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OKI、リコーと東芝テックの合弁会社「ETRIA」に参画 LEDヘッド技術を活用し競争力を強化
2025年2月18日 06:15
複合機などの開発および生産を行うエトリア株式会社(以下、ETRIA)に、新た沖電気工業(以下、OKI)が参画することが、2月13日に発表された。
ETRIAは、リコーと東芝テックが2024年7月1日に設立した合弁会社で、OKIの参画は3社目だ。今後、ETRIAが開発・生産する複合機向けの共通エンジンを、リコー、東芝テックに加えて、OKIにも供給。各社が独自のコントローラーやソフトウェアを搭載することで、各社がそれぞれに複合機を製品化し、RICOHブランド、TOSHIBAブランド、OKIブランドで独自に製品化して、世界市場に向け販売することになる。
各社が持つ販売チャネルを通じて、各種ソフトウェアやサービスと組み合わせたソリューションを提供することで、各社の顧客基盤や強みを生かしながら、顧客務ごとのニーズに寄り添ったデジタル化やワークフロー改善を提案し、生産性の向上に貢献することができる。さらに、企業が取り組むワークプレイスにおけるDXを支援でき、社会課題の解決につなげるとしている。
リコーの大山晃社長 CEOは、「ETRIAは、スケールメリットと差別化を両立できる事業モデルであり、OKIが新たに参画することで、LEDヘッドに関する優れた技術を活用できるようになる。より競争力を持った強力な共通エンジンを開発できる」と期待を述べた。
また、OKIの森孝廣 社長兼最高経営責任者は、「OKIという企業の枠を超えて、プリンタ技術と人財を生かすことができる。私自身、長年、プリンタビジネスに身を置き、愛情もあり、理解も深い。心から望んでいた仕組みである。企業カルチャーや人については心配していない。ベストパートナーであり、日本の業界をリードできる一員に加わることができた。次の発展に向けて、幅広い共創に進化していくことに期待している。未来に向けた第一歩になる」と語った。
今回のOKIの参画は3社目。ETRIAへの出資比率は、リコーが80.74%、東芝テックが14.25%、OKIが5.01%となり、ETRIAは、東芝テックの持分法適用会社から外れる。出資比率については、「持ち込む事業の規模、利益、技術やアセットなどをフェアに評価した結果」(ETRIAの中田克典社長)と説明した。また、開発したエンジンは、3社以外にもOEM供給する考えを示した。
OKIは、独自のLEDヘッドを採用した電子写真式プリンタを製品化しており、小型化、高精細に強みを持つ。また、シンプルな構造であり、可動部分が少なく、部品点数も少ないため、設計の自由度が高く、耐久性の高さやメンテナンス性にも優れているという特徴を持つという。
OKIの森社長兼最高経営責任者は、「世界最小という部分にもこだわってきた事業である。卓上型プリントヘッドでは、世界初の1200dpiを実現し、デザイン分野や印刷分野において、高精細印刷を実現するプリンタとして評価されてきた。ユニークな製品を生み出してきたと自負しており、LEDによって差別化できる分野で強みを発揮してきた」とする。
その上で、「プリンタ技術には自信があり、いい製品を作れる自信もある。だが、OKIが持つ技術を生かしきるには、事業基盤が少し脆弱であり、使いきれないという実感がある。また、新規技術の開発に単独で多額の投資を行うことが厳しくなってきたという実態もある。枠を超えて、人と技術が生きることに価値を感じている。これが一番の思いである。ETRIAに組み入れることで、付加価値の高いものを必ず生み出せる。いいモノを世の中の隅々にまで届けることができる千載一遇のチャンス。ブランドや自前主義にこだわらずに、日本のモノづくりのパワーを活用したい」と宣言した。
技術革新や商品力強化への貢献のほか、OKIが持つタイの工場をETRIAに移管し、これを活用した生産体制の強化、シングルファンクションプリンタ領域における共通エンジンのシェア拡大に貢献できるとした。
