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「変革の進ちょくは満足も、まだやることはある」~日本IBM・イェッター社長
IBM、グローバルと日本の事業方針を説明
(2014/11/10 14:35)
日本アイ・ビー・エム株式会社(日本IBM)は10日、IBMのグローバル事業に関する方針について報道関係者を対象に会見を行った。
同日、東京・丸の内のパレスホテル東京において、ユーザー企業の経営トップなどを対象とした「THINK Forum Japan 2014」を開催。米IBMのバージニア・M・ロメッティ会長・社長兼CEOをはじめとする同社幹部が来日したのにあわせて行われたものだ。
このなかで、日本IBM 代表取締役社長のマーティン・イェッター氏は、「クラウドデータセンターを間もなく正式に発表する。今年末までには東京都内で稼働させたい。エネルギー供給、復旧力、コンピューティング能力、セキュリティの確保でも最善な場所が東京都内であると考えている。これは幕張のデータセンターとは違うものになる」と語った。
また、今年12月末で日本IBM社長を退任することを発表しているイェッター社長は、「次期社長の要件は、変革に継続的に取り組むことが最も重要である。クライアントとの関係を続けていくことができる人材でなくてはならない。私は、日本IBMのアンバサダー(大使)としての役割をこれからも果たしていきたい」と述べ、「アンバサダーとしての役割は、これまで培ってきた日本の経営トップとの連携を継続すること、私がかかわっているプロジェクトを継続するということである」とした。
4つの柱から事業方針を説明
米IBM コーポレーシストラテジー担当シニアバイスプレジデントのケン・ケヴェリアン氏は、「IBMは、日本に77年間拠点を構え、IBMにとっては世界第2の市場である。IBMは長年にわたり、多くの投資を日本に行ってきた」と前置き。「IBMの戦略を、ひとつのスライドで説明したい」として、1)戦略的課題、2)IBMのお客さまのための差別化された価値、3)より高い価値に注力、4)IBMの企業経営、という4つの柱を示したスライドだけで、事業方針について説明した。
1)の「戦略的課題」という点では、「データとアナリティクス」「クラウド」「セキュリティ」という3つの観点からIBMの取り組みを説明した。
「データとアナリティクス領域に向けては160億ドルの投資を行い、またアナリティクスの代表的技術であるWatsonには10億ドルの投資を行っている」と説明したほか、コンピューティングの経済性を変え、企業の変革を支えているクラウドでも、IBMは、SoftLayerを20億ドルで買収し、エンタープライズレベルのクラウドサービスを提供。全世界40カ所にデータセンターを持ち、日本にも新たにデータセンターを配置した。さらに、BlueMixにより200のソフトウェアとミドルウェアのパターンを開発者に提供している」との実績をアピール。
そして、「セキュリティ」においては、「顧客が最も重視している領域であり、われわれはモバイルエンゲージメントを推進し、アップルとの提携も発表した。また、これまでIBMはあまりセキュリティについては語ってこなかったが、現在130カ国を対象に150億のセキュリティイベントをモニターしている」などとした。
2)の「IBMのお客さまのための差別化された価値」としては、「顧客の多くが、新たな技術と、既存のエンタープライズシステムとの接続が重要であると考えているが、それを実現できる企業は少ない。IBMはそれを実現できる企業の1社である」と位置付ける。
また3)の「より高い価値に注力」という観点では、IBMがサービス企業やソリューション企業へ移行していることを強調。「20年前のIBMはハードウェア企業であったが、いまでは顧客企業のビジネスプロセスにきちっと適合した価値を提供する企業へと変革している。ある都市の警察からは、事前に犯罪が発生しやすい場所を予測して、そこに効率的に警官を配置することで、未然に犯罪を抑制するといった要望があった。IBMは、ビッグデータ・アナリティクスを活用し、これを実現し、実際に犯罪率の抑制に効果をあげた。IBMの提供する価値はハードウェアを提供していた時代とは異なり、社会の問題解決に役立っている点にある」と述べた。
最後の4)、「IBMの企業経営」という点では、「顧客に対して、変革を提案するIBMは、自らがビジネスプロセスを変革し、変わっていかなくてはならない。そのためにIBMは、自らをスピードと俊敏性を持つ企業へと変革する取り組みを行っており、まるで小さな企業であるかのごとく動けるようにしている。モバイルアプリやクラウドの活用、ビジネスプロセスの標準化などにより、いままでに実現できなかったビジネスプロセスを実現している」などと訴えた。
