Microsoft SQL Serverの進化を見る【第二回】

BI/DWH分野の強化とアプライアンスの提供


 マイクロソフトは5月から、最新データベース製品である「SQL Server 2008 R2」の提供を開始した。今回は「R2」という名前が示す通り大々的なバージョンアップではないが、ユーザーのニーズを取り入れ、BI(ビジネスインテリジェンス)において新機能を搭載するなど、重要な機能拡張が行われている。このBIについては、同社が以前から力を入れてきた点で、2009年には初めてのアプライアンス製品を提供するなど、着実にラインアップを強化しつつあるという。

 二回目となる今回は、マイクロソフトや同社のパートナーに、SQL Serverを用いた、BI/DWH(データウェアハウス)に関する取り組みを聞いた。

 

BI/DWH機能の充実を図る

さまざまな機能強化が行われてきたSQL Serverだが、BI/DWH機能も継続して拡充されてきたという
マイクロソフト サーバープラットフォームビジネス本部 エグゼクティブプロダクトマネージャーの斎藤泰行氏

 「SQL Serverでは、SQL Server 2005から、データを利用する領域の拡張を継続して行ってきた」――。SQL Serverでは、データベースエンジン自体の機能強化も継続して行ってきているが、近年、特に重視しているのは、BI/DWHの機能なのだという。

 企業活動にとって不可欠なツールになりつつあるBIは、かつては経営層などの特定のユーザーだけが利用していたソリューションだった。しかし、営業、マーケティングなど現場の社員が適切に活用すれば、予測の精度が向上し、業務上での判断をより的確に行えるようになることが認知され、広く使っていきたい、というニーズが現れている。

 サーバープラットフォームビジネス本部 エグゼクティブプロダクトマネージャーの斎藤泰行氏は、「今までは経験と勘に頼っていた営業が、きちんと分析したい、というニーズがあり、それが爆発したという印象。2009年2月以降、DWHの活用は確実に増えてきた」と、その状況を話す。

 ただし、全社で積極的に活用しようと思っても、これまでは、コストの面が壁になっていた。しかし、SQL Serverでは、追加費用なくBI/DWH機能を利用できるほか、「使い慣れたExcel、あるいはWebブラウザを用いて手軽に使える点を、魅力に感じてもらっている」(斎藤氏)のだという。

 DWH/BIに関する機能面でも、SQL Server 2005からテーブル/インデックスのパーティショニングに対応したほか、SQL Server 2008から、データ圧縮にも対応。さらに、Webレポーティング機能を大幅に強化し、選択可能なグラフ数の拡充、空間情報のサポート、同社の地図情報サービス「Microsoft Virtual Earth」との統合といった強化を継続して行ってきた。

 こうした点は、パートナーからも評価されている。SQL Serverを使うメリットとして、NEC プラットフォーム販売本部 エキスパートの板持肇氏は、「従来はバラバラにそろえる必要があったETL、DWH、分析、レポートといったツールを、SQL Server 2008だけでカバーできる」と指摘。マイクロソフトとの協業のもと、CQI(早期実証プロジェクト)において、徹底的に検証を進め、そのノウハウをためてきたと説明する。

 実際に同社では、Windows Serverベースのソリューションにおいて、BI/DWHを重点ソリューションに位置付けており、顧客にも多くのシステムを納めてきた。

 例えば、SQL Server 2000による販売実績・予算対比システムを利用していた製造業では、粒度がまちまちなために予算をCube化できず、予算対比を実現するためには、CubeとRDB双方にアクセスする必要があったほか、Cube作成パフォーマンスにも問題を抱えていたという。

 このシステムを、SQL Server 2008ベースのシステムに入れ替えたことで、予算のCube化を実現。また、データ圧縮などによってCube作成時のパフォーマンス向上も達成している。板持氏は、特にデータ圧縮について、「性能が上がって容量が押さえられ、しかも標準機能なのは大きなメリット。DWHを使うなら、(SQL Server 2008から導入された)圧縮を利用しないのはもったいない」と話し、SQL Serverの着実な性能強化を評価する。

 

事前検証による信頼性と価格の安さ、透明性が特徴のアプライアンス

米Microsoft SQL Server, データ ウェアハウジング プリンシパル プログラム グループ マネージャのマーク・ティーセン氏
Fast Track DWHによるメリット
Fast Track DWHのエントリーモデルのサーバー部分。一般的なx86サーバーを利用している点が、このアプライアンスの特徴だ

 このように、BI/DWHでの活用が増えるSQL Serverだが、この領域は、急速なアプライアンスサーバー化が見られる領域でもある。そこでマイクロソフトでも、この流れに対応するために、アプライアンス「SQL Server Fast Track Data Warehouse」(以下、Fast Track DWH)を製品化。特に中小規模環境に向け、2009年6月より提供を開始した。

 マイクロソフトがこうしたアプライアンスを手掛けることについて、米Microsoft SQL Server, データ ウェアハウジング プリンシパル プログラム グループ マネージャのマーク・ティーセン氏は、「SQL Serverをお客さまのDWH環境において、ひとつの標準として選択していただけるようにする、というのが当社のビジョン。その上で、お客さまが『やってみたい』と考えたときに、すぐに実装できるスピード感が重要と考えているため」と説明する。