また、「昨今、縮小していた商品ラインアップの強化によって販売を活性化でき、得意とする日本や欧州の販売チャネルを生かした展開を推進できる。リコーとのすみ分けもできている。また、将来的には、新規事業分野の開拓にも期待している。今回の協業は、Win-Winの関係にある」と述べた。
リコーは、これまでにもOKIに対して、エンジンのOEM供給を行ったり、LEDプリンタでは共同開発を行ってきたりといった経緯があり、両社には親和性の高さがあった。「リコーとの付き合いが蓄積されるなかで、リコーの理解を得た。今回の協業は熟成して、ようやくたどり着いたものである。2024年7月の新会社スタートに対して、参画が遅いという印象は持っていない」と述べた。
ETRIAでは、今回のOKIの参画により、複合機やプリンタ向けエンジンの開発力を強化でき、OKIのLEDプリントヘッド技術の活用によって、競争力を持った高品質、高付加価値な小型、省資源、省エネルギー型商品の開発を推進できるとする。また、ETRIAが持つキーパーツや材料などを共通活用することで、共通化を通じたコストダウンを推進することも可能だ。さらに、OKIのLEDカラーラベルプリンタの取り込みによるAuto-ID事業との相乗効果を狙うなど、新たな事業創出のための技術および商材の獲得を進めるという。加えて、OKIの主要生産拠点であるタイのロケーションを活用し、レジリエントな生産体制の構築を目指す。
ETRIAの中田社長は、「プリンティング業界は厳しい環境にある。だが、紙文化はなくならないため、変化するワークフローにあわせて、それに対応したエンジンを開発する必要がある。ETRIAは、変化する市場において、顧客ニーズに応えた優れた製品を開発するメーカーになることを目指している。複数のパートナーの技術を掛け合わせて、新しい事業領域に挑戦することが、我々の進むべき方向である。同じ志を持つOKIがパーナトーとして加わり、目指す姿を実現することかできる。リコーとOKIの技術者はお互いの強みを理解しあっている」とする。
さらに、「ETRIAが保有する高速、高解像度の業界トップレベルのレーザーエンジンに加えて、OKIが持つ小型、省エネを実現できるLEDエンジンをラインアップに加えることで、変化する顧客ニーズに選択肢を増やして対応ができる。LEDエンジンは、本体の高さを低くできるため、スペースに制限がある場所への設置にも適している」とコメント。
「ETRIAの事業規模となることで、レーザーとLEDの2つのエンジンを両立することができる。他社に供給するエンジンの品ぞろえも広がる。また、トナーの技術を改良しながら、ビジネスを広げていきたい。3社が保有する開発、生産リソースの最適活用により、コストダウンと生産性向上が可能になる」とも述べた。
LEDエンジンを活用することで、環境性能にこだわる大手企業が、各拠点に一斉に配置したり、銀行のカウンターの下に配置したり、薬剤薬局などの小規模拠点での活用などに適した小型プリンタの製品化に貢献できるという。なお、既存のLEDエンジンについては、すぐに供給を開始できる状況にあるという。
さらに、ETRIAでは、Linear EconomyからCircular Economyへと移行する「LC変換」を掲げ、循環型モノづくりや再生ビジネスの強化、循環型エコシステムの構築も進めているが、OKIの技術を活用することで、製品の小型化や軽量化による新規投入資源の削減、分解のしやすさや汎用性の高さによる再生効率の向上が実現できると期待している。
エトリア設立以来の進捗
一方、ETRIAの2024年7月の設立以来の7カ月間の進捗についても説明した。
ETRIAの中田社長は、「世界6カ国15社で展開しており、インフラの統合、整備を進め、各国の拠点の看板がETRIAに代わり、一体感を持った事業展開を進めている。約1万1000人の社員が、何年も一緒に働いているような雰囲気を持ちながら、新たな価値創造に向けてイキイキと活動中である。オペレーションの統合も順調に進んでおり、商流、価格、原価コントロールも計画通りに進み、財務、管理、会計のシステムが稼働し、連結数値もしっかりと報告できている」と、現況を説明。
