遠隔会議ができるサービスを提供中している。主催者がアカウントを取得すれば、メールで手軽に参加者を招待することが可能で、参加者もブラウザやスマートフォンから簡単に会議に参加できる手軽さが特徴だが、音声のやり取りに固定電話や携帯電話を使うことで高い品質を確保できたり、イベントやオンライントレーニング、顧客サポート用のサービスを提供するなど、高い評価を得ているサービスとなっている。
このサービスをさらに発展させたのが「Cisco CMR Cloud」だ。
インターネット経由で音声や映像、画面情報などをやり取りするWeb会議やテレビ会議のシステムは、現状、PolycomやマイクロソフトのSkype for Business(旧Lync)など、大小さまざまなベンダーによって提供されているが、何と、このような別のサービスからも接続することが可能になっている。
クラウド上にゲートウェイを用意
Cisco CMR Cloudのしくみはシンプルだが、なかなか戦略的だ。
前述したように、Cisco CMR Cloudは、クラウド上で提供されるプラットフォームを利用することで、社内に特別なハードウェアやソフトウェアを導入せずとも手軽に使えるサービスとなっているが、このクラウド上のプラットフォームの多地点接続用装置(MCU:Multipoint Control Unit)に、さまざまなベンダーのサービスにも対応したゲートウェイをCisco側が用意することで、相互接続を可能にしている。
すでに社内でWeb会議やテレビ会議のシステムを導入している企業では、過去に経験したことがあるかもしれないが、通常、異なるサービス間を相互接続する場合は、このようなシステムを自社で用意するケースが多い。
たとえば、企業統合で異なるWeb会議システムを相互接続したい、初期に導入したテレビ会議用端末と新しいWeb会議システムを相互接続したい、といったケースは少なくないが、このような場合、それぞれのシステムをつなぐためのゲートウェイを用意するか、さもなくばいずれか一方のシステムに統合して、他方を捨て去ることになる。
しかしCisco CMR Cloudを利用すれば、こういったシーンでも、もう困らない。接続先の受け入れ装置はCisco CMR Cloud側で提供されるため、相互接続のための新たな投資も、既存の設備の廃棄も必要ない。
つまり、つなぎ直す必要も、入れ替える必要もなく、単にCisco WebExを追加すればいいのだ。
また、すでに多地点接続や多様な端末の接続のためにMCUを導入している企業の中には、社内資産の見直しと運用コストの削減の目的で、MCUのホスティングなど、外部への移行を検討しているケースも少なくないが、こういった場合もCisco CMR Cloudの導入が効果的だ。Cisco CMR Cloudでは、標準で最大25接続が可能なMCUを、クラウド上で提供している。これを活用することで、高額なMCUを資産から外し、月額課金形態でサービスを継続することも可能となる。
もちろん、相互接続が可能となれば、自社内だけで完結させる必要すらなくなる。取引先など、これまで難しかった他社との間のオンラインミーティングも、Cisco CMR Cloudが導入済みであれば、何の苦労もなく可能となる。グローバルなサービスとなるため、海外との会議やコラボレーションでの利用もスムーズだ。
コミュニケーションから場所の「壁」を取り払うことができるのがWeb会議システムの特徴だが、Cisco CMR Cloudでは、さらにシステム間の壁、企業間の壁すらも取り払うことができることになる。これは、実に革新的なことだ。
使う側のメリットも大きい
このようなCisco CMR Cloudを利用した相互接続は、システムを導入する側だけでなく、そのシステムを使う側にも大きなメリットをもたらす。
最大のメリットは、「使い方を変えなくていい」ことだ。
前述した例のように、企業統合などで、仮に、どちらかの企業が使っていたシステムにWeb会議システムを統合したとしよう。この場合、他方のユーザーは、新しいシステムの使い方を一から覚えなければならない。
教育に時間とコストがかかるうえ、慣れずに使うことをあきらめるユーザーが登場する可能性すらある。コミュニケーションを円滑化するためのWeb会議システムが、コミュニケーションの障壁となるようでは本末転倒だ。
