IPプラットフォームからビジネスプラットフォームへ~三井情報のCisco UCSへの取り組み


 三井情報は、三井物産グループのシステム・インテグレータだ。ネットワーク事業に強みを持つネクストコムと、システム構築にたけた三井情報開発が2007年4月に合併して誕生した。

 こうした経緯から、ネットワーク・インテグレーション分野に強みを持つ三井情報だが、現在は、ネットワーク事業分野でCisco UCSに対する取り組みを開始し、ネットワークがITシステムすべてのプラットフォームに変わっていく、という時代のトレンドに正面から取り組んでいるところだ。今回は、この三井情報の取り組みを紹介する。

 

三井情報の事業概要

三井情報の3つの事業の柱

 三井情報は現在、SI事業(システムインテグレーション)に取り組む「ビジネスソリューション事業」、ネットワーク事業を担当する「プラットフォームソリューション事業」の2本柱を既存事業とし、さらに、新規分野の開拓としてクラウド・ビジネスやデータセンターを活用したビジネスに取り組む「サービス事業」を加え、3本部体制で事業展開している。

 生い立ちとしては、ビジネスソリューション事業はもともと、旧三井情報開発が親会社の基幹システムの運用開発を担当していたことに由来し、プラットフォーム事業は旧ネクストコムがネットワークとコンタクトセンターを中心に展開していた事業を受け継いだものとなっている。そうした経緯から、Cisco製品に関連するビジネスはプラットフォームソリューション事業の一環として展開しているが、同社は、ネクストコム時代の1990年代からという長い歴史と豊富な実績を誇る“シスコ・ベンダー”である。

 このプラットフォームソリューション事業は、もとをたどると、ネクストコムとアダムネットが合併し、さらに、システム運用管理ソリューション事業が加わって成立している。アダムネットは海外製PBXを軸とした「外資PBXの国内インテグレーション」という分野を中核に、コンタクトセンター向けのビジネスに強みを持っていた。

 一方のネクストコムは、3Comの日本での事業会社を起源とし、TCP/IPネットワーキングの分野で長く活動してきたことから、製品/事業のカバー範囲はほぼCiscoの製品戦略と重なっていた。ここでCisco製品の取り扱いを始めてルータを扱うようになり、ルータが高機能化してIP電話などのさまざまな領域を統合していく過程で、三井情報のプラットフォームソリューション事業もその事業範囲を拡大して「ネットワーク・インテグレータ」といわれる事業を展開してきている。

 こうした経緯から、従来のネットワーク機器という枠には収まらないCisco UCS(Unified Computing System)も、プラットフォームソリューション事業の一部として展開し始めているという。

 大きく3事業に分かれているものの、“サーバー仮想化”に対する取り組みは、三井物産の基幹システムのサーバー統合プロジェクトへの参加などの形で三井情報全社での取り組みとして積極的に展開している。一方、プラットフォームソリューション事業単体で見ると、Ciscoがこれまで取り組んできた事業ドメインの拡張の流れに追従する形となっており、Cisco UCSの投入に合わせてサーバー分野への展開が始まったタイミングである。

三井情報のプラットフォームソリューション事業本部 事業推進部 営業推進室 室長の陸田貴秀氏

 三井情報のプラットフォームソリューション事業本部 事業推進部 営業推進室 室長の陸田貴秀氏は、「当社がプラットフォームソリューション事業において目指しているのは、IPネットワークをベースとしたさまざまなシステム・コンポーネントをインテグレートし、お客さまにビジネス・プラットフォームとして届けること。そのために、Cisco UCSをビジネス・プラットフォームの核を構成する重要コンポーネントとして位置付け、『IPネットワーク・インフラがさまざまなものを統合していく』という、Ciscoのコンセプトとともに展開したい」と語る。

 これまでも、ネットワーク・インテグレーションを手がける過程において、サーバー・インテグレータとの協業の中で、「サーバー内部のネットワーク・インターフェイスの設定を任せたい」という話も増えてきていたそうだ。当初は「なぜネットワーク・インテグレータにサーバー内部の設定を?」と困惑もしたそうだが、実際に中を見てみたら「実は中身はCiscoのスイッチだった」といった状況もあり、ネットワークとサーバーの境界が以前とは変わり始めていることは実感として理解していたそうだ。

