特別企画

パナソニックのセキュリティカメラ導入で何が変わったか? ミャンマーのマンダレー国際空港訪問記

 ミャンマー中央部のマンダレー国際空港は、日本の三菱商事と、航空関連事業を行う双日および日本航空が出資するJALUX、ミャンマーのYOMA DEVELOPMENT GROUP LIMITEDによって設立された「MC-Jaluxエアポートサービス(MJAS)」が空港事業運営を行っている、ユニークな国際空港だ。

 日本の民間企業が、100%民間主体で空港事業を行うのは海外では初めての事例であり、その取り組み成果が注目を集めている。

マンダレー国際空港

 そのマンダレー国際空港では、パナソニックのセキュリティカメラソリューションを導入。現在、200台以上のカメラが稼働しており、日本の地方空港を上回る規模の導入台数によって空港を監視。安全性の向上や、事故および犯罪の抑止、業務効率の改善にもつながっているという。

 現地を訪れて、パナソニックのセキュリティカメラソリューションの導入成果を取材した。

マンダレー国際空港の全体図。これらのエリアを200台以上のセキュリティカメラでカバーする

日本品質での事業運営を行っているマンダレー国際空港

 マンダレーはミャンマー中央部の中心都市で、その玄関口となるマンダレー国際空港は、ミャンマー最大の都市であるヤンゴン国際空港から、ジェット機で約50分、プロペラ機では約1時間20分。ここ数年、乗降客が急激に増加している。

マンダレー国際空港は、ヤンゴン国際空港からプロペラ機で約1時間20分の距離だ

 そして、マンダレー国際空港の空港運営事業は、2015年4月から、ミャンマー航空局と30年間にわたる業権譲渡契約を結んだMJASが行っている。

 MJASは、三菱商事が45.5%、JALUXが45.5%、YOMAが9%の出資により設立した企業で、まさに日系民間企業による海外国際空港の運営サービス事業において、先駆けといえるものだ。

空港内を走るバスにもMJASの文字が描かれている

 「日系企業ならではのセーフティ、クリーン、ホスピタリティ、チームワークといった要素を生かした空港運営事業を行っている。まさに日本品質での事業運営を行っている」と語るのは、MJASの廣井太副社長。

 「民営化した場合には、効率化などのために人員削減を行うケースが多いが、MJASでは305人でスタートした体制が、いまでは640人にまで拡大している」とする。

MJASの廣井太副社長

セキュリティ関連で人員増、パソナニックのセキュリティカメラも導入

 特に力を注いでいるのが、セキュリティ部門の人材強化だ。事業を開始した当初は40人体制だったが、これを170人にまで増やしている。

 「国際水準の安全性を実現するには、人を雇用する必要があった。セキュリティ部門の人員増加は重要な取り組みのひとつだった」と振り返る。

 当然、セキュリティという観点では、人の増加だけでなく、最新機器を活用する必要がある。そこで着目したのが、セキュリティカメラソリューションだったという。

 「かつては、中国メーカー製セキュリティカメラが18台設置されていたが、アナログ方式の機器であり、画質が悪く、録画できる時間も短かった。そのため、実際には使われていないというのが実態。使われていないことから、どのカメラが壊れているのかさえもわからない状態だった」(ALSOKミャンマーセキュリティサービスの仙波亮一ディレクター)という。

ALSOKミャンマーセキュリティサービスの仙波亮一ディレクター

 MJASでは、空港運営事業を開始するにあたって、セキュリティ強化を重点項目のひとつとして提案。近代的な設備を導入することも視野に入れていた。

 具体的には、2017年5月から、乗降客が利用する各種空港施設や手荷物検査エリア、税関エリア、滑走路向けなどに、パソナニックのセキュリティカメラである「i-PRO EXTREME シリーズ」や「Eシリーズ」などを配置した。

 「屋内ドームカメラのほか、屋外カメラ、望遠機能搭載カメラ、360°全方位カメラなどを活用して、死角ができないように配備した。カメラの種類が豊富なことも、パナソニックのセキュリティカメラソリューションを導入した理由のひとつ」(ALSOKミャンマーセキュリティサービスの仙波ディレクター)とする。

マンダレー国際空港内に設置されているパナソニックのセキュリティカメラ
死角がないように各所に細かく設置されている
出入国管理エリアにもセキュリティカメラを設置している
こちらは手荷物検査エリアに設置されているセキュリティカメラ
航空会社のカウンターにもセキュリティカメラを用意
これは出発ロビーの様子
360°カメラで撮影した様子も表示している
免税店近くにもセキュリティカメラを設置。店内は店舗ごとにセキュリティカメラを導入しているが、空港のセキュリティシステムとは連動していない

 将来の拡張を想定し、管制塔は、滑走路のすべてを目視で確認できない離れた場所に設置されているため、ここでもセキュリティカメラの映像を補足的に利用しているという。

 また中央監視室では、大型モニターを複数台組み合わせて、映像をリアルタイムで表示。1台のモニターには最大36分割での映像表示が可能であり、多くの映像を一度に確認することができる。