IBMは自らがお手本となる
続いて、米IBM エンタープライズトランスフォーメーション担当のリンダ・サンフォード氏は、IBM自身の変革について説明。「IBMは、自らがお手本となり、学習したこと、失敗したことを伝達することが大切であると考えている」とし、「まずはどうすれば標準化し、情報を共有化できるのかといった点からはじまり、技術や人材を全世界でフル活用するための仕組みづくりに着手。現在は、スピードおよびイノベーションといったアジャイルな開発と運用を推進する文化の創生に取り組んでいる」とした。
さらに、サンフォード氏は、「アナリティクス」、「クラウド」「システム・オブ・エンゲージメント」という3つの観点から、IBMの取り組みを説明してみせた。
「アナリティクス」では、IBMには50人のデータサイエンティストが在籍し、事業部門と連携して新たなアナリティクスモデルを開発しているそうで、彼らは、サプライチェーンの最適化や買収案件のリスク最小化に向けた分析結果をリアルタイムで活用するといった取り組みを行っているという。
またビッグデータを活用して、営業担当者の各地域や各クライアントといった観点から、配置を最適化し、商機を拡大しているほか、離職の可能性がある社員を予測し、それを見越した個別対応による社員の定着化を行うといった活用も行っているとした。
「IBMでは社内で成果をあげた30個のアナリティクス活用事例をまとめた書籍を発行しており、日本でも『IBMを強くしたアナリティクス』として翻訳されている」という。
「クラウド」については、「IBMは、すべてのエンタープライズITをクラウドに最適化するように再構築している。基本姿勢はクラウドファーストである」と語り、「IBMの俊敏性を高めるためにも、社員のスキルを高めるためにもクラウドは大きな威力を発揮する。クラウドは、IT部門だけにメリットを提供するものではなく、IBMのすべての社員にメリットが生まれている」と述べた。
「システム・オブ・エンゲージメント」としては、モバイルとソーシャルを活用して経営スピードを加速していることを説明。「現在、約2万人の営業担当者がiPadを持ち、70以上のモバイルアプリを利用して、顧客と対話をしている。また、『i fund IT』の名称で700万ドルを投資し、社員がどんなモバイルアプリが欲しいのかを投票してもらい、それをもとに新たなモバイルアプリを開発する、といった仕組みも用意している。先ごろ、8000人以上のIBM社員が参加したジャムを行い、よりアジャイルな企業になるためにはどうすべきかという議論を行った。ここで集まった声をまとめ、Watsonで分析していくことになる」という。
サンフォード氏は、「IBMにとって変革は新しいものではない。そして、変革において模範となることを目指している。これにより、常に革新的なイノベーションを提案していくことになる」と語った。
IBMの価値を最大限に提供し、ビジネスチャンスをつかむ体制を構築
一方、日本IBM 代表取締役社長のマーティン・イェッター氏は、日本IBMの取り組みについて説明した。
イェッター社長は、「いまはデジタル的破壊の時代であり、破壊的な革新が生まれている時代である。革新と破壊が同時に進んでおり、すべての産業が抜本的に生まれ変わっている。そのなかで、われわれはなにをしなければならないかを考えなくてはならない」と切り出した。
続けてイェッター社長は、社長就任以来の日本IBMの変革について触れ、「まずは、新たな時代に向けた体制づくりから開始した。これにより、IBMの価値を最大限に提供し、新たなビジネスチャンスをつかむ体制を構築した。日本の企業は、IBMに何を求めているのかということをとらえ、それに応えられるように教育体制を整えた。当初は1500人の社員を対象にトレーニングを行い、その後対象を4000人に拡大した。来年1月中旬にはインダストリー・ソリューション・アカデミーをスタートさせ、お客さまへの対応能力をさらに高める。ここでは4000~4500人が対象になる」と語った。
また、「日本のユーザーは、Watsonに対して高い関心を持っている。Pepperはすでに日本語を話すが、今後、Watsonも日本語を話すようになり、日本でのWatsonの応用が広がるほか、高齢化社会に対応した使い方も想定できる」とする。
さらにクラウドでは、パイオニアVCがエンジニア同士が対話をできる形のエンジニアリング・コミュニティ・インフラを構築していること、セキュリティではセキュリティオペレーションセンターを24時間態勢で稼働させていること、世界中で発生した問題を解決したノウハウを活用し、日本におけるセキュリティ強化や安全性の向上に寄与していることに触れた。
最後に、イェッター社長は、「日本における変革の進ちょくについては満足しているが、まだやることはある」と語った。