 ネットワーク・インテグレータの立場からすると、UCSの製品発表から現在までに十分な期間が確保できていたという実感はないというが、それでもVMwareを含め、UCSに関しては社内の知見/ノウハウを一元的に集約する体制が整い、ユーザーに対して十分なサポートを提供できる体制が整ったところだという。

 

Cisco UCSファースト・タッチへの取り組み

Cisco UCS Bシリーズ

 ビジネス面では、従来のサーバーの考え方とCisco UCSの考え方には違いもあるので、最初の取り組みとしては、「新しいアーキテクチャ/コンセプトを受け入れてもらえるお客さまと一緒にシステムを作っていく」というところから着手している。こうした先進的なユーザーに対しては、既存のサーバーベンダーも重要市場として注力しているため、UCSの導入は簡単な取り組みではないのは確かだが、三井情報では、地道な情報提供から行っている。

 そうした状況で、三井情報では、オンラインのプレゼンテーションと実機デモを組み合わせ、UCSについての知見を広めてもらうためのセミナー「Cisco UCSファースト・タッチ」を、「より広くお客さまに情報提供を行える機会」(陸田氏)の1つに位置付け、積極的な取り組みを行っている。

 三井情報は日本全国で最新ソリューションを提供しており、Cisco UCSファースト・タッチに関しても「まずは関東から」ではなく「いかに全国展開するか」を軸に考え、今回も可能な範囲で全国開催する準備を進めているとのことだ。

 UCSの用途としてまず考えられるものに、まず、「プライベートクラウド」がある。Cisco UCSは、ブレードサーバー、ネットワーク、ストレージといった物理的な構成要素を、仮想化技術を生かして統合できるメリットを持つため、プライベートクラウドの構築には向いている。しかし、既存システムをまったく新しい基盤の上にいきなり移行する、というのは現実的ではなく、必ず移行期間のためのテスト用のインフラを構築し、アプリケーションのテストを行った上で載せ替えていく、といった手順が現実解になるだろう。

 そこで、まずはテスト環境としてUCSを検討してもらえるように情報を出していくのが最初の取り組みとなる。UCSはコンピューティング・リソースであり、どのようなアプリケーションでも載せられるプラットフォームとなっているので、バックエンドのコンピューティング・リソースとして、さまざまな展開が考えられる。

 現在は、潤沢なコンピューティング・リソースを必要としているユーザーとの、共同検証などへの取り組みも進めているところだそうだ。そうした先進的なユーザーでは、現時点でも「フルFCoE環境」までを念頭に置いた検討を始めているところもあり、研究/実験の色彩が強いが、三井情報は、共同検証を通じてストレージ環境を含む次世代プラットフォームの立ち上げに参画していくとのこと。

 もっとも、現時点ではこうした先進的なユーザーにおいても「旧来のサーバーをベースに構成したインフラとUCSベースのインフラではどのような違いが生じるか、メリット/デメリットは何か、という点の検討から始まっている状況ではある。しかしながらCiscoには、FC SANスイッチの製品ラインアップもあり、ストレージエリアも含めたFCoE環境で、サーバー/ストレージの統合プラットフォームを提案できる点をUCSのアドバンテージとしてアピールしている。また、他社サーバーが導入された既存環境に対しては、UCSを活用したネットワークとサーバーの統合環境における運用効率の向上やコストダウンをアピールしている」と語る。

Cisco UCSは、コンピューティング・ネットワーク・仮想化の各プラットフォームが融合しており、ネットワーク環境全体の変革を前提にしている。そのため、既存のサーバーを前提に考えている環境に、後からUCSを導入するのはもったいない使い方だ。環境全体を考えて採用するのが、最適だといえる(資料提供:Cisco)