「超効率開発として、これまでに開発した現行モデルの相互活用を進めているほか、どちらかの強いエンジンを選択するプラットフォームの集約および共通化も推進している。また、新規共通エンジンの開発も開始している。この3つのフェーズで計画しながら、人材面でも無理のない形で運用ができている」と、スムーズなスタートを切っていることを強調した。
なお、会見では、東芝テックの錦織弘信社長のメッセージを、リコーの大山晃社長 CEOが代読。「ETRIAにOKIが加わったことを、大変うれしく思う。価値あるサービスを通じて、お客さまや社会の課題を解決したいという点で、3社は共通の考えを持っている。OKIの豊富な技術や経験が加わることで、ETRIAの基盤はより強固なものになり、日本のモノづくりをより元気にでき、シナジーを組み合わせた競争力の高い製品を通じて、社会課題の解決に貢献できる」とした。
複合機を取り巻く市場環境は大きく変化しており、ETRIAの取り組みは、そうした流れに対応したものとなる。
リコーの大山社長 CEOは、「複合機は、過去数十年にわたり、日本企業が世界を牽引してきた。複合機に採用されている光学技術や画像処理技術、トナーや感光体による化成品の技術などを高度にすり合わせる専門性が必要であり、新規参入が難しいという特徴を持つ市場でもある。また、プリンティングデバイスとして進化するだけでなく、デジタル技術を生かし、デジタルワークフローの出入り口としての役割も持ち、働く人には不可欠なデバイスとなっている」と位置づける。
だが、その一方で、「コロナ禍によりハイブリッドワークが定着し、プリントボリュームが減少。生成AIなどの新たな技術の台頭により、デバイスの使い方が変容するなど、市場環境が変化している。さらに、地政学リスクの高まり、部材の価格高騰や調達難、環境規制やセキュリティ要件の強化も求められている」と指摘。
「こうした流れにも迅速に対応するために、ETRIAを設立した。同じ志を持つ企業が、それぞれの強みを結集し、事業成長を実現することになる。OKIが加わることで、技術力やリソースを融合し、より強いモノづくり企業として、日本を元気にし、世界をリードすることを目指す」と語った。
また、「ETRIAでは、参画する企業が持つ技術のシナジーにより、競争力の高い製品を提供。スケールメリットを生かした共通エンジンの設計、開発、共同購買、調達によるコスト競争力の強化、リサイクルプロセスの効率化を目指す。また、より強いモノづくり企業として、共通エンジンの供給先の獲得による事業拡大を目指し、コスト競争力の強化や供給量の安定化を実現する。さらに、技術やノウハウの蓄積と共有化による新規商材やデバイスの創出を目指す。ETRIAが生み出す強いデバイスは、顧客基盤を強くし、増やすことができ、リアルとデジタルの世界をつなぐデバイスとなる。独自のサービスを提供する上で欠かせないものになる。3社により、競争力のあるデバイスを生み出したい」と語る。
加えて、「エンジンは共通化し、規模の経済でメリットを得て、各社が差別化した製品を市場で売り分けることになり、何社が参画してもWin-Winの関係になる。協業の形態は、資本参加だけでなく、OEMで提供することも可能であり、今後もオープンに話を進めていく」と述べた。
中長期的にみれば、複合機市場は縮小していくというのが共通した認識である。そのなかにおいて、多くの投資がかかり、コア部分となるエンジンの開発と供給を一本化することで、厳しい市場環境のなかで、生き残りを模索する手段がETRIAだ。日本が世界市場をリードしていた分野では、過去にも市場変化に伴って、「日の丸連合」と呼ばれるスキームが存在したものの成功例は少ない。その点でも、複合機による「日の丸連合」といえるETRIAのかじ取りが、業界内外から注目されている。