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Network Applianceに聞く同社のストレージ戦略 [前編]


 Network Appliance(以下、NetApp)といえば、高性能なNASアプライアンス、ニアラインストレージ、インターネットゲートウェイプロキシ/分散コンテンツ配信アプライアンスなどで有名なデータストレージプロバイダである。1992年に設立されて以来、持続的に急成長を遂げ、2001年にはついに年間売上高10億ドルを達成した。また、米IDCの調べによれば、NAS市場におけるシェアは業界で1位となっている。

 今回は、11月18日に国内で開催された記者発表会のために来日した米Network Appliance, Inc. アジア・パシフィック担当バイスプレジデントのトム・チン氏と、日本国内の経営を一手に任されている日本ネットワーク・アプライアンス株式会社 代表取締役社長の鈴木康正氏に、競合他社とは一線を画するNetAppならではの独特な企業風土、ストレージビジネスに対するビジョンなどについてお話を伺った。前編では、NetAppが急成長を遂げた秘密と独自の企業文化を取り上げる。


米Network Appliance, Inc. アジア・パシフィック担当バイスプレジデントのトム・チン氏 日本ネットワーク・アプライアンス株式会社 代表取締役社長の鈴木康正氏

2001年にビリオンダラーカンパニーを実現、2007年には3ビリオンを目指す

 NetAppは、1992年に設立されたデータストレージプロバイダである。当時、米国で有数のベンチャーキャピタルが将来有望な投資先として選んだ企業がYahoo!とNetAppの2社だったという。今やYahoo!が世界最大級のポータルサイトとして活躍していることはご存じの通りだが、NetAppもストレージ業界の中で著しい成長を遂げ、その勢力を全世界に拡大している元気な企業だ。


NetAppの総売上高推移。2005年下半期以降の数字は、成長率37%として筆者が計算したものだ。2002会計年度に一時的なマイナス成長を見せているが、その他の会計年度では前年度比で非常に高い成長率を示している。2005会計年度は、下半期も上半期同様の成長率を維持できれば15億ドル以上の総売上高を達成できる見込みだ。
 NetAppは、1995年に米国NASDAQへと株式上場を果たしたが、上場直前に当時のメンバーが立てた5年後の目標がビリオンダラーカンパニー(日本円で換算すれば約1000億円の売上高を有する企業)に成長することだった。「ビリオンダラーカンパニーという先々想定したゴールに向かって、何をしなければならないのか。その結論は実に単純でした。今後5年間、100%の成長率(1年あたり2倍)を維持することだったのです(チン氏)」。

 では、本当に100%の成長率を維持し続けられたのか。「言うは易く行うは難しです。1992~1997会計年度の5年間の平均成長率は、だいたい80%になります。売上高の絶対値が小さいうちは倍々で増やしていくことができましたが、売上高が大きくなるにつれて100%の成長率はさすがに難しくなってしまいました。しかしながら、ビリオンダラーカンパニーになるという本来の目標は、2001年4月期の時点で無事達成しています。そして、現在もなお売上高を伸ばしています(チン氏)」。

 「NetAppは、ビリオンダラーの売上高を実現した2001年に前年度比で70%以上の成長率を達成しました。当時はドットコムバブルがはじけた時期にあたり、多数のxISP、ドットコム企業が倒産に追い込まれましたのは記憶に新しいところです。NetAppの当時の取引先はこうした企業が7割を占めていましたので、このままでは巻き添えを食らってしまいます。しかし、そのようなときであっても、私たちは考え方や体制を迅速に変え、7割が大企業、3割がxISPやドットコム企業という構成比率に素早く切り替え、成長を止めずに済みました。かつてのxISP、ドットコム企業は、“今すぐ使うから製品をとにかく早く持ってこい”という特別な客層でしたが、大企業は製品、サービスともに完成度の高いものを適切なコストで調達しようとします。私たちも、こうした大企業に対して製品を提供するための体制、営業部隊の考え方、製品やその品質に対する考え方、サービスに対する考え方などを根本的に変えていったのです(鈴木氏)」。

