特別企画
運用で事故を起こさないために――、NSSOLのITアウトソーシング拠点「NSFITOSセンター西日本」見学レポート
2016年8月18日 06:00
新日鉄住金ソリューションズ株式会社(NSSOL)は7月、ITアウトソーシング拠点「NSFITOSセンター西日本」を北九州市に開設した。2015年に開設された東京都三鷹市に続く、2つめのNSFITOSセンターだ。
NSFITOSセンターとは、データセンターと運用拠点「ITOセンター」からなる施設であり、ITアウトソーシングサービス「NSFITOS(エヌエスフィットス)」の拠点だが、NSFITOSセンター西日本の報道関係者向け見学会が、8月5日に開催された。ここではその模様をレポートする。
データセンターと運用センターを対にしたITアウトソーシングの拠点
NSSOLはシステムインテグレーター(SIer)として、コンサルテイングから企画・設計、開発、運用保守まで、トータルなITアウトソーシング(ITO)を請け負っている。そのための高信頼性設備として、NSFITOSセンターを設けた。今回、北九州にNSFITOSセンターを設け、両拠点を高速ネットワークでつなぐことにより、西日本の需要に応えるとともに、ディザスタリカバリ(DR)にも対応する。
NSFITOSセンターは、データセンターに加え、そこから徒歩10分圏内に設けられた運用のためのITOセンターをセットにして、ITO中核拠点とする。徒歩10分圏内というのは、災害などの非常時に駆けつけられる距離だ。
「通常のデータセンターの場合、データセンター自体はセキュリティが厳しいが、運用はただのオフィスで行なわれている。しかし、事故は運用で起こるもの。そこで、運用拠点もデータセンターレベルの厳しいセキュリティと可用性を要件として、震災リスクや物理リスク、社内不正アクセス、社外からの脅威などに対応する」と、NSSOLの取締役 常務執行役員の大城卓氏は説明した。
このNSFITOSセンターを基盤としたNSSOLの包括的アウトソーシングサービスが、NSFITOSだ。NSFITOSでは、顧客企業において人的資源を運用・保守などの「守りのIT」からシフトさせることを助ける「『攻めのIT』へのシフトを支援」をうたう。そのために、NSFITOSセンターの上で、クラウド基盤とabsonneと次世代運用サービスemeraldを用いて、サービスレベルやコストを最適化する。
emeraldでは、顧客ごとにサイロ化された属人的な運用ではなく、統合運用インフラの上で共通化されプール化された運用体制をとる。この形態を想定して作られたのがNSFITOSセンターだ。北九州のNSFITOSセンター西日本でも、2017年1月からemeraldによる運用を開始する。
見学会と同じ8月5日には、大東建託株式会社がNSFITOSを採用したことも発表された。大東建託では2012年から北九州データセンターにサーバーを置いており、2015年よりabsonneに段階的に移行している。それと同時にシステム運用業務のアウトソースを進めており、ITOセンター西日本の開設にともないNSFITOSの採用に至った。大城氏は「大東建託のような大型案件を、東西あわせて年4~5件取りたい」と語った。
データセンターレベルのセキュリティを備えたITOセンター
ITOセンター東日本は三鷹のデータセンター敷地内にあるが、ITOセンター西日本はデータセンターとは別の自社ファシリティにある。
前述したように、ITOセンターもデータセンターと同レベルのセキュリティが求められている。そこで、入館のチェックは厳しい。「情報漏えいは紙媒体での漏えいが最大」との考えから、メモ帳などの紙の持ち込み・持ち出しも禁止されている。携帯も、持ち込むにはカメラに封かんする必要がある。持ち込めない荷物は金属探知ゲート前に設けられたロッカーに預ける。
今回、筆者が見学したのは、プール運用の監視ルームと顧客ごとの作業オフィスのスペースだ。
