特別企画

世界を新たにつなぎ直す~ネットワーク仮想化プラットフォーム「VMware NSX」とは (Ciscoとの姿勢の違いと今後のパートナーシップ)

Ciscoとの姿勢の違いと今後のパートナーシップ

発表された20社あまりのVMware NSXパートナーの中にCiscoの名前がないことが話題となった

 もうひとつ、キーノートやインタビューにおいてカサド氏が強調していたのが「VMware NSXは既存のハードウェアベンダやソフトウェアベンダと競合しない」という点だ。基調講演ではVMware NSXの協力ベンダとしてJuniper NetworksやCheck Point Technologies、Riverbed、IBM、Dellなど20社の名前が挙がり、パートナー企業との協力体制の下に“VMware NSXエコシステム”が準備中だとしている。

 だが、このパートナー一覧にはCiscoの名前がない。これを受けていくつかの海外メディアやアナリストが「ネットワーク仮想化におけるCisco vs. VMware」という対立軸を打ち出した。

 この件に関して報道陣から質問を受けたゲルシンガーCEOは「Ciscoはこれまでもこれからもわれわれにとっての重要なパートナーであり、現にCitiやeBayのNSX検証環境はCiscoのハードウェアを使っており、高い効果が実証されている。VMware NSXはCiscoにとっても親和性の高いプラットフォームだ」とQ&Aセッションで回答している。

 また、日本法人のヴイエムウェア 代表取締役社長 三木泰雄氏も「ネットワーク仮想化に対する基本的なアプローチはわれわれもCiscoも同じだと思っている。(VMware NSXのパートナー一覧に)名前がなかったからといってCiscoとのパートナーシップが悪化しているようなイメージはあまりもってほしくない」とコメントを寄せており、Ciscoとの対立関係を強く否定している。

プレスカンファレンスで「Ciscoとのパートナーシップに影響はない」と強調するゲルシンガーCEO
「VMwareが目指すのは電気や水道のように使えるITの世界」と語るヴイエムウェアの三木社長

 Ciscoは世界No.1のスイッチ/ルータのベンダであるだけでなく、サーバー市場でも大きくシェアを伸ばしている反面、ネットワーク仮想化やSDNにおいては独自路線ともいえる姿勢を取っている。

 VMware NSXが物理ネットワークを抽象化するオーバレイ方式を採っている以上、物理ネットワークにおける圧倒的なシェアを誇るCiscoを無視した仮想ネットワーク構築は考えられないが、仮想ネットワークの標準化でVMwareがリーダーシップを狙うなら、現時点でCiscoに寄り過ぎるのは危険ともいえる。

 今後、VMware NSXを普及させていくために、Ciscoとのパートナーシップをどのように位置づけていくのか、あらためて注目したいポイントだ。

 「VMware ESXをVMware NSXでつなぐ、それだけで“すばらしいソリューション”が実現する」――。親日派で、何度も来日しているというカサド氏はグループインタビューの席上、日本語であえて“すばらしいソリューション”と強調していた。

 クラウドがサーバーやストレージといったリソースの調達スピードを劇的に短縮したことにより、ITがビジネスの世界に大きなインパクトを与えられることが証明された。同じように、ユーザーが求めるときにすぐにネットワークが提供されれば、ビジネスはさらに変わっていくだろう。

 VMwareが最終的に目指す世界は仮想化されたネットワークではなく「“IT as a Service”、電気や水道のように、好きなときに好きなだけ使えるIT」(三木氏)だという。既存のネットワークの常識を打ち破り、世界を新たにつなぎ直すことでIT as a Serviceが実現するなら、そのために欠かせない要素がSoftware Defined Datacenterであり、VMware NSXということになる。

 IT as a Serviceの第一歩となる“すばらしいソリューション”として認識されるためにも、VMware NSXのローンチは失敗できないといえそうだ。

五味 明子