NetApp Innovation 2011 Tokyoから学ぶストレージの最新トレンド【前編】


NetApp Innovation 2011 Tokyoの会場風景

 ネットアップ株式会社は、2月23日に、東京・恵比寿のウェスティンホテル東京において技術者向けカンファレンス「NetApp Innovation 2011 Tokyo」を開催した。NetAppのプライベートイベントは、2008年4月に同地で開催されたNetApp Focus 2008以来だが、今回はクラウドコンピューティングの未来像を具現化するNetAppの最新テクノロジやパートナー企業との連携による高度なソリューションが披露された。

 本誌は、すでに同イベントの基調講演後に開催された記者説明会の模様を2月24日付で速報している。筆者もイベント会場に足を運んだが、報道関係者向けに用意されたプログラムはすべてすっ飛ばして、一人の『ストレージ大好き人間』として自由気ままに勉強させていただいた。本稿では、筆者が特に気になったエンタープライズストレージ関連のトピック、またこれらを取り巻く最新テクノロジについて取り上げていく。

 

創業以来、長年にわたって急成長を続けているNetAppの底力

ネットアップの製品群

 基調講演の冒頭では、ネットアップ 代表取締役社長 タイ・マッコーニー氏がNetAppの経営状況に関していくつかの報告を行った。基本的にテクノロジにしか興味がない筆者なので、会社の経営状況がどうであろうとあまり知ったことではないのだが、そんな筆者でさえも思わず注目してしまうほどの急成長ぶりが印象的だった。

 昨今、Data Domainや3PAR data、Isilon Systemsのように、優れたテクノロジを持ったストレージ専業ベンダーは、EMCやHPなどの大手企業に次々と買収されている。しかし、NetAppはそのような買収劇に巻き込まれることもなく、孤高に成長を続けている。

 実は、筆者が本紙(旧Enterprise Watch誌)でNetApp関連の記事を初めて書いたのは2004年11月のことだ(記事はこちら)。そのとき、当時の本社バイス・プレジデントや日本法人社長からは、ドットコムバブルをものともせずに会社が成長していることが伝えられた。数年後の2007会計年度には年間総売り上げを30億ドルに伸ばしたいと息巻いていたが、実際にふたを開いてみれば28億ドルでほぼ目標に近い数字を達成している。

 その後も着実な成長を遂げ、2010会計年度には39億ドルとなり、さらに2011年4月までの2011会計年度には50億ドルを超える見込みとなっている。2008年にはリーマンショックによって多くのIT企業が大打撃を受けたが、そのような中でも堅調に推移しているNetAppの底力には驚かざるを得ない。

 筆者がとりわけ注目したのは、これほどの着実な成長を支えるものがいったい何かということだ。ごくごくまっとうな商品やサービスを売る企業であれば、現場での営業やマーケティング活動を強化することで、一時的な売り上げ増加にはつなげられる。しかし、5年や10年というスパンで継続的に成長し続けるには、よっぽどのコアコンピタンスがなければ達成できるはずがない。

 ITやエレクトロニクス業界において、こうしたコアコンピタンスを下支えする最大の武器は『他社にはないテクノロジを持ち続ける』ことである。このNetApp Innovation 2011 Tokyoは、同社が持つそんな優れたテクノロジを垣間見る良い機会となった。

年間総売上高の推移(出典:ネットアップ株式会社、以下同様)。現在の2011会計年度は、第3四半期までの時点ですでに2010会計年度の売上高と肩を並べており、通年では50億ドル以上に到達すると見込んでいる

 

NetApp FASシステムの最新モデルではData ONTAP 8を標準搭載

 NetAppは、2010年11月に主力のストレージシステムである『NetApp FASシステム』を大幅に刷新した。ハイエンドモデルはNetApp FAS6200シリーズ/V6200シリーズに、ミッドレンジモデルはNetApp FAS3200シリーズ/V3200シリーズに入れ替わっている。これらの最新モデルは、ハードウェアとして最新のマルチコアCPUや大容量・広帯域メモリを採用したことで、ストレージのI/O性能が飛躍的に向上している。

 しかし、こうした性能向上はハードウェアを構成する半導体チップの進化によるものであって、コモディティ・ハードウェアを採用した昨今のストレージシステムでは、どのベンダーの製品でもだいたい同じような傾向を示す。今回発表された新モデルが大きく進化したといわれるゆえんは、むしろ標準で搭載されるストレージOS『Data ONTAP』のメジャーバージョンが8にアップデートされた点が大きい。

 Data ONTAP 8は、多くのユーザーが利用しているData ONTAP 7Gと、一部のHPC(High Performance Computing)環境で採用されているスケールアウト型のData ONTAP GXをソースコードレベルで統合しつつ、機能面でもさまざまな強化を図ったバージョンだ。

