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「速さは価値」を体現した10GbE対応NAS バッファロー「TeraStation TS5410DN」
2016年9月30日 06:00
実際に大容量ファイルや大量のファイル転送を体験すると、10Gigabit Ethernet(10GbE)以外でのファイル転送が、スローモーションのように感じられられてしまう……。そんな価値観の変化を体験できるのがバッファローから登場した最新NAS「TeraStation TS5410DN」だ。ストレージとしてのパフォーマンスや信頼性といった原点を追求した高性能NASで、間近に迫った10GbEの普及を予感させる製品だ。
GBクラスのファイルコピーが“苦”ではなくなる
数十秒で終わるならその場で眺めていても苦にならないが、これが2分、3分ともなると、ぼぅっと眺めているのもムダなうえ、イライラもしてくる。
10GbE(10Gbps)とGigabit Ethernet(GbE、1Gbps)の違いを実際の利用シーンで説明するとなると、こんな感じだ。
詳しくは後述するが、10GBを超えるようなファイルを実際にPCからNASへと転送した場合、10GbEの環境ではGbEの環境の1/3ほどの時間でファイルのコピーが完了する。
もちろん、日常作業で10GBを超えるようなファイルのコピーはさほど多くないかもしれないが、ビジネスシーンでも動画や3Dデータなどを扱う機会が増えてきたうえ、データのバックアップなどの用途を考えるとGBクラスのデータ転送は、実は思った以上に身近に存在する。
今回、バッファローから登場した新型NAS「TeraStation TS5410DN」は、このような大容量転送時代にふさわしい性能を備えたNASだ。
従来の1Gbpsの10倍となる10Gbps転送に対応した10GbE(1ポート)を標準搭載することで、サーバーやワークステーションなどの端末との間で10Gbpsの通信を実現するほか、GbE対応の複数台の端末からのアクセスが集中した場合でも、10Gbpsという大容量の転送経路を確保することで混雑を解消することができる。
これまでにも10GbEに対応したNASは存在したが、インターフェイスがデータセンター向けのSFP+で光ファイバケーブルが必要だったり、数万円もするようなネットワークカードをオプションで装着する必要があったりと、用途が限られ、コストも高かった。
これに対して、バッファローのTS5410DNは、同一容量のHDD搭載モデルであれば、1Gbps対応の従来モデルTS5400DNシリーズと同等の価格を実現(!)。例えば4TBのモデル(TS5410DN0404)なら、同社直販サイトにて16万3080円で購入できる。
これまでエンタープライズ向けとされていた10GbE対応NASが、中小企業や小規模オフィス、さらには個人レベルでも購入可能な価格帯で登場してきたことは正直驚きだ。
同社は本製品の投入と同時に、10GbEの普及にも努める方針を打ち出しており、低価格な10GbE対応レイヤ2スイッチ「BS-XP20」シリーズも同時に発表。これにより、10GbEの環境を手軽に構築できるようにしている。
有線LANの世界でGbEがメインストリームになってからすでに十数年。そこにつながる機器の量を考えても、やり取りされるデータの質を考えても、もはや1Gbpsというスピードはボトルネックでしかない。このような課題の解消に、同社が本腰を入れて取り組み始めたというわけだ。
外見も中身もまるで別物
それでは、実際の製品を見ていこう。今回使用した製品は、1TBのHDDを4台搭載した4TBモデルの「TS5410DN0404」。
筐体は、従来のTeraStationから一新され、前面から見て両サイドの部分が丸みを帯びた形状となっており、まるで本体を支える「柱」のようなイメージとなっている。
両サイドの丸みのおかげで、前面のディスプレイやボタン類は、表面から一段奥まった配置となり、電源ボタンなどが不用意に押されないように工夫されている。
赤のラインがアクセントに加えられた前面のパネルは開閉式となっており、付属の鍵でパネルを開けると、上から順に配置されたHDDトレイ4つが姿を現す。
HDDはトレイにネジ留めする方式。HDDを固定する部分は金属製で、遊びが少なくカッチリとHDDを固定できるあたりは、まさに日本製らしい高品質な印象。この部分の作りが甘いと無駄な振動が発生することがあるが、そういった心配がないのもさすがだ。