 NetAppは、11月16日(現地時間)に2005会計年度 第2四半期の会計報告を発表した。発表内容によれば、第2四半期の売上高は3億7520万ドルとなり、前年度の同四半期と比較して36%の伸びを示しているという。また、前年度上半期に5億3610万ドルだった売上高が、本年度上半期では37%増の7億3360万ドルに達している。下半期の売上高も前年同期比37%増の8億6900万ドルだったと仮定すると、2005会計年度の総売上高は約16億ドルに達する計算となる。

 これに対し、チン氏は「2007年会計年度には3ビリオンダラーカンパニーへと成長し、ストレージ業界において世界で第3位のシェアを獲得したいと思います」と息巻く。ちなみに、この30億ドルという総売上高は、本年度下半期から前年度比37%の成長率を持続できれば達成できる数字であり、なかなか現実的なラインだと思われる。


人を大事にするというNetAppならではの企業文化

 NetAppの優れたところは、企業としての著しい成長だけにとどまらない。NetAppならではの独特な企業文化も興味深いポイントだ。

 その端的な例が、レイオフ(経営不振などに伴う従業員の一時的な解雇)を実行していない数少ないハイテク上場企業であることだ。近年、ドットコムバブルの余波を受け、大規模なレイオフを実行した上場企業が数多く存在するが、レイオフという行為は従業員にとって最大級の不幸にほかならない。レイオフは企業が生き残るための最終手段であると論じる経営者は少なくないが、これは“企業が人によって支えられている”という本質を度外視した危険な考え方でもある。レイオフを実行するのは経営者の自由だが、いずれにせよ企業自身にとって諸刃の剣となることに変わりはない。

 「企業の中でも特に輝いている人や挑戦力のある人を会社に残しておくことは非常に難しいことです。ましてや、レイオフを繰り返すような企業体質であれば、優秀な人材が会社からどんどん離れていってしまうでしょう。NetAppは、trust(相互信頼)、integrity(組織をまたがった一貫性)、respect(他のメンバに対する尊敬、尊重)という3つの理念のもと、経営陣、従業員の垣根なく、互いに共感しあいながら大きなものを作っていくという素晴らしい文化を創り上げました(チン氏)」。

 実際、NetAppは従業員にとって本当に居心地の良い会社だと評価されている。例えば、2003年以降、米FORTUNE誌が米国の優れた職場を表彰する「100 Best Companies to Work For(最も働き甲斐のある企業ベスト100)」に選出されている。また、San Jose Magazine誌の「50 Best Companies to Work For」やIDG Computerworld誌の「100 Best Places to Work in IT」にもランクインしており、「これらのランキングは毎年上がっている(チン氏)」のだという。

 かつてのインターネットブーム時代には、“会社を興して株式公開しては逃げ、また別の会社を興して株式公開しては逃げ”といった行動を繰り返すことでお金を作る行為、すなわち持続的に何かをやるのではなく、短期間の作業をとにかく回し続けることがもてはやされていた。確かにこのような過程で巨万の富を築いた人は世界中に何人もいるが、NetAppはそうした時代を経ていながら、持続的なビジネスを遂行するスタンスを貫き通してきた。「NetAppの経営陣は10年以上の間まったく変わっていません。創業者やCEOを含むキーメンバーは、NetAppに長い間残っており、現在もなおNetAppの発展のために汗を流しています。しっかりとした経営陣がしっかりとした企業経営を持続したことで、非常に堅固な企業基盤を築き上げることに成功しました(鈴木氏)」。