監視ルームでは、見学時点で20名分の席が設けられ、4交代で最大80人が働く。前方の2つの大画面には、運用管理プラットフォーム「IPcenter」の画面と、監視カメラの映像が表示されていた。IPcenterは運用プロセス全体の自動化を支援する製品で、米IPsoft社が開発した製品。監視やチケット管理など個別の機能を持つほか、ツール間連携により運用プロセス全体を自動化できるという。「できるだけ自動化する思想が目的に合っているので採用した」との説明だった。
作業オフィスは、ある程度の広さのスペースを、顧客ごとに壁で区切って個別の部屋にするようになっている。顧客の情報を扱うためにセキュリティレベル4を満たすように作られており、入室管理にはID認証を必要とするアンチパスバックを採用し、エラーになるとその瞬間の監視カメラ画像を保存して通知するようになっている。
また、レベル4の室内に、機密情報を扱うレベル5の部屋も設置。ガラス張りにして不正行為をしようとしても見られてしまうようにするとともに、画像認識による共連れ防止システム「アキュランス OV-101」も設置している。
棟を増やして拡張していくモジュール方式のデータセンター
北九州データセンターは、ファシリティとしてはIDCフロンティアのデータセンターだ。場所は新日鉄住金の八幡製鐵所の敷地内に置かれており、北九州市による情報通信の集積拠点構想「北九州e-PORT構想」の一環として誘致したのだという。「IDCフロンティアとNSSOLの両社のノウハウで企画したデータセンター」とNSSOLは説明する。
その特徴は、余裕のある敷地を生かし、需要に応じて1棟ごとに建設していくモジュール方式の建築だ。2008年に1号棟を建設してから、現在は2013年建設の5号棟まで建っている。最大11棟まで拡張可能であり、次の6号棟は2016年12月に竣工予定だ。なお、いずれも2階建てにとどめ、耐震性を高めている。
それぞれの棟を建設するときに常に最先端のデータセンター建設技術を取り入れている。現在の5つの棟はすべて外気冷却を採用している。1~4号棟は外気温がちょうどいいときだけ外気冷却を利用するため外気冷却利用率が約30%だというが、5号棟では外気と冷気・熱気を混ぜて24度を保つ方式にして外気冷却利用率が80%となっている。
5号棟ではまた、機器から出た熱気を上昇気流によって屋上から排出する方式も採用しており、PUE(消費電力のうちIT機器の割合)がベスト時で1.2以下だという。なお、6号棟では、北九州の豊富な工業用水を利用した水冷ベースの空調を予定しているとのこと。
現在、1~2号棟と3~5号棟の間に、受付やオペレーションセンターなどが設けられている。そこから、1~2号棟方面と3~5号棟方面にそれぞれ1カ所ずつ、データセンターでおなじみの一人ずつ入館する入口(セキュリティポータル)が設けられている。ここで、IDカードや生体認証などで入館する。
各種監視から警備受付までを担当するオペレーションセンターでは、最大約40人が働く。ここでは、外気温度モニターや、コンピュータ室の温度分布図、セキュリティカメラの映像、PUEモニターなどの画面を壁の大型ディスプレイに表示している。なお、見学時にはPUE 1.3が表示されていた。
データセンター内に電力を送る配電装置も、拡張可能なデータセンター構成に合わせて、変更や拡張ができるようになっているという。屋外には自家発電設備が設けられ、停電時にはバッテリーに切り替わってから1~2分で自家発電が作動して切り替わるという。72時間の無給油運転が可能なオイルを常備し、月1回は作動チェックしている。
ラックでは最近増えているアイルキャップ方式(吸気と排気を分離して熱い排気が吸気に混じらないようにする方式)を採用。5号棟ではさらにホットアイル(排気側)をシートではなく扉で閉じるようになっていた。なお、5号棟では49Uの高さのラックまで入るという。
首都圏から離れた場所にあるデータセンターのサービスとして説明されたのが、IDCフロンティアへの作業のアウトソースだ。物理的に機器のところに行かなくてはならない作業をIDCフロンティアに依頼するもので、リモートからカメラで見ながら作業をしてもらうこともできるという。