ちなみに、今回搭載されていたHDDはSeagate製のNAS専用モデルだった。長時間稼働でも高い信頼性を誇るほか、HDDを含めた3年保証となっており、長期間安心して利用できる。
また、前面パネルは開口部が2倍になり、より多くのエアフローを確保できるようになっているうえ、内側に外部からのホコリの流入を抑えるためのフィルターも装着されており、内側のツメを外すだけで簡単に取り外しが可能。NASは長期間使用すると、意外にホコリ対策がやっかいになってくるが、その対策としてのメンテナンス機能が充実している。
背面に搭載されているファンは、起動時こそ一定時間フル回転するものの、常用時は低回転に落ち着くため、耳を近づければかすかに音が聞こえる程度と非常に静かだ。
背面のインターフェイスは、USB 3.0×2、GbE(1Gbps LAN)×2、そして一番下に10GbE(10Gbps LAN)×1が配置される構成。10GbEと言っても、本製品に採用されているのは10GBASE-Tと呼ばれる、従来のLAN(1000BASE-T/100BASE-TXなど)と同じ形状の銅線ケーブルを利用する規格。
10GbEの性能を十分に発揮させるには、より広い帯域の通信に対応した高品質なCat6a/Cat7ケーブルが必要になるが、本体には2mのCat6aケーブルが1本付属しているため、これを利用すれば問題ないだろう。
このように外観が従来モデルから一新されているが、中身もほぼ別物といっていいほど刷新されている。
CPUは従来のIntel Atom(デュアルコア)から、Annapurna Labs Alpine AL314(クアッドコア)へと変更され、メモリもより高い信頼性を実現できるECCメモリに変更された。
CPUはIntelアーキテクチャからARMアーキテクチャへと変更されたが、このCPUにはRAIDアクセラレータ機能が搭載されるなど、NASに適したものとなっており、10Gbpsで高速化したネットワークの能力を最大限に引き出すのに十二分な性能を持っている。
型番を見ると、従来モデルのTS5400から、TS5410と「10」しか変わっていないが、実質的には内部も外部もハードウェア的に大きな変更を受けており、実質的には一から新設計された別物で、同じ価格で売られていることが信じがたい。
手軽なセットアップ&GUI設定
セットアップはとても簡単だ。まず接続だが、10GbEだからといって特別な接続方法や設定は必要ない。
前述した10GbE(10GBASE-T)対応スイッチを合わせて用意すれば、これまでのGbE(1000BASE-T)と同様に、本体とスイッチをLANケーブルでつなぐだけでいい。
現状、GbEのネットワークでは、NASなどアクセスが集中する機器の負荷を分散させる目的で、複数のLANポートを束ねるLAG(リンクアグリゲーション)という方法が使われることが多い。
この場合、NASに複数搭載されたGbEのLANポートをスイッチへと接続し、スイッチの設定画面からポートを指定してLAG(またはポートトランキング)を構成、同じくNAS側の設定画面でもLANポートを束ねるLAGの設定をするなど、複雑な設定が必要になる。
これに対して、10GbEはつなぐだけだ。
正直、LAGの設定は面倒だ。束ねるケーブルと同じ数、スイッチのポートが占有されるだけでも手間だが、普段、あまりアクセスしないスイッチの設定画面にアクセスし、LAGの設定項目を探し、方式を選び……、なんてやっているとすぐにイヤになってしまう。
設定が一度ならいいが、なにかの拍子に接続するポートを変えるなんてことになれば、また「設定か」と溜息をつきたくなる。この手間がなくなるだけでも、だいぶありがたい。
本体の設定も簡単だ。設置後、ネットワーク上のPCからブラウザで設定画面にアクセスすると、初期設定ウィザードが実行され、管理者アカウントのパスワード設定、タイムゾーン、RAIDの構成と3ステップの設定を済ませるだけで使い始めることができる。
なお、RAIDは標準でRAID6に設定されているが、初期設定時にRAID5を選択することも可能。このモード変更は約10分ほどで完了するという優れものだ。
一般的なNASの場合、初期設定でRAIDを構成すると、リビルドに数時間~十数時間ほどの時間を要するが、この時間が必要ない。このため、セットアップ直後の負荷を減らし、本来機器が持っているパフォーマンスをすぐに発揮させることができる。