 既存のサーバーを前提に考えた環境に、後からUCSだけを押し込むことは、その価値を考えるともったいない使い方で、UCSを活用するなら“ネットワーク環境全体が変わること”が、最良の使い方となる。ネットワーク、サーバー、ストレージをすべて一括してインフラを構成することで、「運用はこう変わる」「ネットワークのパフォーマンスはこう変わる」といった点をまとめて説明しないと、UCSのアドバンテージに対する理解が得られないのが実情だが、ユーザー側でそれぞれの担当者が分かれていることも珍しくはないので、その点の難しさもあるという。

 従来のネットワーク担当者に対する情報提供だけではUCSのコンセプトを受け入れてもらえるところまではいけても、サーバー担当者/ストレージ担当者を巻き込んでインフラ全体を再設計するというところまでは簡単にはたどり着けない。そこで三井情報では「Cisco UCSファースト・タッチ」を、従来の顧客であったネットワーク担当者に加えてサーバーやストレージの担当者にも情報提供できる機会と位置付け、構成を工夫しているという。

管理ツールであるUCS Managerの特徴(資料提供:Cisco)

 従来は、データセンターがすぐに駆けつけられる場所にあったが、今後は遠隔展開することが増えると予想しているので、そうした環境においてもUCSなら効率的に管理できる点は大きなメリットになる。また、UCSを活用することで「運用体制はどう変わるのか」という点も重要なテーマとなっている。

 「今回のファースト・タッチでは、UCS Managerの特徴/概要を中心にデモを行う内容となっており、その中でプロファイルの作成から操作イメージの確認まで一通りカバーしていく予定だ。加えて、故障時の対応方法として、イベントのトリガをどう確認できるのか、また、遠隔操作で“構成情報をほかのブレードに丸ごと移動する”ことができるといった点を見せている」

 「また、UCSのステートレス・コンピューティングでは、ハードウェアとシステム・パラメータが分離して管理されており、現地でハードウェア障害部を物理的に交換しさえすれば、サーバーの復旧に必要なすべて設定を遠隔から行える。よって、ハードウェア交換要員と運用管理者の最適配置と柔軟な管理・運用が可能となり、障害復旧時間の短縮と運用管理コストの低減を実現できる」(以上、陸田氏)という。

 ファースト・タッチでは、これら「運用管理」を重要なテーマの1つとして参加者が新しい運用体制を体感できるようなプログラム構成を工夫しているそうだ。

 

今後の展開

 続けて、三井情報のプラットフォームソリューション事業でUCSを展開していく際の、今後の将来展望についても聞いてみた。

 まず、ユーザー側ではコスト削減を筆頭に、セキュリティや生産性向上に対する意識も極めて高くなっており、これらの課題を解決するための1つの手段としてのシンクライアント(仮想デスクトップ/VDI)に注目しているところが多いそうだ。そのため、シンクライアントを支えるための仮想化インフラとして、UCSを活用することが考えられるという。

 また、Ciscoが取り組む「UC on UCS」というユニファイド・コミュニケーション・ソリューションにも期待しているそうだ。もともと三井情報のプラットフォームソリューション事業では、コールセンターなどの音声ネットワークに強い部門を有しているため、UC on UCSは従来のビジネスにUCSを加えていく上で、有効なソリューションとなる。現在は検証を進めている最中だが、このソリューションが本格的に展開できるようになればUCSの導入も拡大することが見込まれる。

 Cisco UCSは、仮想化環境での利用に最適化して設計されているという、従来のサーバーとは異なるコンセプトに基づくコンピューティング・プラットフォームであるため、インフラ全体を再設計しないとその真価を引き出せない面がある。もちろん、従来のインフラにコンポーネントとして追加しても利用はできるが、すべての能力を発揮できず、“もったいない”使い方になってしまうだろう。

 こうした状況を正しく理解した上でネットワーク・インテグレーションに取り組んでいる、三井情報のような専門事業者が独自の知見を盛り込んだセミナーとして「Cisco UCSファースト・タッチ」を展開することで、市場でのUCSに対する理解も深まることが期待できる。

 それは結果として、サイロ化された部分最適システムといわれて久しい日本国内のITインフラを最新世代に進化させる原動力となり、ユーザー自身の革新に寄与することが期待できるだろう。

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