 現在、セキュリティスタッフが常駐し、交代制でリアルタイムでの監視作業を行ったり、警備員などの通報を受けて録画映像を使った確認作業を行ったりしている。

 さらにサーバールームには、パナソニックのサーバーベースレコーダー「Video Insight」を設置し、200台以上のセキュリティカメラの映像を一定期間保存可能な環境を用意。さらに、バックアップを行えるRAID構成としている。

 電源面でも、サーバールームおよび中央監視室に無停電電源装置を導入し、電気が供給されない非常時でも継続的な稼働を実現している。

中央監視室では複数のディスプレイに表示された映像をチェックしている
セキュリティのためのスタッフは大幅に増員した

性能、サービス体制や運用支援体制などからパナソニック製を選択

 では、パナソニックのセキュリティカメラソリューションを選択した理由は何か。

 セキュリティカメラソリューションの運用を担当しているALSOKミャンマーセキュリティサービスの仙波ディレクターは、次のように語る。

 「当初から200台以上の規模で導入を検討していたことから、サーバーを導入することを前提としたシステムにしなくてはならないため、そうしたラインアップを持つメーカーに選定対象が限定されたこと、パナソニックは、国内外の空港におけるセキュリティソリューションで多くの実績を持ち、信頼性と安心感があったこと、さらに録画した情報を再生する際の操作性が高かったことなどが挙げられる」とする。

 また、サービス体制や運用支援体制に関しても、パナソニックならではの特徴があったという。

 「MJASのエンジニアと、パナソニックのエンジニアが緊密な連携を取りながら、情報交換を行う体制が構築されていたこと、運用を開始するにあたって、セキュリティスタッフへの操作説明など講義の場を用意してもらったことで、スムーズに運用を開始ができたことが挙げられる」(仙波ディレクター)。

 さらに、故障した際の修理体制についても特筆できる。セキュリティカメラの修理用パーツを、パナソニックのヤンゴン支店に設置しているサービスセンターで保管しており、迅速な修理が可能になっている。これも、パナソニックを選択する決め手のひとつになったという。

 「日本とは異なり、海外においては、修理体制がどうなっているのかということが極めて重要な要素になる。その点で、パナソニックの修理、サポート体制は、安定した運用環境を実現する上では不可欠である」(MJASの廣井副社長)。

ヤンゴン市内にあるパナソニックのサービスセンター。ここから保守用部品を供給する

 また、今後の拡張性に対してもメリットがあるとする。

 例えば、パソナニックは顔認識技術では世界トップの認識技術レベルを持つというが、現在、マンダレー国際空港で導入しているシステムをベースに、先進技術にも対応できる拡張性を持っているという。

 「税関での顔認証技術の採用でという点では、政府の動きなどと連動した方が効果がある。だが、必要に応じて顔認証技術を採用したり、AIによって不審な動きをしている人を事前に検出したり、といった活用も可能になるだろう」(同)と期待を寄せる。

セキュリティだけではないカメラソリューションのメリット

 マンダレー国際空港において、セキュリティカメラソリューションを導入した具体的な成果はどうなのか。

 MC-Jaluxエアポートサービス ARFF&セキュリティ部門兼エンジニアリング&メンテナンス部門の古賀修平部門長は、「現在の主な用途は、何かの事象が発生したときに、録画した映像を再生して確認する、といったものが多い」とする。

MC-Jaluxエアポートサービス ARFF&セキュリティ部門兼エンジニアリング&メンテナンス部門の古賀修平部門長

 先日も、旅客を乗せるバスと荷物を運搬するトラクターが接触するという事故があった。バスに旅客は乗っておらず、またトラクター側も荷物を下ろした後ということもあって、人や荷物には影響はないものだったが、セキュリティカメラの録画映像を確認したところ、バスの運転者が本来行うべき、周りを目視で確認してから運転するという基本動作を行っていなかったことがわかった。映像をもとにして、なぜ、こうした問題が起こったのかを確認することができ、今後の作業改善と事故防止につなげられたという。

 そのほか、荷物を間違えて持って行ってしまった場合の確認や、スタッフしか入れない場所に旅客が間違って立ち入ってしまった場合に、それがなぜ発生したのか、という問題を抽出することも可能になったとのこと。

 また、MJASが運営を開始してから、空港内では、ミャンマーでの嗜好品とされる「キンマ」の使用を禁止しており、空港内でキンマを用いた人には、2万チャットの罰金が科せられるが、それでも、ゴミ箱にキンマを用いた痕跡がたまに残っているという。

 「セキュリティカメラで確認すれば、誰が吸ったのかを特定できる。規則を破っているのが、マンダレー国際空港の職員や航空会社の関係者の場合もあり、その映像をもとに罰金を請求している」とした。