 実際のFast Track DWHは、アプライアンスとはいっても単一ベンダーの製品ではなく、SQL Server 2008 Enterprise Editionと、パートナーのx86サーバー、ストレージを組み合わせ、マイクロソフトが事前検証した最適な構成で提供するもの。「多くのハードウェアパートナーと協業し、お客さまに選択肢を提供しないといけないとも考えている」とティーセン氏が述べるように、国内でも、日立、NEC、新日鉄ソリューションズ、日本HP、デル、日本IBMなど、多くのパートナー企業が製品を用意した。

 具体的なFast Track DWHのメリットとしては、「事前検証済みであることによる信頼性」と「製品価格の安さ、透明性」をアピールする。ハイエンド製品であっても、競合製品と異なり、完全にコモディティ化された市販のハードウェアのみを使うため、ベースとなる価格も他社の1/3から半分くらいで提供できるほか、マイクロソフトとパートナー企業での事前検証が済んでいるので、ユーザー自らが検証する必要はなく、導入時の工数を大幅に削減可能なのだ。

 また、他社製品では明確な価格表がないことが多く、価格が分かりにくいのだという。しかしFast Track DWHでは、構成ごとに価格が明確に定義されており、ユーザーは、自分が欲しい構成がどのくらいの価格なのか、ということをイメージできる。例えば、NECが用意するローエンドモデルの場合、SQL Serverと、サーバー、ストレージを合わせて808万8800円の値付けがされている。

 こうした点については、富士通 プラットフォーム技術本部 ISVセンター MSミドルウェア技術センター長 荒山一彦氏も、「DWHでは、専業メーカーのアプライアンスは非常に高くなるので、コストという面が、一番大きなメリットになる。お客さまは、一般的なストレージ、サーバーを使うという点で、本当にできるのか不安に思われるだろうが、Fast Track DWHでは、このクラスでこのくらいまでできます、という検証が済んでいることが強みになる」と述べ、顧客に対する価値を強調する。

 

大規模向けのアプライアンスも提供予定

Parallel Data Warehouse Editionの提供に向け、SQL Server 2008 R2では機能が強化されている
Parallel Data Warehouse Editionの構成イメージ。Parallel Data Warehouse Editionも、Fast Track DWHと同様、マイクロソフトがすべてを提供するのではなく、HP、Dell、IBM、EMCといったパートナーが組み上げ、ソリューションとして提供する形を採用する

 しかし、Fast Track DWHはあくまでもミッドレンジ以下のクラスに向けたソリューションであり、競合ベンダーと戦うためには、その上のレンジについてもラインアップをしていく必要がある。

 その領域を埋めるために、SQL Server 2008 R2では、米Microsoftが買収したDATAllegroの技術を利用する最上位エディション「Parallel Data Warehouse Edition(開発コード名:Madison)」が提供される予定。最大256論理プロセッサまでの拡張に対応するほか、コンピュートノードを並列動作させる超大規模並列処理(MPP)アーキテクチャを採用し、数百TBクラスの大容量データについても、効率的な処理を行えるようにしている。

 この製品を提供する狙いについて、ティーセン氏は、「リアルタイム、あるいはそれに近いDWHが急速に求められるようになっているほか、DWHに格納されるデータも、多様化して量が多くなっていく。また、今日は、61%がSMPであるものの、次の3年では、大部分がMPPに移行するという調査がある一方、アプライアンス化が急速に進むとの調査もあり、この2つを合わせると、なぜ当社が(MPPのParallel Data Warehouse Editionを)手掛けているかがおわかりいただけるだろう」と話す。

 しかし、ローンチ前ということもあって、具体的な性能については明らかにされていない。ティーセン氏も、「100TB以上にも対応可能で、単一障害点を持たない高い可用性がある」としたのみで、具体的な機能や性能については明言を避けたが、「ひとつだけいえるのは、当社がParallel Data Warehouse Editionによってアプライアンス市場に入っていくのは、自然な進化の結果。後になって振り返ってみると、当社のDWHビジョンを実現する上でPDHのリリースが良かったのではないか、と思ってもらえるだろう」と述べ、他社の製品と比べてもひけは取らないとした。

 ここで重要になるのは、マイクロソフトが重視しているのが、絶対的な性能の高さではなく、費用対効果(プライスパフォーマンス)であるという点だ。ティーセン氏は、「もちろん、性能が大きく劣ることがあってはならないが、必ずしも、それだけが重要な指標なのではない。費用とパフォーマンスの指標を、バランスよく達成することが肝」と、この点を強調。その指標で、市場のリーダーを目指すとの意図を示している。

 なお、近年ではDWHアプライアンスの中に、OLTPの処理も行える製品が登場している。これについてティーセン氏は、「他社の動向はともかく、Parallel Data Warehouse EditionはDWHにのみフォーカスしている。この分野で長い経験を私は持っているが、その経験に照らして考えると、DWHとOLTPのトランザクションを同じシステムで処理するのは、何かリソースの競合が出てしまうケースが出てくるだろう。アプライアンスは、何のために作られたものなのか。明確な価値を、低価格で提供するべきと考えている」と述べ、このアプローチを否定していた。



 このように、SQL ServerにおけるBI/DWH機能、取り組みは着実に強化されているが、実は、実は、SQL Server 2008 R2において、ユーザーサイドでのBI活用を促進する仕組みが新たに搭載されている。次回は、この「Power Pivot」を中心に紹介する。

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