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富士通が「Uvance for Retail」を発表、GK Softwareやブレインパッドとのシナジーを加速

 富士通株式会社は2日、リテールビジネスの取り組みについて説明。新たに「Uvance for Retail」を発表し、2030年度の売上高を2000億円規模に拡大する計画を明らかにした。同社のリテールビジネス全体の7~8割をUvance for Retailが占めることになるという。

Uvance for Retail

 富士通では、独GK Softwareを2025年6月に完全子会社化したほか、2025年12月にはブレインパッドのTOBを成立させ完全子会社化するなど、リテール分野において、グループとしてのシナジーが発揮できる体制を構築している。

 これらの連携をさらに強化する一方、「Uvance for Retail」を通じてあらゆるデータをクラウド上に統合し、富士通が培ってきた業務知見と実装力を生かして、AIエージェントをはじめとした先端テクノロジーを融合。オファリングのラインアップをそろえながら、データと業務を横断的につなぎ、現場の実行力と経営の意思決定をAIにより高度化することで、日本の小売業の持続的な成長に貢献するという事業方針を示した。

 富士通 執行役員常務 エンタープライズ事業担当の古濱淑子氏は、「富士通は、50年以上にわたり、日本のリテール業界とともに歩み、多くのお客さまとの議論や、成功と失敗を重ねて、業務とデータの構造を読み解いてきた。そうした経験をもとに、小売の現場に機動力を与えるのが、『Uvance for Retail』になる。小売の現場と真摯(しんし)に向き合い培ってきた深い知見に、データとAIを融合し、現場と経営の判断を支え、業務と意思決定を高度化することで、現場の機動力を引き出し、新たな購買体験を生み出すことになる」と位置づけた。

富士通 執行役員常務 エンタープライズ事業担当の古濱淑子氏

 「Uvance for Retail」は3つの特徴を持つという。

 ひとつめは、「業務、システム、データが安心してつながる仕組み」だ。業務、システム、データを統合する基盤の提供とともに、外部データや機能を業務の流れに組み込めるのが特徴だとした。

繋がる

 2つめは、「現場の判断をAIが自律的に担う仕組み」である。リテール特有の定型的な判断をAI自らが行い、複数の業務特化型AIを一元的に制御し、業務フローを自律的に実行することができる。

自律的に判断する

 3つめが、「業界や企業の枠を超えて、データでつながる仕組み」の実現である。IT資産を共同で利用し、サプライチェーン全体を効率化、軽量化できるほか、メーカーや卸、物流などがデータでつながり、業界横断で業務を連携できるという。

業界を超える

 これらの特徴に加えて、Uvance Wayfindersやブレインパッドによるリテールに特化したコンサルティングの提供と、AIエージェントを組み込んだオファリングをリテールの現場にデリバリーする高い実装力が組み合わさることで、生活者と働き手の体験革新やサプライチェーンの高度化を加速できるという。

 富士通の古濱執行役員常務は、「勤務調整や作業割り当てといった業務では、約70%の工数削減を目指したり、業務効率化に伴い、売上が10%前後向上したりといった効果も出ている」と述べた。

Uvance for Retailの価値創造と目指す姿

子会社2社が語る、富士通との「融合の価値」

 今回の説明会では、GK Softwareとブレインパッドの経営トップからも、各社の事業戦略について説明が行われた。

 GK Softwareは、ドイツに本社を置き、リテールソリューション分野では36年の実績を持つ企業だ。世界65カ国以上に展開し、大手小売企業50社のうち約30社にサービスを提供。POSソリューションやAIを活用した価格最適化ソリューションなどのSaaSソリューションを展開している。2024年以降に、新たに38社のグローバル小売企業を獲得し、食品やファッション、高級品、ディスカウント店まで幅広い顧客を持っているという。年間売上高が1兆ドル以上の顧客基盤は、500社以上に達している。

 GK Softwareのマイケル・シャイブナーCEO兼会長は、「1990年に創業して以降、2008年には株式公開を行い、さまざまな買収も行ってきた。2017年にはAIに関連する企業を買収し、適切なレコメンドを行ったり、高度にパーソナル化できる機能が提供できるようになったりした。いまではプロダクトのあらゆるところでAIを活用している。そして、2023年に富士通の100%子会社となり、日本市場にも進出できるようになった。現在は、日本を重点市場に位置づけている。また、GK Softwareは、POS市場で最も成長を遂げている企業であり、アナリストからはリテール市場で最もイノベーションが進み、急成長している企業だと評価されている」と話す。

