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いよいよクラウド時代到来なのか? 2016年度第1四半期、サーバー販売前年割れ
2016年8月19日 06:00
一般社団法人 電子情報技術産業協会(以下、JEITA)が8月4日に発表したサーバー出荷統計は、IAサーバー、UNIXサーバーともに台数、金額が前年を下回る結果となった。
実はこの発表が行われる前から、「2016年度に入ってからサーバーの出荷状況が厳しい」と言う声が挙がっていた。それもIT事業全体が不調というよりも、「ハードウェア販売が不調」という。
サーバーに対しては仮想化による集約、クラウドの活用が進む中で、「サーバーの販売台数が減少するタイミングはいつかおとずれる」と多くの業界関係者が見ていた。この出荷統計の結果は、「いよいよその時が来た」と見るべきなのだろうか。
いよいよ自社サーバーからクラウドへの移行本格化か?
JEITAが発表した2016年度1四半期(2016年4月~6月)のサーバー出荷実績は、IAサーバーの出荷台数は前年同期比13%減の5万5924台、金額は同14%減の394億500万円。UNIXサーバーの出荷台数は同11%減の969台、金額は同2%減の94億9200万円。
一方メインフレームは、金額は前年同期比65%減と大幅に減少したものの、台数は同41%増の55台と伸長している。独自OSサーバー(オフコン、ミニコンなど)は、台数は同1%増の89台、金額は同7%増の6億2800万円。
この出荷実績は、日本でサーバーを販売する主要メーカーが参加したもので、メーカーからも第1四半期のサーバー出荷が不調という声があがっている。
NECでは台数は明らかにしなかったものの、2017年3月期の第1四半期の決算結果で、システムプラットフォーム分野の売り上げが前年割れとなったが、その要因が「サーバーおよびストレージ製品の売り上げ減」と、サーバーの売上は減少していると説明した。
マルチベンダー体制でサーバーの販売、ディストリビューションビジネスを展開する大塚商会でも、同社の上半期にあたる2016年1月~6月の6カ月間で、サーバーの販売台数が前年同期比16.0%減の1万8425台と発表している。
大塚商会自身のビジネスは決して不調ではなく、業績的には2016年12月期の中間決算は増収増益を記録し、「経済に不安定要素はあるものの、IT需要は底堅い」(大塚商会 代表取締役社長の大塚裕司氏)としている。また、サーバー以上に不調と思われているパソコンは、意外にも同13.7%増の47万5781台となっている。
にもかわらず、サーバーの販売台数が前年割れとなった理由として、「クラウド、仮想化の影響」と説明する。ITビジネスは堅調であるものの、企業のニーズはハードウェアとしてのサーバー購入ではなく、仮想化によって統合化されたサーバー、クラウドの活用へとシフトしているという見方だ。
確かにクラウドは大きく伸長している。それを如実に示したのが、7月19日(米国時間)に発表された、米Microsoftの決算である。クラウドサービスMicrosoft Azureの売上が着実に増加している。
同社の2016年度第4四半期(2016年4~6月)の売上高はGAAP(米国会計基準)ベースでは206億ドル、利益は31億ドル。売上は前年よりも下がったものの、利益は前年の赤字から黒字に転換し、アナリスト予想よりも好業績となった。
この好業績の要因のひとつがMicrosoft Azureの売り上げ増だ。Microsoft Azureの売上は前年比102%増、つまり前年の2倍となっている。部門別で見ても、Microsoft Azureが属するIntelligent Cloud部門は前年比7%増。売上が同5%増だったMicrosoft OfficeやDynamicsを含むProductivity and Business Process部門とともに、Windows 10が属するMore Personal Computing部門の売上が前年比4%減少した分をカバーした。
Microsoftに限らず、さまざまな企業がクラウド事業に注力している。しかし、これまでクラウド事業は収益よりも先行投資という面が強かったが、同社の売上を見ると、先行投資から収益を獲得できる事業へと転換しつつあることがわかる。
こうしたクラウド事業が本格的な事業となり、クラウドを利用する企業が増えることで、サーバーの出荷台数が企業が自社にサーバーを置いていた時代よりも減少するのは当然の流れである。もちろん、クラウドを提供するためにもサーバーが必要となるものの、仮想化、ホワイトボックスブランドの台頭など、サーバー販売を行ってきたハードメーカーは従来とは異なる競争を強いられている。
クラウドの影響を受け、サーバーの出荷台数が減少することになるのではないか――。多くの関係者がそれはいつになるのか、慎重に見守っていたはずだ。それだけに、今回のJEITAの発表でサーバーの販売台数が前年割れしたことは、大きなパラダイムシフトがついに訪れたと見ることもできる。
日本ではオンプレミス市場がそれほど縮小しない?
一方、第1四半期のサーバーの出荷台数が減少したことを、「クラウドへの移行が本格化と見るのは時期尚早」という見方もある。
NECでは、「日本企業が完全に自社にサーバーを置くのを止め、クラウド化してしまうとは考えにくい。現段階でクラウドへの移行が進み、サーバーの出荷台数が減少したと考えるのは時期尚早ではないか。現に7月に入ってサーバー販売が戻ってきている」(NEC 取締役 執行役員常務兼CFOの川島勇氏)と、現段階でサーバー市場が変化したと断じるには早いと指摘する。
確かに2016年第1四半期は、国内のサーバー市場の上位2社、富士通、NECがともに減収減益決算を発表している。サーバー市場で大きなシェアを持つ上位2社のビジネス全般が不調であることから、サーバー出荷にマイナス影響を及ぼしている可能性も否定できない。
また、「日本企業が自社にサーバーを置かず、クラウドだけを利用するようになるとは考えにくい。日本でのサーバーの販売台数はそれほど減少しないのではないか」と話す業界関係者もいる。クラウド利用が増加しても、日本市場ではオンプレミス環境がさほど縮小しないで残るという見方だ。
大塚商会の大塚社長は、製品販売を行う企業のトップらしく、「サーバーの販売台数だけを見ても意味はない。仮想化されたサーバーが増えている中で、サーバーの販売数の意味はどうなるのか。また当社のビジネスとしても、保守契約がない低価格のサーバーが売れるよりも、大型サーバーを販売し、保守契約をきちんとすることの方がプラス」と指摘する。
確かに現在、単純にサーバーの販売台数を見るだけでは、市場の動向を完全に把握できない状況になりつつあるが、こうした変化があることを含めて、日本市場においてもサーバー市場に新しい変化が起こりつつあることは間違いない。
はたして、2016年度の期末時点でサーバーの販売状況がどうなっているのか、状況をきちんとみきわめるタイミングになったことは間違いないだろう。