 Data ONTAP 8は、OSのプラットフォームを64ビットに移行したことで、ディスク管理のアドレッシングが大幅に拡張されている。32ビット動作のData ONTAP 7Gでは、ディスクドライブのアグリゲートサイズが最大16TBに制限されていたが、Data ONTAP 8では約100TB(理論最大は16EB)にまで引き上げられた。これにより、大容量のSATAドライブを搭載したシステム環境で、より大容量のアグリゲートを組めるようになる。


2010年11月に発表された新製品群。NetAppによれば「過去最大規模の発表」だという

 

7-ModeとC-Modeの2種類が用意されているData ONTAP 8

 Data ONTAP 8が登場したのは今から1年ほど前だが、標準OSは依然としてData ONTAP 7Gだったことから、Data ONTAP 8を利用するにはユーザーが意図的に(どちらかといえば自己責任で)選択するしかなかった。

 これに対し、最新のNetApp FASシステムは、Data ONTAP 8.0.1を標準で搭載している。ユーザーは、従来のData ONTAP 7Gと同様の使い方ができる7-Modeと、スケールアウト型のストレージ構成をとれるC-Modeから適切なものを選ぶ形となる。

 現場で説明員を務めていた技術スタッフの方に質問したところ、NetApp FASシステムは商用目的で使われることがほとんどなので、現時点で顧客のほとんどは7-Modeを選択しているという。C-Modeを利用するユーザーについても聞いてみたが、HPCによって高速計算機を構成している研究機関が中心とのこと。日本での採用例はまだ少ない。

 Isilon IQや3PAR InServのように、商用目的でスケールアウト型のストレージアーキテクチャを打ち出すアプローチも可能なはずだが、NetAppとしては7-Modeを利用した従来ながらのアプローチで多くのユーザーのニーズを満たす意向である。

 なお、ストレージ側でスケールアウト型の構成をとるのではなく、サーバーとストレージ間の接続でパラレルNFS(pNFS)のようなストレージプロトコルを利用する手もある。NetAppは、パラレルNFSを含むNFSバージョン4.1の策定にも参加しているため、将来のData ONTAPでpNFSが正式に採用される可能性も考えられる。

 

プライマリ用途に対してもデータ重複排除が可能なNetApp Deduplication

 近年のData ONTAPでは、ディスクスペースを効率的に利用するためのプール化やシンプロビジョニング機能に加え、データ量を物理的に削減するデータ重複排除機能(NetApp Deduplication)も利用できるようになった。

 特に同社のデータ重複排除機能は、他社とちょっとアプローチが異なっている。通常、データ重複排除はバックアップやアーカイブなど、セカンダリ以降のストレージに適用されることが多い。しかし、NetApp Deduplicationはプライマリストレージに対してもデータ重複排除を適用できるのが特徴だ。

 例えば、大規模の仮想サーバー環境や仮想デスクトップ環境では、ゲストOS(仮想サーバーの稼働OS、仮想デスクトップ環境のユーザーOS)のイメージファイルに重複ブロックが発生しやすい。NetApp Deduplicationは、このような重複度の高いデータに対して徹底的な重複排除を行う。多くの仮想サーバー環境では50%以上、仮想デスクトップ環境では90%以上のデータ削減効果を狙えるという。

 なお、データ重複排除の処理方法には、データ書き込みと同時に重複排除を行うインライン方式と、ユーザーが取り決めたスケジュールに従って重複排除を行うポストプロセス方式に大きく分けられる。

 例えば、Data Domainのデータ重複排除ソリューションはインライン方式を採用しているが、この方式はバックアップウィンドウを制御しやすい点が大きなメリットである。もともとData Domainの製品は、データバックアップやアーカイブを対象としているので、インライン方式を採用したほうが都合がよいのだ。

 これに対し、NetAppはポストプロセス方式を採用している。重複排除はアクセスの少ない時間帯に実行するようにスケジュールが組まれることから、普段の稼働時には重複排除のプロセスがストレージアクセスに悪影響を及ぼすことはない。むしろプライマリストレージでの利用を念頭に置いて、あえてポストプロセス方式を採用したと考えられる。

 

書き込まれるデータをインライン方式で圧縮保管するデータ圧縮機能

 最新のData ONTAP 8.0.1では、データ重複排除に加え、データ圧縮の機能も追加されている。これは、書き込まれるデータをインライン方式で圧縮してからディスクに書き込む機能である。圧縮済みの画像や動画コンテンツ(JPEGやMPEG)など、さらなる圧縮が効きづらいデータでない限り、あらゆるデータに対してデータ削減効果を期待できる。また、データ圧縮の処理が十分に高速に行われるなら、相対的にディスクI/Oが削減されるため、アクセス性能の向上にもつなげられる。

 ただし現時点では、データ圧縮機能の導入を検討しているユーザーのシステム構成や用途、保有データの特性などに基づき、NetAppが承認したユーザーのみがこの機能を利用できる。具体的な審査基準は明かせないとのことだが、基本的にはデータ圧縮処理がシステム全体のパフォーマンスを損なわないような用途であれば承認が通りやすいという。