設定画面は従来通り。クラシカルなメニュー形式の設定画面をベースに、わかりやすいボタン形状のオン/オフスイッチやウインドウ形式のサブウインドウ表示など、クラシックとモダンを組み合わせたデザインだ。
設定項目は、「ファイル共有」「ディスク」「Webサービス連携」「ネットワーク」「バックアップ」「管理」と、シンプルでわかりやすい。最近のNASは、豊富な機能を搭載する一方で、設定が複雑になり、使いたい機能がわからなくなったり、やるべきタスクを見逃しがちだが、そういった迷いがない。ストレージとしての原点を見失っていない印象だ。
そうは言っても、最新のNASだけあり、Webサービス連携などの機能も搭載。Amazon S3などのクラウドストレージのフォルダをマウントしてバックアップに利用したり、Dropboxと共有フォルダーを同期したりすることなども可能だ。
やっぱり10GbEは速かった
気になるパフォーマンスだが、かなり優秀だ。海外製品も10GbE対応製品が登場しつつあるだけに断言はできないが、少なくとも筆者がこれまでに使用したデスクトップタイプのNASの中では、もっとも高い速度を体験することができた。
まずは、定番のCrystalDiskMarkのテストから。以下は、PC(Core i5 3570K/16GB/ADATA SP600 256GB)にIntel X540-T1(10GbEアダプタ)を装着し、10GbE対応スイッチ(BS-XP2008)経由でTS5410DNに接続し、ネットワークドライブとして接続した共有フォルダーに対してテストを実施した結果だ。
何とリードで866.2MB/sという値をマークした。同社の公表値では実効速度は350MB/s前後となっているので、おそらくこの結果はキャッシュが効いていると考えられる。ライトの結果である338.6MB/sを本来の実力と考えるのが妥当だろう。
実効で300MB/s(2.4Gbps)前後というと、10Gbpsという理論値に対して物足りない印象を受けるかもしれないが、NASへのアクセスと考えるとHDDのボトルネックもあるため、このあたりが妥当なところと考えられる。
続いてGbE(1Gbps)接続時の値を計測してみた。PC、NAS両方の接続をGbEに変更して計測した結果は以下の通りだ。手元にあったSynologyのDS716+の結果も掲載するが、こちらは2ベイのRAID1モデルなのであくまで参考程度に考えてほしい。
結論から言うとGbEでもかなり速い。4K Q32TIのライトが若干低いが、シーケンシャルに関してはほぼ1Gbpsの上限となっており、パフォーマンスの高さを特徴とした海外製品にも決して引けを取ることはない。
続いて、実際のファイルを利用したコピー速度を計測してみた。せっかくなので13GB(12.9GB)のファイルを用意し、これをWindows 10のrobocopyを使って転送。その時間と容量から計算した速度(MB/s)を記録。速度をグラフにした。参考として、同じくDS716+の結果も掲載する。
10G | 1G | ||||
時間(秒) | 速度(MB/s) | 時間(秒) | 速度(MB/s) | ||
DS716+ | Read | - | - | 117 | 113.17 |
Write | - | - | 121 | 109.43 | |
TS5410DN | Read | 41 | 322.96 | 117 | 113.17 |
Write | 44 | 300.94 | 116 | 114.15 |
この結果を見ると、やはりリード、ライトともに300MB/s前後が、TS5410DNの10GbE接続時の実力と考えるのが妥当だろう。時間的には、13GBのファイルのコピーでもわずか41秒しかかからず、ストレスなくファイルをコピーできる。10GbEに慣れてしまうと、冒頭で触れたように、3倍の2分近くもの時間を要する従来のGbEがスローモーションに思えるほどだ。
続いて、同じ13GBのファイルを使って、GbEで接続した2台のPCから同時に読み込みと書き込みを実施した(TS5410DNは10GbE接続)。こちらのテストでは、DS716+でLAGを設定した場合の結果も掲載しているが、どうもシングルと速度差が見られずLAGが効いているように見えない。原因がわからなかったので、こちらもあくまでも参考程度に考えてほしい。
PC1 | PC2 | ||||