顧客を惑わさない首尾一貫した製品戦略

 次にNetAppのビジョンについてだが、多くの上場企業のように影響力のある創業者やCEOのビジョンがそのまま企業のビジョンとなるわけではないという。例えば、鈴木氏は日本の事情や将来性に基づいて日本のビジョンの枠組みを作るが、これが日本のビジョンそのものにはならない。鈴木氏は部下の意見を尊重し、部下はさらにその部下の意見を尊重する。つまり、日本ネットワーク・アプライアンスの各部門、部隊が積み上げてきた集合体が日本のビジョンを形成するわけだ。

 さらに、鈴木氏は米国本社にこのビジョンを持ち込み、それに応えるような製品を引き出そうとする。本社はこうした製品を実現できるように日本のチームを全面的に援助する。これは各地域に対して行われることであり、こうして全世界の経営陣、従業員のビジョンが統一性を持って積み上がっていくことでNetAppの全社的なビジョンが生まれる。「他の企業のように創業者やCEOの考え方を一方的に押しつけて突っ走るのではなく、これらに対する理解と協議、いろいろな検討がさまざまな部門でまたがって行われることにより、きちんと中身が調整されていくわけです(鈴木氏)」。

 これまで述べたような首尾一貫性は、社内のみならず社外に向けた文化にも反映されている。例えば、1992年に設立されて以来、製品、製品コンセプト、設計思想に対して完璧な一貫性を持ち続けているという。ストレージ市場では、多くの企業がキラーな言葉を駆使して魅惑的なストーリーを作り上げ、自社の製品とテクノロジがベストであることをアピールする。もちろん、優れたマーケティングはとても大事なことだ。


 しかし、チン氏は「短期間で次々とストーリーを変えていくマーケティングはいかがなものかと思っています。たぶん顧客を混乱に陥れるだけでしょう。これに対し、NetAppは創業以来、突然路線を変えるようなことは一度としてありません。私たちは、キラーな言葉で顧客の目を引きつけようとするのではなく、顧客が何を重要視しているのか、どのような問題に対する解決策を求めているのか、その他にどのような必要性、需要を感じているのかといった現実面に即して製品やテクノロジを開発しています」と説明する。

 実際、あまりにもキラーな言葉を使わないがために、台湾の報道関係者から「ILMに代表されるストレージ業界の流行語にはあまり興味がないのか?」という質問まで受けてしまったそうだ。

 「最近多くのベンダが唱えているILMは優れたメッセージだと思いますが、NetAppは自社製品で古くからこの考え方を取り入れています。例えば、NetAppは創業当時にインターネットが将来的に大きな役割を果たし、地球全体で重要な社会基盤となることを予測していました。そして、インターネットを通じてデータがあちこち駆けめぐる時代になれば、データをコピーし続けなくても済むようにするキャッシングのテクノロジが重要な役割を果たすことも予測できました。そこでいち早く開発した製品が、Webサーバー向けのキャッシュサービスアプライアンスです」。

 「さらに、ATAディスクドライブとテープの価格がどんどん近づくことを見抜き、いずれはATAディスクドライブがテープを補うことになることも予測できました。そこで、他社に先駆けてATAドライブを使用したニアラインストレージを発売しました。本来のディスクストレージとテープに加え、キャッシュサーバーやニアラインストレージを効果的に組み合わせることで、データの容量、データへのアクセスが急激に拡大しても柔軟に対応できるようになります。こうした考え方はまさにILMそのものですが、NetAppにとってはすでに自らのDNAに組み込まれているテクノロジに過ぎません。つまり、ILMというキラーな言葉を使って顧客にアピールするまでもないということです(以上、鈴木氏)」。


 後編では、もう少し技術的な切り口からNetAppの優位性に迫っていこう。

  日本ネットワーク・アプライアンス株式会社
  http://www-jp.netapp.com/
  ・ Network Applianceに聞く同社のストレージ戦略 [後編](2004/12/06)
  ・ ネットアップ、「ボリュームの動的な仮想化」を実現する新OS(2004/11/18)
  ・ 「Spinnakerを糧に」ストレージグリッド構想を強化するNetApp(2004/09/03)


( 朝夷 剛士 )

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