これに対して、相互接続可能なCisco CMR Cloudでは、相手にかかわらず、ユーザーは今まで使っていた端末やソフトウェアをそのまま利用できる。
Cisco CMR Cloudを契約後、Cisco WebExのサービスページから会議を開催したとしよう。Cisco WebExでは、パーソナル会議室と呼ばれる自分専用の会議室が設けられ、そこにアクセスするためのURLやアドレス、電話番号、会議番号などが割り当てられる。
通常であれば、会議の主催者がユーザーをメールなどで招待し、参加者もCisco WebExのアプリを使って会議に参加することになるが、Cisco CMR Cloudでは、前述したようにCisco WebEx以外のクライアントからもアクセスできる。
たとえば、テレビ電話用の端末であれば、主催した会議用の電話番号宛てに通話を開始すればいい。もしも、社内で、すでにMicrosoft Lync 2010/2013
(現在はSkype for Businessに名称変更)を使っているのであれば、これを使って会議に参加することもできる。
またテレビ電話用の端末であれば、主催した会議用の電話番号宛てに通話を開始すればいい。Cisco CMR Cloudでは、すべてのしくみは、クラウド上のプラットフォームによって実現されているため、ユーザーは、違いなどを意識することなく、今まで通りの使い方ができるわけだ。
社内で使っているテレビ会議との相互接続ができないなどの理由で、Lyncをこれまで使ってこなかった、もしくはテキストメッセージのやり取りのみに使っていたという企業も少なくないが、Cisco CMR Cloud導入後は、これをWeb会議のクライアントとして活用可能になる。
たとえば、Lyncから接続する場合であれば、上記、管理画面などで確認できる情報から、「ユーザー名/会議室番号.サイト名@lync.webex.com」というアドレスを生成する。このアドレスにSkype for Businessから接続すれば、Cisco WebExの会議に参加できる。
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本コラムの執筆時点では、まだベータ版となるため、このあたりの仕様や使い勝手は変更される可能性があるが、CiscoのWeb会議システムにマイクロソフトのクライアントを使って、そのまま接続できるのは斬新だ。
景気が回復傾向に向かいつつあるとは言え、昨今では、企業内のシステムに新たな投資をすることは難しい場合が多い。また、将来的な計画や既存のシステムを継続するかどうかを検討する際に、導入済みシステムの利用率などが採り上げられることも珍しくない。
そういった点を考慮すると、Cisco CMR Cloudであれば、既存ユーザーの利便性を確保することで離脱を防ぐだけでなく、既存のリソースの利用率を上げることで、効率的な経営も可能になるというわけだ。
Ciscoならではの品質と今後の展開にも注目
このように、Cisco CMR Cloudは、単にWeb会議を提供するクラウドサービスではなく、さまざまなWeb会議、テレビ会議システムを統合するサービスとなっている。
ネットワーク機器を長年手がけてきたCiscoだけあって、その品質や安定性にももちろん抜かりはないが、実際、他社のサービスとの互換性を配慮しながら、Web会議をスムーズに展開できる実力を目の当たりにすると、さすがという声が思わず漏れてくる。
同時に、タッチスクリーンを搭載したAndroidベースのコラボレーションデバイスの提供も開始するなど、コラボレーション分野への取り組みは非常に積極的だ。
これまでにも、Web会議やテレビ会議の統合や相互接続を目指す動きはあったが、Cisco CMR Cloudほど、非常に幅広い機器に対応し、実用的な品質を備え、しかも低コストなサービスは存在しなかった。
冒頭で触れたように、もはやWeb会議、テレビ会議をクローズドな世界で使う時代は終わろうとしている。これからは、どこでもだけでなく、どんな相手ともつながるサービスを選択することが企業にとって重要だ。