特別企画

ゼロタッチマネジメント、そしてビジネスニーズの的確な把握こそがVSANの真髄~VSAN責任者に訊くVMwareのストレージ戦略

VSANの進化の方向性

 前述したようにVMwareは今後、従来のHCIからさらに踏み込み、クラウド上での実装を含むCross-Cloud Foundationを推進していく方針を示している。そのストレージ基盤を支える最重要コンポーネントのVSANは今後、どういった方向に進化していくのだろうか。

 VMworld 2016の期間中、リー氏は日本のプレス関係者向けグループインタビューにおいて、VSANの開発方針について以下のようにコメントしている。

 「VSAN 6.2は我々にとっても顧客にとっても非常に大きなアップデートだった。だが我々はそれに満足することなく、つねに新しいニーズに積極的に応えていかなければならない。次バージョンの詳細を語ることは難しいが、VSANに関しては大きく2つの点をメインの開発方針としている」とする。

 そしてその詳細を次のように説明した。

 「1つめは、(物理)ストレージのトレンドを的確にキャッチアップしていくこと。周知の通り、ストレージの世界の進化は非常に速く、特にパフォーマンスの向上は著しい。オールフラッシュアレイが急激に出荷数を伸ばしていることなどはそのあらわれ。“Virtual SAN”を名乗る以上、我々はストレージの進化とともに成長していかなくてはいけない」

 「2つめはサポートすべきアプリケーションの見極めで、現在ならSAP HANAやOracle RAC、さらにはHadoopやDokerコンテナなどがVSANにとってクリティカルなアプリケーションとなる。なぜなら、それらが顧客にとってのTier1アプリケーションであり、ビジネスを左右するものだから」(いずれもリー氏)。

 リー氏はキーノートにおいて、VSANの次期アップデートにおいては「ワークロード、マネジメント、セキュリティというポイントにフォーカスした機能強化を図っていく」としている。

 ワークロードに関してはコンテナ対応とビッグデータ収集/処理に、マネジメントに関してはアナリティクスとポリシー設定に、セキュリティに関しては暗号化に、それぞれ注力した機能を追加するという。

 前述のコメントとあわせて考えると、ミッションクリティカルなアプリケーションの中でも、データベースやアナリティクスにかかわるワークロードを高速かつセキュアに実行することにこだわったアップデートとなるのは間違いない。おそらくHANAやHadoopといったアナリティクス系のシステムをオールフラッシュクラスタに移行する案件、などが想定されているはずだ。

クロスクラウド戦略の要となるVSANが次のリリースでめざす機能強化の一部

 VSANの開発方針はハードやアプリケーションのトレンドを強く意識したものだが、その見極めがうまくいけば、逆にVSANがトレンドを牽引する存在にもなることができる。一例を挙げると、VSAN 6.2ではイレイジャーコーディングがサポートされたが、2016年中のリリースが見込まれているApache Hadoop 3.0においては、HDFSでイレイジャーコーディングが正式にサポートされる予定となっている。

 単に新しい技術に飛びつくだけでなく、ビジネスニーズを的確にとらえた機能強化をVSANが果たしていくことで、ストレージやアプリケーションのパラダイムシフトをうながす存在ともなりうるのだ。

 この点についてリー氏に見解を聞くと「まさしくその通りであり、VSANだからこそクリティカルなアプリケーションを載せられると言われるようになることが我々にとって非常に重要。特に大量のデータを高速に処理し、新たなインサイトを導くアナリティクスへのニーズは、エンタープライズの世界でますます高まっていくことは間違いない」という回答が返ってきた。

 トレンドに追随するだけでなくトレンドを牽引し、パラダイムシフトを作り出す――、現時点ではそのトリガーがデータアナリティクスであり、VSANにとっての最大のフォーカスポイントといえそうだ。

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 「DelL Technologiesの一員になることはVMwareにとっても、我々のチーム(VSAN)にとっても本当にエキサイティングなことであり、心からうれしく思う。しかし、今回の統合がVSANに大きな影響を与えるということは現時点ではそれほどなく、たとえばDellのストレージチームと一緒になる、という予定もない。我々はこれまでと同様、独立企業のビジネスユニットとして、クロスクラウド戦略を進めていくだけ」。インタビューの終盤、Dellとの統合による影響についてリー氏はこう答えている。

インタビューでのヤンビン・リー氏

 今回のVMworld 2016において、VMwareはソフトウェアカンパニーとしてクロスクラウド戦略を進めていく方針を前面に打ち出した。それによりDell Technologiesという巨大なコングロマリット内での立ち位置が明確になったことは確かだ。

 だがその一方で、かつてvSphereというソフトウェアでもって「ハードウェアからの解放」を呼びかけてきたように、今度はvSphereに加えてVSANやNSXというソフトウェアスタックでもって「クラウドからの解放」を目指していこうとしているようにも見える。

 Dellグループのいち企業としての立場と、クラウド市場にAWSやAzureとは異なる切り口で挑むチャレンジャーとしての立場、どちらにおいてもVSANの存在は大きく、VSANの成功こそがソフトウェアカンパニーとしてのVMwareの成功を握るといってもいいだろう。