 なお中央監視室では、平均して1日に1回は録画した内容を再生しているとのこと。

 「セキュリティはKPIを設定しにくいが、実際に運用をしてみるとさまざまな点でメリットが生まれている。何か事象が発生した際も、映像を確認するだけで問題を特定することができ、解決や対策の手を打ちやすい。その点での効果は想定以上のものであり、効率的に問題を特定することもできる。経営の観点からも、セキュリティカメラの内容を確認することはメリットがある」(MC-Jaluxエアポートサービスの廣井副社長)とする。

 セキュリティという観点からのメリットに加えて、課題解決や業務効率の向上といった点でのメリットも大きいようだ。

日本人にもマンダレーの魅力に触れてもらいたい

 MJASがマンダレー国際空港の事業を開始してから、空港の様相は一変した。

 従来はなかったラウンジを新設したほか、フライトインフォメーション ディスプレイシステムや旅客用エレベーターの更新、手荷物受取所(バゲッジクレームエリア)の改装を実施。外周フェンスの修理、滑走路の誘導灯の修繕なども行ってきた。

 「滑走路の誘導灯は、約半分が点灯しない状態だった。また、外周フェンスは25kmにも及び、全体面積が東京都千代田区を同じサイズとなる規模のため、手が回らない状態だった。MJASでは、これを改善した」(廣井副社長)という。

 さらに、さまざまな教育活動も展開。世界一きれいな空港と言われる羽田空港で清掃実績のあるスタッフを講師に迎え、清掃方法のトレーニングを行ったり、飛行機が出発する際には、誘導スタッフがお辞儀をして見送ったり、という日本流のやり方も導入した。

 また2017年2月には、ミャンマー国内では初めてとなる、航空機の事故が発生した際を想定した大規模訓練を実施。今後も、3年に1回のペースで行っていくという。

 ヤンゴン国際空港には、全日空が、成田国際空港と結んだ定期便を就航させているが、マンダレー国際空港には、日本からの直行便はない。

 だが、ミャンマー第2の規模を誇る国際空港として、中国・深セン、タイのバンコクやチェンマイ、シンガポールを結んだ定期便が発着しており、8つの航空会社が就航している。また、乾期には欧州からのチャーター便も発着するという。今後は、インドや欧州、韓国などからの便の誘致を行うとのこと。

 一方で国内線では、9つの航空会社が就航。1日約30便が発着しており、「アッパーミャンマー(ミャンマー中央部)の玄関口としての役割を果たしている」という。

 実際、マンダレー国際空港の乗降客は急速に増加している。2011年には約53万人だった年間乗降客数は、2015年には101万人と、100万人を突破。2017年の実績は132万人にまで拡大している。

 MJASの廣井副社長は、「ミャンマーの人口増加や年収の増加などを背景に、空港の利用者が自然増となっていることに加えて、就航する航空会社を誘致するといった、MJASによる取り組みの成果もある。フライト数は年間2万5000本前後で横ばいが続いていながらも、乗降客が大幅に増えているのは、1機あたりの搭乗率が増えていることを示している。航空会社のビジネスとしても拡大傾向にあるといえる」とし、「今後5年で、乗降客数は200万人に達するだろう」と予測する。

 さらに、「マンダレー国際空港は4267メートルという長い滑走路を持っており、パイロットにとっては離着陸がしやすい空港といえる。まだ発着枠を増やせるという余力もあり、積極的な航空会社の誘致も可能である。年間300万人を超えたら、第2ターミナルビルの建設も可能な土地もある。長期的な視点で見ても、空港事業の拡大に乗り出すことができる」(同)とする。

 マンダレーを起点にすると、マンダレー王宮や各種寺院のほか、バガンの遺跡やなどの観光地を訪れることができ、ヤンゴンとは異なった観光を楽しむことができるという。

 「マンダレー国際空港を利用する外国人観光客のうち、36%が中国であり、タイが19%、フランスが9%となっている。日本からの観光客は2%しかいない。ぜひ、日本人にもマンダレーの魅力に触れてほしい」と廣井副社長は語る。

 今後、マンダレーへの観光客誘致を活発化させる上で、マンダレー国際空港の設備インフラの強化は避けては通れない。特に、セキュリティの観点の強化は、安心して、空港を利用できる環境を整えるという上で、重要な取り組みになりそうだ。

 将来的には、外周フェンスや貨物ターミナルの増設によるセキュリティカメラの設置なども検討されることになるという。

 そうした空港の拡大にあわせて、将来の成長に対応する柔軟なセキュリティカメラソリューションとして、パナソニックの製品、技術の進化も注目されることになりそうだ。

貨物ターミナルの建設が始まっている
空港内にはパナソニックのエアコンの広告が掲示されていた
ちなみに発着案内のディスプレイはLG製を使用
大型ディスプレイによるインフォメーションシステムは三菱電機のデジタルサイネージを導入