GK Software SE CEO兼取締役会長のマイケル・シャイブナー氏

 また、「GK Softwareが提供する『CLOUD4RETAIL』は、小売事業者が、顧客理解を高度化し、顧客とのエンゲージメントを強化し、継続利用の促進を支援することができる。新たな機能を迅速に実装でき、パーソナル化やカスタマイズにも優れており、消費者のターゲッティングも可能である。短期間での本番稼働を実現するプラットフォームであることが大きく特徴となっている。ある企業では、アプリを利用し、店舗で買い物をしている来店客に対して、関連性の高い情報を提供することで、1顧客当たりの利益をリアルタイムで高めている例がある」などとした。

CLOUD4RETAIL

 さらに、日本においては、富士通とともに共同顧客プロジェクトを推進しているほか、小売分野における生成AIのユースケースを共同で開発する技術プロジェクトも推進。GK SoftwareのAPI駆動型クラウドプラットフォームを活用して、日本市場向けの実践的なユースケースのプロトタイピングを目的とした共同ハッカソンも実施していたという。

富士通との共同取り組みについて

 一方のブレインパッドは、日本におけるデータサイエンスビジネスの草分け的存在であり、高度な専門人材によるプロフェッショナルサービス事業と、デジタルマーケティングを中心としたプロダクト事業、データ活用人材の育成事業の3つの事業の柱を持つ。

 豊富なレコメンドエンジンを搭載したWeb/アプリ用接客ツールである「Rtoaster(アールトースター)」や、LINE特化のマーケティングオートメーションツールの「Ligla(リグラ)」などのSaaSサービスも提供し、これらの分野ではトップシェアを持つ。

 ブレインパッドの関口朋宏社長 CEOは、「データサイエンスという言葉がなかった2004年に設立した企業であり、データ分析に特化し、成長を遂げてきた。現在は200人以上のデータサイエンティストが在籍している。支援先の企業数は1400社以上であり、そのうち、リテールを含むB2C領域が60%を占めている」と同社の取り組みについて説明。また、「リテール業界には2大トレンドがある」とし、「顧客体験側では『エージェンティック・コマース』によって、AIが顧客に最適な製品を提案する流れがあり、従業員体験側では『完全デジタルツイン化』によって、オンラインや店舗を含めて、あらゆるものがデータ化され、それを活用して、簡単に店舗をマネージできる流れがある。店長の勘と経験がデータ化され、誰もが凄腕店長になれる」などとした。

ブレインパッド 代表取締役社長 CEOの関口朋宏氏

 さらに、「ヒトとモノのデータが融合することで、最適な商品を、最適な価格で、最適な数だけ、最適な場所に、最適なタイミングで顧客に届けることができる。それを実現するためには、マーケティング部門が扱っていたヒトのデータと、サプライチェーン部門が扱っていたモノのデータの垣根を壊さなくてはならない。データのサイロ化や組織の分断、業務とITの分断を解消することと同時に、人材不足とも真剣に向き合う必要がある。データは単なる記号だが、それを分析することで、情報になり、知恵になる。データ分析だけを22年間にわたってやってきたブレインパッドと、日本のITを支える富士通がタッグを組んで、業務とITをシームレスにつなぎ、データの価値をビジネスとして、経済に届けていくことに大胆にチャレンジしたい」と述べた。

最高のCXとは?
業務とITをなめらかにつなぎ、データの価値を創造

現場に潜む「3つの断」を解消

 一方、富士通の古濱執行役員常務は、日本のリテール業界が抱える課題にも言及した。

 同氏は、SAPジャパンやフィリップス・ジャパンなどを経て、2023年4月に富士通に入社。富士通入りのきっかけを、「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界を持続可能にするという、富士通のパーパスに共感したことが理由」と前置き。「しかし、前職で社会課題解決に取り組みながらも、それを断念した経験がある。社会課題を解決するには、ビジネス課題をしっかり解決すること。そのためには、ITの課題にしっかり対応することが重要である」とした。

