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富士通がハードウェア専業会社「エフサステクノロジーズ」を発足させる狙いとは?

 富士通は、サーバーやストレージなどのハードウェア専業会社として、2024年4月1日付で、エフサステクノロジーズ株式会社を発足する。

 富士通エフサスを母体として、富士通Japanのハードウェア販売機能などを統合。ハードウェアの開発、製造、販売、保守までの一貫した体制を構築することで、経営責任を明確化し、経営判断の迅速化と徹底した効率化を追求するという。

 これにより商品提供体制は、エフサステクノロジーズが直接、顧客やパートナーにハードウェア製品の販売・保守を行い、システムインテグレーション(SI)やマネージドサービス、インフラサービスは富士通が提供することになる。

 つまり、エフサステクノロジーズはハードウェアソリューションの企業として専業化する一方、富士通および富士通Japanは、サービスソリューション企業としての役割をより鮮明にしたといえる。

新体制におけるビジネススキーム

PCサーバーやストレージ、法人向けネットワーク製品などの諸事業を統合

 新会社の概要をまとめてみよう。

 母体となる富士通エフサスは、1989年に富士通のCE本部から分離して、通信機器や情報機器の保守および修理を行う「富士通カストマエンジニアリング」として設立されたのが始まりだ。1996年に富士通サポート・テクノロジーと合併して、社名を富士通サポートアンドサービスに変更。この略称がFsas(エフサス)であり、現在の社名につながっている。

 保守会社でスタートしたものの、販売機能を有しているほか、2021年4月には富士通Japanの保守事業を継承し、富士通のハードウェアの保守体制を一本化した経緯がある。

 新たに発足するエフサステクノロジーズでは、PCサーバーの「PRIMERGY」、基幹IAサーバーの「PRIMEQUEST」、ストレージシステムの「ETERNUS」のほか、ネットワークサーバー「IPCOM」を中心とする法人向けネットワーク製品の開発、製造、販売、保守事業のすべてを統合することになる。

 まさに、富士通のハードウェア事業を一手に担う会社となる。

PCサーバー「PRIMERGY」の製品ラインアップ

 なお、PCサーバーやストレージの製造を行っている福島県伊達市の富士通アイソテック(以下、FIT)は、富士通からの受託事業としてこれらを製造していたが、今回の再編に伴い、エフサステクノロジーズに移管される。ただし、富士通の100%子会社を維持し、エフサステクノロジーズの子会社にはならず、自主事業と位置づけるラベルプリンタやドットプリンタの開発、製造、販売も継続する。

富士通アイソテックのPCサーバーおよびストレージの生産は、エフサステクノロジーズに移管する

 また販売については、自治体や医療、教育機関、民需分野の準大手、中堅中小企業向けのビジネスや、パートナー向けビジネスを行っている富士通Japanから、サーバー、ストレージの販売機能を移管し、エフサステクノロジーズが、ハードウェアの直販およびパートナー向けの流通を行う。

 法人向けPCについては、GIGAスクール向けPCをはじめとした直販については、富士通および富士通Japanからエフサステクノロジーズに移管されるが、パートナー販売については、富士通パーソナルズ(以下、FJP)が引き続き担当することになる。法人向けPCの開発・製造は、レノボとのジョインベンチャーである富士通クライアントコンピューティング(FCCL)が行い、FCCL傘下の島根富士通が引き続き製造を行う。FJPは富士通の100%子会社の状態を維持する予定だ。

 また法人向けネットワーク製品については、富士通製のネットワーク製品およびテレフォニー製品の開発、製造、販売、保守をエフサステクノロジーズに統合。さらに、アライアンスパートナー製のネットワーク製品の販売、保守事業も新会社に統合する。なお、通信キャリア向けネットワーク事業については、従来通り、富士通が継続することになる。

 母体となる富士通エフサスの従業員数は約6000人であるが、富士通Japanのサーバー、ストレージの販売部門や、富士通の法人向けPCの直販部門、富士通の法人向けネットワーク製品の開発、生産、販売、保守部門がエフサステクノロジーズに合流。一方、富士通エフサスのメインフレームやUNIXサーバーの保守部門を富士通エフサスから富士通本体へ移管。これにより、合計で約1500人の増員となり、約7500人の体制でスタートする。

 富士通エフサスの売上高は2023年3月期実績では2260億円であったのに対して、新会社は、約4000億円の売上規模を見込んでいる。

メインフレームやUNIXサーバーは、逆に富士通に一本化

 その一方で、メインフレームの「GS21シリーズ」、UNIXサーバーの「SPARCシリーズ」は、富士通に開発、生産、販売、保守までを一本化する。

 富士通では、2030年度にメインフレームの販売を終息し、2035年度には保守を終了すること。またUNIXサーバーは2029年度に販売を終息し、2034年度には保守を終了することを発表しており、終息する事業は新会社に移管せず、富士通が担当することになる。