 数年前をさかのぼれば、NetApp Deduplicationも登場当初は承認制がとられていた。その後、ユーザー環境での実績やノウハウが蓄積され、またストレージコントローラの性能も飛躍的に向上したことで、現在では誰もが自由に使える機能となった。データ圧縮機能についても、NetApp Deduplicationと同じような流れをとるものと予想される。

 

極めてシンプルなケーブリングを実現するUnified Connect

 Data ONTAP 8.0.1の新機能として、もうひとつ重要なのが『Unified Connect』だ。Unified Connectは、10Gbit Ethernetに基づくロスレス設計のインターコネクト(DCB:Data Center Bridging)を利用し、CIFS、NFS、FCP、iSCSI、FCoEなど、NetApp FASシステムがサポートするストレージプロトコル群を1本のケーブルでやり取りできるようにする機能である。

 NetApp FASシステムは、さまざまなプロトコルを1台の筐体で同時にサポートするマルチプロトコル設計が大きな売りとなっている。しかし、Data ONTAP 7Gを搭載した従来のNetApp FASシステムで実際に構成しようすると、ストレージコントローラ側にはFibre Channel(FCP)接続のためのFCカード、CIFS、NFS、iSCSI接続のための10Gbit Ethernetカード、FCoE接続のためのUTA(Unified Target Adapter)を装着しなければならない。

 つまり、ストレージ自体は1セットながらも、ストレージ側のポートは3系統あり、ケーブルも同じく3系統を用意する必要があるのだ。結果として、煩雑なケーブリングが問題となり、ストレージ側でマルチプロトコルをサポートするメリットが薄れてしまう。

 Unified Connectは、こうしたスパゲティ状のケーブリングを解消する役割を果たす。Unified Connect自体はストレージ側のケーブリングを簡素化するものであり、システム全体でシンプルなケーブリングを達成するには、サーバー側の接続ポートやサーバーとストレージ間を接続するスイッチ製品との密接な連携が不可欠だ。

 サーバー側には、従来のLANトラフィック(TCP/IPベースのCIFS、NFS、iSCSIを通せるもの)とFCoEを同時にサポートするCNA(Converged Network Adapter)を装着する。また、これらのプロトコルを適切にハンドリングできるインテリジェントな10Gbit Ethernetスイッチを介してサーバーとストレージ間を接続する。これにより、サーバーとスイッチ間、スイッチとストレージ間のケーブルがどちらも1系統に集約される。


Unified Connect導入前と導入後におけるケーブリングの違い。マルチプロトコル対応のメリットを最大限に享受するには、ケーブリングのシンプル化が不可欠である

 

ベンチマーク結果によって示されたFCoEの優れたパフォーマンス

ベンチマークテストに使用された検証システムの構成

 午後の技術セッションでは、ブロケードコミュニケーションズシステムズが同社の最新スイッチ製品とUnified Connectを組み合わせたインフラ統合について解説した。ここで特に興味を引いたのが、同社のテスト環境で実際に計測されたベンチマーク結果だ。例えば、Unified Connectの環境下においてFCoEとiSCSIはどちらが高速か、また8GbpsのFibre Channelと比較した場合はどうかといった疑問に答えるデータが披露された。

 FCoEとiSCSIの比較では、小ブロックのアクセス時においてスループットとIOPS双方でFCoEのほうが高速だった。また、TCP/IPの処理がないFCoEは、レイテンシもiSCSIより短い傾向にある。逆に大ブロックのアクセス時には、iSCSIのほうが若干有利なデータが得られていた。データベースサーバーやメールサーバーなど、小ブロックのトランザクションが集中しやすい用途にはFCoEのほうが適していると考えられる。

 10Gbps FCoEと8Gbps FCの比較では、FCの実効スループットが6.2Gbpsなのに対し、FCoEのスループットは9Gbpsに達していた。同社は、10Gと8Gというパイプの太さの違いやエンコード方式の違いが大きく影響している分析している。

 FCoEは、SAN Bootが可能であり、またFCoEの足回りとなるDCBはETS(Enhanced Transmission Selection)によって帯域制御も確実に行える。こうした特徴を踏まえると、FCを適用すべき領域については、昔ながらのFCではなくFCoEを活用する形が今後のトレンドになりそうだ。ついでにUnified Connectによって、同一のケーブルで他のストレージプロトコルも一緒に流せば、実にシンプルなトポロジーを構成できる。


FCoEとiSCSIのパフォーマンス比較。小ブロックのアクセス性能は、総じてFCoEのほうが優れている8Gbps Fibre ChannelとFCoE(10Gbit Ethernet上)のパフォーマンス比較。総じてFCoEのほうが優れた結果を残している。今後は、高価なFCでシステムを構成するのではなく、FCoEベースで構成する形がトレンドとなりそうだ

 後編では、フラッシュメモリを活用した高速化技術、そして次世代のオブジェクトベース・ストレージとして注目されているNetApp StorageGRIDを紹介していく。

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