 その上で、「日本のリテール業界は、世界で最も複雑な問題に向き合っている。消費者ニーズに対応した『おもてなし』の文化があり、さまざまなポイント制度や値引きキャンペーン、多彩な支払い方法のほか、季節性や地域性にも対応している。そして、労働者不足の課題や、業界の多段階構造を背景にしたサプライチェーンや物流の限界にも直面している。それを解決するのが、データドリブンの経営になるが、商品や価格、在庫、販売、物流など、あらゆるデータがリアルタイムで変化し、ひとつの意思決定に必要なデータは3兆以上にのぼる」と、リテール業界ならではの課題を指摘した。

1つの意思決定に必要な情報

 また、現場には、「分断」、「遮断」、「独断」の3つの「断」があるとし、システムの分断により、データが分散し、データ同士が遮断され、関連性が見いだせないこと、データを扱い切れず、勘と経験で実行している現状を挙げ、「データがたくさんあっても、判断や実行に結びつけることが難しい。また、メーカーや卸会社ごとにデータ構造が異なるという状況も生まれている。3つの『断』によって、日本のリテールを支えてきた現場の機動力が落ちている」と述べ、「Uvance for Retail」が3つの「断」の解消につながる切り札になることを強調した。

現場に潜む「3つの断」

 「Uvance for Retail」は、「カスタマーエクスペリエンス向上」、「AI/データ利活用プラットフォーム」、「ビジネス・企画デザイン」の3層構造を持つ。

 「カスタマーエクスペリエンス向上」では、購買体験を一気通貫で最適化する「POS・決済・ポイント」、顧客接点を統合しLTVを向上する「顧客接点」、オムニチャネル運用を安定稼働で支える「EC・ネット管理」の3つのオファリング体系を持つ。

 また、「AI/データ利活用プラットフォーム」では、需要予測からの供給連鎖の最適化を図る「SCM・物流」、品ぞろえと粗利の最適化のための「MD」、KPIで意思決定を高速化する「経営マネジメント」のオファリング体系を用意。「ビジネス・企画デザイン」では、構想を描出し成果まで伴走する「コンサルティング」を提供する。

 「Uvance for Retail」は、オファリング体系の下に多くのオファリングソリューションを持ち、GK Softwareは、POSソリューションやダイナミックプライシングなどのオファリングソリューションを提供。ブレインパッドは、コンサルティングを中心にオファリングを提供することになるという。

Uvance for Retailのオファリング・ラインアップ

 なお、「Uvance for Retail」の2025年度の売上高は約700億円だが、これを2030年度には2000億円に拡大する計画も打ち出した。2025年度は、富士通のリテールビジネス全体の約5割だが、「リテール業界は、消費者接点を持っている業界に広がり、業界の垣根がなくなってきている。Uvance for Retailで提供するソリューションの適用範囲も広がっていくことになる。2030年度には7~8割の構成比まで拡大したい」と述べた。

Uvance for Retailの拡大に向けて

 なお、説明会では、「洋服の青山」を展開している青山商事 常務執行役員 DX戦略本部長の石塚正明氏が登壇し、同社が取り組んだ基幹システムの刷新、ECアプリの刷新プロジェクトについて説明した。GK Softwareとともに、データとAIを活用した変革に取り組んできたという。

 石塚常務執行役員は、「店舗ではピーク時にお客さまが並んでしまい、購入せずに帰ってしまうという課題があった。また、紳士服をはじめとしたビジネスウェアを、お客さまのニーズや特徴にあわせて訴求することも重視したいと考えていた。さらに、店舗とECのデータが分断されており、店舗ではECでの購入履歴が見られないといった課題もあった」と前置き。

 その上で、「GK Softwareは、さまざまなデバイスとAPI連携が可能であり、使用しているソリューションとの接続性が高いと判断した。パーソナライズ性を備えたソリューションもそろっている。また、GK Softwareの本社に出向いたところ、我々と一緒になって開発をしたいという姿勢も感じた。ぜひ、GK Softwareと一緒にやりたいと考えた。今後は本当の意味でのOMOを実現したい。GK Softwareは、その実現に最適なソリューションになると期待している。ほかに類を見ないソリューションを築き上げたい」と述べた。

青山商事 常務執行役員 DX戦略本部長の石塚正明氏