富士通メインフレームの長期ロードマップ

 これに伴い、富士通エフサスのメインフレームやUNIXサーバーの保守事業は、PCサーバーやストレージなどとは逆に、富士通に移管される。なお、2022年4月には、メインフレームの基盤ソフトウェアの開発やサポート、サービスを行う富士通ミッションクリティカルソフトウェアを富士通に吸収合併しており、メインフレームに関するハードウェアおよびソフトウェアのサポート体制が富士通に一本化されることになる。また、2024年に発表が予定されている次期GSシリーズ、次期ETERNUSシリーズも、開発から生産、販売、保守までを、すべて富士通本体で担当する。

メインフレームのGS21モデル3600に搭載されているCPUチップ

 このほか、富岳に採用した技術を活用したスーパーコンピュータの「PRIMEHPCシリーズ」の開発、製造、販売、保守についても、引き続き富士通が担当することになる。

 なおGS21シリーズとPRIMEHPCシリーズなどは、富士通の100%子会社である石川県かほく市の富士通ITプロダクツ(FJIT)で生産しており、その体制にも変更はない。

メインフレームの生産は、石川県かほく市の富士通ITプロダクツで行われている

ハードウェアソリューション事業の基盤強化を狙うが…

 富士通は、2023年4月からスタートした中期経営計画において、Fujitsu Uvanceを軸にした「サービスソリューション」を、成長および収益性拡大の柱に位置づけている。

 それにあわせて、2023年度から事業セグメントを変更し、従来のテクノロジーソリューションを、サービスソリューションとハードウェアソリューションに分割。成長を牽引するサービスソリューションを、ほかの事業と明確に区分する形にした。

2023年度から事業セグメントを変更している

 今回のエフサステクノロジーズの発足は、この動きにのっとったもので、同社にハードウェアソリューションを集約する一方、富士通および富士通Japanでは、サービスソリューションに、事業を集中する体制が確立することになる。

 サービスソリューションを成長事業に位置づけている裏返しとして、ハードウェアソリューションは成長事業から外れたように見えるが、富士通では、「ハードウェアはサービスを支える上で欠かせないものである。ハードウェアに関する開発、製造、販売、保守をエフサステクノロジーズに集約することで、情報を集中させ、お客さまとの接点を強化でき、ニーズを取り入れたモノづくりが推進できる。ハードウェアソリューション事業の基盤強化が狙いである」と説明している。

 また、メインフレームとUNIXサーバーを富士通に残しているのは、事業の終息に向けて、富士通自身が最後まで顧客をサポートしていくという姿勢の表れともいえ、新会社においても、終息する事業にリソースを割かずに済む。

 だが、顧客やパートナーにとっては、富士通が提供するシステムイングレーション、マネージドサービス、インフラサービスとは別に、サーバーやストレージ、PC、ネットワーク製品をエフサステクノロジーズから購入および仕入れを行うことになる。窓口が分散する煩雑さが生まれることになるほか、その結果、異なるルートやベンダーからハードウェアを調達する機会が増える温床にもなりかねない。特にコモディティ化しているサーバーやPCでは、顧客の要望によって調達するハードウェアが変化するといった事態が起きやすい環境にあり、エフサステクノロジーズがハードウェア専業の強みを生かし、同社ならではの付加価値をハードウェア製品に組み込むことができるかが鍵になるともいえる。

“テクノロジー”による強みを出せるか?

 その一方で、発足する新会社の社名に、「テクノロジーズ」という言葉を使ったのは、富士通の時田隆仁社長の思い入れの部分もありそうだ。

 富士通では、新中期経営計画の中で、2030年に向けたビジョンとして「クロスインダストリーで、サステナビリティに貢献するデジタルサービスを提供して、社会、お客さま、株主、社員などのステークホルダーにとって、ネットポジティブを実現するテクノロジーカンパニー」を掲げている。

 ビジョンのなかで「テクノロジーカンパニー」を掲げていることからもわかるように、富士通では、技術に基づいた製品やサービス、トータルソリューションを提供する「テクノロジーカンパニー」を目指す姿に位置づけており、同社が、サービスソリューションを推進する上でも、コンサルティングファームなどとの差別化ポイントとして、“テクノロジー”を強調している。

 富士通では、「再編後は、最先端テクノロジーをベースとした富士通の豊富なオファリングと、エフサステクノロジーズの顧客ニーズをいち早く捉えた付加価値の高いハードウェアソリューションを組み合わせ、トータルソリューションを提供していくことになる」と述べている。

 サービスソリューションを成長戦略に柱に据える富士通だが、グループ全体として社会や企業の変革を支えるトータルソリューションを提供するためには、サービスソリューションを支えるハードウェアのテクノロジーが重要であることを、新社名においても強調した格好だ。

 サービスソリューションとハードウェアソリューションを明確に切り分ける形で事業再編したことが、富士通の成長戦略にどんな成果を及ぼすのか。そして、再編の狙い通りに、これまで以上に成長を加速できるかどうかが注目される。