時間(秒) | 速度(MB/s) | 時間(秒) | 速度(MB/s) | ||
DS716+ | Read | 204 | 64.91 | 234 | 56.59 |
Write | 194 | 68.25 | 236 | 56.11 | |
DS716+ LAG | Read | 225 | 58.85 | 234 | 56.59 |
Write | 199 | 66.54 | 240 | 55.17 | |
TS5410DN | Read | 134 | 98.82 | 129 | 102.65 |
Write | 118 | 112.21 | 119 | 111.27 |
結果を見るとわかる通り、TS5410DNは、おおもと(NAS~スイッチ間)が10GbEで接続されているため、GbEの端末2台から同時にアクセスしても、それぞれの速度が低下することなく、両方とも110MB/sオーバーとほぼGbEの上限の速度で通信することができた。
先の10GbE単独の最大速度が300MB/sなので、計算上はもう一台クライアントが増えてもフルスピードを維持できると考えられる。
一方、GbE接続のNASは、やはり複数端末からの同時アクセスが発生すると1Gbpsの帯域をシェアする必要があり、どちらの端末も速度が半分程度に低下してしまった。台数が増えれば増えるほど1台あたりの帯域は少なくなってしまうことを考えると、NASだけでも10GbEに移行することにより、シェアできる帯域を増やしておく方がいいだろう。
高い耐障害性
最後に、NASで避けては通れない耐障害性についても触れておこう。
本製品では、データをRAIDやバックアップで保護できるほか、システムそのものの保護機能も充実している。
具体的には、ファームウェアが二重化されるようになった。ファームウェアはHDDに加え、本体のNANDフラッシュにも保存されるため、万が一、HDDのトラブルでファームウェアが起動不能になってもNANDフラッシュからシステムを起動し、復旧作業を行うことができるようになっている。
また、2台のTeraStationを利用したフェイルオーバーにも対応。中小規模向けのNASの中には、フェイルオーバーに対応しない製品もあり、業務の停止を絶対に避けたい環境での利用が難しい場合もあるが、本製品であれば最短のダウンタイムで業務を継続することができる。ビジネス向けのNASを選ぶときの基準として、フェイルオーバーができるかどうかは重要なポイントの1つと言えそうだ。
このほか、セキュリティ対策という意味でも興味深い機能が搭載されている。起動認証管理ツール(無償)をインストールした管理端末を用意すれば、テラステーションの電源オン時に、認証ツールとの間で認証処理が実施できないと起動しないように構成できる。
NASの場合、HDDの暗号化などでディスクの盗難には対応できるが、本体そのものを盗まれてしまうと、データを守ることが難しい。これに対して本製品であれば、本体そのものを盗まれても、認証できないため起動を阻止できることになる。
店舗やサテライトオフィス、工事現場など、遠隔地でも認証できるので、盗難対策としてぜひ活用するといいだろう。
なお、現在のバージョンでは対応していないが、ファームウェアのバージョンアップでウイルス対策に後日対応予定となっている。同様にスイッチのBS-XP20シリーズも現時点では利用できる機能が最低限となっているが、ファームウェアのアップデートにより後日、VLANとQoS設定に対応する予定となっている。これらの機能が必要な場合でも、心配する必要はないだろう。
普通のNASも10GbEの時代に
以上、バッファローのTeraStation TS5410DNシリーズ、および10GbE対応スイッチBS-XP20シリーズを実際に使ってみたが、この組み合わせはかなりおすすめできる。
どちらも価格が安いので気軽に導入できるほか、実際のパフォーマンスもかなり高く、10GbEのメリットをすぐに体感できる点が大きい。
今まで、10GbEは基幹ネットワークや特殊なストレージなど、限られた環境向けの製品でしか利用できないイメージだったが、今回のバッファロー製品の登場で、そのハードルは一気に下がった印象だ。現状、ユーザー数の増加や扱うデータの大容量化によって、NASやネットワークのへの負荷が高くなりがちなことを考えると、決して特殊な用途ではなく、ごく普通のNASであっても10GbE対応機へのリプレイスを検討する価値はあると言えそうだ。